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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
人間領司法国家、サイヴァーン

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42.勇者、銅像を見る

笑いと混乱に包まれながらも、なんとか入国審査は終了した。

巨大な門がゆっくりと開く。


「通ってよし。」


審査官が疲れ切った顔で言う。


「やった。」


マイトが元気よく両手を上げた。


「やっと入れる!」


「あなたのせいで三倍は時間がかかりました。」


ゼルが言う。


「なんで!?」


「自覚がないのが恐ろしいですね。」


衛兵長が遠くを見た。


「もう行ってくれ・・・。」


心からの願いだった。

こうして一行は司法国家サイヴァーンへと足を踏み入れた。


サイヴァーンの街並みは壮観だった。

白い石畳、整然と並ぶ建物。

街の至る所に衛兵の詰所があり、犯罪抑止のための魔道具まで設置されている。

いかにも司法国家らしい光景だった。


「綺麗な街だね。」


ナラが感心する。


「治安の良さは大陸でも有数です。」


ゼルが答えた。


「犯罪者には地獄ですが。」


「お前が言うと説得力があるな。」


ガエンが呟く。


しばらく歩く。

すると中央広場へと出た。

噴水。花壇。広い石造りの広場。

そしてその中央には巨大な銅像が建っていた。

全員の足が止まる。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


そこに立っていたのは。

剣を掲げる勇者マイトの銅像だった。

しかも無駄に大きい。

十メートルはある。

台座には大きく文字が刻まれていた。


『平和の象徴 勇者マイト』


沈黙。

ナラが銅像を見る。

マイトを見る。

また銅像を見る。


「似てる。」


「本人だからな。」


ガエンが言った。

ラーシャも見上げる。


「思ったより大きいですね。」


「大きすぎます。」


ゼルが即答した。

当の本人は唖然としていた。


「いやいやいや。」


全員を見る。


「なんであるの!?」


「知らん。」


ガエンが答えた。


「俺に聞くな。」


マイトは銅像を指差した。


「しかもポーズが変だ!」


銅像はやたら格好つけていた。

風も吹いていないのにマントがなびいている。

目線は遥か彼方。

剣は天高く掲げられている。


「こんなポーズした事ないよ!?」


「だろうな。」


ナラも頷く。


「マイトはもっとこう。」


ナラが再現する。


「腹が減ったー。」


だらん。


「飯まだー。」


だらん。


「面白そうだから行こう。」


だらん。


「そんな感じだよね。」


「なんかひどくない!?」


「事実じゃん。」


全員が頷いた。

マイトがショックを受ける。


「えぇ・・・。」


その時だった。

近くを歩いていた子供達が銅像を見上げる。


「勇者様だー!」


「かっこいい!」


「いつか会ってみたいな!」


マイトは複雑な顔になった。


「ごめんね。」


「?」


「本人もっと残念なんだ。」


「何言ってるんですか。」


ラーシャが呆れた。

ゼルは銅像を見上げながら呟く。


「撤去した方がいいですね。」


「なんで。」


「風評被害です。」


「どっちに対して!?」


さらに街を歩く。

市場通りへ入ると一気に賑やかになった。

商人達の呼び声。行き交う人々。露店の並ぶ通り。

マイトはきょろきょろしながら歩いていた。


「おおー。」


完全に観光客だった。

すると、ある店の前で足が止まる。


「・・・。」


「どうした。」


ガエンが聞く。

マイトは返事をしない。

ただ一点を見つめていた。

全員が視線を向ける。

そこには雑貨屋があった。

普通の雑貨屋。

鍋。皿。箒。魔道具。文房具。

色々並んでいる。

しかし店先の棚にだけ妙な物が置いてあった。

木箱に入った魔導結晶。

そして横の看板。


『最新魔導娯楽機入荷!!』


『大人気ソフト多数!!』


マイトの目が輝いた。

キラキラしていた。

本当にキラキラしていた。


「ゲームだ。」


ぽつり。


「ゲームだ!!」


次の瞬間。

一直線に店へ突撃した。


「おおおおおお!!」


「待て。」


ガエンが首根っこを掴む。


「離して!」


「駄目だ。」


「新作だよ!?」


「スポンサー探しが先だ。」


「一分だけ!」


