128.芸術の都、響く
氷雪都市クリアフォルの女王フロスティアから、スポンサー特典として競技間にお笑いや音楽等のライブを条件に出され、その出演者を探す旅に出ているドラゴニュートのビルムとラミアのミリアのうさぎドラゴンとピクシーのナラ。
笑芸大会に出場した芸人達を無事出演させる事に成功し、今は芸術の都と呼ばれている人間領の都市ハートロックに来ていた。
芸術の都ハートロック。
ハートロックの次はルミナリアでゴスペルやオルガン奏者を探す予定だ。
石畳の大通りには、画家が絵を描き、彫刻家が作品を並べ、至る所で音楽が響いている。
笛の音色、弦楽器の旋律、太鼓の軽快なリズム。
まさに街全体が一つの舞台だった。
ビルムは周囲を見回しながら腕を組む。
「なるほどなぁ……確かにここならライブ出演者も見つかりそうや。」
ミリアは目を輝かせた。
「音楽が空気から生えてる。」
「どないな街やねん。」
即座にビルムが突っ込む。
ナラは空中をくるくる飛び回る。
「わー! あっちも歌ってる! こっちも踊ってる! ねぇねぇ見に行こう!」
「待て待て! 一人で飛んで行くな!」
「はーい!」
返事だけは元気だった。
当然、止まらない。
「返事だけやないか!」
ビルムは慌てて追いかける。
三人はまず、大きな噴水広場へ向かった。
そこでは若い男性がギター一本で歌っていた。
澄んだ歌声に、多くの人が足を止めている。
演奏が終わると大きな拍手が起こった。
「うまい。」
ミリアが感心する。
「せやな。歌唱力はかなりある。」
ナラは拍手しながら首を傾げた。
「でも魔王運動会なら途中で爆発した方が盛り上がるよね!」
「なんでライブの演出が爆発やねん!」
「だって派手じゃん!」
「会場吹き飛ぶわ!」
ビルムが額を押さえた。
そのまま歩いていくと、今度は四人組の楽団が陽気な演奏を始める。
観客達も踊り始め、街全体がお祭りのような空気になる。
ナラも混ざって踊り始めた。
「いぇーい!」
ぴょんぴょん跳ね回る。
子供達も一緒になって踊り出す。
「ナラ、すぐ友達作るなぁ。」
ビルムが苦笑する。
ミリアは真剣な顔で頷いた。
「ナラは野生の子供ホイホイ。」
「なんやその珍しい生き物。」
「春になると増える。」
「増えへん。」
「冬は冬眠する。」
「子供がか?」
「そう。」
「せぇへん。」
ビルムは即答した。
その時だった。
少し離れた路地から、力強いドラムの音が聞こえてくる。
ドン!
ドドン!
ズンッ!
「お?」
ビルムが振り向く。
音につられて三人が路地へ入ると、小さな広場で数人のストリートミュージシャン達が演奏していた。
エレキギターのような魔導楽器。
重低音を響かせる魔導ベース。
激しく叩かれるドラム。
そして熱く歌い上げるボーカル。
周囲には若者達が集まり、大歓声を上げている。
ナラは目をキラキラさせた。
「かっこいいー!」
ミリアは感動したように頷く。
「耳が揺れる。」
「音でやろ。」
「心も揺れてる。」
「それはええことや。」
ビルムは腕を組み、演奏をじっと見つめた。
「これは……運動会のライブでも十分通用するレベルやな。」
演奏はまだ始まったばかり。
三人は観客に混ざり、その実力を最後まで見届けることにした。
激しいドラムが最後の一打を響かせる。
ドォンッ!!
