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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

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53.うさぎドラゴン、くじ引きをする

笑芸大会参加者説明会に参加したドラゴニュートのビルム、ラミアのミリア、暇つぶしの付き添いできた死神のダグラスは、笑芸大会に視察でクリアフォル女王フロスティアが来るという衝撃の知らせを聞いた。場が少し落ち着いてきて大会の説明が始まる。

場が落ち着くのを待ってから司会者が咳払いをした。


「それでは説明会を再開します。」


参加者達も姿勢を正す。


「大会は三週間後。出場は全十五組です。」


壁に貼られた一覧表が示された。


ベテラン芸人。

若手芸人。

即席コンビ。

地方から来た芸人。


様々な名前が並んでいる。

その中に。


『うさぎドラゴン』


のコンビ名もあった。

ビルムがそれ見て。


「まだ慣れへんなその名前。」


「私は慣れた。」


「早ない?」


「もう一週間くらい呼ばれてる。」


「確かに。」


周囲の芸人も頷いた。


「雪うさぎと保護者。」

「いやうさぎドラゴンの方がマシ。」

「保護者は漫才師の名前ちゃう。」


会場が少し笑う。

司会者も苦笑した。


「続いて出演順ですが、公平を期すため当日に行う予定でしたが、準備の都合上、本日くじ引きで決定します。」


ざわっ。


芸人達が一斉に反応した。


「一番手だけは嫌や。」

「トリもプレッシャーやぞ。」

「真ん中がええな。」


司会者が箱を持ち上げる。


「順番に引いてください。」


くじ引き開始。

芸人達が次々と引いていく。


「7番!」

「12番!」

「3番かー!」


歓声や悲鳴が飛ぶ。

そして。


「次、うさぎドラゴン。」


ビルム達が呼ばれた。

ビルムが立ち上がる。


「お、俺らや。」


ミリアは頷いた。


「行ってらっしゃい。」


「なんで保護者みたいな送り出し方なん。」


「保護者だから。」


「違う。」


ダグラスが後ろから。


「事実だな。」


「死神まで言うな。」


会場が笑った。

ビルムは箱の前へ進むと司会者が箱を差し出す。


「どうぞ。」


「頼むで……。」


ビルムは真剣な顔で手を入れた。

芸人達もなんとなく見ている。

ビルムがくじを掴む。引く。開く。


数秒沈黙。


司会者が覗き込んだ。


「何番ですか?」


ビルムが紙を見る。


「……。」


「?」


「……。」


「どうしました?」


ビルムはゆっくり顔を上げた。

嫌な予感がした。

ミリアも首を傾げる。


「何番?」


ビルムは震える声で答えた。


「十五。」


会場静止。

次の瞬間。


「トリやーーー!!」


大爆笑。


「最後やんけ!」

「一番プレッシャーあるとこ!」

「女王陛下の前で締め担当や!」


芸人達が大騒ぎになる。

ビルムは頭を抱えた。


「なんでやねん!!」


司会者も笑いながら頷く。


「うさぎドラゴン、十五番。大会最終組です。」


拍手。歓声。

ミリアは無表情で言った。


「最後なら帰る人がいない。」


「前向きやな。」


「全員が私を見てくれる。」


「そこなんや。」


「雪うさぎとして。」


「やめろ。」


会場がまた笑う。

ミリアは真面目な顔だった。


「大丈夫。」


「何が?」


「もし滑っても。」


「おう。」


「その後に出る人はいない。」


ビルムが数秒固まる。

周囲の芸人達も固まる。

そして。


「それ全然大丈夫ちゃうやろ!!」


会場全体が爆笑した。

司会者は涙を拭きながら言った。


「うさぎドラゴン、相変わらず説明会でも漫才してますね。」


「してへん!」


「してる。」


「お前が言うな!」


三週間後の女王フロスティアも見守る笑芸大会。

うさぎドラゴンは全十五組の最後。

大会のトリを務めることになったのだった。


そして説明会が終わると、参加者達はそれぞれ仲間と話しながら帰っていった。


「じゃあまた大会でな!」

「トリ頑張れよ!」

「女王陛下笑わせろよー!」


好き勝手言われながら。

ビルムはげんなりしていた。


「なんで皆そんな気軽に言うねん……。」


「人気者。」


「絶対違う。」


「雪うさぎ人気。」


「やめろ。」


ダグラスは無言で歩いている。

いつもの無表情。

三人は宿へ戻った。

部屋に戻るとテーブルの上には紙、ペン、飲み物を用意する。

そしてビルムは腕を組んだ。


「よし。」


ミリアを見る。


「ネタ作るで。」


「作る。」


「今から三週間ある。」


「長い。」


「せやけどトリや。」


ビルムは真面目な顔になる。


