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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

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57.国王、遠距離通信魔道具を使う

石造りの建物、旅人向けの宿、馬車置き場、鍛冶屋、食堂、物資を扱う商店。

山岳地帯を行き来する旅人達のための宿場町だった。


「おお。」


マイトが声を上げる。


「結構大きいな。」


「思ったより栄えてますね。」


ラーシャも感心する。

街の中央には大きな広場があり、多くの馬車が停まっている。

商人らしき人々が荷物を運び、旅人達が行き交っていた。


「今日はあそこで一泊だ。」


御者が言う。


「明日からまた先へ進む。」


「助かったー!」


ナラが空中で一回転した。


「ずっと座ってると退屈なんだよね!」


「お前はずっと飛んでるだろ。」


ガエンが突っ込む。


「気分の問題!」


「便利な言葉だな。」


馬車はゆっくりと町へ入る。

入口近くでは果物を売る露店が並んでいた。

焼きたてのパンの香りも漂ってくる。


ぐうううう。


誰かの腹が鳴った。

全員が振り向く。

ラーシャだった。


「……。」


「……。」


「……。」


ラーシャは顔を真っ赤にした。


「ち、違います。」


「何が。」


ガエンが聞く。


「お腹じゃありません。」


「今の音で?」


「たぶん町の鐘です。」


「腹から鐘が鳴ったのか。」


マイトが吹き出した。

ナラも笑い出す。


「ラーシャお腹空いてる!」


「空いてません!」


その瞬間。


ぐうううううう。


今度はさらに大きかった。


「鐘が二回鳴った。」


ガエンが真顔で言う。


「やめてください!」


ラーシャは両手で顔を隠した。

御者まで肩を震わせて笑っている。

馬車は広場へ到着した。


「宿はあそこだ。」


御者が指差す。

広場に面した三階建ての宿だった。

木造だが立派な建物で、看板には大きく『山鹿亭』と書かれている。

旅人達も多く利用しているらしく、出入りが絶えない。


「良さそうな宿だな。」


マイトが言う。


「風呂あるかな。」


「あるだろ。」


「あるといいですね。」


ラーシャも少し期待した顔になる。


「ご飯!」


ナラは完全に食事のことしか考えていなかった。

ガエンは荷物を持ちながら周囲を見回す。

宿場町らしく活気がある。

商人。冒険者。巡礼者。観光客。様々な人種が行き交っていた。

その時だった、広場の中央で何やら人だかりができているのが見えた。


「ん?」


マイトが首を傾げる。

人々が集まり、笑い声が聞こえてくる。

何か催しでもやっているらしい。


「大道芸かな?」


ナラが言う。


「かもしれんな。」


ガエンが答える。

すると近くを通った商人が楽しそうに言った。


「お、今夜も始まったか。」


「何かあるの?」


マイトが聞くと商人は笑って言った。


「ああ、この町で最近人気の旅芸人さ。」


「旅芸人?」


「将来、笑芸大会の優勝を目指してるらしくてな。」


商人は広場の方を見ながら笑った。


「なかなか面白いぞ。毎日違う芸人が来て腕試ししてるんだ。」


「へぇ。」


マイトは少し興味を持った。


「宿に荷物置いてから見に行くか。」


「賛成ー!」


ナラが元気よく手を上げる。


「ご飯の前に?」


ラーシャが聞く。


「ご飯の前に!」


「ご飯の後でもいいのでは。」


「両方!」


「欲張りですね。」


結局、荷物だけ宿に預けて広場へ向かうことになった。

広場では簡易的な舞台が設置されており、二人組の芸人が漫才をしていた。


「いやだからそれは魚じゃなくて靴だろ!」


「でも海で拾ったよ?」


「拾うな!」


観客が笑う。


「海は何でも落ちてるんだね。」


「そんなわけあるか!」


再び笑いが起きた。

ナラはくすくす笑いながら空中を漂う。


「結構面白いねー。」


「素人にしては上手い。」


ガエンも腕を組む。

ラーシャも口元を押さえていた。

しばらくしてネタが終わると拍手が起こった。

芸人達は礼をして舞台を降りる。

観客も少しずつ散っていった。


「せっかくだし話してみよう。」


マイトが言うと四人は舞台脇で水を飲んでいた芸人に声をかけた。


「お疲れー。」


「おう、ありがとさん。」


三十代くらいの人間の男だった。


「旅芸人なんですか?」


ラーシャが尋ねる。


「ああ。」


男は頷く。


「笑芸大会目指してあちこち回ってる。」


「笑芸大会か。」


ガエンが言う。


