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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領王都、マグノリア

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160.城、壊れない

ドワルゴは笑った後、笑顔のまま言った。


「まあよい。ワシが案内してやろう。」


「助かる。」


ガエンがホッと息を吐く。


「だが、その前に。」


ドワルゴが作業場の奥へ歩き出す。


「お前さんらに見せたいものがある。」


「見せたいもの?」


マイトが首を傾げる。


「ああ。」


ドワルゴがニヤリと笑った。


「この城がどう変わったのか、じっくり見てもらおうと思ってな。」


「……嫌な予感しかしない。」


ガエンが呟く。


「ガエンさん、それは失礼です。」


ラーシャが苦笑する。


「ドワルゴさんが頑張ってくれたんですから。」


「いや、分かってる。分かってるんだが……。」


ガエンは改めて周囲を見回す。

巨大な柱。

広すぎる廊下。

見覚えのない階段。

そして、どこへ繋がっているのかすら分からない扉。


「規模がな……。」


「ガハハハ! まあ歩けば分かる!」


「それが分からないから迷子になったんだよ。」


「細かいことは気にするな!」


「細かくねぇよ。」


そんなやり取りをしながら、一行はドワルゴの後について歩き始めた。

さすがに城の構造を把握しているらしく、ドワルゴは迷うことなく廊下を進んでいく。


「ここが食堂じゃ。」


「食堂まで広くなってる……。」


「こっちは浴場。」


「浴場まで増えてる……。」


「そしてここが武器庫じゃ。」


「何で王城に武器庫がこんなにあるんだよ。」


「必要じゃろ?」


「何にだよ。」


「何かあった時じゃ。」


「何かって何だよ。」


ガエンが頭を抱える。

その横で、マイトは楽しそうに城の中を見回していた。


「でも、凄いね。前とは全然違う。」


「そうですね。」


ラーシャも頷く。


「城というより、もう一つの街みたいです。」


「それは褒めてるのか?」


ダグラスが聞く。


「……多分。」


ナラが答えた。


「多分かよ。」


そんな会話をしていた、その時だった。


「ガエーン!」


遠くから、聞き覚えのある声が響いた。


「…………。」


ガエンの足が止まる。


「今の声……。」


「まさか。」


ダグラスが呟く。


「ガエーン!」


今度ははっきり聞こえた。


ドドドドドドドドッ!


廊下の向こうから、猛烈な勢いで何かが走ってくる。


「…………。」


ガエン達は一斉にそちらを見る。


「おい。」


ガエンが呟いた。


「まさか……。」


「うん。」


マイトが頷く。


「たぶん。」


ラーシャも身構える。


「間違いないと思います。」


ビルムが一歩後ろへ下がる。


「これ、前にもあったやろ。」


「言うな。」


「また城が壊れるんちゃうか?」


「言うなって。」


ドドドドドドドドッ!


足音がどんどん近づいてくる。

そして角から姿を現したのは。


「ガエーン!」


「ミノ!」


ミノだった。


「帰ってきたって聞いたから!」


ミノは満面の笑みを浮かべながら、こちらへ向かって全力疾走してくる。


「おい、止まれ!」


ガエンが叫ぶ。


「ミノ!」


マイトも声を上げる。


「前!」


「え?」


ミノがこちらを見る。


「うわぁぁぁぁ!」


ドンッ!


