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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

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59.冒険者カード、見せ合う

しばらく笑いが続いた後、マイトがふと思い出したように言った。


「そういえばガエンって冒険者登録はしてるのか?」


「ああ。」


ガエンは普通に頷いた。


「してるぞ。」


「へぇ。」


ナラが興味深そうに身を乗り出す。


「どんな感じなの?」


「普通だ。」


「絶対普通じゃない。」


マイトが即答した。


「職業とか書く欄あるだろ?」


「ああ。」


「何になってるんだ?」


ガエンは一拍置いて答えた。


「農家。」


馬車の中が静かになった。


「は?」


「農家だ。」


「冒険者なのに?」


「冒険者だからって職業が冒険者とは限らんだろ。」


「それはそうだけど!」


マイトが頭を抱える。


「いや待て。農家なの?」


「ああ。」


「今も?」


「今も。」


「やっぱり現役農家じゃん!」


ナラが大笑いした。

ラーシャも思わず苦笑する。


「財務担当より農家歴の方が長そうですね。」


「長いな。」


ガエンはあっさり認めた。


「ちなみにランクは?」


マイトが何気なく聞く。

ガエンは窓の外を見ながら答えた。


「A。」


今度は三人とも固まった。


「A?」


「A。」


「農家が?」


「農家だ。」


「農家がAランク冒険者!?」


ナラが爆笑した。


「なんで!?」


「依頼を受けていたからな。」


「どんな依頼だよ。」


「畑を荒らす魔物退治。」


「農家じゃん!」


マイトが机を叩く勢いで言った。

ガエンは真面目な顔だった。


「あと害獣駆除。」


「農家。」


「護衛依頼。」


「まあ冒険者。」


「畑の開墾。」


「農家。」


「灌漑設備の修理。」


「農家。」


「収穫の手伝い。」


「完全に農家!」


ナラが椅子の上で笑い転げ回る。

ガエンは不思議そうな顔をした。


「依頼は依頼だろう。」


「そうだけど!」


マイトが笑いながら言う。


「普通Aランクってドラゴン退治とかじゃないのか?」


「やったぞ。」


「やったのか。」


「畑を守るためにな。」


「理由が農家!」


再び笑いが起こる。

その時だった。


「あ。」


ナラが何かを思い出したように声を上げた。


「見たことある。」


「何がだ?」


「ガエンの冒険者カード!」


ガエンが少しだけ目を細める。


「フィルドリアか。」


「あ、それだ!」


ナラは指をぱちんと鳴らした。


「前にフィルドリアで一緒に依頼やった時!」


「そういえばそんなこともあったな。」


マイトが首を傾げる。


「見たことあるの?」


「あるある!」


ナラは楽しそうに頷いた。


「ギルドで依頼を受ける時だったかな?」


「だったな。」


「職業の欄を見たら『農家』って書いてあって!」


ナラは当時を思い出したのか笑い始めた。


「しかもランクA!」


「本当だったのですね……。」


ラーシャが呆然と呟く。


「その時ギルドのお姉さんも二度見してたよ!」


「してたな。」


ガエンが頷く。


「受付の人がカードと俺を何回も見比べてた。」


「想像できる。」


マイトが吹き出した。

ナラはさらに続ける。


「しかもその後ろにいた新人冒険者がさ。」


ナラは声真似をした。


『農家でAランク……?』


『農業ってそんなに危険なのか……?』


馬車の中に爆笑が広がる。

ガエンは腕を組んだ。


「危険だぞ。」


「真面目な顔で言うな。」


「天候、害虫、病気、魔物。」


ガエンは指を折る。


「自然との戦いだ。」


「なんか説得力あるのが嫌だな。」


マイトが苦笑した。


「ちなみに職業変更はしないのですか?」


ラーシャが聞く。

ガエンは即答する。


「しない。」


「なんでです?」


「農家だからだ。」


あまりにも迷いのない返答だった。

ナラは腹を抱えて笑う。

マイトは肩を震わせる。

ラーシャもつい吹き出した。

ガエンだけが真顔だった。

窓の外には広大な畑が広がっている。

それを眺めながらガエンは小さく呟いた。


「農家を辞めた覚えはないからな。」


その言葉に三人は顔を見合わせた。

そして。


「やっぱり現役農家じゃん。」


満場一致だった。

マイトは笑いながら涙を拭った。


「いやもう駄目だ。農家Aランクが強すぎる。」


「何がおかしい。」


「全部だよ。」


ガエンは首を傾げたが、三人はまだ笑っていた。

しばらくしてナラがふと思い出したように言う。


「あ、そういえばみんなのも見せ合ったことあったっけ?」


「冒険者カードか?」


「そうそう!」


ナラはくるりと宙返りした。


「せっかくだし確認しようよ!」


「別に構わんが。」


ガエンが頷く。

まずマイトが胸を張った。


「俺からだな!」


どこか得意げだ。


「職業は勇者!」


「それは知ってる。」


ガエンが即答した。


「ランクは!」


マイトはさらに胸を張る。


「S!」


「最高ランクですね。」


ラーシャが感心したように言った。

冒険者ギルドにおいてSランクは頂点。

世界でも数えるほどしかいない。


「まあ勇者だからな!」


