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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

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50.氷雪都市、楽しむ

死神ダグラス、ラミアのミリア、ドラゴニュートのビルムの三人が乗っている馬車は北へ進み続けた。

途中小さな宿場町で一泊をした翌日、旅人達は最初に窓の外を見て固まった。


「雪だ。」


誰かが呟く。

窓の外。街道の脇。森。山肌。

全てが白かった。

昨夜のうちに雪が降ったらしい。

旅人達は再び馬車に乗り込み北を目指す。


「おお……。」


ビルムが窓に張り付く。


「ほんまに雪国や。」


「まだ入口だ。」


ダグラスは静かに言った。

御者も頷く。


「昼には見えるぞ。」


「何が?」


「クリアフォルだ。」


その一言で馬車内が少しざわついた。

北方最大の都市。


氷雪都市クリアフォル。


魔族領に存在する巨大都市。

雪と氷の都。

多くの商人や冒険者が一度は訪れる場所だった。

ミリアは少し身を乗り出す。


「楽しみね。」


「お前は観光気分やな。」


「だって初めてだもの。」


「俺も初めてやけど。」


ダグラスがビルムを見る。


「お前は食べ物のことしか考えてないだろ。」


「失礼な。」


ビルムは胸を張った。


「名物料理も文化の一つや。」


「まあそれはそうだな。」


珍しくダグラスも否定しなかった。


そして昼前。

御者が前方を指差した。


「見えたぞ。」


全員が窓へ集まる。

そして。


「おお……。」


誰からともなく声が漏れた。

白銀の世界の先。

巨大な城壁が見えていた。

雪に覆われた石壁。青白く輝く塔。無数の煙突から立ち上る煙。

そして街の中央。空へ突き刺さるような巨大な氷の塔が陽光を受けて輝いている。

まるで宝石だった。


「綺麗……。」


ミリアが思わず呟く。

ビルムも珍しく黙る。


「想像より凄いな。」


ダグラスは目を細めた。

確かに美しい。

だが、どこか異様だった。

都市全体から感じる圧力。静かな威圧感。

何百年も雪と共に生きてきた歴史の重み。

それが遠目からでも伝わってくる。

馬車はゆっくり進み、やがて城門前へ到着した。

門は巨大だった。

その前には重装備の兵士達。

黒と白を基調とした防寒鎧。頭部には獣の毛皮。手には長槍。

旅人達が列を作る。

入国審査らしい。


「結構厳しそうやな。」


ビルムが小声で言う。


「国境に近いからな。」


ダグラスも周囲を観察していた。

魔族領の北方。しかも大都市。

警備が厳しいのは当然だった。

しばらくして三人の番が来る。

兵士は書類を確認した。


「名前。」


「ダグラス。」


「ビルム。」


「ミリア。」


兵士は頷く。

そしてミリアを見た。

数秒。

さらに見た。

もう数秒。

ミリアが首を傾げる。


「?」


兵士が真顔で言った。


「雪うさぎ。」


沈黙。


「……は?」


ビルムが固まる。

周囲の兵士達も見ている。一人が頷いた。


「雪うさぎだな。」


「間違いない。」


「今年一番の雪うさぎかもしれん。」


「完成度が高い。」


「帽子が良い。」


ミリアが輝いた。


「分かる?」


「分かる。」


兵士達は真顔だった。

ビルムは頭を抱えた。


「なんでやねん!」


ダグラスは空を見上げた。

もう止める気はなかった。

ミリアは満面の笑みになる。


「やっぱり雪うさぎよね。」


「認定する。」


兵士が真面目な顔で頷いた。


「認定すな!」


門前に笑い声が広がる。

しかし次の瞬間、門がゆっくりと開いた。

重厚な音。雪煙。冷たい風。

その向こうに氷雪都市クリアフォルが姿を現した。

白銀の街。氷の灯り。雪に包まれた大通り。

行き交う獣人や魔族達。そして空高くそびえる氷の塔。

三人は自然と息を呑んだ。


クリアフォルの街へ足を踏み入れた瞬間。


「……なんやこれ。」


ビルムが呆然と呟いた。

想像していた雪国とは全く違った。

まず目に入ったのは雪像だった。

街角。

広場。

店の前。

至る所に雪像が置かれている。

巨大なドラゴン。勇者と魔王の像。可愛らしい動物。

そしてなぜか鍋。


「なんで鍋やねん。」


「知らん。」


ダグラスも分からなかった。

近くを歩いていた獣人の老人が聞こえたらしい。


「今年の鍋雪像大会の優勝作品じゃ。」


「大会あるん!?」


「あるぞ。」


当たり前のように言われた。

さらに進むと今度は広場が見えた。

大勢の人が集まっている。

歓声。拍手。笑い声。

中央には簡易舞台。

その上で二人組の芸人が漫才らしきものをやっていた。


「だから言っただろ!」


「言ってない!」


「言った!」


「いつだよ!」


「昨日!」


「昨日会ってないだろ!」


「じゃあ一昨日!」


「もっと会ってないわ!」


観客が大爆笑した。


「おおー。」


ミリアが目を輝かせる。


「路上ライブ?」


「みたいやな。」


芸人はさらに続ける。


「雪だるま作ったんだよ。」


「うん。」


「朝起きたら増えてた。」


「怖いよ!」


「しかも家賃払えって言ってきた。」


「もっと怖い!」


再び大爆笑。

観客の中には腹を抱えている者までいる。

ビルムが感心した。


「人気なんやな。」


すると近くの露店の店主が話しかけてきた。


「今やってるのは結構有名だぞ。」


「へえ。」


「冬祭り近いから芸人が集まってるんだ。」


「芸人が?」


「クリアフォル名物だ。」


三人は顔を見合わせた。

雪国。氷の都。厳格な北方都市。

そんなイメージだった。

実際は雪像だらけ、路上芸人だらけ、笑い声だらけ。

予想と違いすぎた。

その時だった。

別の場所から歓声が上がる。

振り返ると今度は一人の芸人が雪だるまの格好で舞台に立っていた。


「皆さんこんにちはー!」


観客が手を振る。


「今日は雪だるまと雪うさぎの違いについて解説します!」


ミリアが反応した。


「雪うさぎ!」


嫌な予感しかしない。

芸人は続けた。


「雪うさぎとは!」


勢いよく指差した。


「白くて可愛くて冬にいる生き物です!」


「おおー!」


観客が頷く。

その瞬間、芸人の視線がミリアに止まった。

沈黙。芸人が固まる。観客もつられて見る。

ミリアも首を傾げる。


「?」


芸人が震える声で言った。


「本物だ。」


観客がざわついた。


「本物や。」

「本物だな。」

「雪うさぎだ。」

「雪うさぎじゃん。」


連鎖して一気に広がる。

ミリアが嬉しそうに笑う。


「また言われた。」


「喜ぶな。」


ダグラスが即座に突っ込む。

しかし遅かった。芸人が叫ぶ。


「皆さん拍手!」


なぜか大拍手が起きた。


「クリアフォル名誉雪うさぎのご来場です!」


拍手喝采。

歓声。

口笛。

ミリアは照れながら手を振った。


「どうもー。」


「どうもやない!」


ビルムのツッコミが響く。

周囲はさらに笑った。

そして三人は理解した。

クリアフォルはただの雪国ではない。

寒く厳しい。そして歴史も深い。

だが同時に、とんでもなく陽気な街だった。

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