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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷


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6.盗賊、人生相談をする

ドワーフの里を出発したガエンとダグラスとナラ、そしてドワーフ達は魔族領の王都マグノリアを目指して進んでいた。

ドワーフの里はガナーノの南西に位置しているため、マグノリアまでは少し距離がある。


「しばらく帰ってなかったから城がどれだけ壊れているかわからないな。想像もしたくないが。」


「ダグラス、間違いなく半壊はしてるだろ。下手したらそれ以上だ。」


「ナラなら俺達より後に城を出たから状況をわかってるはずだな。ナラはどこに行ったんだ?」


「ずっとここにいるんですけどぉ!」


ガエンの肩に乗っているピクシーの女の子、ナラが怒りながら言った。


「なんだ、いつから俺の肩に?」


「ずっとですけど!ドワーフの里を出てからずっとなんですけど!」


ナラはポカポカとガエンの首の辺りを叩くがガエンは微動だにしない。

ナラは諦めてため息をついた。


「はぁ、でも気づいてもらったからいいや。」


「で、城の壊れ具合はどうなんだ?」


改めてダグラスが聞いた。


「うん。とりあえず西塔はルードが『なんでコイツはいつも俺の前に出てくるんだ!』って言いながら突き刺さるから穴だらけだし....」


「あいつはホークマンのクセに方向音痴なんだから飛ぶのやめたらいいのに...」


ガエンが呆れる。


「ミノはいつも通り自分の壊した所を直そうとしてさらに壊していくからあちこちボロボロになっていくし.,.」


「あいつはいい加減、学習しろ...」


ダグラスが頭を抱える。


「それを見ながらミリアは『壊れゆく物は儚く美しい、まるで打ち上げられたパジャマのようね。』とか言ってるし....」


「ちょっと何を言っているのかわからん。」


「ダグラス、考えるだけ無駄だ。」


「魔王...バラムは何をしているんだ?」


「魔王様は運動会の競技を考えてたよ。種目をどうするかって。150種目くらい案があるみたい。」


「何日やる気なんだよ...」


ガエンがため息をつく。


「面白そうな話をしておるな。ワシも混ぜろ。」


ドワーフの里の長、鍛治師長ドワルゴがガエンの横に並んだ。


「競技場と城を一体化させて要塞にするのも面白そうだ。」


「魔王様もそんな様な事言ってた。障害物競走を城や城壁もコースにすれば盛り上がるって。」


ナラが言うとドワルゴはキョロキョロと辺りを見回してガエンの肩に何かいるのに気づく。

そして顔を近づけると少し驚いた。


「なんだピクシーか、いつからそこにおった?」


「ずっとなんですけど!なんならドワーフの里にもいましたけど!なんならぬいぐるみにされてましたけど!」


ドワルゴの言葉にナラはぷくーっと頬を膨らませた。


「いやぁ、小さすぎて気づかんかったわい。」


「気づいて!」


そんなやり取りをしながら一行は街道を進んでいく。

穏やかな風。

遠くに見える丘。

荷馬車の車輪の音。

そして――


「……止まれ。」


ダグラスが不意に足を止めた。

ガエンも同時に歩みを止める。


「前方、騒がしいな。」


少し先の街道脇。

木々に囲まれた場所で、荷馬車が止められ、十数人の男達が取り囲んでいた。

怯えた商人らしき男。

御者は地面に転がされている。

典型的な――盗賊だ。


「うわぁ、わかりやすい。」


ナラが小声で言う。


「どうする?」


ダグラスが聞く。

ガエンは肩を鳴らした。


「どうするも何もないだろ。」


