表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
旧フィリナ領解放編
43/63

37.新たな戦術(ルシウス)


「よし、これでいいな。苦しくはないか?」

「クァア」


 自宅前。

 ルシウスは自身の守護獣であるアルファの胴体に革製のベルトを固定していた。

 鷲の姿をしたアルファは、翼を軽く震わせるだけで、抵抗を示さない。


「前回の戦闘では、俺が足を引っ張ったからな」

「クァアア」


 アルファの鳴き声とともに心視石から伝わるのは、否定と信頼。

 それでもルシウスは首を振った。


「慰めは不要だ。事実だからな」


 己の身体能力は並以下。

 それは戦闘において致命的な弱点になり得ることが、前回の戦いで判明した。


「制空権を持っているお前は、遊撃として動くべきだ」


 ベルトの締め具を確認しながら、ルシウスが続ける。


「俺が狙われる度に、護衛に回らせていては、その強みを殺す」


「だが――」


 そう言うと、ルシウスは地を蹴り、アルファの背に装着された鞍へと、飛び移った。


「――これなら、問題解決だな」

「クゥアア!」


 ルシウスの言葉にアルファが力強く応じる。

 それに満足気に頷くと、鞍の上で体勢を整え、複数の革ベルトを身体へ固定し始める。


 飛行中の衝撃、急旋回、急降下。

 身体能力が低いからこそ、固定は必須だ。

 飛行中の衝撃で振り落とされれば、それで終わる。


「よし、固定完了だ。アルファ、この状態で飛んでみてくれ」

「クゥア!!」


 返事をしたアルファが力強く羽ばたき、地面が一瞬で遠ざかる。


「おおっ……!」


 思わず声が漏れた。

 風が頬を打ち、視界が開ける。


「はは……いいぞ、アルファ!」

「クゥア!」


 主の昂揚を感じ取ったのか、アルファはさらに高度を上げる。

 家々が小さくなり、地形が俯瞰へと変わる。


「これがお前の見ている世界か。素晴らしいな……!」


 ルシウスは息を整えながら呟く。

 頭上には、雲一つない蒼穹。

 眼下には、森が絨毯のように広がっている。


 地上では見えなかった起伏や流れが、今は一望できた。

 アルファの背に揺られながら、ルシウスはしばしその景色を観察する。


「む? あれは……」


 広大な緑の海の中に、不自然な一点があった。


 大森林の一角が、墨を流し込んだように黒く沈んでいる。

 木々は枯死し、葉は落ち、地は腐り。

 立ち昇る瘴気が、空気そのものを歪めていた。


「……エルフ領到達への鬼門。大規模不死領域か」


 ルシウスは眉をひそめる。

 森の一角を呑み込む闇は、明らかに異質だった。


 エルフ領へ続く街道上に形成された巨大な不死領域。

 これから解放しようとしている旧フィリナ領のそれとは、濃度が違う。

 瘴気の層が厚く、黒が深い。


「……この高度からでも、果てが視認できないか」


 上空にいるにもかかわらず、瘴気の幕が奥行きを遮断している。

 規模も、密度も、段違い。


「旧フィリナ領を解放した後は……あの領域を突破せねばな」


 いずれ越えるべき壁。

 ルシウスはそれを改めて認識する。


 決意を胸に刻んだ――その瞬間。


「クゥアア!!!」


 アルファが鋭く鳴く。


「――っ!」


 次の瞬間、視界の端が歪んだ。

 アルファが急旋回をした、その瞬間――


 ――ゴウッ!!


