47.不死領域突入②
「どんどん増えていったけど、この辺りで頭打ちかな?」
「ガァアアア!!!!」
囮として不死族を誘導し始めてから数分。
セルフィを追ってくる間にも、周囲に散在していた不死族が次々と合流し、その数は膨れ上がっていった。だが、やがてそれ以上の増加は見られなくなり、群れの規模は一定で落ち着きを見せる。
「数は……十七、十八……十九体か」
セルフィは走りながら背後の気配を数え、冷静に戦力を把握する。事前の打ち合わせで想定していたのは、およそ二十体前後――この程度であれば、計画通り対処可能な範囲だ。
問題ないと判断したセルフィは、騎乗しているアウレインの首元を軽く叩いて合図を送る。意図を即座に理解したアウレインは蹄に力を込め、地を蹴る音を強めた。
速度が一段と引き上げられ、セルフィたちは罠の設置された地点へと一直線に駆け抜けていく。
だが、不死族たちもただ追いかけるだけではない。
「ガァアアア!!」
「グルルルゥ!!」
背後から迫る群れの中で、数体の不死族が頭上に瘴気を収束させる。凝縮された瘴気は次の瞬間、弾丸となって解き放たれ、セルフィへと殺到した。
「アウレイン!!」
「クルゥ!!」
危機を察知したセルフィが声を飛ばすと、アウレインは即座に進路を変え、標的を絞らせないようジグザグに軌道を描いて駆ける。次々と飛来する瘴気弾は、その機動で次々と回避されていった。
「光球!」
それでも数が多く、すべてを躱しきることはできない。セルフィは弓を引き絞り、迫る瘴気弾へと狙いを定める。矢の先に宿った光が放たれた瞬間、空中で瘴気弾と激突し、閃光とともに弾け飛んだ。
瘴気と光がぶつかり合い、相殺の衝撃が周囲の空気を震わせる。爆ぜる余波が地面を抉り、瘴気を巻き上げ、視界をさらに歪ませていく。
アウレインが駆け、不死族が追い、光と瘴気が交錯する。
その一瞬ごとに、戦場は激しさを増していった。
「まずいな……集団が縦に伸びすぎている」
迫り来る瘴気弾を相殺しながら、セルフィは背後の気配の異変に気づく。
現在、アウレインに騎乗したセルフィを先頭に、不死族の群れが一直線に追走している。しかしその隊列は密集を保てず、進行方向に沿って細長く引き延ばされていた。先頭と最後尾では、無視できない距離の差が生じている。
この先には、ルシウスとエルナが罠を仕掛けて待ち構えている。セルフィの役割は、その地点まで敵を誘導することだ。だが、このまま隊列が縦に伸びた状態では、罠を発動しても効果は前方の個体に限られ、後方の多くが取りこぼされることになる。
すなわち――現状のままでは、殲滅効率が大きく落ちる。
セルフィは速度を維持したまま、どうすれば散開した群れを再びまとめられるか、瞬時に思考を巡らせた。
「なら、こうだな……光球!」
セルフィは弓を引き絞り、背後から迫る群れの先頭に位置する不死族へと矢を放つ。通常よりも速度を重視して放たれた一射は、一直線に突き進み、その個体の身体へと突き刺さった。
直後、小規模な光の爆発が発生する。
光そのものは不死族の身体を損壊させるには至らない。しかし、爆発による衝撃が一瞬だけ動きを鈍らせ、足を止めさせるには十分だった。
その僅かな隙を突くように、後続の個体が次々と追いつく。細長く引き延ばされていた隊列は押し縮められ、群れは徐々に密度を取り戻していく。
「よし! あとはこれを繰り返して、一塊にしよう」
セルフィは確かな手応えを感じながら、次の一射へと意識を集中させた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「むっ! 来たぞ!」
泉跡の上空でアルファに騎乗していたルシウスが、前方から不死族の群れを引き連れてくるセルフィの姿を捉えた。
セルフィの巧みな誘導によって、不死族の群れは密集した一塊の状態を保っている。この密度であれば、すべての個体を罠の範囲内に収めることが可能だった。
「よし! そのまま泉跡を越えて、中心部に不死族を誘導してくれ!」
ルシウスの指示に応じるように、セルフィは片手を上げて合図を返すと、さらに速度を引き上げた。アウレインは力強く地を蹴り、乾いた窪地へと一気に踏み込む。
そのまま泉跡の中心部を駆け抜け、反対側の縁へと迫る。
わずかに遅れて、不死族の群れが雪崩れ込むように窪地の中心へと到達した。
「風圧!」
ルシウスは杖を不死族の群れへと向け、風魔法を発動した。
次の瞬間、上空から叩きつけるような強烈な風圧が降り注ぎ、不死族たちの動きを強制的に鈍らせる。
先日の戦いでも用いたこの魔法は、下級不死族を地面へ叩きつけ、そのまま拘束するほどの威力を持つ。だが今回は相手が中級であるためか、完全に押し潰すには至らない。
それでも、不死族たちは風圧に抗うために足を踏みしめ、その場に踏みとどまらざるを得なくなっていた。結果として、群れ全体の進行は大きく鈍り、その場に釘付けにされる形となる。
「よっと!」
セルフィと入れ替わるように、窪地の縁へ踏み出したエルナは、抱えていた巨大な壺を不死族の群れの上へと放り投げた。
壺が放物線の頂点に達した瞬間、振り向き様にセルフィが矢を放つ。
放たれた矢は寸分違わず壺を射抜くと、陶器は弾けるように砕け散った。
壺に満たされていた小麦粉が一気に解き放たれ、風に煽られて空気中へと広がっていく。
舞い上がった粉塵は白煙のように膨れ上がり、窪地の内側で渦を巻いた。
「よしっ! ヴァルガ!」
エルナの呼びかけに、傍らに控えていたヴァルガが即座に反応する。
地面を強く踏みしめ、四肢に力を込めると、すでに顎の奥で収束させていた炎をさらに圧縮する。凝縮された炎は高熱の輝きを帯び、空気を歪ませるほどの密度に達していた。
次の瞬間、ヴァルガはその炎を一気に解き放つ。
放たれた火球は一直線に不死族の群れへと突き進み――白く濁った粉塵へと直撃した。
そして――
――ドオオォォォォォオオオオン!!!!!
凄まじい爆発が巻き起こった。
火球が触れた刹那、空気中に満ちていた小麦粉の粉塵へ一斉に火が走り、窪地そのものが内側から膨れ上がるように燃え上がる。
高密度に圧縮されたヴァルガの炎が着火源となり、ルシウスの風魔法が粉塵を均一に拡散・滞留させていたことで、燃焼は瞬時に全域へ伝播した。三つの要素が重なり合い、爆発は想定を上回る威力へと膨れ上がっていた。
「くっ……!!」
耳をつんざく爆音とともに衝撃が大地を揺るがし、遅れて押し寄せた爆風が周囲を薙ぎ払う。その場にいた者たちは反射的に腰を落とし、足を踏みしめて体勢を低く保ち、吹き飛ばされぬよう耐えた。
「すごいな……これ」
爆風が収まり、揺れていた空気がようやく静まる。その先に広がる光景を目にして、セルフィは思わず呟いた。
窪地となっていた泉跡は、いまや燃える大地へと変貌していた。
立ち上る熱気は空間を歪ませ、焼けた空気は重く、喉を刺すように乾いていた。




