↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領王都、マグノリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

163/171

161.会場、最終調整をする

ドワルゴに案内されながら、ガエン達は観客席へと続く通路を歩いていた。

会場を一周するように造られた観客席は何段にも分かれており、その上部には屋根付きの来賓席まで用意されている。


「ここが客席じゃ。」


ドワルゴが得意げに手を広げる。


「魔族、人族、それぞれが座れるように区画を分けてある。じゃが、仕切りは低くしてあるぞ。」


「どうして?」


マイトが尋ねる。


「隣同士で話せるようにするためじゃ。」


ドワルゴがニヤリと笑った。


「せっかく一緒に競技を見るんじゃ。種族ごとに固まっておっては面白くないじゃろ?」


「なるほど。」


マイトが頷く。

ガエンも客席を見回した。

通路は広く、階段には滑り止めまで施されている。

観客が一斉に移動しても混雑しないよう、複数の出入口も設けられていた。


「……凄いな。」


「じゃろ?」


「いや、これは本当に凄い。」


 ガエンが素直に感心すると、ドワルゴはさらに胸を張った。


「じゃが、まだ完成ではない。」


「まだ?」


「最終調整中じゃ。」


その言葉を聞いた直後。


「そこじゃ! もう少し右に寄せろ!」


大きな声が響いた。


「はい!」


「石材をあと二つ持ってこい!」


「了解!」


「そこの手すりは固定を確認したか!」


「今やっております!」


客席の一角では、大勢のドワーフ達が忙しそうに動き回っていた。

石材を運ぶ者。

手すりを叩いて強度を確かめる者。

魔法陣の刻まれた床を確認する者。

その中心で、ひときわ大きな身体をしたドワーフが腕を組み、次々と指示を飛ばしている。


「そこは三分の一寸だけ下げろ! 観客の視界を遮る!」


「はい!」


「通路の角は丸めておけ! 子供が走った時に危ない!」


「分かりました!」


「来賓席の椅子は全部確認したか!」


「あと四脚です!」


「なら急げ! 明日になってガタついておったらワシが直すぞ!」


ガエンがその姿を見て目を細める。


「……あれは。」


「もしかして?」


ダグラスが尋ねる。


「ああ。」


ガエンが頷いた。


「石工頭のバルグラムだ。」


「ガエンとダグラスがスポンサー集めの旅に出る前に会っておったじゃろ。」


「そうそう。」


バルグラムもこちらに気づいた。


「ん?」


作業の手を止め、こちらを見る。

そして。


「おお!」


顔が一気に明るくなった。


「ガエンじゃねぇか!」


「久しぶりだな、バルグラム。」


「ダグラスも!」


「元気そうだな。」


ダグラスが軽く手を上げる。

バルグラムは豪快に笑いながら二人のもとへ歩いてきた。


「帰ってきたとは聞いていたが、本当に帰ってきやがったな!」


「ああ。ようやくな。」


「長旅だったんだろ?」


「色々あったよ。」


ガエンが苦笑する。


「まあ、その話は後でゆっくり聞こうじゃねぇか。」


バルグラムがガエンの肩を叩く。


「今はこっちを見てくれ。」


「会場の最終調整か?」


「そうだ!」


バルグラムは胸を張る。


「もうすぐ本番だ。最後の最後まで手は抜けねぇ。」


その言葉に、ガエンは改めて客席を見回した。


「凄いな。本当にここまで仕上げたんだな。」


「当たり前だ。」


バルグラムがニヤリと笑う。


「ドワーフが造るからには、壊れない、揺れない、崩れない。それが基本だ。」


ガエンの眉がピクリと動く。


「……壊れない?」


「ああ。」


「本当に?」


「おう。」


ガエンは少しだけ間を置いた。


「ミノが突っ込んでも?」


「もちろんだ!」


バルグラムは自信満々に答えた。


「ありゃあドワルゴから散々言われたからな!」


「ミノ対策まで共有されてるのかよ……。」


ガエンが頭を抱えかけた、その時だった。

遠くから風を切る音が聞こえた。


ヒュオオオオオッ!


