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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷


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25.国王、遠距離通信魔道具を使う

氷雪都市クリアフォルの城、その中にある一つの部屋。その部屋にはクリアフォルの大臣の一人、シャーレ・クリオールが難しい顔をして画面を見つめていた。手にはコントローラー、そう、ゲームをしている。青い髪に青い瞳、透き通るような白い肌。


シャーレ・クリオールは深いため息を吐いた。


「……よし。」


画面には「ゲームクリア」の文字。

思わずガッツポーズをする。

普段の彼女を知る者が見たら驚くだろう。

氷雪都市クリアフォルの大臣。

冷静沈着。

理知的。

仕事は完璧。

そんな評価を受けているシャーレだが、今日はオフだった。


「合計百二十時間……長かった。」


達成感に満ちた顔でコントローラーを机へ置く。

そして椅子に深く座り直した。

青い髪がさらりと揺れる。

その瞬間、ふわりと空気中に小さな水滴が現れた。

まるで喜びに反応するように。

それもそのはずだった、シャーレは元々、水の精霊だったのだから。

今では人の姿を取り、大臣として働いているが、本質は変わらない。感情が動けば、水もまた動く。


「少し休憩しましょう。」


指を鳴らす。

すると空中に水の膜が現れ、そのまま一枚の巨大な鏡のような画面へ変化した。

映像魔道具だ。

水の精霊だった頃から愛用している特製品である。


「何か面白い番組は……。」


番組表を流していく。

料理。旅番組。討論番組。歴史特集。そして、


『笑芸大会特集! 話題の新人コンビを紹介!』


「……笑芸大会。」


少し興味を持つ。

クリアフォルでも最近話題になっていた大会だ。

何となく再生してみた。

司会者が元気よく叫ぶ。


『今最も注目されている新人コンビの一組!うさぎドラゴンです!!』


映像が切り替わる。

そこに映ったのは。

ドラゴニュートのビルムとラミアのミリア。

シャーレは瞬きをした。


「……。」


しばらく無言。

映像の中ではインタビューが始まっていた。


『お二人のコンビ結成のきっかけは?』


ビルムが答える。


『知らん間に組まされてました。』


『なるほど!』


『なるほどちゃうねん。』


シャーレは少しだけ眉を動かした。

映像の中では司会者がミリアへ質問する。


『ミリアさんはどう思いますか?』


『うさぎがいたから。』


『え?』


『うさぎがいた。』


『それだけですか?』


『うん。』


『なるほど!』


『だからなるほどちゃうやろ!』


会場爆笑。

シャーレは無表情のまま映像を見ていた。

だがテーブルの上のコップの水面が微かに揺れる。

それは彼女が少し面白いと思っている証拠だった。

映像はさらに続く。


『お二人の将来の夢は?』


ビルムが言う。


『優勝です。』


『素晴らしい!』


ミリアも頷く。


『優勝。』


『やはり優勝ですか!』


『うん。』


『その後は?』


ミリアは少し考えた。


『雪うさぎ帝国建国。』


『何でやねん。』


大爆笑。

司会者も笑い転げる。

ビルムは頭を抱えている。

シャーレの肩がぴくりと動いた。

その瞬間、部屋の隅に置いてあった花瓶の水がぽこっと泡を立てる。


「……。」


数秒後。


「……ふっ。」


小さく笑った。

本人は気付いていない。

だが、元精霊の感情は隠せない。

部屋中の水がぷるぷる震えていた。

映像の中ではさらにミリアが真顔で語る。


『帝国にはうさぎ大臣が必要。』


『うさぎ大臣って何や。』


『うさぎ。』


『説明になってへん。』


『でも可愛い。』


『それはそう。』


会場大爆笑。

シャーレはとうとう口元を押さえた。


「……変な方々ですね。」


そう言いながらも番組を消そうとはしない。

むしろお茶を淹れ始める。

完全に続きを見る態勢だった。

そして本人は気付いていなかった。

部屋の中を漂う小さな水の精霊達が。


「主様笑ってる。」

「珍しい。」

「もっと見よう。」

「うさぎ帝国面白い。」


などとこそこそ話していることに。


そしてこの日を境に彼女は密かに『うさぎドラゴンのファン』になり始めていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


