↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
人間領聖王国、ルミナリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/171

133.聖王国、安心する

翌朝、宿屋町は朝靄に包まれ石畳は夜露に濡れて淡く光っていた。

食堂からは焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂い、巡礼者達が静かに朝食を取っている。

ガエン達も身支度を整え、一階へ降りた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


宿の店主が穏やかに声をかける。


「ああ、おかげでぐっすりだ。」


ガエンが笑顔で答えると、店主は嬉しそうに頷いた。

朝食は焼きたての白パンに野菜のスープ、燻製肉、果物、それに温かい牛乳だった。


「昨日あれだけ歩いたから、お腹空いたな。」


マイトは嬉しそうにパンへかぶりつく。


「今日はいよいよルミナリアですね。」


ラーシャが窓の外へ目を向ける。


「ここまで来たら、もうすぐだ。」


ダグラスも短く答えた。

食事を終えた四人は宿代を支払い、店主へ礼を告げる。


「お気をつけて。今日中にはルミナリアへ着けるでしょう。」


「ありがとう。また機会があれば寄らせてもらう。」


ガエン達は宿を後にし、再び巡礼街道へ足を踏み出した。

朝日を浴びた白い街道は昨日以上に美しく輝き、多くの巡礼者達が同じ目的地へ向かって歩いている。


「おはようございます。」


すれ違う巡礼者達は自然に挨拶を交わし、笑顔が返ってくる。


「本当に気持ちのいい街道だな。」


ガエンが周囲を見回す。


「歩いているだけで心が落ち着く気がするね。」


マイトも穏やかな表情を浮かべた。

道の両脇には黄金色の麦畑が広がり、時折、小川を渡る石橋や小さな礼拝堂が姿を見せる。

巡礼者達は礼拝堂の前で静かに祈りを捧げる者もいれば、そのまま歩き続ける者もいる。

昼が近づく頃、一行は街道脇の大きな木陰で休憩を取ることにした。


「ふぅ……今日は昨日より暑いな。」


ガエンは水筒の水を飲みながら腰を下ろす。


「でも風が気持ちいいね。」


マイトは木漏れ日を見上げる。

ラーシャは荷物から干し肉や果物を取り出し、簡単な昼食を並べた。


「少し食べておきましょう。あと少しとはいえ、油断は禁物です。」


「そうだな。」


ダグラスも頷き、静かに食事を口へ運ぶ。

三十分ほど身体を休めた後、一行は再び歩き始めた。

街道を進むにつれて巡礼者の数はさらに増え、荷馬車や商人の姿も目立つようになる。


「やっぱり大きな都市が近いんだな。」


ガエンが行き交う人々を眺める。


「物流も活発ですね。」


ラーシャが前方を見据える。

そして、街道を緩やかな丘の上まで登りきった、その時だった。


「……見えた!」


マイトが思わず声を上げる。

一同が視線を向ける。

遥か前方には、太陽の光を浴びて白く輝く巨大な城壁がそびえ立っていた。

幾重にも重なる白亜の城壁。

天へ伸びるような尖塔。

無数の純白の建物が整然と並び、その中心には街全体を見守るように巨大な神殿が堂々とそびえている。