そのまま歩き出す。

隠れる気配ゼロ。

堂々と盗賊の真ん中へ向かっていく。

盗賊の一人が振り向いた。


「なんだテメェら――」


次の瞬間。


ドンッ。


ガエンの拳が盗賊の頭上で空気を爆ぜさせた。

衝撃波だけで三人が転がる。


「……はい?」


盗賊達が固まる。

ダグラスがゆっくり鎌を出した。

黒い霧が地面を這う。


「通りがかりだ。続けてくれて構わんが――」


静かな声。


「命の保証はしない。」


数秒の沈黙。

そして。


「に、逃げ――」


言い終わる前に、ダグラスの影が伸びて盗賊達の足を絡め取った。

バタバタと全員転倒。

ナラがぽつり。


「制圧、三秒。」


ドワーフ達が感心したように頷く。


「早いのぉ。」

「仕事より早い。」

「鍛冶の納期より早い。」


「それは当たり前だ。」


ガエンが突っ込んだ。


――数分後。


盗賊達は縄で縛られ、街道脇に正座させられていた。

商人は涙目で頭を下げる。


「た、助かりました……!」


「気にするな。」


ガエンが手を振る。


「……で?」


ダグラスが盗賊達を見下ろした。


「なぜ盗賊なんぞしている。」


盗賊達は顔を見合わせた。

そしてリーダー格らしい男が、ぽつりと呟く。


「……人生、うまくいかなくてよ。」


全員が黙った。

ナラが瞬きする。


「え?」


盗賊の男は続けた。


「農村が干ばつで潰れてな……仕事探して街行ったら経験者しか雇わねぇって言われて……」


別の盗賊が口を挟む。


「冒険者になろうとしたら適性なしって言われて……」

「ギルド受付嬢に優しくされたと思ったら営業スマイルだったし……」

「恋人にも振られた……」

「オレら……どう生きりゃいいんだ……」


完全に人生相談だった。

沈黙。

ドワーフ達が腕を組む。


「重いのぉ。」


「急に現実的。」


ナラが小声で言う。


「盗賊ってもっとこう……ヒャッハーって感じじゃないの?」


ダグラスがため息をついた。


「お前達。」


盗賊達がビクッとする。


「職を間違えている。」


「……え?」


ガエンが口を開く。


「力はある。連携も悪くない。待ち伏せの配置も上手い。」


ドワルゴが頷く。


「ほう、確かに囲み方は素人ではないな。」


ダグラスが続ける。


「つまりだ。」


一拍置いて。


「警備兵か建設作業員になれ。」


「……は?」


盗賊達が戸惑う。

ガエンが親指で後ろを指す。


「ちょうど城を直す予定だ。人手はいくらあっても足りん。」


「筋力ある奴歓迎。」

「真面目に働けば飯も出る。」


ドワルゴが胸を張る。


「ドワーフ式超重労働じゃがの!」


盗賊達が青ざめる。


「超ってついた!」

「でも飯出る!」

「寝床ある!?」


ナラが頷く。


「ありますよー。魔族領だから多少変なの多いけど。」


「多少!?」


ガエンとダグラスが同時に言った。


「慣れる。」


盗賊達は顔を見合わせる。

そして――

リーダーが頭を下げた。


「……雇ってくれ。」


ガエンが笑った。


「盗賊卒業だな。」


ダグラスが縄を切る。


「次に略奪したら魂を回収する。」


「真面目に働きます!!」


即答だった。

商人がぽつり。


「……あの、私の荷物は?」


全員が振り向く。

ガエンが言った。


「安心しろ。」


盗賊だった男達が一斉に頭を下げた。


「旦那!もちろん安全に運びます!!」


ドワーフ達が笑い、荷馬車は再び動き出す。

こうして――

王都マグノリアへ向かう一行に、元盗賊の新人労働者達が加わったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