「駄目だ。」


「三十秒!」


「駄目だ。」


「見るだけ!」


「絶対嘘だ。」


即答だった。

マイトは悲鳴を上げる。


「うわあああああ!!」


店先には魅力的な宣伝文句が並んでいた。


『超高難易度アクション!』


『百時間遊べる大作RPG!』


『通信対戦対応!』


マイトの瞳が潤む。


「俺を呼んでる・・・。」


「呼んでない。」


ガエンが切り捨てる。


「でもほら!」


「呼んでない。」


「絶対面白い!」


「知らん。」


「買いたい!」


「駄目だ。」


マイトは絶望した。

ラーシャが苦笑する。


「子供ですね。」


ナラも笑う。


「銅像の英雄がゲーム屋の前で駄々こねてる。」


「平和の象徴。」


ゼルが言う。


「そして現実。」


全員がマイトを見た。

地面にしゃがみ込みそうな勢いでゲームソフトを見つめている勇者。

広場の銅像との落差が酷かった。

その時だった。


「失礼。」


不意に低く落ち着いた声が響いた。

マイト以外が振り返る。

人混みが自然と左右に分かれていた。

そこを歩いて来る一団がいる。

黒を基調とした礼服。

胸には金糸で刺繍された天秤の紋章。

司法国家サイヴァーンの紋章だった。

先頭の男は四十代ほど。

白髪交じりの髪を後ろで束ねている。

鋭い目、隙のない立ち姿。

周囲の市民がざわついた。


「おい。」

「王宮の人間だ。」

「しかもあれ・・・。」

「王室直属の使者じゃないか。」


ガエンが目を細める。


「来たか。」


男は一行の前で立ち止まった。

そして丁寧に一礼する。


「勇者マイト殿。」


マイトはゲームソフトを見ながら答えた。


「今忙しい。」


「聞けよ。」


ガエンが思わず言った。


「国王陛下より招待を承っております。」


マイトが顔を上げる。


「え?」


男は淡々と続けた。


「皆様を王城へお連れするよう命じられております。」


ナラが首を傾げた。


「えっと。もうバレてたの?」


「当然です。」


即答だった。


「勇者殿が入国された時点で王宮へ報告が上がります。」


マイトが遠い目になった。


「有名人って大変だなあ。」


「今さらですか。」


ラーシャが呆れる。

使者はさらに視線を移した。


「そして。」


その視線がゼルで止まる。

一瞬、空気が張り詰めた。

周囲の護衛達の手が無意識に剣へ伸びる。

ゼルは平然としていた。


「死霊使いゼル。」


使者が言う。


「あなたの入国記録も確認しております。」


「そうですか。」


「王宮は非常に驚いております。」


「でしょうね。」


ゼルは他人事のようだった。

使者は数秒沈黙した後、小さく息を吐いた。


「正直に申し上げます。」


「はい。」


「報告書を読んだ時、冗談だと思いました。」


ガエン達が頷いた。

全員同意だった。


「勇者が死霊使いを護送している。」


使者が言う。


「しかも本人達が普通に街を歩いている。」


「うん。」


マイトも頷いた。


「俺も変だと思う。」


「当事者が言うな。」


ガエンが突っ込む。

使者は頭を押さえた。


「さらに。」


嫌な予感がした。


「運動会のスポンサー獲得のため来訪。」


全員が固まる。


「あー・・・。」


マイトが目を逸らした。

使者は無表情だった。


「報告書を書いた審査官に医師を呼ぼうか真剣に悩みました。」


「気持ちは分かる。」


ガエンが頷いた。


「ですが。」


使者は姿勢を正す。


「国王陛下は皆様に興味を持たれています。」


「興味?」


ナラが聞き返す。


「はい。」


使者は真顔で言った。


「特に。」


嫌な予感しかしなかった。


「魔王主催の運動会について。」


全員沈黙。

だが使者は続ける。


「陛下は詳細を知りたがっております。」


「なんで?」


マイトが素で聞いた。


「『玉入れはあるのか』と。」


「なんで?」


「『騎馬戦は開催されるのか』とも。」


「なんで?」


「『我が国も参加可能か』とも。」


「だからなんで!?」


マイトが叫んだ。

使者は初めて少しだけ困った顔をした。


「私にも分かりません。」


全員同意だった。

ガエンが静かに呟く。


「感染したな。」


「何が?」


ナラが聞く。


「バラムの馬鹿が。」


全員が空を見上げた。

まだスポンサー探しすら始まっていない。

なのに何故か国王が運動会に興味津々だった。

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