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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
守護獣誕生編
25/37

25.世界樹の琥珀

 廃坑から魔防銀を回収してから、数日が経った。

 本来であれば、守護獣誕生のために実験場の建設を手伝う予定だったのだが、先日の怪我の影響で、僕は安静に過ごすよう言い渡されていた。


 自宅で療養する日々の中、僕はずっと落ち着かない気持ちで過ごしていた。

 必要なものはすべて揃い、あとは実験場が完成すれば、いよいよ守護獣が誕生する。


 ――上手くいくだろうか。

 ――どんな守護獣になるのだろうか。

 ――もし、失敗してしまったら……。


 そんな考えが頭を巡り、不自由な身体のまま、気持ちだけが先走る日々を送っていた。


 他にも、飽和状態に陥っている旧フィリナ領の不死領域のことや、失ってしまった迅脚鳥のことなど――時間を持て余しているからこそ、頭の中はかえって忙しかった。


 そうして、一人で暇を持て余していると、扉を叩く控えめな音が響いた。


「セルフィ、ルシウスだ。

 今、少し時間は大丈夫か?」


「ルシウス?

 大丈夫だよ。そのまま入ってきて」


 呼びかけにそう返すと、「失礼する」と一言添えて、ルシウスが扉を開けて部屋に入ってきた。


「悪いな。休んでいるところに、邪魔をしてしまって」


「全然。

 むしろ暇してたから、助かったよ」


「そうか。

 実験場についての報告だ。

 今日から魔防銀のコーティング作業に入った。あと二、三日もすれば完成するだろう」


「おおっ。

 それじゃあ、その後はいよいよ守護獣の誕生かな?」


「うむ。

 問題が起こらなければ、そうなるな」


「そっか。

 ……実は、その守護獣のことで相談があってさ」


「相談?」


 僕の言葉に、ルシウスは少し意外そうな様子で顔を上げ、聞き返してきた。

 確かに、ルシウスからすれば、今さら何の相談があるのか不思議に思うだろう。だが、ここ数日考え続け、そして昨日、ようやく一つの答えを出した。


「僕が誕生させる守護獣は――魔晶石の代わりに、世界樹の琥珀を使いたいんだ」


 そうして僕は、ここ数日、頭を悩ませ続けてきた最大の原因――その考えを、ついにルシウスへと打ち明けた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……何だと?」


 僕の言葉を聞いたルシウスは、一瞬言葉を失い、静かに息を呑んだ。

 やがて内容を理解したのか、困惑した様子で視線を彷徨わせる。


 その視線は、僕へ――そして、部屋の隅に置かれた棚の上。

 そこに安置されている、世界樹の琥珀へと向けられていた。


「世界樹の琥珀を、魔晶石の代わりに……?」


「うん。できるかな?」


「待て、少し待て……。

 一旦、落ち着かせろ」


 そう言うと、ルシウスは頭の中を整理するようにゆっくりと目を閉じ、思考に沈み込んだ。


 ――数分後、考えがまとまったのか、ルシウスは静かに顔を上げ、まっすぐに僕を見た。


「結論から言うぞ。

 ――おそらく可能だ。世界樹の琥珀でも、守護獣は誕生させられるだろう」


「本当っ? よかった……」


「ああ。

 結局のところ、魔力が聖気に置き換わるだけだからな。琥珀に宿っている聖気の量も、魔晶石に匹敵するほど莫大だ」


 そう前置きしてから、ルシウスはわずかに言葉を選ぶように続けた。


「唯一の懸念点を挙げるとすれば、始原体が上手く宿るかどうかだが……。

 まあ、大丈夫だろう。世界樹は地脈に干渉し、それを活性化させる性質を持っている。相性はいいはずだ」


「……だが、問題はそこじゃないだろう?」


 ルシウスは真剣な表情で、まっすぐこちらを見据えていた。


「厳密に言えば、その琥珀はエルフ王家の所有物だ。

 俺たちが勝手に使うのは、さすがにまずい……いや、現状を考えれば、使うだけならまだ許容されるかもしれない。

 だが、守護獣の核にするとなれば話は別だ。琥珀は、元には戻らないぞ」


 その言葉を聞いて、僕も自然と表情を引き締めた。


 そう、世界樹の琥珀を使ううえで、最大の問題はまさにそこにある。

 だからこそ、僕は自分の怪我を治すときでさえ、あの琥珀に宿る聖気を使わなかったのだから。


「分かってる。

 そのうえで、琥珀を使うつもりなんだ」


「……ふむ」


「それに、昨夜のうちに族長にも話を通して、許可をもらってる」


「何……?」


 思わず目を見開いたルシウスに、僕ははっきりと頷いた。

 世界樹の琥珀が引き起こす問題は、個人の判断で済む話じゃない。フィリナ族全体に関わることだ。


 だからこそ――事前に族長へ相談し、了承を得ていた。


 そうルシウスに伝えながら、僕の脳裏には、昨夜の族長とのやり取りがよみがえっていた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――と、言う訳で、世界樹の琥珀を守護獣の核に使用したいと思ってるんだ』


