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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
旧フィリナ領解放編
33/37

27.プロローグ

第二章から三人称視点に変更しております。

 朝日が昇り始め、柔らかな光が辺りを温かく包み込む。

 静けさの残る早朝、弦を弾く鋭い音が空気を裂いた。次の瞬間、放たれた一本の矢が、まっすぐに的の中心を射抜く。


「ふぅ……」


 短く息を吐き出し、張り詰めていた肩の力がわずかに抜ける。

 狙い通りに射抜いた手応えに小さく満足しながら、セルフィは日課の鍛錬を終えた。


 使った道具を手際よく片づけていると、不意に木陰から近づいてくる気配があった。足音は静かだったが、慣れ親しんだ存在であることに、すぐに気づく。


 手を止め、自然と笑みを浮かべながら相手を出迎えた。


「おはよう、アウレイン。今日も朝から元気そうだね」

「クルゥ」


 セルフィの挨拶に機嫌よく応じたのは、牡鹿の姿をした彼の守護獣――アウレインだ。


 引き締まった立派な体躯を包む真っ白な体毛は、朝の陽光を受けて淡く輝いている。

 頭上には大樹の枝を思わせる二本の見事な角が大きく広がり、額に宿った宝石は、その存在を主張するかのように琥珀色の光を放っていた。


 心視石を通して、アウレインの満足げな思念がセルフィに届く。言葉ではなく、その穏やかな感情がはっきりと伝わっていた。


 朝から上機嫌な様子に思わず頬が緩み、セルフィはその頭を優しく撫でる。


「朝の鍛錬も終わったし、一緒に朝食を食べようか」

「クォン」


 セルフィの言葉に応えるように、アウレインは嬉しそうに小さく鳴いた。そのまま歩調を合わせ、並んで家の方へと向かって歩き出す。朝の光が背後から差し込み、長く伸びた影がゆっくりと揺れていた。




 ――アウレインが誕生してから、およそ三か月。新たな同胞の存在は、すっかりセルフィの日常の一部となっていた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ほら、お待たせ」

「クルル」


 アウレインのお気に入りである果物を、食べやすい大きさに切り分けて皿に盛り、セルフィはそれを差し出した。甘い香りに気づいたのか、アウレインは嬉しそうに鼻先を寄せる。


 セルフィたちは自宅の隣にある建物の中で並んで座り込み、共に朝食をとっていた。差し込む朝の光が床を淡く照らし、穏やかな時間がゆっくりと流れていく。


 ここは、アウレインと共に暮らすようになってから新たに建てられた場所だ。


 フィリナ族用の住居では、扉の大きさや天井の高さなど、守護獣と暮らすには不便な点が多かった。そのため住居を拡張し、彼が窮屈さを感じずに過ごせるよう整えたのだった。


 この三か月でようやく落ち着いてきたが、アウレインが誕生した当日は、村中が上から下まで大騒ぎとなった。

 もともと守護獣を誕生させるため、村人たちには準備の段階から様々な形で手伝ってもらっていた。


 そのため守護獣の存在については事前に話していたものの、実際に目の前に現れたアウレインを見た瞬間、誰もが言葉を失い、信じられないものを見るかのような表情で驚いていた。


 皆を落ち着かせるために状況の説明を何度も繰り返し、ようやく場が収まりかけた頃――なぜか酒場の夫婦が大量の酒を抱えて現れた。


 そして気がつけば宴が始まり、村中の騒ぎはそのまま祝いの席へと変わっていった。


 そんな祭りのような騒ぎもしばらくは続いていたが、過ぎ去ってしまえば今ではいい思い出だ。

 あの時の賑やかな声や笑い声を思い出しながら、セルフィは小さく息をついた。


 そうして思いにふけっていると、果物を綺麗に食べ終え、くつろいでいたはずのアウレインが、いつの間にか少し落ち着かない様子でこちらを見つめていることにセルフィは気づいた。


 耳をわずかに動かし、何かを気にしているようにも見える。


「アウレイン?」

「クォン」


 心視石を通してアウレインの感情を読み取ると、どうやら何かをセルフィに渡したいらしい。


 首をかしげながらしばらく待っていると、アウレインの口元から、かすかに光が漏れていることにセルフィは気づいた。


 何だろうと訝しむ間もなく、アウレインはゆっくりとこちらへ口を寄せてくる。

 促されるままセルフィが手を差し出すと、ポトリと小さな音を立て、口にくわえていた何かがその手のひらへと落ちた。


 それは宝石のようだった。大きさはアウレインの額に宿るものとほとんど変わらず、形もよく似ている。

 淡く琥珀色に輝くその石は、まるで同じ力を宿しているかのように、静かな光を湛えていた。


「え……?」

「クルルゥ」


 上機嫌なアウレインとは裏腹に、セルフィの動きは完全に止まっていた。

 手のひらに乗った宝石を見つめたまま、思考だけが遅れて動き出す。


 アウレインの額に宿る宝石は、世界樹の琥珀だ。

 それと同じものだとすれば、つまり――。


 そこまで考えたところで、セルフィは恐る恐る手のひらの宝石へと視線を落とす。


「うそぉ……」


 ――そこにあったのは、紛れもなく世界樹の琥珀だった。


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