「ちゃんと考えなあかん。」


「わかった。」


ミリアも頷く。

珍しく協力的だった。

ビルムは少し安心する。


「まず導入や。」


紙に書く。


『どうもー、うさぎドラゴンです』


「こんな感じで始める。」


「わかった。」


「そんで話題やな。」


「うん。」


「最近あった出来事とか。」


「うん。」


「旅の話とか。」


「うん。」


「何かあるか?」


ミリアは少し考えた。

そして。


「昨日。」


「おう。」


「枕が私を見ていた。」


ビルムが止まった。


「何?」


「枕。」


「枕。」


「見ていた。」


沈黙。


「却下。」


「なんで?」


「枕は見ぃひん。」


「でも見ていた。」


「見てへん。」


「たぶん片思い。」


「枕に感情持たせるな。」


ミリアは不満そうだった。

ビルムは額を押さえる。


「もっと普通の話。」


「普通。」


「せや。」


「わかった。」


今度こそ大丈夫だろう。

そう思った。

ミリアは頷いた。


「この前。」


「おう。」


「廊下を歩いていたら。」


「うん。」


「壁と仲良くなった。」


「どういうこと。」


「壁だった。」


「知ってる。」


「でも仲良くなった。」


「説明になってへん。」


「壁は無口だった。」


「当たり前や。」


「だから私も無口だった。」


「会話成立してへんやろ。」


「心で会話した。」


「怖いわ。」


紙は真っ白のままだった。


十分後。


「空を飛ぶ魚がいて。」


「おらん。」


「私に税金を請求した。」


「なんの話や。」


「断った。」


「そら断る。」


「魚は泣いた。」


「泣くな。」


「最後は和解した。」


「知らんがな。」


二十分後。


「靴が四匹いた。」


「増えるな。」


「そのうち二匹が独立した。」


「靴を生き物扱いするな。」


「立派になってほしい。」


「親目線やめろ。」


三十分後。

ビルムは机に突っ伏した。

紙は真っ白で一文字も進んでいない。


「なんやこれ……。」


ミリアは首を傾げる。


「順調。」


「どこがや。」


「いっぱい話した。」


「全部意味不明や。」


「個性的。」


「意味不明や!」


部屋に叫びが響いた。

ミリアは少し考えてから。


「じゃあ雪うさぎの話する?」


「もっとあかん。」


「人気。」


「お前だけや。」


その様子を少し離れた椅子で見ていたダグラスが口を開いた。


「別に。」


二人が振り向く。


「ん?」


「何。」


ダグラスは淡々と言った。


「それでいいのではないか。」


ビルムが固まる。


「何がや。」


「今のだ。」


「今の?」


「お前が必死に話をまとめようとして。」


ミリアを見る。


「こいつが意味不明なことを言う。」


「意味はあるわ。」


「ない。」


ダグラスは続ける。


「だが説明会でもそうだった。」


ビルムは少し考える。

確かに。


雪うさぎ。

保護者。

滑った後に出る人がいない。


全部その場の会話だった。


「お前達は作った漫才より。」


ダグラスは言う。


「普通に喋っている時の方が面白い。」


沈黙。

ビルムが瞬きをする。


「……。」


ミリアも頷いた。


「知ってた。」


「知ってたんかい。」


「だから頑張ってた。」


「何を。」


「意味不明を。」


「頑張るな。」


ダグラスが珍しく少しだけ笑った。


「大会も同じだろう。」


「同じ?」


「お前が振り回され。」


「うん。」


「ミリアが好き勝手言う。」


「うん。」


「そしてお前が叫ぶ。」


「うん。」


「それで客は笑う。」


ビルムは黙った。

思い返すと街でも説明会でも道中でも、確かにそうだった。

ミリアが変なことを言う。自分が突っ込む。周りが笑う。

その繰り返し。


「……。」


しばらく考えた後。

ビルムはペンを持って紙に書く。


『基本方針 ミリアを止めない』


「大丈夫?」


ミリアが聞く。


「大丈夫ちゃう。」


「じゃあ消す?」


「消さん。」


「大丈夫じゃないのに?」


「もうなるようになれや!」


ミリアが頷く。


「わかった。」


「おう。」


「じゃあ本番はもっと頑張る。」


ビルムの動きが止まった。


「何を。」


「意味不明。」


「やめて。」


ダグラスが軽く吹き出した。

死神が笑った。

それだけで二人とも少し驚いた。


「お前笑うんやな。」


ビルムが言う。


「たまには。」


「珍しい。」


「そうか。」


相変わらず無表情だった。

ビルムが椅子にもたれかかった。


「まあええ。」


ペンを回す。


「とりあえず試しにやってみるか。」


ミリアが頷く。


「漫才。」