ギターが鋭く鳴り、ベースが低く唸る。
ボーカルが拳を高く突き上げた。
「ありがとうハートロックォォーーッ!!」
「「「うおおおおおーーっ!!!」」」
広場を埋めた観客達から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
指笛が飛び交い、演奏を終えた四人は深く一礼した。
ビルムは腕を組んだまま、満足そうに何度も頷く。
「ええライブやったな。」
ミリアも静かに拍手した。
「耳が幸せ。」
「その表現は分かる。」
ナラは興奮して羽をばたつかせる。
「もう一回! もう一回!」
「アンコールやな。」
「アンコールって?」
「もう一回やってーってお願いすることや。」
「じゃあ、もう一回!」
「説明聞いてへんかったんか。」
ビルムは苦笑しながら演奏者達の方へ歩いていった。
楽器を片付け始めていたボーカルの青年に声を掛ける。
「お疲れさん。ええ演奏やったで。」
青年は振り返り、少し照れ臭そうに笑う。
「ありがとうございます。」
「突然ですまんのやけど、ちょっと話ええか?」
青年は仲間達と顔を見合わせる。
「俺達にですか?」
「せや。」
ビルムは懐から名刺代わりの紹介札を取り出した。
そこには『魔王運動会実行委員 ライブ出演者募集担当』と書かれている。
青年は目を丸くした。
「……魔王運動会?」
「そう、それ。」
ミリアが真面目な顔で補足する。
「平和のための運動会。」
ナラは元気よく続けた。
「すっごく大きいよ! 世界中から人が来るんだよ!」
青年達はますます驚いた表情になる。
「世界中……?」
「せや。スポンサーも各国についてる大規模な催しや。競技の合間にライブをやる予定でな、出演してくれる演奏者を探しとる。」
ギター担当の女性が思わず声を漏らした。
「そんな大舞台……私達みたいなストリートバンドでいいんですか?」
ビルムは笑って首を横に振る。
「ストリートやからあかんなんてことはあらへん。」
そう言って四人を順番に見渡す。
「さっきの演奏見て確信した。客を楽しませる力は十分ある。せやから声を掛けたんや。」
四人は顔を見合わせる。
ボーカルの青年が一歩前へ出た。
「ありがとうございます。……でも、俺達のことをまだ名乗ってませんでしたね。」
青年は胸に手を当て、にこりと笑った。
「俺はボーカルのレオン。このバンドのリーダーです。」
「ギターのリズです。」
「ベースのガル。」
「ドラムのティオだ。」
ビルムも笑顔で頭を下げた。
「ドラゴニュートのビルムや。こっちはラミアのミリア、そしてピクシーのナラ。」
ナラは元気いっぱいに手を振る。
「よろしくー!」
するとミリアが首を傾げながらレオンを見つめた。
「質問。」
「はい?」
「さっきの最後。」
「最後?」
「なんで『ハートロックォォー!』って叫んだの?」
「え?」
「『今日は豆腐食べるぞー!』じゃだめ?」
一瞬、広場が静まり返る。
レオンは目をぱちぱちさせた。
「……いや、ライブですから。」
「豆腐は?」
「関係ないですね。」
「なるほど。」
ミリアは満足そうに頷く。
ビルムは思わず頭を抱えた。
「なんで毎回、意味分からん方向に話持っていくねん!」
ナラは大笑いしながら言った。
「じゃあ運動会では『魔王運動会ォォー!』って叫ぼう!」
レオン達も思わず笑い出す。
レオンは笑いながら仲間達を見回した。
「そういえば、まだ一番大事なことを言ってませんでした。」
ビルムが首を傾げる。
「ん?」
レオンは胸を張る。
「俺達のバンド名は『ブレイズ・ハウル』です。」
その名前を聞いた瞬間、ビルムはにやりと笑った。
「ブレイズ・ハウルか。」
一度ゆっくり頷く。
「名前もええやん。」
レオン達四人は少し照れくさそうに笑う。
ビルムは右手を差し出した。
「ほな改めて。魔王運動会、出演よろしく頼むで。」