「あれが……。」


ガエンは思わず足を止めた。


「聖王国ルミナリアか。」


巡礼者達もその姿を目にすると自然と表情を引き締め、静かに祈りを捧げながら歩みを進めていく。

やがて街道は巨大な城門へと続き、門前には多くの旅人や商人が列を作っていた。

白銀の鎧を纏った聖騎士達が整然と立ち、入国する者達を一人ひとり丁寧に確認している。

だが、その場に緊張感はない。

聖騎士達は旅人へ笑顔で声をかけ、不安を与えないよう穏やかな口調で対応していた。


「ようこそ、聖王国ルミナリアへ。本日は巡礼でしょうか、それとも観光や商用ですか?」


門番の聖騎士が、ガエン達へ丁寧に一礼しながら声をかける。

ガエンは一歩前へ出て、落ち着いた口調で答えた。


「魔族領から来た。光の女神協会へ用があり、最高司祭への面会をお願いしたく参りました。」


その言葉を聞いた聖騎士の表情は変わらない。

むしろ礼儀正しく胸へ手を当て、穏やかに頷いた。


「承知いたしました。それでは入国手続きを行いますので、こちらへお越しください。」


こうしてガエン達は、ついに聖王国ルミナリアの門をくぐることになるのだった。

聖騎士に案内された受付所は、白い石造りの小さな建物だった。

中では数人の係員が巡礼者や旅人の手続きを行っており、落ち着いた空気が流れている。


「お名前と来訪目的をお願いいたします。」


受付の修道士が柔らかな笑みを浮かべる。

ガエンは代表して名前と同行者、そして来訪目的を伝えた。


「魔族領マグノリアより来た。光の女神協会の最高司祭へ、大運動会のスポンサー契約についてお話ししたく訪問している。」


修道士は驚いた様子も見せず、さらさらと書類へ記入していく。


「ありがとうございます。危険物の持ち込み確認だけ失礼いたします。」


形式的な荷物確認を終えると、修道士は小さな木札を四枚差し出した。


「こちらが滞在証になります。滞在中は身につけていただければ結構です。」


「これで終わりか?」


ガエンが少し意外そうに尋ねる。


「はい。ルミナリアでは、身元と目的が確認できれば問題ございません。どうぞごゆっくりお過ごしください。」


あまりにも簡単な手続きだった。

四人は顔を見合わせる。

建物の外へ出ると、マイトが肩をすくめながら笑った。


「拍子抜けしたね。もっと厳しく調べられると思ってた。」


「俺もだ。」


ガエンも苦笑する。


「信仰の国だからこそ、巡礼者への対応が慣れているのでしょう。」


ラーシャは街へ視線を向ける。

ダグラスも静かに頷いた。


「合理的だ。」


すると、先ほど対応してくれた聖騎士が四人へ歩み寄った。


「もしよろしければ、街の案内をいたしましょうか。」


「助かる。光の女神協会の大聖堂へ行きたいんだが。」


ガエンが尋ねると、聖騎士は街の中心を指差した。


「あちらに見える最も大きな白い神殿が大聖堂です。歩いて二十分ほどで到着いたします。」


巨大な尖塔は街のどこからでも見えるほど高く、迷う心配はなさそうだった。


「それと、宿を探しているんだけど。」


マイトが続けて聞く。


「でしたら、大聖堂の手前に宿屋街があります。巡礼者向けの宿が多く、本日でしたらまだ空室もございます。『白百合亭』や『聖樹の宿』でしたら設備も良く、おすすめですよ。」


