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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
エルフ領到達編
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77.上級、再び②

「ギィィィィ――ッッ!!!」

「――っ!」


 甲高い咆哮とともに、死殻が脚を振り下ろす。

 強固な甲殻に覆われた細長い脚が、巨大な杭のように大地へ突き刺さった。


 ――ドゴォォォンッ!!


 凄まじい轟音が響き渡る。

 衝突の衝撃で地面が陥没し、砕けた岩と土砂が周囲へ吹き飛んだ。


「ギィィィッッ!!」


 だが、それで終わりではない。

 一本目の脚が地面を穿った直後、今度は別の脚が振り上げられる。


 死殻は複数の脚を次々と叩きつけ、大地そのものを破壊していく。

 地面は砕け、亀裂が走り、激しい衝撃が周囲へと広がる。


「くっ――!」


 エルナは、振り下ろされる脚の軌道を見極めながら、跳び、駆け、身を捻って回避する。さらに回避しきれない攻撃に対しては双剣を振るい、放たれた不可視の斬撃で脚の軌道を逸らす。


 一方でヴァルガとヴォルグも止まらない。

 二体の狼はエルナを援護するため、周囲を駆け回りながら属性の異なる魔法を次々と叩き込む。


 この場で最も大きな傷を与えたエルナは、完全に死殻の標的となっていた。

 死殻の猛攻を正面から受け止め――いや、正確には躱し続けながら、その意識を引き付けている。



 その間に、セルフィとルシウスは別方向から攻撃を重ねていた。

 セルフィは死殻の側面へ、ルシウスはアルファに騎乗し、上空へと移動しながら、三方向から死殻を包囲していた。


「光球(ルーラ・レイ)!」


 セルフィがアウレインの背で弓を引き絞る。

 放たれた矢は高く空へ舞い上がり、大きな弧を描きながら飛翔する。

 そして、狙い通り死殻の背中へと突き刺さった。


 次の瞬間、矢に込められていた光魔法が解放される。


 ――ドォォォォンッ!!


 眩い閃光とともに巨大な光球が炸裂した。

 光の奔流が死殻の背中を呑み込み、周囲の瘴気を吹き飛ばす。

 そして――


 ――ビキィッ!


 小さな音が響く。

 威力を重視して放たれた一撃は、甲殻の一部へ亀裂を刻んでいた。

 ほんの僅かな損傷――しかし、それで十分だった。


「風圧(シル・トゥール)!」

「クゥアッッ!!」


 その瞬間、ルシウスの意図を察したアルファが急降下を開始する。


 ルシウスが発動したのは、本来なら相手を押さえ込むための拘束魔法。

 だが、今回はそれを自らへ作用させるように発動した。


 上空から下方へ向かう風圧。

 その力を利用し、自身とアルファを加速させる。


「クゥアアアア――ッッ!!」


 アルファが咆哮と同時に翼から暴風を放出し、さらに加速。

 次の瞬間には死殻の背中へ肉薄していた。


 狙う場所は、セルフィが作り出した甲殻の亀裂。

 そこに、加速を力に変えアルファの鋭い鉤爪が振り下ろされる。


 ――バキィィィンッッッ!!!!


「ギィィィ――ッッ!!!」


 激しい破砕音が戦場に響き渡る。

 小さな亀裂は一瞬で全体へ広がり、背中の甲殻が砕け散る。

 無数の破片が宙を舞い、黒く染まった肉体が露出した。


「「グルルルル――!」」


 その隙を逃さず、ヴァルガとヴォルグが動く。

 先ほどまで正面で死殻の攻撃を引き付けていた二体は、死殻の動きが止まった瞬間、その場で鋭く足を踏み締めた。


 四肢に力を込め、大地へ根を張るように踏ん張る。

 そして大きく口を開くと、そこへ膨大な魔力を集めていく。


 圧縮された魔力は密度を増し、火球と水球は輪郭が揺らぐほどの力を帯びる。

 限界まで圧縮されたそれらは、淡く輝きを放っていた。

 そして――


「「ガァアアアア――ッッ!!」」


 二体が同時に咆哮を上げた、次の瞬間。


 圧縮されていた魔力が一気に解放された。

 火球と水球は一直線に空を裂き、死殻へ向かって突き進む。


 ――ドオォォォォンッッッ!!!!


「ギィィ――ッ!!」


 死殻の頭部で凄まじい爆発が巻き起こった。

 圧縮されていた炎と水が解放されると、その衝撃破が周囲へ吹き荒れ、死殻の巨体を大きく揺らした。


 ――バキンッ!!


 甲殻が砕ける音が響く。

 頭部を覆っていた甲殻の一部が弾け飛び、その下にある黒ずんだ肉体が露出した。


 大きく頭を振られた死殻の身体が揺れ、その巨体がわずかにふらついた。

 その瞬間――


「はぁあああ――ッッ!!」

「ギィッ!?」


 エルナが、ふらつきによって下がってきた頭部の下へ潜り込む。

 そして全身の力を双剣へ乗せ、下から突き上げるように全力で跳躍を行った。


 ――ガァァンッ!!


