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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
エルフ領到達編
90/100

80.上級、再び⑤

「ギィィィ――ッッッ!!!!」


 突如現れたルシウスへ向け、死殻は無数の瘴気弾を放つ。

 黒い弾丸の群れは空を埋め尽くしながら一斉に襲い掛かった。


 しかし、ルシウスは慌てる様子もなく魔法を発動する。


「操風球(シル・フォース・レイ)!」


 その瞬間、砕けた地面の破片が突如として宙へ舞い上がる。

 大小様々な石礫が下方から飛来し、ルシウスの周囲を高速で旋回した。


 そして次々と瘴気弾の前へ割り込み――激突。

 轟音とともに石礫が砕け散るが、一つが砕ければ次の一つが盾となり、無数の瘴気弾を次々と防ぎ切っていく。


 操風球(シル・フォース・レイ)とは、風を纏わせることで周囲の物体を意のままに操る風魔法である。

 ルシウスは戦闘によって砕かれた地面の破片を利用し、自らを守る防壁として機能させていた。


「まだまだ、こんなものではないぞ」

「ギィィィ――ッッ!!」


 ルシウスが杖を振ると、周囲を旋回していた石礫が一斉に加速した。

 風によって高速回転を始めた石礫は、そのまま弾丸へと変貌する。


 空気を裂きながら放たれた無数の石弾が死殻へ殺到した。


 ――ドドドドドドドッ!!


 連続する衝撃音。

 石弾は甲殻へ次々と叩き込み、その巨体を激しく揺さぶる。

 さらに地上では、砕かれた岩盤や土塊が次々と風に巻き上げられていた。


 土砂と石礫は渦を描きながらルシウスの周囲を旋回し、即席の要塞のような防御陣を形成する。そして、その一部が絶え間なく切り離されては弾丸となり、死殻へ向けて撃ち出され続けた。


「ギィィィ――ッッッ!!!」


 ――ドドドドドドドドドッッッ!!!!

 ――ガガガガガガガガガッッッ!!!!


 死殻の口元の触手から無数の瘴気弾が放たれる。

 それに呼応するように、ルシウスの周囲を旋回していた石礫が次々と射出された。


 瘴気と岩石。

 二つの弾幕が空中で激突し、凄まじい爆音を轟かせる。


 衝突の度に瘴気が霧散し、石礫が砕け散る。

 破片が雨のように降り注ぐ中、壮絶な撃ち合いが繰り広げられていた。



 打ち漏らした瘴気弾がルシウスへ迫る。

 しかし、その悉くをアルファが迎撃した。


 風の刃が瘴気弾を切り裂き、暴風が軌道を逸らす。

 アルファの援護によって、死殻の攻撃は一発たりともルシウスへ届かない。


 一方で、死殻にはそれがなかった。

 巨体であるがゆえに回避は困難。石礫の大半は瘴気弾との衝突で砕け散ったものの、撃ち漏らされた弾丸は確実に死殻へ到達する。


 ――ガガガガガッ!!


「ギィィ――ッ!」


 高速で射出された石礫が甲殻へ叩き込まれると、強固な殻に亀裂が走り、破片が弾け飛んだ。絶え間なく降り注ぐ石弾は、まるで攻城兵器の砲撃のように死殻の外殻を削り取っていく。


 質量を持った物体が超高速で叩き込まれる威力は凄まじい。

 砕かれた甲殻の下では肉が裂け、黒ずんだ体液が飛び散る。


 死殻の身体には次々と傷が刻まれ、その巨体は目に見えて削られていった。

 そして――


「ギィィィィィ――――ッッッ!!!!」


 死殻が突如として脚を高く掲げ、その先へ膨大な瘴気を収束させ始めた。

 それは、幾度となく見た動作だった。


「……?」


 ルシウスが眉をひそめる。

 あの攻撃は、収束した瘴気を地面へ叩きつけることで衝撃波と瘴気を撒き散らす技であり、地上の敵を一掃するには極めて有効な攻撃。

 だが――


「上空にいる俺に、何故……?」


 空を飛ぶ相手には決定打になり得ない。

 ましてや初見では無い以上その効果は薄く、現にルシウス自身、先程その攻撃を受けて吹き飛ばされているが、それで受けた傷は僅かなものだった。


 何故、今になって同じ攻撃を使おうとしているのか。

 疑問を抱きながらも、死殻の脚へ収束する瘴気は止まらない。


 そして――その答えは次の瞬間に示された。


「ギィィィィ――――ッッ!!!」

「なッ――!?」


 死殻の巨体が持ち上がる。

 まるで獲物へ飛び掛かる巨大な蜘蛛のように、八本ある脚のうち四本で身体を支え、残る四本を浮かせるようにして上体を大きく持ち上げたのだ。


 予想外の動きにルシウスとアルファの反応が一瞬遅れる。

 そして死殻は、地面へ叩きつけるはずだった瘴気を纏う脚を、そのままルシウスへ振り下ろした。


「しまっ――!」


 膨大な瘴気を纏った巨大な脚が、ルシウスを叩き潰さんばかりの勢いで迫る。


「クゥアアア――ッッ!!」


 死殻の奇襲に虚を突かれたアルファだったが、主人の危機に反応する。

 大きく翼を打ち鳴らし、魔法も使って強引に回避しようとする。

 だが――


「ギィィィィ――ッッ!!!」

「――っ!!」


 死殻の脚はそれ以上に速い。

 瘴気を纏った巨大な脚が空気を引き裂きながら迫る。


 回避は間に合わない。

 ルシウスがそう確信した、その瞬間。


「貫光球(ルーラ・ルクス・レイ)!」

「閃刃!」


 二つの声が戦場に響いた。

 セルフィとエルナの放った一撃が、死殻の身体を支える脚へ同時に叩き込まれる。


 ――ガギィンッ!!


 凄まじい衝撃が走った。

 支柱となっていた四本の脚のうち二本が大きく損傷し、死殻の巨体が激しく揺らぐ。


「ギィッ!?」


 死殻の動きが止まり、均衡を失った巨体が大きく傾く。

 振り下ろされようとしていた脚の軌道も大きく逸れた。


「クゥア――ッ!!」

「くっ……おおぉッッ!」


 アルファが力の限り翼を打ち鳴らす。

 迫り来る巨大な脚の直下を掠めるように飛び抜け、その一撃を紙一重で回避した。


 同時にルシウスが叫ぶ。

 目の前を通過していく死殻の脚へ向け、周囲を飛び交っていた石礫を一斉に収束。

 巨大な槌のようにまとめ上げ、そのまま叩きつけた。


 ――ガァァンッ!!


 凄まじい衝撃。

 無数の石礫が激突したことで、死殻の脚が強引に内側へ押し込まれる。


「ギィッ!?」


 折れ曲がる脚。

 その先にあったのは――――セルフィとエルナの連携によって胸部に刻まれていた大きな裂傷だった。


 身を起こしたことで露わになっていた傷口へ向かい、瘴気を収束させた脚が勢いそのままに突き刺さる。


「ギィィ――ッ」


 そして次の瞬間――


 ――ドオオォォォォォオオオオン!!!!!


 ――収束していた瘴気が暴発した。

 胸部の内部から解き放たれた膨大な瘴気が爆発的に膨張し、衝撃波となって四方へ吹き荒れる。


 死殻自身の肉体を内側から食い破るように、甲殻が砕け、肉が裂ける。

 そして、頭部が胴体から引き剥がされるように吹き飛び、空高く打ち上げられた。


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