↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/171

52.女王、期待する

氷雪都市クリアフォルの中心。

巨大な氷城の最上階。

氷の女王フロスティアは玉座に座っていた。

白銀の長髪。氷のように透き通る肌。冷気すら従わせる絶対的な威圧感。

誰が見ても思う。

怖い。冷たい。近寄りがたい。

そんな女王だった。


そして今。

玉座の正面には巨大な魔導映像装置。

クリアフォル笑芸放送局特別番組。


『新人発掘!路上笑芸スペシャル』


が映っていた。

フロスティアは頬杖をつきながら冷たい目で画面を見ている。

周囲の側近達もいる。誰一人喋らない。


静寂。


画面ではちょうどビルムが叫んでいた。


『誰が雪うさぎやねん!』


観客大爆笑。拍手喝采。会場が揺れる。

しかしフロスティアの表情は一切変わらない。

冷たい、恐ろしいほど冷たい。

側近達は緊張していた。


(女王陛下は不機嫌なのだろうか。)

(この番組は打ち切りかもしれん。)

(また笑芸局長が泣くぞ……。)


そんな事を考えている。

だが実際は違った。

フロスティアの脳内。


(ふっ……。今の返し上手いわね。雪うさぎからの雪うさぎ返し。しかも最後に本人が否定して落とす。綺麗。すごく綺麗。)


必死だった。

笑いを堪えるのに。

そして口元が僅かに動き側近達が凍り付く。


(まずい。)

(怒る前兆だ。)

(誰か謝罪の準備を!)


しかし違う。

フロスティアは必死に戦っていた。

もちろん自分自身と。


(駄目よフロスティア。女王が笑っては威厳がなくなる。冷たく。もっと冷たく。氷の女王らしく。)


画面。


『この街がおかしいから。』


『その通り。』


『間違いない。』


『説得力ある。』


『もう嫌やこの街。』


観客大爆笑。

その瞬間フロスティアの肩がぴくりと震えた。

側近達。


(怒った!?)

(何がまずかった!?)

(街がおかしい発言か!?)


全員青ざめる。

だが実際は。


(だめ、今のはだめ。面白い。反則。)


フロスティアは必死に耐えていた。

机の下では拳を握り締めてぷるぷる震えている。

完全に笑いを堪えていた。

その時、側近の一人が恐る恐る聞く。


「陛下。」


「何かしら。」


冷たい声。

完璧だった。


「番組はいかがでしょうか。」


沈黙。


フロスティアは画面を見つめたまま言う。


「……普通ね。」


側近達は安堵した。


普通。


つまり問題ない。

良かった。

しかしフロスティアの心の中。


(録画しておいてほしい。あと十回見たい。いえ、むしろ保存版。)


完全にファンだった。

さらに別の側近が言う。


「一ヶ月後の大笑芸大会にも出場するそうです。」


ぴく。


フロスティアの眉が僅かに動く。

側近達。


(興味を持たれた!?)

(これは重要案件だ!)


フロスティアは静かに尋ねた。


「そう。」


「はい。」


「出場者名は。」


「うさぎドラゴンだそうです。」


数秒の沈黙。


そして。


「……変な名前ね。」


「そうですね。」


側近達が頷く。

だがフロスティアの脳内。


(最高じゃない。何その名前。見たい。絶対見たい!最前列で見たい!)


必死だった。

本当に必死だった。

しばらくしてフロスティアは何事もないように言う。


「大会当日の予定は。」


側近が書類を見る。


「特にございません。」


「そう。」


冷静。

完璧に冷静。


そして。


「視察に行くわ。」


側近達が固まった。


「し、視察ですか?」


「ええ。」


「笑芸大会を?」


「市民文化の調査よ。」


真顔、氷のような真顔。

誰も反論できない。

だが全員思った。


(絶対見たいだけだ。)


その頃、遠く街中では。


「なんか寒気した。」


ビルムが首を擦った。

ミリアが言う。


「雪うさぎレーダー?」


「そんなもんあるか。」


ダグラスは空を見上げる。


「いや。」


「ん?」


「何かに目を付けられた気がする。」


三人は知らなかった。

クリアフォル最強の氷の女王フロスティアが、すでにうさぎドラゴンの大ファンになりかけていることを。

ビルムが呟く。


「なんやファンができた気がする。」


ダグラスは即答した。


「気のせいだ。」


「せやな。」


ミリアも頷く。


「気のせい。」


三人とも全く信じなかった。


その頃、氷城最上階ではフロスティアは静かに立ち上がった。


「視察の準備を。」


「はっ!」


側近達が慌ただしく動く。

フロスティアは窓の外の雪景色を眺める。


(うさぎドラゴン……。)


