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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
人間領司法国家、サイヴァーン

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45.裁判長、別人になる

三十分後。

城の正門前。

ガエン達は固まっていた。

理由は単純だった。

目の前にいる人物が誰だか分からなかったからだ。


「・・・・・・。」


全員沈黙。

そこにいたのは。

白いシャツ。黒いベスト。動きやすそうなズボン。

長い髪を後ろで軽く束ねた女性。国王の威厳など欠片もない、休日のお姉さんだった。

マイトが指差す。


「誰?」


女性が首を傾げる。


「私だけど。」


「だから誰?」


「リターシャだってば。」


全員が固まった。

ガエンが二度見した。

ナラも二度見した。

ラーシャは三度見した。

騎士団長は遠い目をした。慣れているらしい。

リターシャが不思議そうに首を傾げる。


「どうしたの?」


「いや。」


ガエンが言う。


「誰だお前。」


「だからリターシャだってば。」


「国王はどこ行った。」


「ここにいるけど。」


マイトが爆笑した。


「全然違うじゃん!」


「城の外だからね。」


リターシャは平然としていた。


「公務じゃないし。」


「だからって変わりすぎだろ。」


「むしろあれが公務用。」


さらに衝撃だった。

リターシャは肩を竦める。


「ずっとあの話し方だと疲れるし。」


「え。」


「疲れるよ?」


国王が言った。

全員が沈黙した。

国王が疲れると言った。

しかも当たり前のように。


「え?疲れるよ?」


リターシャは不思議そうだった。


「一日中あの喋り方してたら喉が死ぬ。」


「国王が言う台詞かそれ。」


ガエンが呆れる。


「国王も人間だからね。」


「司法国家の威厳は。」


「城の中に置いてきた。」


さらっと言った。

マイトが腹を抱えて笑う。


「面白いなあんた!」


「ありがとう。」


「褒めてない。」


「知ってる。」


返しまで軽かった。

騎士団長が遠い目をしている。


「あれが本来の陛下です。」


「止めないのか。」


ガエンが聞く。


「昔は止めました。」


「今は。」


「諦めました。」


全員が納得した。


こうして始まったサイヴァーン市街観光。

城下町は驚くほど整備されていた。

道は綺麗。

建物も統一感がある。

露店も多いが騒がしくない。

ナラが周囲を見回す。


「犯罪が少ないのかな。」


「少ないよ。」


リターシャが答える。


「犯罪者はどうなるんだ?」


マイトが聞く。


「捕まる。」


「知ってる。」


「裁かれる。」


「知ってる。」


「有罪になる。」


「知ってる。」


「牢屋に入る。」


「だから知ってるって。」


リターシャは少し考えた。


「あと私が怒る。」


「最後が一番怖い。」


ガエンが即答した。


しばらく歩く。

すると大きな広場に出た。

噴水があり、人々が談笑している。

そして広場の中央に巨大な銅像が立っていた。

マイトが固まる。


「・・・・・・。」


嫌な予感がした。

ガエン達も見た。

見てしまった。

銅像の勇者マイト。

しかも以前見た物より大きい。

二十メートル近い。


「増えてる!!」


マイトが叫んだ。

リターシャが頷く。


「増築した。」


「増築って言うな!」


「人気だったから。」


「やめろ!」


台座には文字。


『世界平和に貢献した偉大なる勇者』


その下に。


『スポンサー募集中』


「なんでだよ!」


全員が吹き出した。

リターシャは真顔だった。


「広告スペース。」


「勇者像で商売するな!」


「維持費がかかる。」


「知らん!」


国民達が楽しそうに写真を撮っている。

マイトは頭を抱えた。


さらに歩く。

今度は商業区だった。

武器屋。服屋。雑貨屋。本屋。

そしてゲームショップ。

マイトの動きが止まった。


「・・・・・・。」


目が輝く。子供だった。


「おい。」


ガエンが声を掛ける。

返事がない。

マイトはショーウィンドウに張り付いていた。


「新作出てる。」


「聞け。」


「限定版だ。」


「聞け。」


「予約特典付きだ。」


「聞け。」


完全に駄目だった。

リターシャが横から覗く。


「あ、それ面白いよ。」


マイトが振り返る。


「やったの!?」


「徹夜した。」


「国王が!?」


「休日だったし。」


「自由だなこの国王!」


二人はそのままゲーム談義を始めた。

ガエン達は遠い目をした。

ナラがぽつりと呟く。


「意外と気が合うんだね。」


「どっちも変人だからな。」


ガエンが言った。

すると。


「いやいや。」


リターシャが即座に否定した。


「私は変人じゃない。」


「徹夜でゲームやる国王が何言ってる。」


マイトが真顔で突っ込む。


「休日だから。」


「免罪符みたいに使うな。」


「だって休日だし。」