 鈍い衝撃音が響き渡る。

 双剣が死殻の顎を捉えた瞬間、その巨体の首が大きく跳ね上がった。


 だが――


「「「――っ!!!」」」


 ギロリ――と死殻の眼球がセルフィたちを睨む。


 揺れる身体を無理やり制御するように、一本の脚がゆっくりと持ち上がる。

 すると、脚の先端に黒紫色の瘴気が渦を巻きながら収束し、その密度を急激に高めていく。


「――っ!!」


 その予備動作から次の攻撃を察したセルフィたちだったが、エルナは先ほどの追撃を終えた直後であり、ヴァルガとヴォルグも限界まで圧縮した魔法を放ったばかりで、次の行動へ移せなかった。


「クォンッ」


 すると、アウレインがセルフィを乗せたまま勢いよく飛び出す。

 死殻の脚の間から、その巨体の真下へと潜り込むと、頭部の方へ走り出した。


 そこでセルフィの視界に飛び込んできたのは、エルナが刻み付けた傷だった。

 胸を横切る一文字の裂傷。


 胸部を覆っていた甲殻は砕け、その下の肉体が露出している。

 死殻の防御が失われた、数少ない急所だった。


 アウレインの意図を察したセルフィは、即座に弓を構える。

 可能な限り聖気を込め、矢を放つ。


「貫光球(ルーラ・ルクス・レイ)!」

「ギィ――ッッ!?」


 眩い光線となったそれは一直線に空間を貫き、吸い込まれるように死殻の胸部へ突き進み、寸分違わず傷口へ直撃する。

 そして――


 ――ズガァァァンッ!!


 光が炸裂した。

 セルフィの放った矢は勢いを失うことなく死殻の肉体へ深々と食い込む。

 貫通こそしなかったが、その一撃は傷口をさらに抉り広げ、内部へ甚大な損傷を与える。


「ギィィィィッッ!!」


 死殻が甲高い悲鳴を上げ、その巨体が一瞬止まる。

 そして――


「風球(シル・レイ)!」


 その隙を見逃さず、ルシウスが追撃する。

 狙うのは掲げられた脚――その先端で渦巻く瘴気だった。


 放たれた風魔法は一直線に飛翔し、狙い違わず瘴気の中心へ命中した。

 圧縮された暴風が解放される。

 先程と同じように、収束していた瘴気を吹き散らす――


「なッ!?」


 ――はずだった。


 確かにルシウスの魔法は命中した。

 だが、暴風に晒されてもなお、収束した瘴気は形を保ったままだった。



 ルシウスの誤算は、一つだけ。

 死殻が瘴気の収束を止めなかったことだった。


 通常、死殻が用いるこの技は、一定量まで瘴気を圧縮した時点で収束を止める。

 それ以上圧縮を続ければ制御が難しくなるため、十分な威力に達したところで瘴気を安定させ、その状態で地面へ叩きつけるのだ。


 だからこそ、ルシウスの風魔法は有効だった。

 完成した瘴気の塊を暴風で吹き散らし、発動そのものを妨害できた。


 だが――今回は違った。

 開幕直後に同じ方法で技を阻止された死殻は、本能的に学習していたのだ。


 収束を止めず、地面に叩きつける瞬間まで収束を続ける。

 ただそれだけの変化。


 しかし、その差は決定的だった。


 暴風が命中した瞬間も、死殻は瘴気を収束し続けていた。

 吹き散らされた瘴気はごく一部。


 失われた端から新たな瘴気が流れ込み、圧縮を続ける。

 結果として、ルシウスの妨害はほとんど意味を成さなかった。


 そして――死殻の脚が振り下ろされる。


 ――ドオオォォォォォオオオオン!!!!!


 轟音とともに大地が砕ける。

 衝突地点を中心に地面が陥没し、無数の亀裂が蜘蛛の巣のように走った。


 同時に解放された濃密な瘴気が濁流のように噴き出す。

 黒紫色の奔流は周囲一帯を呑み込みながら広がり、視界を埋め尽くしていく。

 衝撃波が大気を震わせ、吹き荒れる瘴気が木々や岩をなぎ倒す。


 数か月前にセルフィたちを全滅寸前まで追い込んだ死殻の一撃が、再び放たれたのだった。




 セルフィたちは確かに強くなっていた。

 前回、死殻と戦った時とは比べものにならないほど連携は洗練され、それぞれの技量も大きく向上している。


 ――だが、彼らと上級個体では、内包しているエネルギー量が違いすぎる。


 セルフィたちが幾度も攻撃を重ね、少しずつ傷を積み上げていくのに対し、死殻はたった一撃で戦況そのものを覆してしまうことを忘れてはいけない。


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