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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

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54.ネタ、煮詰まる

翌日、ネタ作りは一旦諦めた。


「煮詰まった。」


ビルムが言う。


「真っ白。」


「昨日も真っ白だった。」


「昨日は希望があった。」


「今日は?」


「ない。」


ミリアは頷いた。


「じゃあ散歩。」


「現実逃避とも言う。」


そんなわけで三人はクリアフォルの街へ出た。

雪が静かに降っている。

相変わらず人は多い。

今日は広場でストリート芸人の催しがあるらしかった。


「お。」


ビルムが足を止める。


「芸人や。」


広場の中央では大道芸人が火のついた棒を回していた。観客もそこそこ集まっている。


「勉強になるかもしれん。」


「なるほど。」


「プロは何が違うんか見てみようや。」


ミリアも頷く。

ダグラスは興味なさそうについていく。

三人は観客の後ろに立った。

大道芸人が棒を空へ放り投げる。

歓声。拍手。


「すごい。」


ミリアが言った。


「せやな。」


「もし落としたらどうなるんだろう。」


「危ないやろな。」


「頭に刺さる?」


「刺さらんように練習しとるんや。」


「でも刺さる可能性はある。」


「ゼロではない。」


ミリアは真顔。


「つまり観客は命を賭けて見ている。」


「大げさや。」


「芸術とは命。」


「重いな。」


近くにいた観客が少し笑った。

ビルムは気付かない。

大道芸人が今度は五本同時に回し始める。

歓声が上がる。


「すごいな。」


「すごい。」


「俺には無理や。」


「私も無理。」


「そもそも手が二本しかないし。」


「私も。」


「そこは同じやな。」


ミリアは少し考えた。


「でも。」


「うん。」


「蛇形態ならいけるかもしれない。」


「何がや。」


「五本。」


「大道芸?」


「尻尾で。」


「やめろ。」


「七本いける。」


「増えた。」


「頑張れば十本。」


「世界記録狙うな。」


前にいた子供が吹き出した。

母親も笑いを堪えている。

ビルムはまだ気付かない。

大道芸人が決めポーズを取る。

拍手と共に観客が盛り上がる。

そのタイミングでミリアが呟いた。


「でも。」


「何。」


「火って熱い。」


「当たり前や。」


「なのに投げる。」


「うん。」


「火に嫌われている可能性がある。」


「なんでや。」


「近くにいたくないから飛んでいく。」


「物理現象や。」


「寂しい。」


「火の気持ち考えるな。」


後ろで誰かが笑った。

さらに別の方向でも笑い声。

ビルムがようやく振り返る。


「ん?」


いつの間にか周囲の人間がこっちを見ていた。

十人くらい。


「なんや。」


「続けて。」


知らないおじさんが言った。

ビルムが固まる。


「は?」


「面白い。」


「いやいや。」


ミリアが首を傾げる。


「私達に?」


「そう。」


観客達が頷く。

その間も大道芸人は向こうで芸を続けている。

だが、なぜかこちらにも人が集まり始めていた。

ビルムの顔が引きつる。


「待て待て。」


「何。」


「なんか人増えてへん?」


「増えた。」


「なんでや。」


「人気。」


「お前のその自信どっから来るねん。」


笑い声。

さらに人が増える。

十五人。

二十人。

大道芸人の方を見ると向こうの観客が少し減っていた。


「あかん。」


ビルムが焦る。


「あっちが本物や。」


ミリアも見る。


「本当。」


「俺ら違う。」


「偽物。」


「もっと違う。」


するとミリアが真顔で言った。


「じゃあ応援しよう。」


「おう。」


「皆さん。」


周囲の観客を見る。


「向こうが本物です。」


「営業妨害みたいな言い方するな。」


笑い声。

すると向こうの大道芸人がこちらを見た。

目が合った。

気まずい。ものすごく気まずい。

大道芸人は少し考えた後、大声で叫んだ。


「そこの二人!」


ビルムがびくっとする。


「はい!?」


「お前ら芸人か!?」


「違います!」


「違うのか!?」


「多分!」


「多分って何だ!」


観客大爆笑。

大道芸人まで笑っていた。

ミリアが手を挙げる。


「まだ見習い。」


「認めた!」


「認めるな!」


笑い声が広場に響く。

大道芸人は腹を抱えて笑った後。

指を差した。


「大会出るなら頑張れよ!」


「なんで知っとるんですか!?」


「クリアフォルで噂になってる!」


ビルムの顔色が変わる。


「え。」


「え。」


ミリアも固まる。

大道芸人はニヤリと笑った。


