表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/37

閑話1.族長の決断

<三人称視点>


「……邪魔するぞ」


「おお! 待っていたぞ!」


 ある夜のこと。

 フィリナ族の族長ソレインは、幼馴染である狩人ヨルシカを家に招いていた。


 ヨルシカが手土産に持ってきた魚の干物を火で軽く炙り、それを肴に酒を酌み交わす。

 香ばしい匂いが部屋に広がり、二人の酒席はあっという間に始まった。


 しばらくは取り留めのない話で盛り上がっていたが、やがてヨルシカが今夜招かれた理由を尋ねる。


「……それで、今日は何の用だったのだ?」


「おお! いや実はだな、昨夜セルフィから相談を受けたのだ!」


「……相談?」


「うむ!」


 そこで彼はセルフィに相談された内容を、ヨルシカに話して聞かせた。

 話を聞いていたヨルシカは酒杯を置き、難しい顔になる。


「……世界樹の琥珀を守護獣に、か」


「面白い話だろう! 相談された時は思わず笑ってしまったぞ!」


「……ふむ。お前のことだから許可を出したのだろう?」


「当然だ! 若者が無茶を承知で願っていることだ! ならば族長の私が背中を押さねばなるまい!」


「……止めるのも族長の役目だと思うが……まぁ、お前らしい話か」


「わはははは!」


 豪快に笑う親友の姿に呆れながら、ヨルシカは小さく息を吐いた。


「……しかし、世界樹の琥珀はエルフ族にとって重要な意味を持つ。

 仲間の遺灰を届ける恩を加味しても、絶対に揉めるぞ」


「分かっているさ! 私にも考えがある!」


「……考え?」


「うむ! 世界樹の琥珀がエルフ族にとって、それも王家にとって重要な物ならば――当然、こちらからも相応の物を差し出す必要があるだろう!」


「……まさか」


 ソレインの言おうとしていることに気づき、ヨルシカは思わず声を漏らした。

 何故なら、世界樹の琥珀に釣り合う物など、一つしかないからだ。


「そうだ! 我らが代々受け継いできた一族の秘宝を差し出そう!」

「――っ!?」


 ソレインの宣言に、ヨルシカは思わず絶句した。


 しかしそんな彼をよそに、ソレインは自室へと入る。

 やがて床下に隠してあった厳重な箱を抱えて戻ってきた。


 そして丁寧な手つきで箱の封を解く。

 次の瞬間、箱の中に収められていたそれが姿を現した。


 ――それは、真紅に輝く巨大な宝石だった。


 拳ほどもある結晶は、深い赤色を湛えながら内部で炎のような光を揺らしている。

 磨き上げられた面は酒席の灯りを受けて鋭く煌めき、卓や壁に淡い赤い光を散らしていた。


「これが、フィリナ族の秘宝――レッド・ダイヤモンドだ」


「……これが」


 秘宝と呼ばれるだけあって、この宝石の存在を知る者はほとんどいない。

 代々、族長となった者が先代から受け継いできた一族の宝である。


 かつてのフィリナ狩りの過酷な旅路の中でも、そして八十年前の襲撃の際にも、この秘宝は守り抜かれてきた。


 ヨルシカも話だけは聞いていたが、実物を見るのはこれが初めてだった。

 宝石に詳しいわけでもなく、興味を持っている訳でもない彼だったが、それでもその輝きの価値は否応なく理解できた。


 一目見た瞬間、視線を奪われる。

 知識も興味も関係なく、ただそれだけで人の心を掴んでしまう――そんな美しさがそこにはあった。


「このレッド・ダイヤモンドは、世界で最も希少な宝石と呼ばれていてな。

 歴史を振り返っても、発見例はほんの僅かしかない」


 いつになく静かなソレインの言葉に、ヨルシカも黙って聞き入っていた。


「特に、手のひらほどもある大きさのものとなれば、過去に見つかったどのレッド・ダイヤモンドとも比べ物にならん」


「存在そのものが奇跡とされ、もはや伝説の域にある宝石だ。その価値は計り知れない」



「――だからこそ、この秘宝ならば世界樹の琥珀の代わりになり得る」


「……なるほど」


 ヨルシカはようやく言葉を返した。


 だが、その胸の内はまだ整理がついていない。

 レッド・ダイヤモンドの美しさと、その秘宝を手放すという決断の重さに、心が追いついていなかった。


「……確かに、これならエルフ王も納得するかもしれん……だが、いいのか? 代々受け継いできた秘宝を手放すことになるぞ」


 ヨルシカの疑問に、ソレインはにんまりと笑った。


「かまわんさ! 秘宝というのは、この宝石を指すのではない!」


 そう言って、卓の上の赤い宝石を指で軽く叩く。


「子供たちが笑って暮らせる未来こそが――我らが守るべき真の秘宝だ!」



「ご先祖様たちも、この使い方に文句など言うまいさ!」


 まるで彼の言葉に応えるかのように、

 卓の上のレッド・ダイヤモンドが、酒の灯りを受けて静かに赤く輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