「そう。」


「練習。」


「せっかくやしな。」


ビルムが立ち上がる。

部屋の端へ移動。


「俺が客役も兼ねる。」


「器用。」


「兼ねてへんけどな。」


ミリアも立ち上がった。

ダグラスは椅子で見学。


「始めるぞ。」


「うん。」


ビルムが咳払いした。


「どうもー。」


「うさぎドラゴンです。」


「よろしくお願いします。」


ミリアも頭を下げる。

ここまでは普通だった。

ビルムは安心した。


「最近な。」


「うん。」


「大会の話題ばっかりやけど。」


「そう。」


「他にも何か面白い話ないんか?」


ミリアは少し考えた。

そして。


「クリアフォルの話。」


ビルムが頷く。


「おう。」


クリアフォルには何日も滞在していた。

話題としては自然だ。


「ええやん。」


「この前。」


「うん。」


「クリアフォルを歩いていた。」


「うん。」


「雪が降っていた。」


「せやな。」


「綺麗だった。」


「おう。」


普通だった。あまりにも普通だった。

ビルムが少し警戒する。

ミリアは続けた。


「そこで私は考えた。」


「何を。」


「クリアフォルはどこまでがクリアフォルなんだろう。」


「急に哲学始まった。」


「街の入口?」


「まあ。」


「城壁?」


「まあ。」


「女王?」


「女王は場所ちゃうやろ。」


「でも女王が歩けばクリアフォルも移動するかもしれない。」


「移動せぇへん。」


「本当に?」


「せぇへん。」


ミリアは腕を組む。


「じゃあフロスティアが隣の国に行ったら。」


「うん。」


「その場所はクリアフォルになる?」


「ならへん。」


「でも女王がいる。」


「ならへん。」


「でも女王。」


「押すな。」


ダグラスが少し肩を震わせた。

ミリアは続ける。


「つまり。」


「うん。」


「クリアフォルとは何か。」


「知らん。」


「土地なのか。」


「うん。」


「人なのか。」


「うん。」


「概念なのか。」


「急に重い。」


「雪なのか。」


「範囲広がったな。」


「あるいは。」


ミリアは真顔で言った。


「フロスティアそのものがクリアフォル。」


ビルムが固まる。


「女王陛下を国扱いするな。」


「国王だから。」


「国王ちゃう。女王や。」


「女王だから。」


「そこやない。」


ミリアは真剣だった。


「もしそうなら。」


「何。」


「クリアフォルに入国するには。」


「うん。」


「フロスティアに許可をもらう必要がある。」


「違う。」


「大変。」


「大変やろな!」


「毎日何万人も。」


「絶対無理や。」


「おはようございます。」


「言わん。」


「入国します。」


「言わん。」


「失礼します。」


「どこに入る気や!」


ダグラスが吹き出した。

完全に笑っている。

ビルムが指差した。


「見ろ!」


「?」


「ダグラス笑っとる!」


ミリアが振り向く。

ダグラスは咳払いした。


「続けろ。」


「誤魔化した。」


「続けろ。」


ミリアは頷いた。


「あと。」


「まだあるんか。」


「クリアフォルには雪うさぎがいる。」


「またそれか。」


「人気。」


「お前だけや。」


「だから私は考えた。」


「嫌な予感する。」


「もし雪うさぎが増えたら。」


「うん。」


「クリアフォルの人口統計に載るのか。」


「役所が困るわ!」


「種族欄。」


「うん。」


「雪うさぎ。」


「載らん。」


「残念。」


「なんで残念そうやねん。」


「夢がある。」


「どこにや。」


「住民票。」


「夢小さっ!」


部屋に笑い声が響く。

ミリアは満足そうだった。

ビルムはツッコミ疲れで椅子に座り込む。


「はぁ……。」


「どうだった?」


「どうだったやろな……。」


ダグラスが静かに言った。


「面白かった。」


「え。」


「少なくとも。」


ダグラスは少し考えて。


「枕に片思いされる話よりは。」


「比較対象が終わってる。」


ミリアは頷いた。


「じゃあ次はクリアフォルの税制度について話す。」


ビルムの顔色が変わる。


「なんでや。」


「たぶん深い。」


「絶対深くない。」


「女王が雪に税金をかけたら。」


「かけへん。」


「雪だるまは納税義務があるのか。」


「ない。」


「でも住民。」


「ちゃう。」


「でも雪うさぎは。」


「やめろ。」


ミリアは真顔だった。

ビルムは天井を見上げた。

三週間後。

女王フロスティア本人が見ている前で本当にこれをやるのかもしれない。そんな嫌な予感がした。

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