「うさぎドラゴンだろ?」


ビルム、ミリア、ダグラス。三人とも固まった。

周囲の観客がざわつく。


「え?」

「本人?」

「うさぎドラゴン?」


ビルムはゆっくりダグラスを見た。


「……。」


ダグラスは無表情。


「有名になったな。」


「嫌や。」


ミリアは少し考えてから言った。


「つまり。」


「何。」


「ストリート芸人を見に来たら。」


「うん。」


「ストリート芸人になった。」


「なってへん。」


「自然。」


「全然自然ちゃう。」


その瞬間、周囲から拍手が起きた。

拍手はどんどん大きくなっていく。


「やめて。」


ビルムが言う。


「拍手される理由が分からん。」


「人気者。」


ミリアが言う。


「違う。」


「じゃあ有名人。」


「もっと違う。」


「雪うさぎの飼育員。」


「誰がや。」


観客が笑う。

大道芸人まで肩を震わせていた。


「お前ら本当に面白いな!」


「狙ってないんや!」


「それが一番怖い!」


大爆笑。

ビルムは頭を抱えた。


「なんでや……。」


「才能。」


「嫌な才能や。」


するとミリアが広場の端を見た。

屋台が並んでいる。

焼き菓子。

温かい飲み物。

雪まつり用の飾り。

その中に氷細工の店があった。

氷で作られた鳥や花が並んでいる。

ミリアはしばらく見つめた。


「綺麗。」


「せやな。」


「氷なのに温かい感じがする。」


「ええ表現やな。」


「職人の気持ちが入ってる。」


「なるほど。」


ミリアは少し考え、そして真顔で言った。


「つまり。」


「うん。」


「氷にも心がある。」


「また始まった。」


観客がクスクス笑う。

ミリアは続ける。


「だから氷の女王様が作る氷が冷たいのは。」


「うん。」


「氷が女王様に気を遣っている。」


「どういうことや。」


「女王様が冷たいキャラだから。」


「キャラ言うな。」


「本当は温かい氷になりたい。」


「氷に願望持たせるな。」


笑いが起きる。

ミリアは真顔のまま。


「でも頑張って冷たくしてる。」


「なんでや。」


「職場の空気。」


「氷だけにな。」


ビルムが反射的に言った。

一瞬の沈黙。

そして。


ドッ!!!


観客が爆発した。


「うまっ!!」


「今の上手い!」


「確かに!」


「あはははは!」


広場中に笑い声が広がる。

ビルム自身が一番驚いていた。


「え。」


ミリアも少し目を丸くした。


「ビルム。」


「何。」


「今の上手かった。」


「たまたまや。」


「偶然の天才。」


「褒めてるようで褒めてへん。」


観客はまだ笑っている。

するとミリアが少しだけ考え込み。

珍しく、本当に珍しく自分から言った。


「でも。」


「何。」


「職場の空気って大事。」


「まあな。」


「空気が悪いと居づらい。」


「せやな。」


「だから氷も空気を読む。」


「読まへん。」


「読まないと溶ける。」


「意味分からん。」


ミリアは静かに頷いた。

そして空を見上げる。

雪が降っている。


「だから雪はすごい。」


「なんで。」


「空気を読んで。」


「うん。」


「冬だけ来る。」


一瞬ビルムが何か言おうとして止まる。

確かにそうだった。

ちょっとだけ納得しそうになった。

その隙を見逃さずミリアが続けた。


「でも雨は空気が読めない。」


「なんでや。」


「運動会に来る。」


ドォォッ!!


今度はさっき以上の大爆笑。

子供が腹を抱え。

大人まで吹き出している。

大道芸人は膝を叩いて笑っていた。


「それだ!!」


「何がですか!?」


「今のだよ!」


大道芸人が叫ぶ。


「今の流れ!」


「今の?」


「お前がツッコんで!」


「うん。」


「そいつが変なこと言って!」


「うん。」


「最後に妙に納得できること言う!」


観客が頷く。


「確かに!」


「分かる!」


「それ面白い!」


ビルムは周囲を見回した。

全員笑っている。

ミリアは首を傾げる。


「私、何か面白いこと言った?」


観客がさらに笑う。

ビルムは天を仰いだ。


「なんで本人だけ分かってへんねん……。」


するとミリアは少し考え。

ぽつりと言った。


「もしかして。」


「何。」


「ネタ完成した?」


「してたまるか。」


「じゃあ何で皆笑ってるの?」


ビルムは数秒考えた。

そして諦めたように言う。


「知らんけど。」


観客を見回す。

全員まだ笑顔だった。


「多分。」


「うん。」


「お前がおかしいからや。」


ミリアは静かに頷いた。


「なるほど。」


そして真顔で。


「原因判明。」


その一言で、広場はまた大爆笑に包まれた。

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