司法国家サイヴァーンを出発した財務担当オーガのガエン、勇者マイト、ダークエルフのラーシャ、ピクシーのナラの四人は山岳地帯の街道を馬車に揺られていた。

目的地は氷雪都市クリアフォル、まだまだ長い道のりだった。

馬車は山々の間を縫うように進んでいた。

空は青く風は心地良い。山岳地帯特有の涼しさはあるが、まだ寒いというほどではない。街道脇には黄色い花が咲き、草原では野うさぎが跳ねている。少し離れた岩場では山羊がのんびり草を食み、その上では大きな鷹が円を描いて飛んでいた。

実に平和な光景だった。


「のどかだなぁ。」


マイトが伸びをする。


「だな。」


ガエンも頷く。


「戦争の話も聞かないし、魔物も少ない。」


「平和っていいねぇ。」


ナラが空中でくるくる回る。

その横でラーシャは窓から外を見ていた。


「あの……あそこ……。」


指差す先。

岩の上で大きなトカゲが昼寝をしていた。

腹を太陽へ向けている。完全に無防備だった。


「寝てるねぇ。」


ナラが言う。


「寝てるね。」


マイトも言う。


「気持ち良さそう。」


「私より幸せそうです……。」


ラーシャがぼそりと言った。


「何で比較対象がトカゲなんだ。」


ガエンが突っ込む。


「だって幸せそうで……。」


「トカゲと幸せ勝負するな。」


「勝負してません。」


そんな会話をしていると御者が笑った。


「この辺りは平和だからな。」


年配の御者は手綱を握りながら続ける。


「動物も警戒心が薄い。」


「確かに。」


「まだ暖かい地域だからな。冬が近いって感じもしねぇだろ?」


四人は頷いた。

実際その通りだった。

クリアフォルへ向かっているとは思えないほど暖かい。

御者は前方を見ながら言う。


「まあ、それもあと十日くらいだ。」


「十日?」


マイトが首を傾げる。


「十日ほど進めば寒冷地帯に入る。」


「そんな急に変わるの?」


ナラが聞く。


「変わるとも。」


御者は笑った。


「山を一つ越えるとな。景色が別世界になる。」


「別世界……。」


ラーシャが少し不安そうに呟く。


「雪ですか?」


「雪だな。」


「今の時期でも?」


「積もってる。」


「えぇ……。」


ラーシャの顔が青くなる。

ガエンは腕を組んだ。


「なるほど。」


「クリアフォル周辺は一年中雪がある場所も多い。」


「暖房費が気になるな。」


「ガエンはどこでも仕事だね。」


マイトが呆れる。

ガエンは真顔だった。


「重要だぞ。」


「そうか。」


「雪国の予算管理は大変だ。」


「そうか。」


「燃料費。」


「分かった。」


ナラが笑う。


「ガエンらしい。」


馬車はさらに進む。

途中、小川の近くを通った。透き通った水が陽光を反射して輝いている。鹿の親子が水を飲んでいた。警戒する様子もない。平和そのものだった。

ラーシャはその光景を見て少し微笑んだ。


「綺麗ですね。」


「そうだね。」


マイトも頷く。


「旅ってこういう景色を見るのも楽しい。」


「うん。」


ナラが同意する。

すると御者がふと思い出したように言った。


「そういや。」


「ん?」


「クリアフォルでは最近、笑芸大会が盛り上がってるらしいぞ。」


マイトが反応した。


「笑芸大会?」


「各地から芸人が集まる大会だ。」


「へぇ。」


「優勝候補の新人が話題らしい。」


「どんな人達?」


ナラが聞くと御者は首を傾げた。


「名前は忘れたな。」


「忘れたのかぁ。」


「確かうさぎがどうとか。」


「うさぎ?」


ナラが首を傾げた。


「うさぎ大臣とか何とか。」


「何だその役職。」


ガエンが真顔で言う。


「知らん。」


御者も真顔だった。


「知らんのか。」


「噂で聞いただけだからな。」


マイトが吹き出す。


「何だそれ。」


「でも結構人気らしいぞ。」


「へぇ。」


ラーシャは少し考えた。


「可愛いんでしょうか……うさぎ大臣。」


「まず存在するのかが問題だ。」


ガエンが言う。


「確かに。」


