↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領王都、マグノリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/171

164.オーガ、報告をする 後編

ガエンが報告書をめくる。

バラムが興味深そうに身を乗り出した。


「ほう。魔族領からも複数の国や都市が名乗りを上げたのか?」


「ああ。まず最初は氷雪都市クリアフォル。」


「クリアフォルか。」


バラムが頷く。


「極寒の地でありながら、近年は文化や娯楽にも力を入れている都市だな。」


「その通り。」


ガエンは資料を確認しながら続ける。


「クリアフォルとはスポンサー契約を結んだ。スポンサー特典は競技と競技の間に、お笑いライブや音楽ライブなんかのエンターテインメントを行うこと。」


「……お笑い?」


バラムが首を傾げる。


「お笑い。」


「運動会の途中で?」


「運動会だけじゃない。休憩時間や競技の合間に、観客を楽しませるイベントを入れるんだ。」


マイトが横から補足する。


「クリアフォルは、競技を見るだけじゃなくて、一日中楽しめる祭りみたいなイベントにしたいんだって。」


「なるほど。」


バラムが腕を組む。


「競技だけではなく、音楽や笑いも楽しめるというわけか。」


「そういうこと。」


ガエンが頷いた。


「だから、運動会の合間に芸人や音楽家を呼んでライブをやる。場合によっては、魔族と人間の合同ライブなんかも面白いかもしれない。」


「それはよいな。」


バラムが満足そうに頷く。


「観客が種族の違いを忘れて共に笑い、共に歌う。それこそ交流ではないか。」


「俺もそう思う。」


ガエンは次のページをめくった。


「次。軍事国家バルファード。」


「バルファードか。」


バラムの表情が少しだけ引き締まる。


「こちらもスポンサー契約を結んだ。」


「スポンサー特典は?」


「兵士達の特訓。」


「……随分と物騒だな。」


バラムが眉をひそめる。


「まあ、軍事国家だからな。」


ガエンが苦笑する。


「ただし、もう実際に特訓はやってきた。」


「ほう?」


「俺とダグラスとマイトとラーシャで、バルファードの兵士達を相手に訓練してきた。」


ダグラスも頷く。


「かなり鍛えられたぞ。あそこの兵士達、根性だけは凄まじい。」


「最初はどうなることかと思ったけどね。」


マイトが苦笑する。


「でも、いい訓練になったと思うよ。」


ガエンも頷いた。


「ああ。向こうも俺達から学ぶものがあったみたいだし、こっちもバルファードの軍事訓練から学ぶことがあった。」


「つまり、スポンサー特典そのものが交流になっているわけか。」


バラムが感心したように言う。


「そういうことだ。」


ガエンは報告書を閉じることなく、さらに次のページへ進む。


「そして次。」


「まだあるのか。」


バラムが少し驚いたように目を見開く。


「ああ。海洋都市国家アトラマリス。」


「アトラマリス……海の国か。」


「そう。」


ガエンは資料を確認する。


「アトラマリスは国王がいないからな。豪商やギルドとスポンサー契約を結んだ。」


「豪商やギルドと?」


「ああ。」


ダグラスが腕を組む。


「アトラマリスは商人の力が強いからな。商人やギルドがそれぞれスポンサーになる形になった。」


「なるほど。」


バラムが頷く。


「それで、特典は?」


ガエンが一瞬だけ黙った。

そして、少しだけ苦笑する。


「……剣聖スレイドの特別観覧席と、世界の酒を用意すること。」


「……。」


王の間に沈黙が落ちた。

バラムがゆっくりとガエンを見る。


「……剣聖スレイドの特別観覧席?」


「ああ。」


「そして?」


「世界の酒。」


「……。」


バラムは腕を組んだまま、しばらく黙っていた。

やがて、ぽつりと言う。


「なんで剣聖スレイド?」


バラムが首を傾げる。

ガエンは苦笑した。


「そこにはちょっと事情があってな。」


「事情?」


「ああ。」


ガエンは報告書を一度閉じ、順を追って説明する。


「実は最初、俺達だけでアトラマリスの商人達にスポンサーの話を持ちかけたんだ。」


「ほう。」


「ところが、ら」


ガエンはため息を吐いた。


「門前払いされた。」


「……門前払い?」


「そう。」


マイトが苦笑する。


「話すら聞いてもらえなかったんだ。」


「理由は?」


「似たような話はよくあるからな。。」


ダグラスが腕を組む。


「商人からすれば当然だ。利益になるか分からんものに金を出す理由がない。」


「その通り。」


ガエンは頷いた。


「そこで俺達は、別の伝手を探した。」


「それが剣聖スレイドか。」


「そういうことだ。」


マイトが口を開く。


「師匠は今、アトラマリスのスラム街にある孤児院を支援してるんだ。」


バラムが目を細める。


「孤児院を?」


「ああ。」


マイトは頷く。


「師匠は昔から子供達の面倒を見るのが好きでね。自分で金を出して孤児院を支援してるんだけど、それだけじゃ足りないらしくて。」


