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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
エルフ領到達編
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79上級、再び④

 死殻が収束させていた瘴気が臨界点へ到達する――その寸前に、エルナは動き出していた。


「くっ――!」


 迫り来る死を前に、エルナは目の前の地面へ向かって双剣を振るう。

 振り抜かれた刃から伸びた魔力の刃が大地を切り裂き、幾筋もの深い亀裂を刻んでいく。


「はぁッ!!」


 次の瞬間、エルナは双剣を逆手に持ち替える。

 そして全身の力を込め、二本の刃を地面へ叩きつけるように突き刺した。


 刹那、その反動で亀裂に囲まれた地面が激しく跳ね上がる。

 砕けた岩盤と土砂を撒き散らしながら、大地そのものが無理やりめくれ上がり、エルナの眼前へ立ちはだかった。


 それは人の背丈を遥かに超え、十分な厚みを備えた即席の防壁だった。

 そして――


「――――ッッ!!!!!」


 死殻の口から解き放たれた瘴気の咆哮が襲来する。

 黒く濁った破壊の奔流は周囲の空間を歪ませながら一直線に迫り、次の瞬間、轟音とともに防壁へ激突した。


 大地が揺れる。

 衝撃で周囲の土砂が吹き飛び、視界が砂煙に覆われる。

 エルナは背後から両手で防壁を押さえ込み、全身に魔力を漲らせながら必死に耐えた。


 しかし――すぐに限界が来た。


 攻撃を受け止めている箇所から瘴気に侵され、表面を溶かし、削り取っていく。

 分厚かった防壁は見る見るうちに薄くなり、その質量を失っていく。


「――っ!」


 エルナの額から汗が流れ落ちる。

 防壁が砕かれれば、その先に待つのは確実な死だ。


 迫り来る破滅を前に、防壁はなおも音を立てながら崩壊への道を辿っていた。




 ――ダンッッッ!!!


 アウレインが地面を力強く蹴る。

 爆発的な踏み込みによって土砂が弾け飛び、一瞬で死殻との距離を消し去った。


 アウレインは勢いを緩めることなく死殻の脚部へ飛び乗る。

 さらに脚を蹴り、胴体を駆け上がり、背中を踏み砕く勢いで跳躍した。


 巨体を足場にしながら一気に頭上へと駆け上がり、その頭部を越える高度へ身を躍らせる。


 その背の上で、セルフィはすでに矢を番えていた。

 限界まで圧縮された聖気が矢へと収束していく。


 眩い光が弓身を包み込み、周囲の空間さえ白く染め上げる。

 狙うのは一点。


 先ほどヴァルガとヴォルグの猛攻によって甲殻が剥がれ落ちた左側面。

 露出した頭部の傷口だった。


「――貫光球(ルーラ・ルクス・レイ)!!」


 放たれた瞬間、矢に封じ込められていた光が解放される。

 迸った光は巨大な光線となって空間を貫き、一瞬で死殻の頭部へと到達すると、そのまま内部を貫通した。


「ギィィィィッ――!!」


 死殻の絶叫が辺りに響いた。

 頭部の左半分が弾け飛ぶように消滅し、死殻の巨体が大きく揺らぐ。


 咆哮を吐き出していた口元から瘴気が霧散する。

 支えを失ったように身体が傾き、そして――


「ギィ――ィ……ッ」


 ――轟音とともに死殻は地面へ崩れ落ちた。



「エルナッッ!!」


 崩れ落ちる死殻を横目に、セルフィは脇目も振らずエルナのもとへ駆け出した。

 エルナが盾としていた防壁は、瘴気の咆哮によってほとんど溶かされている。

 もはや原形を留めている部分の方が少なかった。


 最悪の想像が脳裏を過ぎり、セルフィの顔から血の気が引いた。

 その時だった。


 ――ガラッ。


 辛うじて形を保っていた防壁が崩れ落ちる。

 舞い上がる土埃の向こうから、一人の少女の姿が現れた。


「――!」


 エルナだった。

 衣服は土と砂にまみれ、ところどころに瘴気の影響を受けた痕跡も見える。

 だが、その足はしっかりと地面を踏み締めていた。


「エルナッ!!」

「セルフィ……って――ッ!」


 次の瞬間、セルフィはアウレインの背から飛び降りていた。

 そしてそのままエルナを強く抱きしめる。


 勢いよく抱き寄せられたエルナは目を丸くした。

 一瞬何が起きたのか理解できず固まる。


「良かった……。生きた心地がしなかったよ」


 だが、その絞り出すような声を聞いて、すぐに安心させるようにセルフィの背中に手を回すと、小さく微笑みながらお礼を言う。


「セルフィが助けてくれたお陰だよ。本当にありがとう」


 その言葉を聞き、セルフィはようやく肩の力を抜いた。


 そこへヴァルガとヴォルグも駆け寄ってくる。

 二体はエルナの周囲を回りながら怪我がないか確かめるように鼻先を寄せた。


「ふふっ、大丈夫だよ」


 エルナは少し照れ臭そうにセルフィの腕の中から離れる。

 そして心配そうな二体の頭を優しく撫でた。

 ヴァルガもヴォルグも安心したように喉を鳴らし、その手に頭を擦り寄せるのだった。


「さ、いつまでもこうしてはいられないよ。ルシウスを探しに行こう」


「そうだね……どこまで飛ばされたのかな?」


 エルナの無事を確認し、ようやく胸を撫で下ろしたセルフィは周囲を見渡した。

 戦闘の余波によって地形は大きく変わっている。

 ルシウスが吹き飛ばされた方向も分からない。


 まずは居場所を探さなければ――そう考えた、その時だった。

 視界の端で何かが動く。


「――っ!!」


 セルフィが目にしたのは、倒れたはずの死殻。

 その巨体が、ゆっくりと身を起こしている場面だった。


 半ば消滅した頭部から瘴気を漏らしながら、それでもなお立ち上がろうとしている。

 すると、死殻の周囲に複数の瘴気弾が出現した。


「――っ!」


 それを見たセルフィは反射的に矢を引き抜くと、弓を引き絞った。

 放たれた矢は光を纏って一直線に飛翔し、迫り来る瘴気弾へと命中した。


 ――ドォォォォンッッッ!!!


 轟音。

 光と瘴気が激しく衝突し、空中で相殺される。


「なっ……!」


 エルナも異変に気づき、目を見開いた。


「頭を半分吹き飛ばされて、まだ動くのか!?」


 驚愕しながらも双剣を振るう。

 放たれた斬撃が次々と瘴気弾を切り裂き、その軌道を逸らしていく。


 アウレインは即座に結界を展開。

 ヴァルガとヴォルグも魔法を放ち、飛来する瘴気弾を迎撃した。


「ギィィィィィ――――ッッッ!!!」


 完全に身を起こした死殻が咆哮する。

 半分だけ残った頭部。そこに残された片眼がセルフィたちを見据えていた。


 さらに周囲の瘴気を集め出した、その瞬間――


「風球(シル・レイ)!」


 鋭い声が戦場に響く。

 直後、別方向から飛来した風の塊が死殻へ激突した。


「ギィィィ――ッ!?」


 炸裂した風球から暴風が解き放たれる。

 凄まじい風圧が死殻の巨体を揺るがし、その身体を大きく仰け反らせた。


「まったく……ようやく戻ってこれた」

「「ルシウス!!」」


 聞き慣れた声に、セルフィとエルナが一斉に振り返る。

 そこにはアルファに騎乗したルシウスの姿があった。


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