ナラも頷いた。

その後もしばらく笑芸大会の話題で盛り上がる。

優勝賞金はいくらなのか、芸人だけが出場するのか、審査基準は何なのか。

そんな話をしているうちに、自然と先にクリアフォルへ向かっている仲間達の話になった。


「そういえば。」


マイトが言う。


「ダグラス達はもう着いてるんだよな?」


「そのはずだ。」


ガエンが頷く。


「だいぶ前に出発したからな。」


ナラはくすりと笑った。


「今頃何してるんだろうね。」


「ダグラスさんは色々と疲れてそうです。」


ラーシャが即答した。

全員納得した。


「それはある。」


「あるな。」


「絶対ある。」


満場一致だった。

しばらく沈黙。

そしてマイトが言う。


「ビルムとミリアは?」


今度は全員少し考えた。

ガエンが口を開く。


「問題を起こしている。」


「断言した。」


ナラが笑う。


「でも何か分かる気がします。」


「いや、悪気はないんだ。」


ガエンは言った。


「だから余計に危険なんだ。」


「それも分かります。」


ラーシャまで頷いた。

マイトは苦笑した。


「ミリアは普通に話してるつもりなのに周りがおかしくなるからなぁ。」


「確かにこの前もそうだったね。」


ナラが思い出したように言う。


「パンを買いに行っただけなのに、いつの間にか店主さんと一緒に胡麻豆腐の話をしてた。」


「何でだ。」


「分かんない。」


「本人に聞いても分からんだろうな。」


ガエンがため息を吐く。

ラーシャは少し微笑んだ。


「でも楽しそうでした。」


「それはそう。」


マイトも笑う。


「ビルムも何だかんだで付き合うしな。」


「突っ込みながらな。」


「毎回な。」


想像できる。あまりにも簡単に想像できる。


「今頃また振り回されてるんだろうなぁ。」


マイトが苦笑する。


「お気の毒です。」


ラーシャが言う。


「でもビルム、何だかんだ楽しそうだよねー。」


ナラが笑う。


「否定できんな。」


ガエンも頷いた。

そんな話をしているうちに時間は過ぎていった。

山々の間を縫う街道はゆるやかに下り始める。

やがて前方の景色が少し開けた。

御者が顎で前を示す。


「ほら見えてきたぞ。」


四人は窓の外を見る。

街道の先には小さな盆地のような場所に町が広がっていた。

石造りの建物、旅人向けの宿、馬車置き場、鍛冶屋、食堂、物資を扱う商店。

山岳地帯を行き来する旅人達のための宿場町だった。


「おお。」


マイトが声を上げる。


「結構大きいな。」


「思ったより栄えてますね。」


ラーシャも感心する。

街の中央には大きな広場があり、多くの馬車が停まっている。

商人らしき人々が荷物を運び、旅人達が行き交っていた。


「今日はあそこで一泊だ。」


御者が言う。


「明日からまた先へ進む。」


「助かったー!」


ナラが空中で一回転した。


「ずっと座ってると退屈なんだよね!」


「お前はずっと飛んでるだろ。」


ガエンが突っ込む。


「気分の問題!」


「便利な言葉だな。」


馬車はゆっくりと町へ入る。

入口近くでは果物を売る露店が並んでいた。

焼きたてのパンの香りも漂ってくる。


ぐうううう。


誰かの腹が鳴った。

全員が振り向く。

ラーシャだった。


「……。」


「……。」


「……。」


ラーシャは顔を真っ赤にした。


「ち、違います。」


「何が。」


ガエンが聞く。


「お腹じゃありません。」


「今の音で?」


「たぶん町の鐘です。」


「腹から鐘が鳴ったのか。」


マイトが吹き出した。

ナラも笑い出す。


「ラーシャお腹空いてる!」


「空いてません!」


その瞬間。


ぐうううううう。


今度はさらに大きかった。


「鐘が二回鳴った。」


ガエンが真顔で言う。


「やめてください!」


ラーシャは両手で顔を隠した。

御者まで肩を震わせて笑っている。

馬車は広場へ到着した。


「宿はあそこだ。」


御者が指差す。

広場に面した三階建ての宿だった。