「だから豪商の用心棒をしている。」


ガエンが続ける。


「一つの豪商に雇われて、その報酬を孤児院への出資に回してるんだ。」


「……なるほど。」


バラムは納得したように頷く。


「剣聖ともあろう者が、用心棒とはまた随分と庶民的だな。」


「本人は気にしてないけどね。」


マイトが苦笑する。


「むしろ『剣を振るだけで子供達が飯を食えるなら安いもんだ』とか言ってたよ。」


マイトが少し誇らしげに笑う。

ガエンも頷いた。


「それでスレイドに事情を話した。」


「運動会のことを?」


「ああ。世界中の人間と魔族が集まること。各国がスポンサーになっていること。そして、単なる競技大会じゃなく、交流の場にしたいことをな。」


「それで?」


「スレイドが動いた。」


ガエンは肩をすくめる。


「自分が用心棒をしている豪商に話を持ちかけてくれたんだ。」


「一人にか?」


「最初はな。」


ガエンは苦笑する。


「そしてスレイドはその豪商にみんなを集めろと言った。」


マイトが続ける。


「気がついたらアトラマリスの豪商とギルド長が集まっていた。」


ガエンが締めくくる。


「……剣聖スレイド、恐るべし。」


バラムが感心したように呟く。


「剣で人を斬るだけが剣聖の仕事ではないということか。」


「むしろ今回は、剣を抜かずに商人達を動かしたからな。」


ダグラスが笑う。


「一番怖いのはそこかもしれん。」


ガエンは報告書をめくる。


「そうして、豪商達とスポンサー契約を結ぶことができた。」


「なるほど。」


バラムが頷く。


「それで、スポンサー特典がスレイドの特別観覧席と世界の酒というわけか。」


「いや。」


ガエンが首を横に振る。


「そこがちょっと違う。」


「違う?」


「スポンサー特典の話をしている時に、スレイドが言ったんだ。」


ガエンはスレイドの言葉を思い出す。


「『じゃあ俺の特別観覧席と、世界中の酒を用意しろ』って。」


王の間が静まり返る。

バラムが瞬きをする。


「……スレイドが?」


「ああ。」


「自分で要求したのか?」


「自分で。」


「世界の酒を?」


「世界の酒を。」


マイトが申し訳なさそうに頷く。


「師匠、酒好きだから……『俺が話をまとめたんだから、それくらい頼んでもいいだろ』って。」


「……。」


バラムが黙る。

そして、ゆっくりと口元を緩めた。


「ふっ……。」


「何だよ。」


「いや。」


バラムは肩を震わせながら笑う。


「実にスレイドらしいと思ってな。」


「笑い事じゃないぞ。」


「いやいや。世界中の酒を集めて特別観覧席で飲む剣聖か。」


バラムは楽しそうに笑った。


「なんとも豪快ではないか。」


「本人は『俺は酒を飲みながら運動会を見るだけだ』って言ってたけどな。」


「それだけ聞けばただの酔っ払いだな。」


「バラム。」


ガエンがジト目を向ける。


「……すまん。」


バラムは咳払いをする。


「ともあれ、契約は成立したのだな?」


「ああ。」


ガエンは頷いた。


「スレイドが豪商達を集めてくれたおかげでな。」


「それなら文句はない。」


バラムは満足そうに頷いた。


「特別観覧席についても準備してやれ。」


「分かった。」


「そして世界の酒も。」


「……それ、本当に必要か?」


ガエンが眉をひそめる。

バラムは堂々と答えた。


「スポンサー特典なのだろう?」


「いや、スレイドが勝手に要求しただけなんだが。」


「契約を取るために必要だったのなら、それも立派な外交費だ。」


「屁理屈だろ。」


「必要経費だ。」


「絶対違う。」


ガエンが即座に突っ込む。

マイトが苦笑しながら口を挟んだ。


「まあ、師匠が酒を飲みながら運動会を見てくれるなら、俺としても嬉しいけど。」


「お前まで何を言ってるんだ、マイト。」


「だって師匠、絶対楽しむよ。」


「……まあ、それはそうだろうな。」


ガエンはため息を吐く。

そして報告書を再び開いた。


「とにかく、アトラマリスのスポンサー契約はこれで成立。」


「よし。」


バラムが頷く。


「これで魔族領、人間領ともに、かなりの数のスポンサーが集まったな。」


「ああ。」


ガエンは資料を見下ろす。


「運動会そのものは、もうスポンサー集めの段階を越えた。」


そして、少しだけ笑う。


「後は集まったスポンサーと世界中の人達に、ちゃんと楽しんでもらうだけだ。」


バラムは満足そうに頷いた。


「うむ。では、次だ。」


ガエンが顔を上げる。


「何だ?」


「運動会の開催は二ヶ月後とする。」


「二ヶ月後か。」


「うむ。そして、運動会参加者の受け入れは開催一週間前から開始する。」


バラムは玉座から立ち上がり、堂々と言い放った。


「それまでに会場、宿泊場所、食事、警備……全てを整えておけ。」


「わかった。」


ガエンが頷く。


「いよいよ本番に向けて動き出すってことだな。」


「うむ。」


バラムはニヤリと笑った。


「世界中の者達を迎えるのだ。最高の運動会にしてやろうではないか。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。