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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
旧フィリナ領解放編
46/65

40.廃坑奪還

「さて、全員準備はいいか?」


「うん、問題ないよ」


 セルフィとエルナ、そしてルシウスは、それぞれ守護獣を従え、昨日族長たちから贈られた戦装束に身を包み、村の入り口に集まっていた。出発を前にした空気は張り詰めているが、場の雰囲気は悪くなかった。


「この戦装束、性能だけじゃなくて、着心地もすごくいいね」


 エルナはそう言って、身につけた装束を見せるように軽く腕を広げた。


 白を基調とした衣に、彼女の心視石と同じ紅の差し色が鮮やかに浮かび上がる。その色合いは、陽光を受けてきらめく金髪と美しく調和していた。

 さらに前衛を意識した軽装の造りは、彼女のスタイルの良さを無駄なく際立たせている。


「本当に綺麗な衣装だね。よく似合っているよ」


 セルフィがそう言うと、エルナは一瞬きょとんとした後、頬をわずかに染め、はにかむように微笑んだ。


「ありがとう。君に言われると、なんだか照れてしまうな……」



 そんなやり取りをしていると、族長が村人たちを連れて姿を現した。


「うむ! どうやら準備はできているようだな!」


「うん。みんなを迎えに行ってくるよ」


 セルフィの言葉に、集まっていた村人たちが深く頷く。

 口々に激励の声が飛び、中には涙ぐんでいる者の姿もあった。


 八十年前――あの地に、多くの同胞とエルフたちを残してきてしまった。

 その事実は、今なおこの村に生きる者すべての胸に、重く沈んでいる。


 その後悔に、ようやく向き合う時が来たのだ。

 村人たちの想いを背に受け、セルフィは静かに息を整え、気を引き締める。


「お前たちに任せきりになってしまうのは心苦しいが……せめて無事を祈っている! 頼んだぞ、セルフィ、エルナ、ルシウス!」


「「「ああ(うん)」」」


 族長の言葉に力強く頷き返し、セルフィたちはそれぞれの守護獣へと跨った。

 次の瞬間、地を震わせるような歓声が背後から湧き上がる。


 その声に押されるようにしてセルフィたちは、村を出発した。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 村を出発してから数時間後――セルフィたちは、かつて立ち寄ったことのある川辺で足を止めていた。

 守護獣たちも水辺に顔を寄せ、静かに喉を潤している。


 ここまでの道のりは、決して順調とは言えなかった。


「ふぅ……予想以上に不死族の数が多いね」


「ああ。どうやら、この一帯は完全に奴らの縄張りになっているらしい」


 川の水を口に含みながらセルフィがそう漏らすと、ルシウスも低く頷いた。


 村を出て間もなく最初の不死族と遭遇し、それ以降も断続的に襲撃を受け続けている。幸い、現れたのはいずれも下級の個体ばかりで、大きな脅威にはならない。


 だが、数が多かった。

 休む間もなく続く戦闘に、三人もさすがに疲労の色は隠せなかった。


「廃坑の方はどうなっているかな?」


 セルフィが空になった矢筒を新しいものに取り替えながら、傍らで身体を伸ばしているルシウスに声をかける。


「入り口は塞いである。もともと魔物の侵入を想定して造られたものだ、内部に入り込まれている可能性は低いだろう。だが――周辺には不死族が集まっているはずだ」


「だよね……」


 これからの戦いを想像したセルフィが、息を吐きながら肩を落とす。

 だが、ルシウスは淡々と続けた。


「廃坑の確保は短時間で行う必要がある。時間をかければ戦闘音に釣られた周囲の不死族が引き寄せられ、戦況は一気に悪化する」


「まずは速やかに廃坑を確保。その後、内部を拠点として周囲一帯の不死族を掃討する形にしたい」


「なるほど……」


 セルフィが頷くと、すぐそばで話を聞いていたエルナが口を開く。


「なら、できるだけ戦闘を避けて、廃坑に突入するのがいいかな?」


「理想はそうだ。だが、入り口の扉は堅牢な分、開閉に時間がかかる。その間に囲まれれば厄介だ。結果的には、入口周辺の不死族を排除してから入るのが最も確実で速い」


「それもそうだね……分かった」


 エルナが短く息を吐き、意識を切り替える。


「では、そろそろ休憩も終わりだな。廃坑に向かうぞ」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 廃坑・入り口前