木造だが立派な建物で、看板には大きく『山鹿亭』と書かれている。

旅人達も多く利用しているらしく、出入りが絶えない。


「良さそうな宿だな。」


マイトが言う。


「風呂あるかな。」


「あるだろ。」


「あるといいですね。」


ラーシャも少し期待した顔になる。


「ご飯!」


ナラは完全に食事のことしか考えていなかった。

ガエンは荷物を持ちながら周囲を見回す。

宿場町らしく活気がある。

商人。冒険者。巡礼者。観光客。様々な人種が行き交っていた。

その時だった、広場の中央で何やら人だかりができているのが見えた。


「ん?」


マイトが首を傾げる。

人々が集まり、笑い声が聞こえてくる。

何か催しでもやっているらしい。


「大道芸かな?」


ナラが言う。


「かもしれんな。」


ガエンが答える。

すると近くを通った商人が楽しそうに言った。


「お、今夜も始まったか。」


「何かあるの?」


マイトが聞くと商人は笑って言った。


「ああ、この町で最近人気の旅芸人さ。」


「旅芸人?」


「将来、笑芸大会の優勝を目指してるらしくてな。」


商人は広場の方を見ながら笑った。


「なかなか面白いぞ。毎日違う芸人が来て腕試ししてるんだ。」


「へぇ。」


マイトは少し興味を持った。


「宿に荷物置いてから見に行くか。」


「賛成ー!」


ナラが元気よく手を上げる。


「ご飯の前に?」


ラーシャが聞く。


「ご飯の前に!」


「ご飯の後でもいいのでは。」


「両方!」


「欲張りですね。」


結局、荷物だけ宿に預けて広場へ向かうことになった。

広場では簡易的な舞台が設置されており、二人組の芸人が漫才をしていた。


「いやだからそれは魚じゃなくて靴だろ!」


「でも海で拾ったよ?」


「拾うな!」


観客が笑う。


「海は何でも落ちてるんだね。」


「そんなわけあるか!」


再び笑いが起きた。

ナラはくすくす笑いながら空中を漂う。


「結構面白いねー。」


「素人にしては上手い。」


ガエンも腕を組む。

ラーシャも口元を押さえていた。

しばらくしてネタが終わると拍手が起こった。

芸人達は礼をして舞台を降りる。

観客も少しずつ散っていった。


「せっかくだし話してみよう。」


マイトが言うと四人は舞台脇で水を飲んでいた芸人に声をかけた。


「お疲れー。」


「おう、ありがとさん。」


三十代くらいの人間の男だった。


「旅芸人なんですか?」


ラーシャが尋ねる。


「ああ。」


男は頷く。


「笑芸大会目指してあちこち回ってる。」


「笑芸大会か。」


ガエンが言う。


「今年は誰が優勝候補なんだ?」


その瞬間。

男の顔が少し真面目になった。


「あー……今年はなぁ。」


近くにいた別の芸人まで会話に加わる。


「たぶんあいつらだろ。」

「だよな。」

「満場一致だな。」


マイトは首を傾げた。


「そんなに有名なのか?」


「有名どころじゃない。」


男が即答した。


「うさぎドラゴン。」


「うさぎドラゴン?」


ナラが聞き返す。


「聞いたことない。」


「最近急激に名前が広まったんだ。」


別の芸人が言う。


「説明会の時からやばかったらしい。」


「らしい?」


「実は俺らも直接は見てねぇ。」


「見てないのか。」


「見てない。」


全員頷いた。


「でも噂だけで広まってる。」


「何それ。」


ナラが笑う。

男は腕を組んだ。


「なんか片方が天然らしい。」


「ほう。」


「でも本人は天然だと思ってないらしい。」


「よくある話だな。」


ガエンが言う。


「で、もう片方が必死に突っ込む。」


「なるほど。」


「しかも会話してるだけで周りが笑うらしい。」


マイト達は何となく顔を見合わせた。

少しだけ聞き覚えがあった。

だが世の中にはそういう芸人もいるだろう。

誰も深く考えなかった。

芸人は続ける。


「この前なんか説明会で十分くらい雑談してただけで会場が爆笑だったとか。」


「雑談で?」


ラーシャが驚く。


「らしい。」


「それネタじゃなくて?」