「ん?」


マイトが顔を上げる。


「何の音?」


風圧が次第に強くなっていく。

ガエンの表情が固まった。


「……まさか。」


ダグラスも空を見上げる。


「嫌な予感がするな。」


「またか?」


ビルムが頭を抱える。


「この城、帰ってきてから何回騒ぎが起きるんや……。」


ミリアが音の方を見る。


「……。」


そして空の彼方から、一つの影が猛烈な速度で近づいてきた。


「おおおおおおおおおおっ!」


叫び声が聞こえる。


「ルードだ。」


ダグラスが即座に言った。


「よりによって……。」


ガエンが額を押さえる。

ホークマンのルード。

高速飛行を得意とする男だ。

ただし、速度を出せば出すほど止まるのが苦手になる。

そしてその結果、壁や地面、柱などのありとあらゆるものに突き刺さる。


「ルード!」


ガエンが叫ぶ。


「止まれ!」


「無理だぁぁぁぁぁ!」


遠くからルードの声が返ってきた。


「速すぎて止まれねぇぇぇぇぇ!」


「何で飛ぶ前に考えないんだ!」


「飛んだ後に気づいたんだよぉぉぉ!」


ルードは一直線にこちらへ向かってくる。

しかも、その進行方向には。


「客席……。」


ラーシャが呟く。


「このままだと、客席に突っ込みます!」


「バルグラム!」


ガエンが叫ぶ。


「分かってる!」


バルグラムが振り返る。


「全員、動くな!」


「え?」


ガエンが目を見開く。

バルグラムが足元を指差した。


「そこから動くな!」


「いや、でもルードが!」


「大丈夫だ!」


バルグラムが叫ぶ。

その瞬間。


 カッ!


客席の床に刻まれていた魔法陣が、一斉に光り始めた。


「これは……?」


ラーシャが目を見開く。

魔法陣から淡い光が広がり、客席全体を包み込んでいく。


「衝撃緩和用の魔法陣だ。」


バルグラムがニヤリと笑った。


「万が一、観客席に何かが飛び込んできても、速度を殺して安全に止めるようになってる。」


「万が一って……。」


ガエンがルードを見る。


「今まさに飛び込んで来てるけど。」


「だから試験できる。」


「試験って言うな!」


ルードが迫る。


「うおおおおおおおおおっ!」


そして客席まであと数メートル。


「ぶつかる!」


マイトが叫ぶ。


だがルードの身体が魔法陣の光に触れた瞬間。


フワッ。


「……え?」


猛烈な勢いで飛んできたはずのルードの身体が、まるで巨大な羽毛に包まれたかのように、ゆっくりと減速していく。


フワフワ。

フワフワ。


そして。


ポスッ。


ルードは客席の手前に、尻からゆっくりと着地した。


「…………。」


静寂。


「…………。」


ガエン達も固まっている。

ルード自身も何が起きたのか分からないらしく、目を丸くしている。


「……俺、生きてる?」


「生きてる。」


ダグラスが即答した。


「壁も?」


「無傷。」


「床も?」


「無傷だ。」


「俺も?」


「無傷。」


「すげぇぇぇぇぇ!」


ルードが飛び上がる。……そして、そのまま再び飛びそうになったところを、ガエンが襟首を掴んだ。


「待て。」


「はい。」


「今日はもう飛ぶな。」


「はい。」


ルードが素直に頷く。

バルグラムは満足そうに魔法陣を見下ろした。


「よし。」


「よし、じゃないだろ。」


ガエンが呆れた顔で言う。


「今のが本番だったら、観客席にいる全員が心臓止まってるぞ。」


「だが、誰も怪我してねぇ。」


「そういう問題じゃない。」


バルグラムは豪快に笑った。


「ガハハハ! これで実証もできた!」


「実証しなくていい!」


ガエンが叫ぶ。

その横で、ドワルゴが満足そうに頷いている。


「どうじゃ?」


「何が?」


「この会場は頑丈じゃろう?」


「……まあ。」


ガエンは魔法陣を見下ろした。


「そこは認める。」


そして、少し離れた場所でルードが尻をさすりながら呟く。


「……これ、すげぇな。」


バルグラムが振り返る。


「気に入ったか?」


「ああ! これなら俺でも安心して飛べる!」


「いや。」


ガエンが即座に割って入る。


「安心して飛ぶな。」


「なんでだよ!」


「お前の場合、安心すると速度を上げるだろ。」


「……。」


「図星か。」


「……ちょっとだけ。」


ビルムが腹を抱えて笑い出す。


「アホや! 自分から突っ込んでいく気満々やんけ!」


「うるせぇ!」


会場に笑い声が広がる。

ガエンも思わず笑った。

長い旅を終えて帰ってきたばかりなのに、相変わらずこの城は騒がしい。

だが、それでいいのだろう。

ここには、誰かを傷つけるためではなく、笑うために集まっている。

そして、そのための場所はドワーフ達の手によって、確かに完成へ近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。