 前回と同じく、そこには不死族の群れがいた。

 だが、その数は明らかに増えており、ざっと見積もっても三十体は下らない。


 そして、そこには異様な光景が広がっていた。


 捕らえた獲物に群がり、骨ごと噛み砕く者。

 まるで眠っているかのように、地面に丸くなって動かない者。

 あるいは、目的もなく周囲を徘徊し続ける者。


 統率など微塵もなく、それぞれが好き勝手に振る舞っている。

 それでいて、そのすべてが同じ“死の気配”をまとい、この場を覆い尽くしていた。


 しかし、次の瞬間――


「クァアア!!」

「「「「「――ッ!!」」」」」


 上空から、不死族の群れへと一直線に落ちてくる影があった。

 ルシウスを背に乗せたアルファが、翼を大きくはためかせ、一直線に降下してくる。


「「「ガァアアアァアァァァ!!!!!」」」


 それに気づいた不死族たちが、ほぼ同時に咆哮を上げた。

 地に散っていた個体までもが引き寄せられるように集まり、降下地点へと殺到する。

 無数の腕が、獲物を捕らえようと空へと伸び上がった。


 両者の距離が詰まる――その瞬間。


「クゥア!!」


 鋭い咆哮と同時に、アルファが翼を打ち、急激に軌道を変えた。


 目前に迫っていた腕を紙一重で躱し、そのまま群れの中へと滑り込む。

 不死族たちの間を縫うように駆け抜け、包囲の外へと一気に離脱した。


 そして距離を取った瞬間――

 背に跨るルシウスが、静かに魔法を発動する。


「風圧 (シル・トゥール)」


 アルファによって一箇所に集められた不死族の群れへ、上空から見えざる圧力が叩きつけられた。


 空気そのものが質量を持ったかのように不死族たちを押し潰す。

 広範囲に作用しているため威力こそ分散しているものの、その拘束力は凄まじい。

 数十体に及ぶ不死族が、一斉に地へと縫い付けられたかのように動きを止める。


光弾(ルーラ・レイ)


 その瞬間を逃さず、上空から五本の矢が降ってくる。

 風圧によって押さえつけられた群れ目掛けて、加速した矢が一直線に降り注いだ。

 逃げ場を失った不死族へと、寸分の狂いもなく矢が突き刺さると――


 ――ドドドォン!!!


 重低音が大地を震わせ、矢に込められた光の魔法が一斉に炸裂する。


 通常を上回る聖気が込められたそれは、広範囲に光の爆発を引き起こした。

 互いの効果が干渉しないよう精密に配置された五つの爆心が、群れを余すことなく包み込み、そこにいた不死族を、まとめて消し飛ばした。



 光が収まると、地面には大きく抉れたクレーターが残り、その中心で数体の不死族が蠢いていた。


「ガァ……アアア!!」

「ガアアァ!!」


 自らを襲った存在を探すように、ぎこちなく首を巡らせる。

 次の瞬間――


「はあっ!!」


 気合とともに踏み込んだエルナが、一気に間合いを詰める。

 振るわれた双剣が、まるで一閃の光のように軌跡を描いた。


 一体の首を跳ねたかと思えば、止まることなく次の標的へと駆け抜ける。

 すれ違いざまに放たれる斬撃は、正確無比に急所だけを断ち切っていく。


 あまりにも速く、無駄がないその動きに不死族たちは追いつかない。

 状況を把握する間すら与えられず、不死族は次々と首を落とされていった。


 そして――


「ふぅーっ」


 最後の一体を斬り伏せたエルナが、双剣を構えたまま静かに息を吐く。


「よし、任務完了!幸先いいね」


 周囲に残敵や新手がいないことを確認すると、彼女はようやく双剣を収め、軽やかに笑みを浮かべた。



 ――こうして、旧フィリナ領奪還作戦は、順調な滑り出しを見せた。


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