13.勇者、冒険に出る
数十分後。
静寂の城近郊の森。
魔族領の自然は基本的に物騒である。
木は巨大。
霧は濃い。
普通に魔物が出る。
マイトは立ち止まり、冷静に言った。
「帰ろう。」
「もう着いたぞ。」
「帰ろう。」
バラムがマイトの言葉を無視してラーシャの方を向く。
「ラーシャ、準備は?」
「……はい……魔物誘導完了です……」
「準備良すぎない!?」
ラーシャの後ろでは、
縄で区切られた簡易フィールドが作られていた。
なぜか観戦用の岩席まである。
「実況席も用意したぞ。」
バラムが指差す。
丸太二本。
机代わりの石。
そして、マイクっぽい魔導具。
「本格的に始める気だこの魔王。」
バラムは満足げに頷いた。
「では予行演習第一項目。」
指をビシッと前へ突き出す。
「魔物戦実況!!」
「運動会関係なくなった!!」
その瞬間。
ガサガサッ。
森の奥から大型ウルフ型魔物が現れた。
「いや普通に危ないやつ!」
マイトがツッコむ。
だがバラム当然のように言う。
「ではラーシャ。」
ラーシャ、きょとん。
「……はい?」
「戦え。」
「え?」
ラーシャが固まる。
マイトが固まる。
ウルフが唸る。
マイトが慌てた。
「なんで!?」
「実況対象が必要だからだ。」
「理由がテレビ制作側なんだよ!」
ラーシャはおろおろしている。
「わ、私が……?」
「安心せよ。」
バラムは胸を張った。
「勇者と魔王が実況する。」
「安心材料そこじゃない。」
マイトが思わずツッコミを入れた時、魔物がラーシャに飛びかかった。
「ひゃっ!?」
反射的にラーシャが手を振る。
ドゴォォォン!!
闇魔法が炸裂。
魔物が地面に叩きつけられる。
マイト、即座に魔導マイク(っぽいもの)を掴む。
「えーっと!!始まりました!!第一回実況予行演習!!」
バラムはノリノリ。
「おおっと開始早々強烈な一撃だァ!!」
ラーシャ「え、え、え?」
完全に状況を理解していない。
魔物が立ち上がる。
そして再び突進する。
ラーシャ、焦る。
「ど、どうしたら……」
マイト(実況声)
「落ち着いてくださいラーシャ選手!!距離管理が重要です!!」
バラムが続けて、
「今のは良い牽制!!だが魔物まだ動けるぞ!!」
ラーシャは混乱する。
(私……戦ってる……?)
(実況されてる……?)
(見られてる……?)
魔物が咆哮。
ラーシャが咄嗟に魔力を放つ。
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
連続魔法によって地面がえぐれる。
マイト、実況テンション上昇。
「おおっと連射!!これは高火力!!」
バラムが畳み掛ける。
「しかし魔力制御が荒い!!精神状態が戦闘に影響しているぞ!!」
その言葉でラーシャの動きが止まった。
「……精神状態……」
ポツリ。
「……私……ダメ……?」
魔力が揺れる。
マイト「え?」
ラーシャの視線が落ちる。
「……やっぱり……雑で…………迷惑かけて…………実況も止めちゃって……」
空気が冷える。
マイトは察する。
「あっこれまずい流れ。」
黒い魔力が滲み出す。
バラムが小声で言う。
「勇者よ。」
「うん。」
「自己嫌悪モードだ。」
「見れば分かる!!」
ラーシャの周囲に闇が渦巻く。
「……私なんて…………戦い方も下手で…………役にも立たなくて……」
ゴォォォォォ……
森が揺れる。
木の葉が舞い上がる。
魔物が怯えて後退する。
マイト、実況どころではない。
「ラーシャ!?落ち着いて!?今めちゃくちゃ強くなってるから!!」
「……強いのに……役に立たないなら……意味ない……」
魔力がさらに増幅する。
地面にヒビが走り遠くの鳥が一斉に逃げる。
バラムが小声で言う。
「出力が城破壊級になった。」
「なんで予行演習で災害起きるの!?」
ラーシャの目に涙。
「……私……必要ないですよね……」
ドォン!!