元盗賊達が荷馬車の前後左右に配置についた瞬間、空気が一変した。


「前方よし!」

「側面異常なし!」

「後方、草むら警戒!」


妙に統率の取れた声が街道に響く。

商人達が困惑した顔で周囲を見回す。


「え、えっと……そこまでしていただかなくても……」


「いえ旦那!ここからが本当の仕事ですから!」


元盗賊の一人が真顔で答えた。


「我々は生まれ変わりました!」


「護衛のプロになります!」


荷馬車の周囲を必要以上にぐるぐる巡回し始める元盗賊達。


一人は草むらに飛び込み、

一人は木の上に登り、

一人は地面に耳を当てている。


「……なにしてるんだあいつら。」


ガエンが呆れた声を出す。


「音響索敵です!」


「いらん。」


即答だった。

ダグラスが小さく肩を揺らす。


「盗賊時代より真面目だな。」


「反動がすごい。」


ナラが苦笑する。

荷馬車の御者が恐る恐る言った。


「むしろ……怖いんですが……」


その瞬間。


「止まれ!!」


元盗賊リーダーが叫ぶ。

全員が武器に手をかける。

緊張が走る。

ガエンとダグラスも一応視線を向けた。


「どうした。」


「風向きが変わりました!」


沈黙。


「……それだけか。」


「はい!」


「進め。」


即終了だった。

ドワーフ達が腹を抱えて笑う。


「はっはっは!」

「警戒心だけは一流じゃな!」

「城の門番にちょうどよい!」


ドワルゴが満足そうに頷いた。


「うむ、採用じゃ。」


「まだ採用試験始まってないぞ。」


ダグラスが突っ込む。

ナラがふと空を見上げた。


「でもさ、こうやって誰か守る側になるっていいね。」


元盗賊達は聞こえていないふりをしていたが、少し背筋が伸びた。

ガエンが腕を組む。


「まぁ、壊すより守る方が性に合ってたんだろ。」


「盗賊適性ゼロだったな。」


ダグラスが言うと、後ろから声が飛ぶ。


「聞こえてますよ旦那!」

「評価として受け取ります!」


「前向きすぎる。」


ナラが笑った。


しばらく歩き続ける。

街道は緩やかな丘へと続き、

草原が広がり、遠くで魔獣の影が走る。

穏やかな旅路だった。

ドワルゴがガエンの隣に並ぶ。


「しかし魔王様が運動会とはのぉ。本気なのか?」


「本気だ。競技案が百五十ある時点で止める奴がいない。」


「魔王を止められる奴などおらん。」


「それはそう。」


ナラが肩の上でうんうん頷く。


「でも絶対楽しいよ。魔族も人族も混ざってやるんだって。」


「ほう。」


ドワルゴの目が光る。


「なら鍛冶競争も入れるべきじゃな。」


「競技じゃない。」


「鍛冶は戦いじゃ。」


「哲学が強いな。」


ダグラスがぼそりと呟く。

後方では元盗賊達がまだ護衛を続けていた。


「左側警戒強化!」

「影が怪しい!」


ただの木だった。

商人がついに小声でガエンに聞いた。


「……あの方達、本当に元盗賊なんですか?」


「さっきまで盗賊だった。なんなら襲われそうになってただろ。」


「信じられません……」


「俺達もだ。」


その日の夕方。

空が茜色に染まり、街道の影が長く伸び始めた頃だった。

ダグラスが空を見上げる。


「……今日はここまでだな。」


前方には小さな丘。

風を遮る岩場と、近くに細い川が流れている。

野営には理想的な場所だった。


「よし、野営だ。」


ガエンが言うと、ドワーフ達が即座に反応する。


「任せろ!」

「設営開始じゃ!」


――次の瞬間。

ドワーフ達が異常な速度で動き始めた。


杭を打つ音。

石を積む音。

火床が組まれ、

風除けが作られ、

気づけば半円状の完璧な野営地が完成していた。


「……早すぎないか?」


ガエンが呆然とする。

ドワルゴが胸を張る。


「ドワーフにとって野営とは“移動式拠点建設”じゃ。」


「規模が違う。」


ダグラスが静かに頷いた。

元盗賊達も負けじと動く。


「警戒線展開!」

「見張り交代制導入!」


一人が真剣な顔で報告する。


「夜間侵入率ゼロを目指します!」


「野営だぞ。」


ガエンが突っ込む。

商人達は安心したのか、ようやく肩の力を抜いていた。

焚き火に火が入る。

パチパチと薪が弾ける音。

穏やかな夜の始まり――


だったはずだった。


◇◇◇


「……ところで。」


ドワーフの一人が袋を持ち上げた。


「祝いをせんか?」


ガエンが眉を上げる。


「祝い?」


「新しい仲間が増えたじゃろ。」


全員の視線が元盗賊達へ向く。

元盗賊達は固まった。


「え?」

「俺達?」


ドワルゴが豪快に笑う。


「更生記念じゃ!」


袋の中から現れたのは――

大量の酒樽。