「強いなその理論。」


リターシャは腕を組んだ。


「ちなみに何やってるの?」


「色々。」


マイトも食いつく。


「RPGは?」


「好き。」


「アクションは?」


「好き。」


「シミュレーションは?」


「好き。」


「何でもやるじゃん。」


「何でもやるよ。」


リターシャは即答だった。

そして。


「特にバハムートクエストシリーズが好き。」


マイトが反応した。


「おおっ!」


一瞬で距離が縮まった。


「Ⅱやった?」


「裏ダンジョンまで。」


「マジで!?」


「黒竜皇も倒した。」


「マジかよ!」


完全に意気投合していた。

ガエン達は置いていかれていた。

ナラが呟く。


「楽しそうだね。」


「楽しそうだな。」


ラーシャも頷く。

その時だった、リターシャが何気なく言う。


「Ⅲも面白かったよね。」


マイトの動きが止まった。

ぴたりと。

空気が変わる。

ガエンが嫌な予感を覚えた。

リターシャは気付いていない。


「私、あれ三周した。」


「・・・・・・。」


「勇者ルートも魔王ルートも隠しルートも。」


「・・・・・・。」


「レベル九十九まで上げたし。」


「・・・・・・。」


マイトが黙っていた。

リターシャが首を傾げる。


「どうしたの?」


マイトが遠くを見る。とても遠くを。

魂がどこかへ旅立ったような目だった。


「俺。」


「うん。」


「レベル六十二だったんだ。」


リターシャの表情が少し変わった。

何かを察した。


「まさか。」


「バハムートクエストⅢ。」


「うん。」


「レベル六十二。」


「うん。」


「天空神殿クリア直前。」


「うん。」


「伝説装備全部回収済み。」


「うん。」


「百時間以上。」


「うん。」


リターシャが静かに目を閉じた。

嫌な予感しかしない。

マイトが語り始める。


「俺がな。」


「うん。」


「魔王のおつかいでドラゴンの谷に行ってた時だ。」


ガエン達も聞いたことがある話だった。

あの悲劇。マイトの黒歴史。


「その頃、静寂の城は改装工事してた。」


「うん。」


「俺は知らなかった。」


「うん。」


「帰ってきた。」


「うん。」


「ゲームしようと思った。」


「うん。」


「電源入れた。」


「うん。」


マイトが空を見上げた。


「データが消えてた。」


沈黙。リターシャが顔を覆った。


「ああ……。」


理解した。

これは重傷だった。

マイトは淡々と続ける。


「工事中に停電。」


「うん……。」


「セーブデータ破損。」


「うん……。」


「全部消えた。」


「うん……。」


「全部。」


「うん……。」


「全部だ。」


「分かったから。」


リターシャが肩を叩いた。

優しかった。とても優しかった。


「辛かったね。」


「泣いた。」


「うん。」


「本気で泣いた。」


「うん。」


「しばらく立ち直れなかった。」


「うん。」


ガエンが横で頷く。

事実だった。


「俺のレベル六十二が。」


「うん。」


「俺の数十時間が。」


「うん。」


「俺の伝説装備が。」


「うん。」


「大事だったんだぞ。」


「そうだね。」


少しだけ目が潤んでいた。

経験者だった。

リターシャも理解していた。

セーブデータ消失の恐怖を。


「ちなみに。」


リターシャが恐る恐る聞く。


「バックアップは?」


「なかった。」


「予備セーブは?」


「一個だった。」


リターシャが天を仰いだ。


「フルコンボだね。」


「フルコンボだどん。」


二人は深く頷き合った。

ゲーム好きにしか分からない悲しみだった。

その時。後ろから騎士団長がぽつりと言った。


「ちなみに陛下。」


「ん?」


「陛下も昔、バハムートクエストⅢのデータが消えた時に三日ほど執務を拒否しました。」


全員が固まった。

リターシャも固まった。


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「騎士団長。」


「はい。」


「それは言わなくて良かった。」


「事実です。」


マイトが爆笑した。


「お前もじゃねえか!!」


「違う!」


「同類じゃねえか!」


「違う!」


「何レベルだった!」


「八十七!」


「俺より酷い!!」


広場中に笑い声が響いた。

その後、リターシャがふと時計を見た。


「もう夕方か。」


空は茜色に染まり始めていた。

街を行き交う人々も帰路につき始めている。

リターシャは立ち上がった。


「よし。」


「ん?」


「夕飯にしよう。」


マイトが首を傾げる。


「城じゃなくて?」


「たまには外で食べたい。」


「国王が?」


「国王だって外食する。」


即答だった。

騎士団長が慣れた様子で頷く。


「陛下の行きつけですね。」


「うん。」


ガエンが眉をひそめた。


「行きつけなんてあるのか。」


「ある。」


「国王なのに?」


「国王だから。」


意味が分からなかった。

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