 轟音とともに、圧縮された風が空間を裂いた。

 つい先ほどまでルシウスたちのいた場所を、見えない砲弾が貫く。


「これは……風魔法か!」


 余波に煽られながらも体勢を立て直す。

 そして、上空に影が浮かび上がる。


 翼を持つ、細身の影。

 蒼と黒の体毛を纏った異形。


「なるほど……」


 ルシウスは目を細め、その異形の正体を見極める。


「――“疾風(シルヴェ)(ール)”か」


 疾風鳥。

 飛行型に分類される中級魔物。

 風属性魔法の制御に長け、空中戦を得意とする種だ。


 体格はアルファより一回り小さいが、まるで空域の門番のように、進路を塞いでいた。


「ガァアア!!」


 疾風鳥が大きく翼を打ち鳴らす。

 同時に、周囲の気流が収束する。

 空気が圧縮され、疾風鳥の周囲に球状に凝縮された風の塊が、複数、宙に浮かび上がる。


 次の瞬間。


「――ガァア!!」


 咆哮とともに、それらが一斉に放たれた。


 一直線ではない。

 曲線を描きながら、包囲する軌道で迫る。


「避けろ、アルファ!!」

「クゥアア!!!」


 アルファは急上昇――直後に急降下。

 三次元軌道で風球の隙間を縫う。


 風圧がアルファを襲うが、直撃はない。

 その背で、ルシウスは片手で鞍を掴み、もう一方の手で杖を構える。


「風球 (シル・レイ)!」


 魔力が圧縮され、周囲の気流が収束する。

 疾風鳥と同じような球状の風がルシウスの周囲に浮かび上がる。


 複数を同時生成し、即座に放つ。

 複雑な軌道で放たれた風球(シル・レイ)が疾風鳥へ迫る。

 だが――


「ガァアア!!」

「――何っ!?」


 疾風鳥が翼を打ち鳴らすと、先程と同様に周囲の気流が一瞬で収束。

 圧縮された空気が球状に形成され、ルシウスの風球(シル・レイ)を迎撃する軌道で、一斉に放たれる。


 ――ババババンッ!!


 空中で衝突し、連鎖する破裂音。

 衝撃波が波紋のように広がる。


 風と風が噛み合い、削り合い――

 やがて、双方ともに霧散した。


「器用な奴めっ!」


 ルシウスが顔をしかめた、その瞬間。


「クァアア!!!」

「――っ!」


 アルファが鋭く鳴き、翼を大きく広げる。

 そして叩きつけるように羽ばたくと、周囲に暴風が生じた。

 直後――


 ――ドォン!!


 真下から撃ち上げられた風の砲弾が、アルファの形成した風の防壁に激突した。

 轟音とともに、衝撃が鞍を震わせる。


「下から……!」


 視線を落とす。

 黒い影がもう一つ。


「――もう一体いたか!」

「ガァアア!!!」


 上空と下方での挟撃。

 二体目の疾風鳥が、風球を連続で放つ。

 アルファは三次元機動で回避を試みるが、今度は最初の個体が進路を塞ぐように割り込む。


「なるほど……一方が妨害、もう一方が砲撃。常にこちらを挟み込むように連携しているのか」


 分析と同時に、杖を振るう。

 風球(シル・レイ)が複数展開され、進路を妨害している疾風鳥に向かって襲い掛かる。

 だが――


「ガァアア!」


 再び疾風鳥が魔法を発動――空中で相殺される。

 さらに――


「ガァアっ!」


 隙をつくかのように下方の個体が魔法を発動し、ルシウスたちに連続で撃ち込んでいく。


「中途半端な撃ち合いでは、隙を作るだけか。なら――」


 ルシウスは迎撃に徹するため、魔力を集中させる。


「ガァアア!」


 すると、その隙を見逃さずに下方の疾風鳥が魔法を発動。

 いくつもの風球がルシウスへと迫る。


風球(シル・レイ)


 だが、ルシウスの発動した魔法が複雑な軌道で迫る相手の風球を迎撃。

 下方の疾風鳥から放たれた全ての風球に自身の風球を衝突させ、相殺する。


 その一瞬の空白を突き、アルファが急加速する。

 狙いは上方の一体。

 距離を詰め、近接へ持ち込む――


「クァアア!!」

「ガァアア!」


 だが、疾風鳥は即座に上昇し、距離をとる。

 標的を追うアルファの背後から、もう一体が間断なく風球を撃ち込む。


風球(シル・レイ)!」


 撃ち込まれた風球は、ルシウスは振り向きざまに迎撃する。

 すると――


「ガァアア!」


 突然、追い詰めていた上方の疾風鳥が、空中で反転する。

 その翼には、既に魔力が収束していた。


「――避けろっ!」

「――ッ!!」


 ルシウスの警告に、アルファは即座に追撃を中断し、翼を返す。

 その瞬間。


 ――ザンッ!!