「雑談。」


「意味が分からん。」


ガエンが真顔で言う。


「皆そう言う。」


男も真顔だった。


「しかも本人達は何で笑われてるのか分かってないらしい。」


マイトは少し吹き出した。


「変な奴らだな。」


「だろ?」


「どんな人達なんだ?」


すると芸人達は揃って首を傾げた。


「知らん。」

「知らない。」

「見たことない。」

「名前しか知らない。」


「えぇ……。」


ナラが呆れる。


「優勝候補なのに?」


「逆になんでこんな有名になったのか分からん。」


男が苦笑する。


「ただ、他の参加者からは警戒されてる。」


「そんなに?」


「そんなに。」


芸人達は真剣だった。


「今年の台風の目だって言われてる。」


「へぇ。」


マイトは感心する。


「一回見てみたいな。」


「な。」


男も頷いた。


「どんな化け物コンビなのか気になる。」


ガエンが腕を組む。


「その笑芸大会はいつやるんだ?」


「二週間後だ。」


芸人が答えた。

その言葉を聞いた瞬間。


「二週間後?」


マイトが御者から聞いた話を思い出した。


「クリアフォルに着くのもそれくらいじゃなかったっけ?」


「あ。」


ナラが声を上げる。

ガエンも頷いた。


「確かに。到着予定も約二週間後だったな。」


「じゃあ。」


ラーシャが少し目を輝かせる。


「着いた頃に大会が始まるんですか?」


「計算上はそうなるな。」


ガエンが言う。

ナラが空中でくるくる回った。


「やったー!」


「ナラ、さっきまでご飯しか考えてなかっただろ。」


ガエンが突っ込む。


「ご飯と笑いは別腹!」


「別腹多すぎないか?」


観客の一人が思わず笑った。

芸人達も笑う。


「それなら運が良かったな。」


先ほどの芸人が言った。


「笑芸大会はクリアフォルでもかなり盛り上がるぞ。」


「そんなに有名なんですか?」


ラーシャが尋ねる。


「ああ。魔族領だけじゃない。」


「獣人領からも来るし。」


「人間領からも来る。」


「エルフも来るぞ。」


芸人達が次々に言う。


「優勝したら一気に有名人だからな。」


「へぇ。」


マイトは感心した。


「そんな大規模な大会なの?」


「毎年楽しみにしてる奴も多い。」

「今年は特に盛り上がってる。」

「うさぎドラゴンのせいでな。」


全員が再び頷いた。

うさぎドラゴン。

まだ顔も知らない謎の芸人コンビ。

だが話を聞けば聞くほど気になる。


「なんかもう。」


マイトが苦笑する。


「実際見たくなってきたね。」


「私もです。」


ラーシャも頷く。


「どれくらい面白いのか気になります。」


「俺も少し興味があるな。」


ガエンが言う。


「財務担当としては、人が集まる理由を知っておきたい。」


「絶対後付けの理由だよね?」


ナラが言った。


「違う。」


「本当に?」


「八割くらい。」


「二割は?」


「普通に気になる。」


マイトが吹き出した。


「正直。」


芸人達も笑う。


「まあ、クリアフォルに行くなら嫌でも話題は耳に入ると思うぞ。」

「町中でポスター貼られてるだろうしな。」

「酒場でもその話ばっかりだ。」

「優勝予想で賭けてる奴までいる。」


「賭けるなよ。」


ガエンが即座に言った。


「それはそう。」


芸人も真顔で頷いた。

しばらく笑い合った後、空は少しずつ夕暮れ色に染まり始めていた。


「さて。」


ガエンが立ち上がる。


「そろそろ宿に戻るか。」


その言葉に。


ぐううううう。


また腹が鳴った。

全員が振り向くと、やはりラーシャだった。


「……。」

「……。」

「……。」


ナラが肩を震わせる。

マイトが口を押さえる。

ガエンが真顔になる。


「どうやら三度目の鐘だな。」


「だから違います!」


広場に笑い声が響いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夜、シャーレが部屋で休んでいると遠距離通信魔道具が鳴った。

