閑話6.白き守護獣
彼が最初に目にしたのは、どこか質素な小屋の内側だった。
窓ひとつなく、家具らしいものも置かれていない、ひどく殺風景な空間。――彼は、そこで生まれた。
やがて、胸の奥に微かな温もりがあることに気づく。
それは内側に留まらず、外へと細く伸びているようで――見えない糸に導かれるように、彼はゆっくりと足を踏み出した。
小屋の戸口を抜けた瞬間、視界が白く弾ける。
彼を迎えたのは、降り注ぐ太陽の光だった。
眩しさに思わず目を細める――だがその輝きは、決して拒むものではない。
むしろその光は、どこか懐かしいもののように、彼の内側へと静かに馴染んでいった。
しばらくして、彼は気づいた。
自分の周囲に、いくつかの“影”があることに。
その中の一つに、自然と視線が引き寄せられる。
理由は分からない。だが――その存在こそが、胸の奥で感じていたあの温もりと繋がっているのだと、確信に近い感覚があった。
互いに見つめ合う。
やがて、その人物がゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
彼はそれを疑うことなく受け入れ、身を寄せる。
次の瞬間、頭に触れた手が、優しく撫でてきた。
その温もりに、胸の奥が静かに満たされていく。
――だが、ふと。
その人物の身体に、痛々しい傷が刻まれていることに気づいた。
彼の内側で、何かが反応する。
考えるよりも先に、本能のまま、内から溢れ出した力を掴み取る。
その力は、触れた場所から静かに広がり、傷を包み込み、やがて癒していった。
そして――
『ありがとう。身体を癒してくれて。そして何より――生まれてきてくれて、ありがとう』
その言葉が届いた瞬間、彼の内側に温かなものが満ちていく。
意味のすべてを理解できたわけではない。だが、その声に込められた想いだけは、確かに伝わっていた。
優しく、深く、自分を受け入れてくれるもの。
それが何であるかを、彼はまだ知らない。
けれど、その人物――セルフィから向けられたその愛情は、彼にとって最初の贈り物となった。
セルフィとの日々は、彼にとってかけがえのないものだった。
食事のときも、散歩のときも――いつも隣にセルフィがいた。
その傍にいるだけで、不思議と心が落ち着く。だから彼は、当たり前のようにその隣に居続けた。
ある日のこと。
『そうだ。君に名前を付けてあげようと思ってね。昨日から考えていたんだ』
ふと思い出したように、セルフィがそう言った。
その表情は、どこか誇らしげで、同時に楽しげでもあった。
『君の名前は、アウレイン。とある言葉で“輝き”を意味するものから取ってみたよ』
彼から贈られた二つ目の贈り物――その名を、彼はすぐに受け入れた。
そしてその瞬間から、彼は“アウレイン”となった。
アウレインは聡く、セルフィの言葉を理解していた。
彼が何らかの重大な使命を背負っていることも、いずれ強大な敵と対峙する運命にあることも、すでに感じ取っている。
それでも――いや、だからこそ。
アウレインは、セルフィの傍に在ることを選んだ。
この優しい主を、最後まで守り抜くために。




