162.オーガ、報告に向かう
会場を一通り確認し終えると、ドワルゴが満足そうに頷いた。
「まあ、こんなところじゃな。細かい調整はまだ残っておるが、大掛かりな作業はほぼ終わっておる。」
ガエンはもう一度、完成間近の会場を見渡した。
客席。
来賓席。
広々とした競技場。
魔法陣による安全対策。
長い時間をかけて準備してきた大運動会が、いよいよ現実のものになろうとしている。
「これなら問題なさそうだな。」
ガエンが呟く。
「じゃろ?」
ドワルゴが胸を張った。
「ワシらドワーフの仕事に間違いはない。」
「……ルードが突っ込んできても?」
「そこを蒸し返すな。」
バルグラムが即座に返した。
「もう実証済みじゃろうが。」
「実証しなくていいんだよ。」
ガエンがため息をつく。
その横では、ルードが自分の身体を確認していた。
「いやぁ、すげぇな、この魔法陣。俺が無傷だぞ。」
「お前はまず、飛ぶ前に止まれるようになれ。」
ダグラスが淡々と言う。
「それができたら苦労しねぇよ。」
「努力しろ。」
「はい。」
ルードが素直に頷いた。
「……本当に素直になったな。」
マイトが呟く。
「何か失礼なこと言ってないか?」
「別に。」
そんなやり取りをしていると、ドワルゴが手を叩いた。
「さて、会場はもうよかろう。」
「そうだな。」
ガエンが頷く。
「俺達はバラムのところへ行く。」
「うむ。」
ドワルゴが一行を見回した。
「では、ここからはそれぞれ別れるとするか。」
「別れる?」
ビルムが首を傾げる。
「お前達の部屋を案内してやる。」
「部屋ですか?」
ラーシャが目を輝かせる。
「そうじゃ。長旅から戻ったばかりじゃろう。荷物を置いて、少し休むがよい。」
「ありがとうございます!」
ラーシャが嬉しそうに頭を下げた。
ナラもガエンの肩から身を乗り出す。
「ガエン、ナラの部屋は?」
「俺も気になるな。」
ガエンが笑う。
「大丈夫じゃ。ちゃんと用意してある。」
ドワルゴが得意げに言った。
「ただし、ガエン達はバラムのところへ行くんじゃろ?」
「ああ。」
ガエンが頷く。
「スポンサー集めの結果も報告しないといけない。それに。」
一度、会場へ視線を向ける。
「大運動会をいつ開催するのか、まだ聞いてないからな。」
「そういやそうやったな。」
ビルムが腕を組む。
「実際いつやるんや?」
「俺もそこを確認したい。」
マイトが頷く。
「準備がここまで進んでいるなら、そう遠くはないと思うけど。」
「だからこそ、ちゃんと確認しておきたい。」
ガエンが言った。
「開催日が決まっているなら、それに合わせて最後の準備をしないといけない。」
「なるほど。」
ダグラスが頷く。
「では、俺も行こう。」
「もちろん俺も。」
マイトが続く。
ドワルゴが三人を見てから、残った者達を見る。
「では、ガエン、ダグラス、マイトはバラムのところへ。」
「おう。」
「ビルム、ラーシャ、ナラ、ミリアはワシについてこい。」
「了解や。」
ビルムが頷く。
「……あれ?」
ふと、マイトが周囲を見回した。
「ルードは?」
「俺なら分かるぞ。」
ルードが手を挙げる。
「ずっとこの城にいたからな。」
「それなら安心だな。」
ガエンが笑う。
「じゃあ、また後で。」
「ああ。」
ルードは軽く手を振った。
「お前らも迷子になるなよ。」
「それはお前が言うことじゃないだろ。」
ダグラスが即座に返す。
「なんでだよ?」
「お前は城の中で飛んで壁に刺さる。」
「それは迷子とは違う!」
「似たようなものだ。」
「違う!」
ルードが抗議する。
そのやり取りを見ながら、ビルムが笑った。
「ほな、ガエン達はバラムのとこ行ってき。」
「ああ。」
ガエンは頷いた。
「みんなも部屋に荷物を置いたら、少し休んでくれ。」
「ガエンさんは?」
ラーシャが尋ねる。
「俺達もバラムへの報告が終わったら休むよ。」
「わかりました。」
ラーシャが頷く。
「じゃあ、また後で。」
「ああ。」
ガエン達三人と、ドワルゴに案内される四人。
それぞれが別々の方向へ歩き始める。
ガエンは歩きながら、ふと後ろを振り返った。
そこには、長い旅を終えて帰ってきた仲間達の姿があった。
ラーシャはドワルゴに何かを尋ね、ビルムがそれに茶々を入れている。
ナラはミリアと楽しそうに話しながら歩いている。
ルードは一人で別の廊下へ向かっていた。
「……帰ってきたんだな。」
ガエンが小さく呟いた。
「そうだな。」
ダグラスが隣で答える。
「長かった。」
「うん。」
マイトも頷く。
だが、まだ終わってはいない。
大運動会という、この世界で初めてとなる大きな催しが待っている。
そして、その開催日すらまだ知らされていない。
「さて。」
ガエンが前を向いた。
「まずはバラムに聞くとするか。」
「開催日はいつなのか。」
マイトが続ける。
「そして、スポンサー集めの報告だな。」
「それから。」
ダグラスが静かに言う。
「この城で何が起きたのかも聞かないとな。」
ガエンとマイトが顔を見合わせる。
「……それもそうだな。」
「帰ってきてから色々ありすぎた。」
ガエンは苦笑した。
その頃。
「では、まずお前の部屋からじゃ。」
ドワルゴに案内されていたラーシャが、廊下の先を見つめていた。
「どんな部屋なんでしょう。」
「ワシがちゃんと考えて用意した部屋じゃ。」
「楽しみです!」
その隣では、ビルムが腕を組んでいる。
「ワイの部屋、めちゃくちゃ豪華やったらどうしよ。」
「普通の部屋じゃ。」
「即答すんなや!」
「何を期待しておる。」
「いや、せっかく帰ってきたんやから、ちょっとくらい。」
「黙れ。次はナラの部屋じゃ。」
「聞いてへんやん!」
城の廊下に、ビルムの声が響く。
ガエン達はその声を背中で聞きながら、王の間へと続く廊下を歩いていった。
向かう先にいるのは、魔王バラム。
報告と、これから始まる大運動会について。
まずは、その開催日を聞かなければならない。