「ありがとう。助かった。」


ガエンが礼を言うと、聖騎士は穏やかに微笑んだ。


「皆様の旅に、女神ステラの加護がありますように。」


そう言って一礼すると、再び持ち場へ戻っていった。

四人は白く美しい街並みを歩き始める。

広い石畳の通りには花壇が整備され、噴水では子ども達が笑い合っている。

露店には焼き菓子や果物、聖印の装飾品が並び、巡礼者や観光客で賑わっていた。


「なんというか……平和そのものだな。」


ガエンが辺りを見回す。


「魔族も人間も普通に歩いてるね。」


マイトも感心したように呟く。

実際、角の生えた魔族や獣人の姿も珍しくなく、誰一人として好奇の目を向ける者はいなかった。


「これならスポンサー契約も案外簡単にまとまりそうじゃないか?」


マイトは笑顔でガエンを見る。


「そう焦るな。」


ガエンは苦笑しながら答えた。


「まずは宿を確保して荷物を置こう。その方が落ち着いて話もできる。」


「賛成です。」


ラーシャが頷く。


「最高司祭との面会は、それからでも遅くありません。」


ダグラスも短く言った。


「焦る理由はない。」


四人は聖騎士に教えられた宿屋街へ向かう。

巡礼者達で賑わう通りには大小様々な宿が軒を連ね、それぞれの看板には「空室あり」の札が掲げられていた。


「さて、どこに泊まる?」


ガエンが宿を見渡すと、マイトは近くの白壁に青い屋根が映える宿を指差した。


「あそこ、雰囲気が良さそうだぞ。」


四人は顔を見合わせ、小さく頷くと、その宿の扉を開けた。

宿の扉を開けると、小さな鐘が澄んだ音を響かせた。


「いらっしゃいませ。」


受付には優しそうな年配の女性が立っていた。

巡礼者向けの宿らしく、館内は清潔で木の温もりにあふれている。


「四人で一泊お願いしたい。」


ガエンがそう告げると、女性は宿帳を確認して微笑んだ。


「ちょうど四人部屋が空いております。よろしければご案内いたします。」


「助かる。」


手続きを済ませると、店員は二階の部屋へ案内する。

部屋は広々としており、四つの寝台に大きな机、荷物を置く棚まで備えられていた。


「思った以上にいい部屋だな。」


マイトが窓を開けると、心地よい風が部屋へ吹き込む。


「巡礼者が多いだけあって、宿の質も高いですね。」


ラーシャは室内を見渡しながら感心する。

ダグラスは荷物を静かに隅へ置いた。


「十分だ。」


四人は旅の荷物を置き、身軽になる。


「よし、それじゃあ行くか。」


ガエンが立ち上がると、一行は宿を出て街の中心にそびえる大聖堂を目指した。

白い石畳を歩いていくと、建物は近づくにつれてその巨大さを実感させる。

幾本もの尖塔が空へ伸び、色鮮やかなステンドグラスが陽光を受けて輝いていた。

正面には広い広場があり、多くの巡礼者が静かに祈りを捧げている。


「……すごいな。」


ガエンは思わず見上げる。


「こんな立派な神殿は初めて見た。」


ダグラスも目を丸くした。

階段を上がると、入り口には白銀の鎧をまとった聖騎士が二人立っていた。

四人が近づくと、聖騎士達は胸に手を当てて丁寧に一礼する。


「ようこそ、大聖堂へ。本日はどのようなご用件でしょうか。」


ガエンは礼を返し、落ち着いて答えた。


「魔族領マグノリアから参りました。光の女神協会の最高司祭様に、大運動会のスポンサー契約についてご相談したく、お時間をいただければと思っています。」


聖騎士は穏やかな表情のまま頷くと、近くの受付へ確認に向かった。

しばらくして戻ってくる。


「お待たせいたしました。申し訳ございませんが、本日は最高司祭様の予定が終日埋まっております。」


「そうか。」


ガエンは残念そうな表情を見せるが、不満は口にしなかった。

聖騎士は続ける。


「ですが、明日の午前中でしたらお時間を確保できます。面会予定にお名前をお入れいたしますが、よろしいでしょうか。」


「もちろんだ。それでお願いする。」


「承知いたしました。」


聖騎士は受付簿へ名前を書き込み、一礼する。


「それでは明日の朝、こちらへお越しください。最高司祭様へお取り次ぎいたします。」


「ありがとう。」


ガエンが礼を言うと、聖騎士も穏やかに微笑んだ。


「皆様に女神ステラの祝福がありますように。」


大聖堂を後にした四人は、予定が空いた午後を利用して街を散策することにした。

大通りには露店が並び、パン屋や花屋、楽器店、書店など様々な店が軒を連ねている。

人間だけでなく、獣人やエルフ、ドワーフ、さらには小柄な魔族までもが当たり前のように買い物を楽しんでいた。

子ども達は種族の違いなど気にすることなく一緒に遊び、商人達も笑顔で客と会話を交わしている。

その光景を眺めながら、マイトが静かに口を開いた。


「……安心したよ。」


「何がだ?」


ガエンが尋ねる。


「昔のルミナリアだったら、魔族が街を歩いているだけで珍しがられたり、警戒されたりすることも少なくなかったからさ。」


マイトは行き交う人々へ視線を向ける。


「でも今は違う。誰も俺達を特別扱いしないし、魔族だからって偏見の目で見てくる人もいない。」


ラーシャも頷く。


「この国も少しずつ変わってきたのでしょうね。」


「交流が増えた証拠だ。」


ダグラスが短く言う。

ガエンは噴水の向こうで、人間の子どもと小さな魔族の子どもが笑いながら追いかけっこをしている姿を見つめ、小さく笑った。


「そういう国が増えてくれればいいな。」


マイトも穏やかな笑みを浮かべる。


「うん。こういう景色なら、運動会を開く意味もきっとある。」


四人は賑やかな街並みをゆっくりと歩きながら、翌日の最高司祭との面会に思いを馳せるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。