脳内再生。


『誰が雪うさぎやねん!』


(ふふっ。)


危なかった。

あと少しで笑うところだった。

側近達はその横顔を見て緊張する。


(何か重大な国家案件だ。)

(間違いない。)

(最近の魔王領情勢かもしれん。)


実際は。


(どんな新ネタを用意するのかしら。)


完全にお笑い大会の事だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一方その頃、クリアフォル笑芸大会運営本部では、プロデューサーが机を叩いて叫んでいた。


「速報です!!」


スタッフ達が振り向く。


「うさぎドラゴン参戦決定!!」


歓声。拍手。誰かがクラッカーを鳴らした。


「やったー!!」

「視聴率だぁ!!」

「今年は勝った!!」


大会責任者が涙ぐむ。


「長年この仕事をしてきたが……ついに本物を呼べた……。」


「何が本物なんですか。」


「知らん。」


知らなかった。

だが全員テンションは高い。

そこへ一人の職員が駆け込んできた。


「大変です!」


「何だ!」


「女王陛下が大会を視察されるそうです!」


全員。


「「「え?」」」


沈黙。

そして数秒後。

大パニックになった。


「何で!?」

「視察!?」

「笑芸大会を!?」

「俺ら何かやらかした!?」

「税金!?」

「違法なボケでもあった!?」


責任者が青ざめる。


「まずい。」


「何がです!?」


「もし大会がつまらなかったら。」


全員がごくりと唾を飲む。

責任者が震える声で言う。


「女王陛下の前で滑ることになる。」


会議室の空気が凍った。

比喩ではない。

本当に温度が下がった気がした。


「嫌だぁぁぁ!!」


スタッフ達が頭を抱える。

クリアフォル最強の存在。

氷の女王フロスティア。

彼女の前で滑る。

それは死刑より恐ろしいと一部芸人達の間では言われていた。

本人はそんな事一言も言っていないのに。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


数日後。


大会参加者説明会。

会場には数十組の芸人達が集まっていた。

そこへ。


ガチャ。


扉が開く。


ビルム、ミリア、ダグラスが入った瞬間、全員が振り向いた。


「来た。」

「本物だ。」

「雪うさぎだ。」

「ドラゴンだ。」


ミリアが首を傾げる。


「?」


ビルムはもう諦めた顔だった。


「もうええわ……。」


その時、司会者がマイクを持つ。


「皆様に重大発表があります!」


会場が静まる。

司会者は緊張した顔で言った。


「今年の大会ですが――」


ごくり。


「女王陛下がご観覧されます。」


会場は大絶叫。


「えええええええええ!!?」


芸人達が崩れ落ちた。


「終わった!!」

「緊張で死ぬ!!」

「ネタ飛ぶ!!」


ビルムも目を丸くする。


「女王来るんか。」


ミリアは頷く。


「クリアフォルの女王。」


ダグラスが腕を組む。


「確かかなり有名だったな。」


その瞬間、近くの芸人が震えながら言った。


「笑うところを見た者はいないらしい……。」


別の芸人。


「氷より冷たい目で見られるらしい……。」


さらに別の芸人。


「去年の歌大会で失敗した歌手が三日寝込んだらしい……。」


完全に都市伝説になっていた。


ビルム。


「怖っ。」


ミリア。


「氷漬けね。」


ダグラス。


「盛ってるだろ。」


その頃。


氷城ではフロスティアは秘書から報告を受けていた。


「陛下。芸人達の間で陛下が恐れられております。」


「そう。」


「笑わない女王だと。」


フロスティアは少し考えた。

そして。


「別に笑うわよ。」


秘書は固まった。

初めて聞いた。女王本人の口からそんな言葉。

フロスティアは窓の外を見ながら呟く。


「面白ければ。」


脳内。


『誰が雪うさぎやねん!』


(あれは面白かった。)


秘書は知らない。

この国で一番大会を楽しみにしているのが。

たぶん女王本人であることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。