44.司法国家、つまらないと言われる
司法国家サイヴァーンでのスポンサー交渉は驚くほど順調に進んだ。
何故かリターシャ国王は運動会に乗り気で次々と契約が進む。
そしてガエンが遠い目をしている間にも話は進んでいた。
「スポンサー契約書は後日作成します。」
リターシャが言う。
「競技案も送付します。」
「四百八十七ページ全部か。」
「もちろんです。」
「やめろ。」
即答だった。
だがリターシャは気にしない。
「さて。」
全員を見る。
「せっかく来たのです。」
嫌な予感がした。
ガエンが眉をひそめる。
「何だ。」
「城を案内します。」
「何で。」
「スポンサー同士の親睦です。」
「そんな制度あったか?」
「今作りました。」
恐ろしい国王だった。
騎士団長ですら止めない。
止められない。
こうして何故かガエン達は司法国家サイヴァーン観光ツアーに参加する事になった。
◇
まず案内されたのは王城の中だった。
巨大だった。
無駄な装飾は少ない。
豪華というより機能美。
廊下も広く警備も厳重。
マイトが辺りを見回す。
「なんか真面目な城だな。」
「真面目です。」
リターシャが即答した。
「酒場とかないの?」
「ありません。」
「遊技場は?」
「ありません。」
「ゲーム部屋は?」
「ありません。」
「つまんな。」
騎士達の眉がピクッと動いた。
だがリターシャは平然としていた。
「代わりに書庫があります。」
「つまんな。」
即答だった。
ゼルなら喜びそうだった。
次に案内されたのは裁判所。
巨大だった。
ガエンが呆れる。
「裁判所がデカすぎるだろ。」
「司法国家ですので。」
正論だった。
中では実際に裁判が行われていた。
静で厳粛だった。
マイトも流石に黙る。
裁判官達が書類を確認し、証人が証言し、弁護人が主張する。
全てが規律正しい。
ナラが感心する。
「徹底してるね。」
「法律は国の骨格です。」
リターシャはそう言った。
少しだけ、本当に少しだけ誇らしそうだった。
その後。
一行は城の地下へ向かっていた。
マイトが首を傾げる。
「今度はどこだ?」
「牢獄です。」
全員が納得した。
牢獄は驚くほど清潔だった。
鉄格子。石壁。警備兵。全て整っている。
そして奥の牢。そこにゼルはいた。
床に座り。本を読んでいた。いつも通り、まるで自宅。
看守が頭を抱えている。
ゼルが顔を上げた。
「おや。」
平然としている。
「見学ですか。」
「違う。」
ガエンが即答した。
「様子を見に来た。」
「なるほど。」
ゼルは本を閉じる。
「快適ですよ。」
看守が叫んだ。
「快適じゃありません!」
全員が看守を見る。
看守は涙目だった。
「こいつ入ってからずっと法律書を読んでいるんです!」
「暇だったので。」
「しかも誤字を百二十七箇所指摘してきました!」
「仕事を手伝っただけですが。」
「手伝うな!」
看守の胃が限界だった。
リターシャが少し興味深そうに聞く。
「百二十七箇所ですか。」
「百三十一箇所です。」
ゼルが訂正した。
「追加で四箇所見つけました。」
文官長が青ざめた。
「後で報告書を。」
「提出済みです。」
「早い。」
誰よりも早かった。
マイトが牢の前にしゃがみ込む。
「元気そうだね。」
「牢獄ですから。」
「答えになってない気がする。」
ゼルは少し考える。
そして言った。
「本があるので。」
全員が納得した。
こいつ本さえあれば生きていける。
ガエンが腕を組む。
「暴れてないだろうな。」
「失礼ですね。」
ゼルが言う。
「勇者がいるのに暴れる馬鹿はいません。」
「自分で言うな。」
「事実です。」
ゼルは平然としていた。
全員が納得した。
その時だった。
リターシャがふと口を開く。
「そういえば。」
ゼルを見る。
「以前、我が国の中央図書館に来ていましたね。」
ゼルが珍しく少しだけ目を細めた。
「ああ。」
看守が驚く。
「知り合いだったんですか?」
「顔だけは。」
リターシャが答える。
「十年ほど前です。」
ゼルが本を閉じる。
「研究資料を探していました。」
「覚えています。」
リターシャは頷いた。
「当時から変人でした。」
「光栄です。」
「褒めていません。」
即答だった。
マイトが興味津々で聞く。
「何やってたの?」
「古代魔術文明の文献調査です。」
「へぇ。」
「三ヶ月ほど滞在しました。」
ナラが驚く。
「三ヶ月?」
「図書館に。」
「宿じゃなくて?」
「図書館に。」
全員が納得した。
ゼルならやる。
リターシャが続ける。
「閉館時間になっても帰らないので司書達が困っていました。」
「まだ読んでいる途中でした。」
「夜中に勝手に論文を書いて置いていきました。」
「参考になったでしょう。」
「参考になりました。」
認めた。
認めるんだ。
「現在も保管されています。」
「そうですか。」
ゼルは少しだけ嬉しそうだった。本当に少しだけ。
ガエンが呆れる。
「牢屋で昔話するな。」
「では研究の話を。」
「するな。」
即座に止めた。
しばらくして。
一行は牢獄を後にした。
出口へ向かう途中リターシャが振り返る。
「では次です。」
ガエンが嫌な予感を覚える。
「まだあるのか。」
「街を案内します。」
「まだやるのか。」
「もちろんです。」
目が輝いていた。
なぜか楽しそうだった。