『なるほど! 構わんぞ!』


『もちろん、難しいことは分かって……って、えっ!?』


 昨夜、族長の家を訪れ、守護獣の核に魔晶石ではなく世界樹の琥珀を使用したいと相談した。

 だが返ってきたのは、想像していた慎重な検討でも、条件付きの許可でもない。あまりにも即答で、あまりにも軽い了承だった。


 そのあまりの反応に、むしろ相談を持ちかけた僕の方が言葉を失ってしまった。


『えっ……いや、下手をすればエルフ族との間に大問題が起こりかねないって話なんだけど……』


『分かってるぞ!』


『いや、分かってないでしょ……』


 困惑する僕をよそに、族長は終始変わらぬ笑顔を浮かべていた。

 それでも食い下がる僕に対し、族長は苦笑しながら腕を組み、ようやく諭すように口を開いた。


『そうだな……では、セルフィよ。

 お前は何故、世界樹の琥珀を使いたいと考えているのだ?』


 先程までの張り上げた声ではなく、静かで、それでいて、いつも以上の重みを帯びた声。

 その一言だけで、僕の背筋は自然と伸びていた。


『お前の言う通り、琥珀を使えばエルフ族との間に深刻な問題が生じるやもしれん。

 それだけではない。魔晶石で事足りるものを、わざわざ別の代用品に替える意味は本当にあるのか?』


 その問いに、僕は一度深く息を吸ってから、本心を口にした。


『僕が世界樹の琥珀を使いたいと考えたのは――足りないと思ったから』


『足りない?』


『先日、初めて不死族と戦った。

 ……話に聞いていたものよりも、遥かに強く、そして恐ろしかった』


『これから僕たちは、旧フィリナ領に広がる不死領域を攻略し、さらにその先――エルフ領との間に存在する、大規模な不死領域を突破する必要がある』


『癒しの力を持つ聖気は、物資の補給が限られ、周囲を瘴気に覆われた土地では、必ず必要になる。

 そして……琥珀を琥珀のまま使うだけでは、きっと追いつかない』


『不死領域に挑むには、聖気を操れる守護獣がいなければ、詰んでしまう』


 そこで、僕は一度、言葉を止めた。

 脳裏に浮かんだのは――無力な自分を呪った八十年前の光景だった。


『何より……僕が、そうしたい』


『ルシフェル様や他のエルフたちが命を懸けて救ってくれた。

 それを遺族の方に伝える役目は――僕でありたい』


『そのために、やれることは全部やりたいんだ』


 僕の言葉を、族長は最後まで静かに聞き届けると、深く頷いた。


『遺族に伝えたい、か。

 ……うむ。お前が力を求める時は、いつだってそうだ』


 そう言って一度納得したように目を閉じ、次の瞬間、再び声を張り上げて宣言する。


『返事は変わらん!

 やりたいのだろう! 願っているのだろう!』


『ならば――思う存分にやりなさい!!』


 そして最後に、腹の底から豪快に笑った。


『族長である私が認めるのだ!

 その後に起きる問題は、私が責任を持ってエルフ王と話し合おう!』


 こうして族長は、僕の無茶な相談を、豪快な笑い声と共に肯定してくれた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なるほどな……」


 族長と交わしたやりとりを話すと、ルシウスは呆れが滲んだ表情で、それでも納得したように頷いた。


「相変わらず、豪快というか……何というかだな。

 まあ、族長がそう言うなら、エルフ族との問題も何とかするだろう」


「族長が認めているのなら問題ない。

 お前の守護獣は、世界樹の琥珀を核にして生み出そう」


 そう言ってから、ふと何か気にしたように視線を向ける。


「それにしても、少し意外だったな。

 お前は世界樹の琥珀に関しては、かなり慎重に扱っていただろう?」


 確かに、僕はこの八十年間、琥珀に自分の魔力を馴染ませる以外、一切使用してこなかった。今回の傷に限らず、これまでどんな怪我をしても、聖気に頼ることは避けていた。


「ちょっと……思い出したことがあってね」


「思い出したこと?」


 その心境に変化が生まれたのは、不死族と戦い終えた後、エルナと話した時だった。

 その時に語ってくれた内容は、紛れもなく僕の本質だったから。


「僕はほら、良い意味で“我儘”らしいから」


 それは――英雄にも認められていた、大事な資質だった。


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