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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
旧フィリナ領解放編
49/63

43.周囲殲滅戦③


 セルフィがアウレインに騎乗し、廃坑から離脱する。それに呼応するかのように、五体の瘴牙獣もまた、その背を追って戦場を離れていった。


 アルファに騎乗し上空を旋回していたルシウスは、その一連の動きを見届けながら、静かに状況を分析する。


「(……遠方に散開していたはずの中級個体がここまで集結している。となれば、この周辺一帯の不死族は、すでに大半がここへ引き寄せられていると見ていい)」


「(それに、先ほどまで絶え間なく湧いていた個体数も明らかに減少している……終局は近いか)」


 上空という俯瞰的な位置にいることで、ルシウスは戦場全体の流れを正確に把握していた。

 断片的な情報を繋ぎ合わせ、導き出される結論は一つ――この戦闘は、間もなく終わりを迎える。


 ならば――ここが潮時だと彼は判断した。


「温存していた魔力も、ここが使いどころだろう」


 そう呟くと、ルシウスは静かに杖を構えた。

 普段よりも深く、より多くの魔力を引き出す――周囲の空気が震え、目に見えぬ圧が場を満たしていく。


 そして――


「旋風刃 (シル・ラン・ザルム)」


 ――ゴォオオオオオッ!!!!


 詠唱と同時に、門前に殺到し密集していた不死族の中心部へ、突如として巨大な竜巻が顕現する。

 渦巻く暴風は瞬く間に勢いを増し、その内部には無数の風刃を孕んでいた。


 巻き込まれた不死族の肉体は、逃れる間もなく四方から切り刻まれる。

 骨ごと断ち裂かれ、四肢は引き千切られ、無惨に分断された亡骸が、風に攫われるまま周囲へと撒き散らされていく。


 荒れ狂う竜巻はしばしその場を蹂躙し続け、やがて魔力の収束とともに消え去った。

 後に残されたのは、原形を留めぬほどに破壊された不死族の残骸と、ぽっかりと空いた殲滅の跡だけだった。


「ふぅ……早いところ片付けて、セルフィの応援に向かわねばな」


 息を一つ吐き、ルシウスは再び戦場へと視線を向けた。

 先ほどの一撃で大きく数を減らしたとはいえ、不死族の群れは未だ尽きてはいない。


 瓦礫と骸が散乱する門前には、なおも蠢く影がいくつも残されている。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「「「「「ガァアアアァアァァァ!!!!!」」」」」