「持ってきてたのかよ!」


「旅に酒は必須じゃ。」


「量がおかしい!」


すでにドワーフ達は杯を並べ始めている。

ナラが目を輝かせた。


「宴会!?宴会!?」


ダグラスが小さくため息をつく。


「……こうなる気はしていた。」


ガエンが焚き火の前に座る。


「まぁいい。今日は戦闘もなかったしな。」


その一言が引き金だった。


「乾杯じゃーー!!」


ドワーフ達の声が夜空に響いた。


◇◇◇


数分後。


完全に宴会になっていた。

肉が焼かれ、

鍋がかけられ、

誰が持っていたのか巨大な鉄板まで登場している。


「なんで鍋があるんだ!?」


「常識じゃ。」


「どこの常識だ!」


元盗賊達は最初遠慮していたが――


「ほれ飲め。」

「働く前祝いじゃ。」


杯を渡される。


「……いいんですか?」


「もう仲間じゃろ。」


その言葉に、少しだけ表情が緩んだ。


「……乾杯。」


遠慮がちな小さな声で言った。

だが次の瞬間。


「うまっ!?」

「この酒うまっ!!」


一気に打ち解けた。

ナラは肉を両手に持って飛び回っている。


「これおいしい!これもおいしい!」


ガエンが肉を焼きながら言う。


「お前食いすぎだ。」


「ピクシーは燃費悪いの!」


意味不明だった。


◇◇◇


焚き火の周りでは話が弾む。

元盗賊の一人がガエンに聞いた。


「旦那達……本当に魔王城の人なんですか?」


「ああ。」


「怖くないんですか?魔族領って。」


ダグラスが酒を傾けながら答える。


「怖い奴もいる。」


一拍置いた後、


「だが、飯はうまい。」


「基準それ!?」


笑いが起きた。

ガエンが腕を組む。


「城は壊れてるが、笑い声は絶えないぞ。」


元盗賊達は顔を見合わせる。


「……いい場所かもしれないな。」


「今さら後戻りもできねぇしな。」


ナラがふわりと降りてきた。


「大丈夫。絶対楽しいよ。」


いつものようにその言葉には誰も気づかなかった。


◇◇◇


そして――

なぜか突然始まる余興。


「歌うぞ!」


ドワーフ達が突然合唱を始める。

低音が響く。

地面が震える。


「うるせぇ!!」


ガエンが笑いながら叫ぶ。

元盗賊達も手拍子に参加し、

商人まで杯を掲げ始めた。

ダグラスは少し離れた場所から焚き火を眺める。


ナラが隣に座った。


「楽しいね。」


「……ああ。」


静かな声。


「城に帰る前に、いい夜だ。」


火の粉が空へ舞う。

星が瞬き始める。


笑い声。

歌声。

酒の匂い。


旅の途中の、ただの野営。

――のはずが。

完全な大宴会になっていた。


そして数時間後。

酔ったドワーフが叫ぶ。


「運動会の予行演習じゃーー!!」


「やめろ!」


ガエンの叫びも虚しく、

夜の草原で即席競技が始まろうとしていた。


ドワーフ達が一斉に立ち上がる。

酒瓶を片手に持って、目は完全に酔っている。


「誰が許可した!!」


ガエンの叫びは、

もう誰にも届いていなかった。


◇◇◇


「第一競技!」


ドワルゴが焚き火の上に立つ。


「樽転がし障害物突破戦!!」


「名前だけで危険なのわかる!」


ナラが即ツッコミ。

ドワーフ達が酒樽をゴロゴロ転がし始める。

しかも中身入り。


「重っ!!」

「これ本番仕様じゃ!」


元盗賊達が思わず参加してしまう。


「いや待て俺達護衛――」


背中を押される。


「新人は参加義務じゃ!」


「採用条件だったの!?」


転がる樽。

飛び越える焚き火。

なぜか置かれたテント。

意味不明なコース。


そして――


ドン!!


樽がガエンの足元に突っ込んだ。


「……」


静止。

全員の視線が集まる。


「オーガ代表出場じゃ!!」


「勝手に代表にするな!!」


だが遅い。

ドワーフ達が担ぎ上げた。


「離せ!」

「重量級スター選手じゃ!」

「優勝候補!」


そのままスタート地点へ。

ダグラスが酒を飲みながら呟く。


「……巻き込まれたな。」


「助けて!?」


もちろん誰も助ける事はしない。


◇◇◇


「よーい――」


なぜか元盗賊が審判を始める。


「スタート!!」


ドンッ!!


ガエンが樽を押した瞬間。

樽が爆速で転がった。


「速っ!?」


怪力オーガ。

物理法則を無視した加速。

樽が地面を削る。

ドワーフ達大歓声。


「速いぞ!!」

「地面が負けておる!」


途中、酔ったドワーフが障害物として寝転ぶ。


「なんで人が障害物なんだ!」


ジャンプ。


樽ごと跳んだ。


「跳んだーー!!」


歓声。

そのままゴールを粉砕。


ドンガラガッシャーン!!