「今年は誰が優勝候補なんだ?」


その瞬間。

男の顔が少し真面目になった。


「あー……今年はなぁ。」


近くにいた別の芸人まで会話に加わる。


「たぶんあいつらだろ。」

「だよな。」

「満場一致だな。」


マイトは首を傾げた。


「そんなに有名なのか?」


「有名どころじゃない。」


男が即答した。


「うさぎドラゴン。」


「うさぎドラゴン?」


ナラが聞き返す。


「聞いたことない。」


「最近急激に名前が広まったんだ。」


別の芸人が言う。


「説明会の時からやばかったらしい。」


「らしい?」


「実は俺らも直接は見てねぇ。」


「見てないのか。」


「見てない。」


全員頷いた。


「でも噂だけで広まってる。」


「何それ。」


ナラが笑う。

男は腕を組んだ。


「なんか片方が天然らしい。」


「ほう。」


「でも本人は天然だと思ってないらしい。」


「よくある話だな。」


ガエンが言う。


「で、もう片方が必死に突っ込む。」


「なるほど。」


「しかも会話してるだけで周りが笑うらしい。」


マイト達は何となく顔を見合わせた。

少しだけ聞き覚えがあった。

だが世の中にはそういう芸人もいるだろう。

誰も深く考えなかった。

芸人は続ける。


「この前なんか説明会で十分くらい雑談してただけで会場が爆笑だったとか。」


「雑談で?」


ラーシャが驚く。


「らしい。」


「それネタじゃなくて?」


「雑談。」


「意味が分からん。」


ガエンが真顔で言う。


「皆そう言う。」


男も真顔だった。


「しかも本人達は何で笑われてるのか分かってないらしい。」


マイトは少し吹き出した。


「変な奴らだな。」


「だろ?」


「どんな人達なんだ?」


すると芸人達は揃って首を傾げた。


「知らん。」

「知らない。」

「見たことない。」

「名前しか知らない。」


「えぇ……。」


ナラが呆れる。


「優勝候補なのに?」


「逆になんでこんな有名になったのか分からん。」


男が苦笑する。


「ただ、他の参加者からは警戒されてる。」


「そんなに?」


「そんなに。」


芸人達は真剣だった。


「今年の台風の目だって言われてる。」


「へぇ。」


マイトは感心する。


「一回見てみたいな。」


「な。」


男も頷いた。


「どんな化け物コンビなのか気になる。」


ガエンが腕を組む。


「その笑芸大会はいつやるんだ?」


「二週間後だ。」


芸人が答えた。

その言葉を聞いた瞬間。


「二週間後?」


マイトが御者から聞いた話を思い出した。


「クリアフォルに着くのもそれくらいじゃなかったっけ?」


「あ。」


ナラが声を上げる。

ガエンも頷いた。


「確かに。到着予定も約二週間後だったな。」


「じゃあ。」


ラーシャが少し目を輝かせる。


「着いた頃に大会が始まるんですか?」


「計算上はそうなるな。」


ガエンが言う。

ナラが空中でくるくる回った。


「やったー!」


「ナラ、さっきまでご飯しか考えてなかっただろ。」


ガエンが突っ込む。


「ご飯と笑いは別腹!」


「別腹多すぎないか?」


観客の一人が思わず笑った。

芸人達も笑う。


「それなら運が良かったな。」


先ほどの芸人が言った。


「笑芸大会はクリアフォルでもかなり盛り上がるぞ。」


「そんなに有名なんですか?」


ラーシャが尋ねる。


「ああ。魔族領だけじゃない。」


「獣人領からも来るし。」


「人間領からも来る。」


「エルフも来るぞ。」


芸人達が次々に言う。


「優勝したら一気に有名人だからな。」


「へぇ。」


マイトは感心した。


「そんな大規模な大会なの?」


「毎年楽しみにしてる奴も多い。」

「今年は特に盛り上がってる。」

「うさぎドラゴンのせいでな。」


全員が再び頷いた。

うさぎドラゴン。

まだ顔も知らない謎の芸人コンビ。

だが話を聞けば聞くほど気になる。


「なんかもう。」


マイトが苦笑する。


「実際見たくなってきたね。」


「私もです。」


ラーシャも頷く。


「どれくらい面白いのか気になります。」


「俺も少し興味があるな。」


ガエンが言う。


「財務担当としては、人が集まる理由を知っておきたい。」


「絶対後付けの理由だよね?」


ナラが言った。


「違う。」


「本当に?」


「八割くらい。」


「二割は?」


「普通に気になる。」


マイトが吹き出した。


「正直。」


芸人達も笑う。


「まあ、クリアフォルに行くなら嫌でも話題は耳に入ると思うぞ。」

「町中でポスター貼られてるだろうしな。」

「酒場でもその話ばっかりだ。」

「優勝予想で賭けてる奴までいる。」


「賭けるなよ。」