 空気を裂くような音とともに、ルシウスたちのいた空間を疾風鳥の翼が通りすぎる。

 それは先程までの風球ではなく、相手を切り裂く風の刃を纏っていた。


「ふむ……」


 ルシウスの視線が細まる。


「あれだけの高機動を維持しながら、あの精度で魔法を組み上げるとは。想定以上の魔力制御だな」


「(――だが、問題はそこではない。肝は二体の連携だ。これを崩さぬ限り、反撃に移れん)」


「力任せに突破するのも一つの手だが……」


 ルシウスの口元がわずかに笑みを浮かべる。


「ここは少し、小技を使うとしよう」


 そういうとルシウスは杖を掲げ、魔法の構築に移る。

 すると、先程よりも一回り大きな風球(シル・レイ)が、周囲にいくつも浮かび上がった。


「重風球 (シル・ラ・レイ)!」


 さらに圧を増した風球(シル・レイ)が、下方の疾風鳥へと一直線に撃ち出される。


「ガァアア!!」


 狙われた疾風鳥も即座に応じる。

 同じ数だけ風球を発動させると、正面から迎撃。


「ほう、こちらに合わせて自身の魔法を同程度の大きさに調整したか。やはり器用だな」


「――だが、甘い」


重風球(シル・ラ・レイ)は、風球(シル・レイ)を二層構造にした魔法だ」


 ――ババババババババンッ!!!


 先程と同様、お互いの魔法が空中で激突。

 強烈な破裂音とともに、先程以上の衝撃となって、周囲の空気を震わせた。

 しかし――


 ――ゴウッ!!


 ルシウスの魔法が弾けたのは、外側だけ。

 内に仕込まれた風球(シル・レイ)が、なおも勢いを失わず直進すると、そのまま疾風鳥へと襲い掛かった。


 ――バババンッ!!

「ガァアアアアア!!!!」


 胸部と翼を打ち据えると同時に圧縮された風が炸裂。

 発生した乱流に煽られ、疾風鳥の身体が大きく弾き飛ばされる。


「クァアアアアア!!」

「――ガァア!!」


 その一瞬の隙にアルファが魔法を発動。

 自ら生み出し気流に身を滑り込ませ、弾丸のように突進。

 瞬く間に、体勢を崩した個体へ肉薄し――


 ――ドスッ!!


 鋭い鉤爪が胸部へ深々と突き立つ。


「ガァ……ァアア!!」

「クゥア!!」


 暴れる疾風鳥を、アルファが押さえ込む。

 そのまま突き立てた爪に万力のごとき力を込め――


 ――グシャリ。


 肉が潰れる鈍い音とともに、風が止む。

 疾風鳥の身体から力が抜け、そのまま空中でぐらりと傾いだ。


「さて……残るは一体」


 ルシウスが振り向く。

 だが、視界の端に映ったのは、既に小さくなりつつある影だった。

 残った疾風鳥は、高度を落としながら遠方へ離脱していた。


「退いたか」


 追撃は可能。

 だが、ルシウスは淡々と杖を下ろす。


「深追いする理由もないな。帰るぞ、アルファ」

「クゥアア!」


 アルファは疾風鳥の死骸を掴み直すと、大きく翼を打ち、村へと進路を取った。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ふぅ……」


 帰還の途上。

 ルシウスの吐息が、風に溶ける。


 その僅かな重みを感じ取ったのか、アルファが首だけを巡らせた。

 金色の瞳が、主を窺う。

 ルシウスは小さく苦笑し、その背を撫でた。


「すまんな。心配をかけたか」


「クゥア?」


「ああ……先程の疾風鳥について考えていてな」


 ルシウスの視線が遠くを測る。


「恐らく、あの二体は群れの偵察だ。縄張りへ踏み込んだ俺たちを測るためのな」


「大森林は広大だが、竜の縄張りがない分、飛行型の魔物が広く生息している」


「大規模不死領域を突破し、エルフ領へ至る。その時のために空路からの突破も検討していたが……この様子では地上からの攻略が妥当だろう」


 そこで一度言葉を切り、息を吐く。


「まぁ、まずは旧フィリナ領の解放からだな。よろしく頼むぞ、相棒」


「クゥアアア!!」


 アルファの声は澄んだ空気を震わせながら高空へと昇り、やがて広大な大森林の上に溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