「…………。」


ガエン達は思わず目を閉じた。

だが。


「…………?」


何も起きない。

ガエンがゆっくり目を開ける。

壁は無傷。

床も無傷。

柱も無傷。

そしてミノも無傷。


「…………。」


全員が固まった。

ミノは何事もなかったかのようにガエンの前で止まっている。


「ガエン!」


「……ミノ。」


「おかえり!」


「……ただいま。」


ガエンは周囲を見回す。


「…………壊れてない。」


「壊れてへんな。」


ビルムも呆然としている。


「床も無傷や。」


「壁も。」


ラーシャが確認する。


「柱も大丈夫ですね。」


ダグラスまで壁を叩いて確認する。


「本当に何も壊れていない。」


「…………。」


ガエンがドワルゴを見る。

ドワルゴは腕を組み、満足そうな顔をしていた。


「どうじゃ。」


「……何が?」


「これじゃよ。」


ドワルゴが壁を撫でる。


「強度を徹底的に上げた。」


「…………。」


「ミノが全力で突っ込んでも壊れん!」


「そこを基準にしたのかよ!」


ガエンが思わず叫ぶ。


「もちろんじゃ!」


ドワルゴは胸を張った。


「この城を任された以上、ミノ対策は最優先事項じゃからのう!」


「そんな改修理由があるか!」


「あるじゃろ!」


「ないよ!」


マイトが笑う。


「でも、確かに凄いね。」


「せやな。」


ビルムも壁をコンコンと叩く。


「前やったら、この勢いで壁に穴開いてたやろ。」


「床も抜けてたかもしれませんね。」


ラーシャが言う。


「それどころか、ミノが壁を突き抜けて隣の部屋まで行ってた。」


ダグラスが淡々と付け加える。


「…………。」


ミノが少し申し訳なさそうな顔をする。


「ごめんなさい。」


「いや、ミノが謝ることじゃない。」


ガエンが頭を撫でる。


「それより、ちゃんと帰ってきた俺達を見つけてくれたんだろ?」


「うん!」


ミノが嬉しそうに笑う。


「みんなに会いたかったから!」


「そうか。」


ガエンも笑う。

その横で、ドワルゴは満足そうに頷いていた。


「これで安心じゃ。」


「何が?」


「何度ミノが走り回っても城は壊れん。」


「…………。」


ガエンが遠い目をする。


「それ、安心していい話なのか?」


「ええじゃろ。」


ドワルゴは豪快に笑った。


「丈夫な城に越したことはない!」


「まあ……そうだけど。」


ガエンは苦笑する。


「ところで、ドワルゴさん。」


ラーシャが口を開く。


「運動会の会場は、どちらに?」


「おお、そうじゃった。」


ドワルゴがポンと手を叩く。


「城の案内もよいが、そろそろ会場を見せんとな。」


「会場もいい感じ?」


マイトが聞く。


「そりゃあもう!」


ドワルゴの顔が輝く。


「城と同じくらい、いや、それ以上に手を入れておる!」


「…………。」


ガエンの顔が引きつる。


「それ以上……?」


「ガハハハ!」


ドワルゴが歩き出す。


「こっちじゃ!」


「待ってくれ!」


ガエン達も慌てて後を追う。


「今度こそ迷子になるなよ!」


ビルムが言う。


「お前にだけは言われたくない。」


ガエンが即答する。


「俺は方向音痴やない。城が広すぎるだけや。」


「同じやろ。」


「違う。」


「何が違うねん。」


そんな言い合いをしながら、一行はドワルゴの後について進んでいく。

やがて大きな扉の前に到着した。

ドワルゴがその扉を開く。


ギギギギギ……。


扉の向こうから、外の光が差し込んできた。


「…………。」


ガエンが目を細める。

その先には、広大な敷地が広がっていた。

整然と並ぶ観客席。

巨大な入場門。

競技場を囲むように設置された柵。

そして中央には、見渡す限りの広大なグラウンド。


「…………。」


ガエン達は言葉を失った。


「これが……。」


マイトが呟く。


「運動会の会場……。」


「そうじゃ!」


ドワルゴが胸を張る。


「ワシらドワーフが造り上げた、最高の会場じゃ!」


「……凄い。」


ラーシャが目を輝かせる。

ナラも辺りを見回している。


「広いね!」


「これなら、どんな競技でもできそうやな。」


ビルムも感心したように呟く。

ダグラスは黙って会場全体を見渡している。

そしてガエンは。


「…………。」


しばらく何も言わなかった。

十ヶ月。

自分達がスポンサーを集めている間に、ここまでのものが造られていた。

世界中から魔族と人族が集まり、共に競い合うための場所。

争うためではなく、笑うために。

ガエンはゆっくりと息を吐いた。


「……本当に、やるんだな。」


「当たり前じゃろ。」


ドワルゴが笑う。


「もう、ここまで出来ておるんじゃ。」


その言葉に、ガエンも小さく笑った。


「……そうだな。」


ミノが隣に並ぶ。


「ガエン。」


「ん?」


「楽しみだね!」


ガエンはミノを見る。

そして、会場を見渡す。


「……ああ。」


静寂の城を出てから十ヶ月。

長い旅の果てに、ようやく帰ってきた。

そして今、世界中を巻き込んだ、とんでもない一日が始まろうとしていた。

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