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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領海洋都市国家、アトラマリス

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119.手掛かり、見つかる

ガエン達は店を出ると、人通りの少ない運河沿いまで歩いた。

潮風が静かに吹き抜け、酒場の喧騒も遠ざかっていく。

ガエンは周囲を見回し、人目がないことを確認すると足を止めた。


「さて、情報を整理するか。」


三人が頷く。

ダグラスが腕を組む。


「まず気になるのはレオナルドの用心棒だな。」


「ああ。」


ガエンも頷いた。


「そしてオリバが言っていた”ヤツ”だ。」


ラーシャが静かに言う。


「二人が同一人物という可能性は十分あります。」


「でも、まだ証拠はないよね。」


マイトが首を傾げる。


「噂だけで決めつけるのは危ないと思う。」


「その通りだ。」


ガエンは即座に答えた。


「推測だけで動けば、相手の思う壺になる。」


少し考え込んだ後、ダグラスが口を開く。


「じゃあどうやって確かめる?」


ガエンは顎に手を当てる。


「同じ人物なら、どこかで繋がっているはずだ。」


「レオナルド側を探るか?」


「いや。」


ガエンは首を横に振る。


「海運王本人に近づくのは難しい。用心棒も姿を見せないとなればなおさらだ。」


ラーシャも同意する。


「アルバレス商会も警戒が厳しいです。」


「どっちも正面突破は無理だよねぇ。」


マイトが肩を落とした、その時だった。


「……いや。」


ガエンが何かを思い出したように目を細める。


「そういえば。」


三人が一斉に顔を向ける。


「船でラーシャをナンパしようとして絡んできたゴロツキ達。」


「ああ、あいつら?」


マイトも思い出した。


「あいつらが何か?」


ガエンは静かに頷く。


「あいつら、港で誰かと話していただろ。」


ラーシャもすぐに思い出す。


「黒い外套を着た男ですね。」


「ああ。」


ガエンは記憶を辿るように目を閉じる。


「ゴロツキはあの男を『仲介人』と呼んでいた。」


ダグラスの眉がぴくりと動く。


「確かにそうだったな。」


「最初はただの裏稼業の仲介役かと思っていた。」


ガエンはゆっくりと言葉を続ける。


「だが、今なら話が変わる。」


ラーシャも考え込む。


「アルバレス商会は歓楽街にも強い影響力があります。」


「ええ。」


「つまり、その仲介人もアルバレス側の人間……。」


ガエンは静かに頷いた。


「少なくとも、アルバレスと繋がっている可能性は高い。」


マイトが身を乗り出す。


「ってことは、その仲介人を見つければ”ヤツ”の情報も聞き出せるかもしれない?」


「聞き出せればな。」


ダグラスが苦笑する。


「相手も馬鹿じゃねぇ。」


ガエンは小さく笑った。


「だから真正面から聞くつもりはない。」


「え?」


「向こうから近づいてくるように仕向ける。」


三人は顔を見合わせた。

ガエンは運河の水面を見つめながら続ける。


「仲介人ってのは、人と人を繋ぐ仕事だ。依頼人を探し、腕の立つ者を紹介し、金を動かす。つまり、常に『使えそうな人材』に目を光らせている。」


ラーシャはその意図に気付き、小さく微笑んだ。


「私達が、その”使えそうな人材”になればいいんですね。」


「その通り。」


ガエンは頷く。


「腕の立つ冒険者がこの街に現れたと噂になれば、仲介人の耳にも入る。」


ダグラスがニヤリと笑う。


「餌を撒いて魚を釣るってわけか。」


「そういうことだ。」


マイトは拳を握る。


「じゃあ、何か派手な依頼でも受ける?」


「それも一つの手だが、目立ち過ぎるのは避けたい。」


ガエンは首を横に振る。


「黒服にも目を付けられている。動きすぎればアルバレス側に警戒される。」


ラーシャも真剣な表情で続けた。


「適度に実力を見せ、裏社会の耳に入る程度が理想ですね。」


「そうだ。」


ガエンは三人を見渡した。


「目標は仲介人との接触。その先にいる”ヤツ”へ繋がる糸を掴む。そして。」


ガエンの表情が引き締まる。


「レオナルドの用心棒と、オリバが恐れる”ヤツ”が同一人物なのか、その確証を得る。」


四人は静かに頷き合う。

運動会のスポンサー探しから始まった旅は、いつしか海洋都市国家アトラマリスの裏社会へと深く踏み込み始めていた。

そしてその第一歩は、一人の正体不明の「仲介人」を探し出すこと。

四人は翌日から、その仲介人が現れそうな港や歓楽街、裏路地の酒場を慎重に探り始めることを決めるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝。