テント崩壊が崩壊し場は沈黙する。

煙の中からガエンが立ち上がる。


「……もうやめないか?」


「優勝ーー!!」


誰も聞いていない。


◇◇◇


次。


「第二競技!」


ドワルゴが指差す。


「酔拳綱引き!!」


「競技として成立してない!」


中央にロープが張られる。


左側:ドワーフ軍団

右側:元盗賊+巻き込まれたガエン


「なんで俺こっち!?」


「新人教育です!」


元盗賊達が真剣。


「引けぇぇ!!」


グイイイイ!!


互角。

だがドワーフ達は飲みながら引いている。


「手が滑る!」

「酒でロープ濡れてる!」


ナラ爆笑。


「ルールどうなってるの!?」


突然。

ダグラスが後ろからロープを軽く引いた。


ズルッ。


ドワーフ側全員転倒。


「……勝利。」


「死神ずるい!!」


◇◇◇


そして、狂気は加速する。


「第三競技!!」


「まだあるの!?」


「城壁突破リレー想定訓練!!」


「ここ城壁ない!!」


ドワーフ達が即席で石を積み始める。


三分後。


簡易城壁完成。


「建設速度どうなってるの!?」


元盗賊達の目が輝く。


「建設現場だ……!」

「これが俺達の未来……!」


何故か完全に適応していた。


◇◇◇


そして事件は起きる。

酔ったドワーフが叫んだ。


「目玉競技じゃーー!!」


全員が振り向く。

ドワルゴが両腕を広げた。


「魔王様想定・大運動会総合模擬戦!!」


「規模が急に本番!!」


たいまつ点灯。

焚き火増設。

旗が立つ。

なぜか音頭が始まる。


元盗賊達、完全にノる。


「隊列組め!」

「左翼展開!」


商人まで応援開始。


「頑張れー!」


ガエンが頭を抱える。


「もう止められん……」


ナラが笑う。


「これ絶対、魔王様好きなやつだよ。」


ダグラスが静かに言った。


「……いや。」


少しだけ口元が緩む。


「既に運動会だ。」


◇◇◇


そしてようやく最後の種目を迎える。


「騎馬戦じゃーー!!」


「野営地でやるな!!」


ドワーフが肩車を組み、

元盗賊が突撃し、

ナラが空から実況。


「左翼崩壊!酒樽部隊突入!」


混沌。


砂煙。

笑い声。

叫び声。


そして――


ガエンがついにキレた。


「もう終わりだ!!」


ドンッ!!


地面を踏み鳴らす。

衝撃波。

全員ストンと尻もち。


静寂。


焚き火の音だけが響く。

数秒後。


ドワーフ達が笑い出した。


「はっはっは!」

「締めじゃな!」

「最高の予行演習じゃ!」


元盗賊達も笑っていた。


「……こんな夜、初めてだ。」

「盗賊やってた頃じゃ考えられねぇ。」


ナラが空を見上げる。

星空。

焚き火。

笑い疲れた仲間達。


ガエンがため息をつく。


「……絶対、城でもこうなる。」


ダグラスが答える。


「間違いない。」


遠くでフクロウが鳴いた。


こうして――

運動会の練習という名の大騒ぎは、

夜更けと共にようやく終わった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝、一行は寝不足のまま丘を越える。

すると――

風が変わった。

広がる視界。

遠く、地平線の向こう。

巨大な城壁。

黒と銀の塔群。

空へ伸びる魔力の光柱。


王都。


魔族領の中心。


ナラが思わず立ち上がる。


「……見えた。」


ドワーフ達も足を止めた。

元盗賊達も警戒を忘れて振り向く。

ガエンが目を細める。


「久しぶりだな。」


ダグラスが静かに言った。


「魔族領王都――マグノリア。」


夕日に照らされ、

巨大都市が静かに姿を現していた。


城壁の向こうに広がる無数の建物。

空を飛ぶ魔族の影。

門へ続く街道には人と荷馬車の列。


帰る場所。


壊れているであろう城。

そして――

これから始まる騒がしい日々。


ガエンが肩を鳴らした。


「さて。」


ニヤリと笑う。


「修理と運動会の準備、始めるか。」


元盗賊達が拳を握る。


「精一杯働きます!!」


ドワーフ達が笑い声を上げる。

ナラが空へ舞い上がる。

王都マグノリアは、もう目の前だった。


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