魔道具を起動させると画面にはサイヴァーン国王のリターシャだった。


「あらリターシャ、どうしたの?」


シャーレが微笑みながら尋ねる。

画面の向こうではリターシャが椅子にもたれかかっていた。

どうやら休んでいるらしい。

『いやー、ちょっと休憩。』


「国王がそんな理由で通信してきていいの?」


『いいのいいの。そもそもシャーレだって休日にゲームしてるじゃん。』


「それは休日だから。」


『私は国王だから。』


「意味が分からない。」


即答だった。

リターシャはけらけら笑う。


『まあそれは置いといて。』


「置いとくんだ。」


『面白い人達がそっち向かってるよ。』


「面白い人達?」


シャーレが首を傾げる。

リターシャは楽しそうな顔になった。


『運動会のスポンサー集めで世界を回ってる四人組。』


「運動会?」


『うん。』


「スポンサー?」


『うん。』


「世界を回ってる?」


『うん。』


シャーレは数秒考えた。


「最初から意味が分からない。」


『だよねー。』


リターシャは満足そうに頷いた。


『オーガのガエンって人が中心なんだけどね。』


「オーガ。」


『財務担当。』


「財務担当。」


『運動会のスポンサーを集めてる。』


「ますます意味が分からない。」


シャーレは頭を抱えた。

リターシャは笑いながら説明を続ける。


『勇者のマイトと、ダークエルフのラーシャと、ピクシーのナラも一緒。』


「なんだか濃いわね。」


『かなり濃い。』


「それで今どこにいるの?」


『多分まだ人間領の山岳地帯かな。そのうちクリアフォルに行くと思うよ。』


シャーレは少し興味を持った。


「へえ。」


『結構面白い人達だから会ったら話してみて。』


「分かった。」


すると今度はシャーレの方が思い出したように口を開いた。


「そういえば今こっちも面白い話題があるわよ。」


『ん?』


「笑芸大会。」


『ああ、聞いたことある。』


クリアフォル名物の巨大なお笑い大会だ。

各地から芸人達が集まり、優勝を目指して競い合う一大イベント。


「今かなり盛り上がってるの。」


『へえ。』


「今年は特に注目されてるコンビがいてね。」


『どんな人達?』


シャーレは少し笑った。


「うさぎドラゴン。」


『名前の時点で面白そう。』


「でしょ?」


『どんな芸人なの?』


シャーレは少し考えた。


「説明が難しいのよね。」


『どういうこと?』


「片方が常識人で。」


『うん。』


「片方が天然。」


『よくある。』


「でも天然の方が自分で天然だと全く思ってない。」


『あー。』


リターシャが何かを察した顔になる。

シャーレは続けた。


「しかも本人は真面目に話してるだけなのに観客が大笑いするの。」


『強い。』


「かなり強い。」


『計算?』


「違う。」


『演技?』


「違う。」


『じゃあ何?』


シャーレは苦笑した。


「本物。」


リターシャが吹き出した。


『それ強いやつだ。』


「そうなのよ。」


『今年の優勝候補?』


「優勝候補どころか本命ね。」


シャーレは映像魔道具を操作する。

少し前の大会映像が表示された。

画面の中ではうさぎドラゴンの二人が観客を爆笑させていた。

もちろんシャーレもリターシャも、その正体がガエン達より先にクリアフォルに来ているビルムとミリアだとは知らない。

リターシャは映像を見ながら笑った。


『なるほど。』


「面白いでしょ?」


『うん。』


「もしガエン達が大会期間中に来たら絶対見に行かせるべきね。」


『確かに。』


リターシャは頷く。


「運動会スポンサー集めの旅の途中で笑芸大会。」


『旅の思い出としては最高じゃない?』


「絶対何か起きる気がする。」


『私もそう思う。』


二人は顔を見合わせ。そして同時に笑った。










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