ガエン達は宿で朝食を済ませると、まだ人通りの少ない港へ向かった。

朝日に照らされた桟橋では、漁船が次々と出港し、商船からは荷物が運び出されている。

船乗り達の威勢のいい掛け声が飛び交い、港は一日の始まりから活気に満ちていた。

ガエンは周囲を見渡す。


「まずはここだ。」


「あの黒い外套の男が現れるとしたら港が一番可能性が高いね。」


マイトが辺りを見回す。

ラーシャはさりげなく魔力で聴覚を強化し、人々の会話へ耳を澄ませる。

ダグラスは荷運び人夫や船乗り達の様子を観察していた。

四人は昼近くまで港を歩き回った。

酒場。倉庫街。船着場。船員達の休憩所。

それらしい人物を見かける度に遠目から確認する。


しかし。


「違うな。」


「こっちも違います。」


「外套は着てても別人だね。」


何人もの黒い外套姿を見つけたが、船で見た男とは体格も歩き方も違っていた。

昼頃になると、ガエンは小さく息を吐く。


「今日は港には来てないか。場所を変えよう。」


四人は港を後にし、歓楽街へ向かった。

昼間の歓楽街は夜ほど派手ではない。

それでも酒場やカジノは営業しており、昨夜とは違う客層で賑わっていた。

ガエン達は昨日訪れたカジノの周囲を歩き、出入りする者達を観察する。

黒服達の姿はある。だが、黒い外套の男はいない。

その後もバーを何軒か回り、それとなく話を聞く。


「黒い外套?」

「見ないねぇ。」

「そんな奴なら目立ちそうだが。」


どこでも同じ答えだった。

夕方が近づく頃、マイトが肩を落とす。


「全然見つからないね。」


ダグラスも腕を組んだ。


「相手も毎日同じ場所に現れるほど間抜けないか。」


ガエンは少し考える。


「表通りにいないなら……もっと裏だ。」


ラーシャが頷く。


「裏社会の仲介人なら、表の店より裏路地の方が自然ですね。」


四人は歓楽街の外れへ向かった。

賑やかな通りから一本入るだけで景色は一変する。

建物は古く、石畳はひび割れ、昼間でも薄暗い路地。

昼間から酒を飲む荒くれ者や、顔を隠した客が行き交っていた。

ガエン達はその一角にある小さな酒場へ入る。

店内には傷だらけの冒険者や船乗り、訳ありそうな男達が酒を飲んでいる。

四人が入ると、一瞬だけ視線が集まったが、すぐに誰も興味を失ったように酒へ戻った。

ガエンはカウンターへ歩み寄る。


「エールを四つ。」


店主は無言で酒を並べる。

しばらく雑談を交わした後、ガエンは自然な口調で尋ねた。


「そういや、この辺で黒い外套を着た仲介人って見かけないか?」


店主の手が一瞬だけ止まる。

だが、すぐに何事もなかったようにジョッキを磨き始めた。


「……誰から聞いた。」


「港で少しな。」


ガエンは曖昧に答える。

店主は四人の顔を順番に見た。

敵意はない。ただ値踏みするような目だった。

やがて小さくため息をつく。


「名前は知らねぇ。だが、それらしい男を見たって話なら聞いたことがある。」


四人の表情が引き締まる。


「どこだ?」


ダグラスが低く尋ねる。

店主は声を潜めた。


「スラム街だ。」


「スラム街?」


マイトが思わず聞き返す。


「ああ。」


店主は静かに頷く。


「夜になると黒い外套の男が何度か出入りしてたって話だ。」


ラーシャがガエンを見る。


(やっぱり……。)


ガエンも小さく頷いた。

店主はさらに続ける。


「何をしてるかは誰も知らねぇ。だが、普通の商人が行く場所じゃない。裏の仕事をしてる奴なら不思議じゃない。」


ガエンは慎重に尋ねる。


「そのスラム街はどこにある?」


店主は答える前に、しばらく黙り込んだ。

そして真剣な表情で四人を見据える。


「……やめとけ。」


「?」


「興味本位で行く場所じゃねぇ。」


店内の空気が少しだけ重くなる。

店主は低い声で続けた。


「この街のスラム街は、港の裏社会でも一番治安が悪い。盗賊、ならず者、闇商人、逃亡者……何でもいる。昼でも油断すりゃ身ぐるみ剥がされる。」


ダグラスが腕を組む。


「そんなに危険か。」


「ああ。」


店主は迷いなく頷く。


「腕に自信がある連中でも、あそこへは一人じゃ近づかねぇ。特に最近は、得体の知れない連中まで出入りしてるって噂だ。」


ガエンは礼を言って酒代を置く。


「貴重な話、助かった。」


店主は最後にもう一度だけ忠告した。


「もし本当に行くつもりなら覚えておけ。スラム街じゃ、命より安いものなんていくらでもある。だが、命より高くつく失敗は、一度しかできねぇ。」


その言葉を胸に刻みながら、ガエン達は酒場を後にした。

仲介人へ繋がる手掛かりは、ついに見つかった。

しかし、その先に待っているのは、アトラマリスで最も危険と噂されるスラム街だった。

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