 セルフィの背後では、五体の瘴牙獣が獲物を喰らわんとする殺意を剥き出しにし、咆哮を轟かせながら迫ってきている。


 だが、足場の悪い岩場は、アウレインにとって有利な地形だった。

 鋭い蹄で岩肌を的確に捉え、まるで平地を駆けるかのような軽快さで疾走する。荒れた地形をものともせず、その速度は一切衰えない。


 対する瘴牙獣も決して遅れてはいないが、それでも機動力においては明らかにアウレインが上回っていた。


光球(ルーラ・レイ)!」


 振り向きざまに、セルフィは牽制として光魔法を込めた矢を放つ。

 だが――瘴牙獣たちはそれを容易く見切り、身体を捻るだけで回避してみせた。


「やっぱり、中級ともなると単純な攻撃は当たらないか……」


 息を乱さぬまま呟き、セルフィは次の手を思案する。

 確実に当てるには、軌道、間合い、あるいは連携――何らかの工夫が必要だ。


 そう思考した、その時だった。


 瘴牙獣の一体が、不意に動きを変えた。

 それを合図とするかのように、残る個体も一斉に挙動を変化させる。


 五体の瘴牙獣は疾走を維持したまま、それぞれの頭上へ瘴気を集中し始めた。濁った気配が渦を巻き、重く淀んだ圧が周囲の空気を歪ませる。


「――アウレイン!!」

「「「「「ガァアアアア!!!!!」」」」」


 次に来る攻撃を即座に察知し、セルフィが鋭く指示を飛ばす。

 その直後、背後から瘴気の塊が放たれた。


 凝縮された瘴気弾は、ただ触れるだけで皮膚を焼き爛れさせる危険な一撃だ。

 アウレインは瞬時に身を翻し、進路を大きく変えてその一発を紙一重で回避する。


 しかし、攻撃はそれで終わらない。

 間髪入れず、次々と瘴気弾が放たれる。


 アウレインは岩場を蹴り、跳び、滑るように駆け抜けながら、後方から迫る攻撃を次々と躱していく。

 その動きは軽快でありながら無駄がなく、地形そのものを足場として利用していた。


「「ガァアアアア!!!」」


 ――だが、回避に意識を割かれた一瞬の隙を、瘴牙獣たちは見逃さない。


 左右から挟み込むように、二体の瘴牙獣が同時に跳躍する。

 牙を剥き、爪を振りかざし、逃げ場を塞ぐようにしてアウレインへと襲いかかった。


 迫り来る瘴牙獣を迎え撃つように、セルフィは弦を引き絞り、矢を放つ。


 放たれた一矢は一直線に敵へと吸い込まれる――瘴牙獣は咄嗟に顔を逸らして回避を試みるが、完全には躱しきれない。


 矢は肩口に突き刺さり、同時に光が炸裂する。 

 爆ぜた光が瘴牙獣の肉体を焼き裂くが、それでも致命傷には至らない。

 その直後――反対側から飛びかかってきた瘴牙獣の牙が迫る。


 だが、アウレインが即座に結界を展開。

 鋭い牙を遮るように光の障壁が顕現し、その一撃を真正面から受け止めた。


「ガァアアアア!!!」

「クルルゥ!」


 攻撃を防いでいる間にも、残る瘴牙獣たちは容赦なく瘴気弾を放ってくる。


 アウレインはそれらを見極め、岩場を駆ける。

 背の高い岩群を足場にして立体的に軌道を変え、降り注ぐ瘴気弾を次々と回避していく。


 そして、そのまま距離を広げる。

 複雑な地形を活かした機動によって、五体の瘴牙獣との間合いを徐々に引き離していった。


「これなら……どうだ!」


 セルフィは間髪入れず弓を構え、矢を放つ。

 放たれた一矢は一直線に瘴牙獣たちへと伸び、瞬く間にその距離を詰める。


「「ガァアア!!」」


 射線上にいた二体の瘴牙獣が、先ほどと同じように飛び退いて回避を試みる。

 ――だが、その判断が致命的な誤りとなった。


「光 (ルーラ)」


 矢が眼前へと迫った、その刹那。

 セルフィは魔法を発動する。


 矢に宿っていた光が一気に解き放たれ、炸裂する。

 視界を塗り潰すほどの強烈な閃光が、周囲一帯を白に染め上げた。


「「「「「ガァアアアア!!!!」」」」」


 至近距離で閃光を浴びた瘴牙獣たちは、視覚を焼かれ、悲鳴を上げて動きを止める。

 統制を失った群れは互いにぶつかり合い、もはや連携どころではない。


 ――その一瞬の空白を、セルフィは逃さない。


貫光球(ルーラ・ルクス・レイ)!」


 すでに次の矢は番えられている。

 引き絞られた弦が解き放たれ、光を纏った一矢が一直線に奔る。


 矢は一体目の頭部を容易く貫通し、その勢いのまま後方へと突き抜ける。

 さらに直線上にいたもう一体の胸部――心臓を穿ち、まとめて二体を射抜いた。




「「「ガァアアアア!!!」」」


 すぐ傍で崩れ落ちる二体には目もくれず、残る三体の瘴牙獣がセルフィたちへ向け、間断なく瘴気弾を放ってくる。


 背後から連続して迫る攻撃を、アウレインは軽快な動きで躱していく。

 岩場を蹴り、軌道を変えながら、紙一重で回避を重ねる。その間にも、セルフィの思考は止まらない。


「(これで残りは三体……だが、同じ手は通じないはず)……ん?」


 次の一手を組み立てていた、その時だった。


 追撃してくる瘴牙獣の中で、一体だけが不意に足を止める。

 四肢に力を込め、大地に食い込むように踏みしめ、その場に踏み留まっていた。


「何を――っ!?」

「コォォォォ……」


 異様な気配に、セルフィは即座に違和感を覚える。

 視線を向けた先――その瘴牙獣の顎の内側に、濃密な瘴気が渦を巻いているのが見えた。


 空気が歪み、圧が一点へと収束していく。

 その意図を理解するのに、時間はかからなかった。


 そして――


「ガァアアアァアァァァ!!!」

「まずいっ!?」


 次の瞬間、極限まで圧縮されていた瘴気が一気に解き放たれた。

 前方一帯を呑み込むように、濁流のごとき瘴気が奔流となって噴き出す。


 その威力は凄まじく、直撃した岩は削り取られるどころか、まるで存在ごと侵食されるかのように崩れ去った。


 さらに、その余波すらも致命的だった。


 周囲にわずかに生えていた草木や苔は、触れただけで黒く変色し、瞬く間に腐蝕して崩れ落ちていく。空気そのものが毒に変わったかのような光景だった。


「――アウレイン!!」

「――クルルルゥ!!」


 セルフィの叫びに応じ、アウレインが咆哮を上げる。

 だが――


 押し寄せる瘴気の奔流はあまりにも速く、あまりにも広い。

 回避の余地すら与えぬまま、濁流は一瞬で二人のもとへ到達する。


 そして、そのまま――


 瘴気の奔流は、アウレインとセルフィを呑み込んだ。


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