魔力爆発。
森の一部が吹き飛んだ。
さらに実況席の丸太が転がる。
マイト絶叫。
「実況対象が天災になった!!」
バラム、なぜか興奮してマイクを握る。
「おおっと!!これは想定外!!選手、自己嫌悪による第二形態へ移行だァ!!」
「実況やめろおおお!!」
ラーシャの魔力が暴走し始める。
黒いオーラが巨大化する。
完全にボス戦演出だ。
マイトは必死に前へ出る。
「ラーシャ!!聞いて!!」
ラーシャ、震える声。
「……どうせ……私は……」
マイト、即答。
「めちゃくちゃ必要!!」
ピタッ。
魔力停止。
全員静止。
マイトが続ける。
「城の仕事回してるの誰?魔王の無茶止めてるの誰?俺呼びに来てくれたの誰?」
ラーシャ、目を見開く。
「……私……?」
「そう!!あと今めちゃくちゃ強かった!!実況的にも最高だった!!」
バラム頷く。
「視聴率取れる。」
「その評価やめて。」
ラーシャの魔力がゆっくり収まる。
風が止み森に静寂が戻る。
そして。
ぽつりと嬉しそうに、
「……褒められ……ました……」
少しだけ笑った。
マイトは心底安堵する。
「危なかった……」
バラムは満足げに頷く。
「うむ。」
「何がうむだよ。」
魔王は堂々と言った。
「予行演習、大成功だな。」
「成功判定ゆるすぎない!?」
魔王バラムが満足そうな顔で頷いた。
「よし。」
嫌な予感がしてマイトが一歩下がる。
「その顔やめて。」
魔王は腕を組み、いかにも重大発表という雰囲気を出した。
「実況にはマイクが必要だ。」
「うん、さっきから持ってるこれ何?」
マイトが手にしている魔導マイク(っぽいもの)を振る。
バラムは真顔で言った。
「それは試作品だ。」
「嫌な言葉出た。」
「真の実況用魔導マイクを作る。」
「やっぱり。」
バラムはゆっくり空を指差した。
「そのために必要なのが、」
バラムが勿体ぶって間をためる。
「拡声石。」
ラーシャが首を傾げる。
「……拡声石?」
マイトは頭を抱えた。
「名前からして面倒。」
バラムは説明を始める。
「古代魔導文明の遺物。声を何倍にも増幅し、遠くまで響かせる伝説の鉱石だ。」
「うん。」
「それがな、ドラゴンの住む谷にある。」
「解散。」
マイトは即答して踵を返す。
しかし。
ガシッ。
バラムに肩を掴まれる。
「待て勇者。」
「絶対嫌。」
「まだ何も言っておらぬ。」
「言う前から分かる。」
バラムは咳払いした。
そして、王としての威厳を最大限に出す。
「勇者よ。」
「嫌。」
「頼みがある。」
「嫌。」
「行って取ってきてくれ。」
「ほらーーー!!」
森に響くツッコミ。
ラーシャが慌てる。
「ド、ドラゴン……!?」
バラムはうんうん頷く。
「大丈夫だ。友好的なはずだ。たぶん。」
「“たぶん”をつけるな!!」
マイトが抗議する。
「なんで俺なの!?魔王が行けばいいでしょ!?」
バラムは真顔で答える。
「我は忙しい。」
「絶対嘘。」
「運動会準備で忙しい。」
「絶対実況席の設計してるだけだろ。」
バラムは視線を逸らした。
図星だった。
マイトは腕を組む。
「無理無理。ドラゴンとかイベントボスじゃん。」
すると、バラムがニヤリと笑った。
「……ちなみにだが。」
「嫌な前置き。」
「拡声石があれば....実況席に超高性能防音結界を常設できる。」
マイトは停止して魔王を見る。
「……ほう?」
「外部遮断。」
「ほう。」
「誰にも邪魔されず。」
「……ほう。」
「ゲーム可能。」
完全に止まる勇者。
ラーシャが小声で言う。
「……マイト様……揺れてます……」
「揺れてない。」
即答したがしばし考え込む。
数秒後。
「……ドラゴン強い?」
「まあまあ。」
「谷遠い?」
「馬車で行けば一日で着く。」
「帰り寄り道できる?」
「できる。」
マイトは深いため息の後、バラムを見た。
「……安全第一だからな。」
バラム、勝利の笑み。
「交渉成立だ。」
「押し付けられただけなんだよなぁ。」
バラムはドラゴンの谷の方をビシッと指を向けた。
「さあ行け!勇者よ!世界のために旅立つのだ!」
「それ、魔王のセリフじゃないからね!」
こうして。
運動会実況マイク制作計画のその第一工程、勇者、ドラゴンの谷へ派遣決定。
そして魔王バラムは満足そうに呟いた。
「いやぁ、良い部下を持ったものだ。」
「部下じゃないからね!?」
森に響く勇者の叫び。
その頃。
静寂の城のマイトの部屋では、未セーブの『バハムートクエストIII』が、静かに待ち続けていた。