ガエンが即座に言った。


「それはそう。」


芸人も真顔で頷いた。

しばらく笑い合った後、空は少しずつ夕暮れ色に染まり始めていた。


「さて。」


ガエンが立ち上がる。


「そろそろ宿に戻るか。」


その言葉に。


ぐううううう。


また腹が鳴った。

全員が振り向くと、やはりラーシャだった。


「……。」

「……。」

「……。」


ナラが肩を震わせる。

マイトが口を押さえる。

ガエンが真顔になる。


「どうやら三度目の鐘だな。」


「だから違います!」


広場に笑い声が響いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夜、シャーレが部屋で休んでいると遠距離通信魔道具が鳴った。

魔道具を起動させると画面にはサイヴァーン国王のリターシャだった。


「あらリターシャ、どうしたの?」


シャーレが微笑みながら尋ねる。

画面の向こうではリターシャが椅子にもたれかかっていた。

どうやら休んでいるらしい。

『いやー、ちょっと休憩。』


「国王がそんな理由で通信してきていいの?」


『いいのいいの。そもそもシャーレだって休日にゲームしてるじゃん。』


「それは休日だから。」


『私は国王だから。』


「意味が分からない。」


即答だった。

リターシャはけらけら笑う。


『まあそれは置いといて。』


「置いとくんだ。」


『面白い人達がそっち向かってるよ。』


「面白い人達?」


シャーレが首を傾げる。

リターシャは楽しそうな顔になった。


『運動会のスポンサー集めで世界を回ってる四人組。』


「運動会?」


『うん。』


「スポンサー?」


『うん。』


「世界を回ってる?」


『うん。』


シャーレは数秒考えた。


「最初から意味が分からない。」


『だよねー。』


リターシャは満足そうに頷いた。


『オーガのガエンって人が中心なんだけどね。』


「オーガ。」


『財務担当。』


「財務担当。」


『運動会のスポンサーを集めてる。』


「ますます意味が分からない。」


シャーレは頭を抱えた。

リターシャは笑いながら説明を続ける。


『勇者のマイトと、ダークエルフのラーシャと、ピクシーのナラも一緒。』


「なんだか濃いわね。」


『かなり濃い。』


「それで今どこにいるの?」


『多分まだ人間領の山岳地帯かな。そのうちクリアフォルに行くと思うよ。』


シャーレは少し興味を持った。


「へえ。」


『結構面白い人達だから会ったら話してみて。』


「分かった。」


すると今度はシャーレの方が思い出したように口を開いた。


「そういえば今こっちも面白い話題があるわよ。」


『ん?』


「笑芸大会。」


『ああ、聞いたことある。』


クリアフォル名物の巨大なお笑い大会だ。

各地から芸人達が集まり、優勝を目指して競い合う一大イベント。


「今かなり盛り上がってるの。」


『へえ。』


「今年は特に注目されてるコンビがいてね。」


『どんな人達?』


シャーレは少し笑った。


「うさぎドラゴン。」


『名前の時点で面白そう。』


「でしょ?」


『どんな芸人なの?』


シャーレは少し考えた。


「説明が難しいのよね。」


『どういうこと?』


「片方が常識人で。」


『うん。』


「片方が天然。」


『よくある。』


「でも天然の方が自分で天然だと全く思ってない。」


『あー。』


リターシャが何かを察した顔になる。

シャーレは続けた。


「しかも本人は真面目に話してるだけなのに観客が大笑いするの。」


『強い。』


「かなり強い。」


『計算?』


「違う。」


『演技?』


「違う。」


『じゃあ何?』


シャーレは苦笑した。


「本物。」


リターシャが吹き出した。


『それ強いやつだ。』


「そうなのよ。」


『今年の優勝候補?』


「優勝候補どころか本命ね。」


シャーレは映像魔道具を操作する。

少し前の大会映像が表示された。

画面の中ではうさぎドラゴンの二人が観客を爆笑させていた。

もちろんシャーレもリターシャも、その正体がガエン達より先にクリアフォルに来ているビルムとミリアだとは知らない。

リターシャは映像を見ながら笑った。


『なるほど。』


「面白いでしょ?」


『うん。』


「もしガエン達が大会期間中に来たら絶対見に行かせるべきね。」


『確かに。』


リターシャは頷く。


「運動会スポンサー集めの旅の途中で笑芸大会。」


『旅の思い出としては最高じゃない?』


「絶対何か起きる気がする。」


『私もそう思う。』


二人は顔を見合わせ。そして同時に笑った。

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