マイトは得意そうだった。

しかし。


「でも依頼失敗して財布なくしたことあるよね。」


ナラが言った。


「それは依頼じゃない!」


「宿の鍵もなくしてた。」


「それも関係ない!」


「地図も逆さまに見てた。」


「やめろ!」


馬車の中に笑いが広がる。

ガエンは腕を組んだ。


「実力はSだな。」


「お、分かってるじゃないか。」


「生活力はFだが。」


「なんでだよ!」


再び笑い声が響いた。

次にナラが胸を張る。


「じゃあ次はボク!」


「職業は?」


マイトが聞く。

ナラは少しだけ悪そうな笑みを浮かべた。


「諜報。」


「似合うな。」


ガエンが即答した。

ナラは魔族領でも情報収集を担当することが多い。

気付けばどこにでもいるし、いつの間にか話を聞いている。


「ランクはD!」


「意外と普通ですね。」


ラーシャが言った。

ナラは肩をすくめた。


「戦う仕事じゃないからねー。」


「確かに。」


マイトも納得する。


「でも諜報員としては優秀だろ。」


「えへへー。」


ナラは嬉しそうに笑った。

ガエンも頷く。


「フィルドリアの件でも助かったからな。」


「あれ楽しかった!」


「楽しかったで済ませる内容じゃなかった気がするが。」


ラーシャが小さく呟いた。

そして最後に視線がラーシャへ向く。

ラーシャは少しだけ肩を震わせた。


「わ、私ですか?」


「ラーシャのも聞きたい。」


マイトが笑う。

ラーシャは少し躊躇ってから答えた。


「職業は……魔術師です。」


「うん。」


「ランクはB。」


一瞬静かになる。

そして。


「高くない?」


マイトが言った。


「高いな。」


ガエンも頷く。

ラーシャは慌てた。


「い、いえ! そんなことは!」


「いや高いだろ。」


「Bランクって十分すごいぞ。」


「でも私はまだまだで……。」


いつものように自己評価が低い。

ナラが苦笑した。


「ラーシャって毎回それ言うよね。」


「だって本当に未熟ですし……。」


「未熟な魔術師は上級魔法を何発も撃てない。」


ガエンが言う。


「未熟な魔術師は古代魔法の解析もできない。」


マイトも続ける。


「未熟な魔術師はボク達を何回も助けられないよ。」


ナラも頷いた。

ラーシャは困ったような顔になった。


「そ、そうでしょうか……。」


「そうだ。」


ガエンが即答する。


「もっと自信を持て。」


ラーシャは少しだけ顔を赤くした。


「……ありがとうございます。」


その様子を見てナラが笑う。


「こうして見ると面白いよねー。」


「何がだ?」


ガエンが聞く。

ナラは指を折りながら数えた。


「最高ランクの勇者。」


マイトを指差す。


「Bランクの凄腕魔術師。」


ラーシャを指差す。


「Dランクの諜報員。」


自分を指差す。

そして最後にガエンを見た。


「Aランク農家。」


沈黙。


「もう戦士でいいんじゃない?」


マイトが反射的に言う。


「農家だ。」


ガエンが言う。


「Aランク農家だー!」


ナラが爆笑した。

ラーシャも耐えきれず吹き出す。

マイトも腹を抱えた。

笑いがようやく落ち着き、マイトは息を整えながら背もたれにもたれた。


「そういやさ。」


「なんだ。」


ガエンが返事をする。


「ガエンの話は結構聞いたよな。農家だったとか、バラムに半ば強引に静寂の城へ連れていかれたとか。」


「ああ。」


「でもさ。」


マイトは首を傾げた。


「考えてみたら俺の話ってあんまりしてなかったよな。」


ナラがくるりと宙に浮く。


「あ、確かに!」


ラーシャも小さく頷いた。


「言われてみれば……勇者様がどうして静寂の城で暮らすようになったのか、詳しく聞いたことがありません。」


「そうそう。」


ナラが指をさす。


「普通なら勇者って魔王の城に住まないよね?」


「確かにな。」


ガエンも腕を組んだ。


「世界中探してもかなり珍しい。」


「珍しいどころじゃない気がします……。」


ラーシャは苦笑する。

マイトは頭をかきながら笑った。


「まあ、普通はそう思うよな。」


「最初に会った時なんて、私も信じられませんでした。」


ラーシャが思い返すように言う。


「勇者が魔王軍の幹部達と普通に食事をしているなんて……。」


「初めて見た人は大体そんな反応だよ。」


ナラも笑う。


「『捕まってるの?』『洗脳されてるの?』って聞かれるし。」


「何度も聞かれたな。」


ガエンが頷く。


「その度に本人が『いや、自分で住んでるだけだけど?』って答えるから余計混乱する。」


「だって事実だし。」


マイトはあっさりと言った。

ナラが興味津々で身を乗り出す。


「ねえねえ、改めて聞かせてよ。」


ラーシャも静かに頷く。


「私も聞きたいです。」


ガエンも窓の外から視線を戻した。


「俺も最初の頃しか知らん。本人からちゃんと聞いたことはないな。」


三人の視線が一斉に集まる。

マイトは少し照れくさそうに笑い、腕を組んだ。


「じゃあ話すか。」


馬車はのどかな田園地帯を進み続ける。

揺れる車輪の音だけがしばらく響いたあと、マイトはゆっくりと口を開いた。


「俺が勇者なのに、なんで魔王の城、静寂の城で暮らすことになったのか。」


マイトは少しだけ遠くを見るような目になった。


「話すなら、一番最初からかな。」

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