55.エピローグ
太陽の光が降り注ぐ中、ミレイユの祈りが静かに響き渡る。
村の広場には、数え切れぬほどの骨壺が整然と並べられ、その前では幾つもの火が焚かれていた。
立ち上る煙は細く長く空へと伸び、やがて青の中へと溶けていく。
その様子を、集まった村人たちは一様に厳粛な面持ちで見送っていた。
誰一人として声を発することなく、ただ静かに、天へと昇るものを見届けている。
いま行われているのは、故郷から回収された同胞たちの魂を送り出すための儀式。
――八十年越しの、葬送だった。
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上級不死族――死殻を討伐してから、数日。
セルフィたちは短い休息を挟み、一度村へと帰還した。
そこで彼らは、不死領域内の不死族を殲滅したこと、そして旧フィリナ領を解放したことを伝える。
その報は瞬く間に広がり、村は歓喜に包まれた。
涙を流す者、隣の者と笑い合う者、言葉にならぬ想いをぶつけるように踊り出す者――その反応は様々だったが、すべてがこの報せを心から喜んでいることを物語っていた。
やがて瘴気が薄れ始めると、セルフィたちは守護獣を護衛につけ、村人たちとともに旧フィリナ領へと向かう。
かつての故郷へ足を踏み入れ、同胞とエルフたちの遺体を、一人一人、丁寧に回収していった。
「八十年も経っているのに、ずいぶん綺麗な状態で残っていたね」
「うむ。瘴気領域内では不死族は食事を必要としない。瘴気の満ちる場所に魔物や動物が近づくこともないため、遺体や村が荒らされずに済んだのだろう」
瘴気に侵されてはいたものの、外的な損壊はほとんど見られず、村は当時の姿を色濃く残していた。
セルフィたちは村人たちとともに、遺体と遺品の回収を進めていく。
たとえ八十年の歳月が流れていようと、同胞のことを忘れる者などいない。
一人、また一人と身元を確かめながら、当時命を落とした者たちが欠けることなく揃っていることを確認していった。
さらに、護衛としてフィリナ族のために戦ったエルフたちも、骨格の違いから判別することができた。
彼らについてもまた、誰一人取りこぼすことなく、すべてを回収し終える。
「よかった……。同胞のみんなはもちろん、エルフたちも一人も欠けることなく迎えに来られた」
「そうだな。彼らのおかげで今がある。せめてもの恩返しはせねばな」
回収作業を終えたルシウスが立ち上がり、静かに周囲を見渡した。
「しかし、この土地はしばらく放置するしかないだろうな」
「やっぱり、瘴気の影響?」
「ああ。瘴気そのものは晴れたが、八十年かけて大地に染み込んでいる。この状態では作物は育たない――いわば死んだ土地だ。いずれは回復するだろうが、数百年は見ておく必要がある」
「まあ、気長に待とうよ。ここは結界の外だけど、いずれみんなも守護獣を誕生させられるようになるだろうし……何かしら活用できるはずだよ」
「そうだな。それがいい」
セルフィの言葉に、ルシウスは小さく頷く。
この地で、彼らは多くを失った。
だが同時に、決して乗り越えられぬと思っていた悲劇を、確かに乗り越えた場所でもある。
だからこそ――
ここは、ただの“失われた土地”では終わらせる気はなかった。
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立ち昇っていく煙を見送りながら、セルフィは静かに思いを巡らせる。
故郷は解放され、同胞たちを弔うこともできた。
長く胸に抱えていた責務は、ようやく果たされたのだ。
だが――それで終わりではない。
次に果たすべきは、自分たちのために戦ってくれたエルフたちへの恩返し。
彼らが守ろうとしたものに、今度は自分たちが応える番だった。
目指すは、エルフ領。
その道中にあるのは、大規模な不死領域。
決して容易な道ではない。
それでも――
セルフィは煙の向こうに視線を向け、密かに拳を握りしめた。
揺るがぬ決意が、その胸に静かに宿っていた。