レオンも力強くその手を握る。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
ガシッ。
固い握手が交わされる。
続いてリズ、ガル、ティオとも順番に握手を交わしていく。
「絶対盛り上げます。」
「低音は任せてください。」
「会場ぶっ壊さん程度には叩きます。」
「それくらいがちょうどええ。」
ビルムは笑った。
ナラも小さな手を差し出す。
「はい、握手!」
ティオは思わず笑顔になり、小さな手を優しく握る。
「よろしくな。」
「うん!」
ミリアも静かに右手を出した。
「よろしく。」
レオンは丁寧に握り返す。
「よろしくお願いします。」
こうしてストリートバンド『ブレイズ・ハウル』の出演が決定した。
ビルムは満足そうに紹介札へ一つ印を付ける。
「よし、また一組決まりや。」
ナラは飛び跳ねた。
「やったー! 次だ次ー!」
「まだ探すんか。」
「いっぱい呼んだ方がお祭りになるもん!」
「それもそうやな。」
三人はレオン達に手を振り、その場を後にした。
石畳の道をしばらく歩く。
相変わらず至る所から音楽が聞こえてくる。
優しいアコースティック。華やかなオーケストラ。軽快な民族音楽。
気に入った人達に声をかけていく。
声をかけられた人達は快く引き受けてくれていた。
そんな中。
ズゥゥゥン……
腹の底まで震えるような重低音が街中に響いた。
「……!」
ビルムの耳がぴくりと動く。
さらに。
ギュイイイイィィン!!
鋭く唸る魔導ギター。
ドドドドドドドッ!!
連続で叩き込まれる激しいツーバス。
ズンッ!
ズンッ!
ズンッ!
空気そのものが震えていた。
ナラが目を丸くする。
「わぁっ! 地面が踊ってる!」
「踊ってへん、震えとるだけや!」
ビルムがすかさず突っ込む。
ミリアは真顔で呟いた。
「胃が拍手してる。」
「なんやその感想。」
「内臓が喜んでる。」
「そんなライブ初めて聞いたわ。」
音のする方へ向かうと、大きな交差点の一角には人だかりができていた。
「うおおおおーーっ!!」
「最高だーー!!」
「もう一曲!!」
若者だけではない。
冒険者、商人、旅人、さらには年配の客まで拳を突き上げ、熱狂している。
その中心にいたのは、六人組のバンドだった。
最後列でドラムを叩くのは、逆立つような真っ赤なモヒカン頭の男。
鬼気迫る表情でスティックを振り下ろし、豪快なリズムを刻んでいる。
その隣では、丸眼鏡を掛けた落ち着いた青年が、重厚なベースラインを響かせていた。
中央左には、腰まで届く長い黒髪を揺らしながら歌い、ギターをかき鳴らすギターボーカル。
真ん中では、燃えるような眼差しの男性ボーカルが拳を突き上げ、魂をぶつけるようにシャウトしている。
さらに中央右、澄み切った歌声でハーモニーを重ねる可愛らしい女性ボーカル。
そして少し後ろでは、黒い衣装をまとった凛々しい女性ギタリストが、流れるような速弾きを披露していた。
六人それぞれが放つ個性がぶつかり合い、一つの巨大な熱量となって観客を飲み込んでいる。
「「「うおおおおおーーっ!!!」」」
歓声が爆発した。
ビルムは思わず口元を緩める。
「……これはまた、とんでもないのおったな。」
ミリアは演奏を見つめたまま、小さく呟く。
「音が戦ってる。」
「確かにそんな感じやな。」
ナラは目を輝かせながら両手を振り上げた。
「かっこいいー!! ボクも頭ああいう髪型にしたい!」
ビルムはモヒカン姿のドラマーを見て目を輝かせる。
「ピクシーのモヒカンは見てみたいけど、たぶん誰も止められへんようになるで。」
ナラは胸を張る。
「強そうでしょ!」
「見た目だけや!」
三人は顔を見合わせる。
そして自然と頷いた。
この六人組もまた、魔王運動会のライブを大いに盛り上げてくれそうな逸材だった。




