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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
守護獣誕生編
21/40

21.遭遇戦②

 ――それを確認した瞬間、意識を戦闘へ切り替えた。


 頭部に命中した矢が弾かれた――その反応は、この骨刃人が受肉体であることを示している。


 即座に手綱を引き、迅脚鳥を急停止させる。

 反動を殺しながら進行方向を変え、素早く弓を構え引き絞った。


 ――二射。


 一射目は、受肉体の腕の関節へ。

 今まさに、囮役を交代したエルナを追おうと踏み出した瞬間だった。

 貫くことはできなかったが、肘を強制的に曲げられた骨刃人は、勢いのまま前のめりに地面へ倒れ込む。


 二射目は、残る一体の頭部へ。

 放たれた矢は頭蓋を貫き、そのまま崩れ落ちた。


「(よしっ……受肉体は一体だけだ!)」


 状況を即座に把握し、そのまま迅脚鳥を走らせる。

 倒れ込んだ受肉体の骨刃人を追い越し、前方を走るエルナ――その背後につくように追走した。


「ガアアアアアアア!!!!」


 背後から、耳を裂くような咆哮が響く。

 受肉体が身体を起こし、こちらへ向かって突進してきていた。

 狙いは、より近くにいる僕だ。


「(よし。エルナから、完全にターゲットを移せた)」


 骨刃人たちの中に受肉した個体が存在した。

 やはり、ルシウスの予想を超えて不死領域が飽和状態へと至ったように、何らかの異常事態が起こっているらしい。


 しかし、今の状況は最悪ではない。

 受肉体が一体のみであれば、以前の狩りで鋼牙猪と遭遇した時と同程度の危機だ。

 それこそ、鋼牙猪の時と同じ方法で対応できる。


「(もっとも、ただ逃げるだけで良かった前回と違って、全て同じという訳にもいかないけど……よしっ)」


≪エルナ、聞こえる?≫


≪セルフィか。聞こえているよ。

 後ろの個体……受肉体みたいだね。どうする?≫


≪うん。それなんだけど、一体だけだからさ。

 廃坑に近づけないよう、崖から落とそうと思ってる≫


≪崖から?

 それは難しいって、作戦を決める時に言ってなかったかい?≫


≪相手が複数いる場合はね。

 それだと最後は力押しになるから。

 でも、一体だけなら――ギリギリまで引き付けてから躱せば、落とせるはずだ≫


≪分かった。君の判断を信じよう≫


≪ありがとう。

 それじゃあ悪いけど、崖まで案内してくれないかな。

 ルート決めの時に、ルシウスから聞いていたよね?≫


≪お安い御用だよ。

 それじゃあ、ついてきて≫


 そうして、エルナの誘導で崖へ向かうことになった。


 先へ進むにつれ、足元は岩場が増え、地形は急速に荒れていった。

 迅脚鳥の脚を取られないよう細かく手綱を調整しながら進む。


 背後から迫る骨刃人は、速度を一切落とさない。

 この程度の悪路では、向こうの踏破能力の方が明らかに上だ。


≪見えてきたよ!≫


 しばらくして、エルナから到着の合図が届く。

 辿り着いた先は、岩がむき出しになった断崖だった。


 前方へ伸びるにつれて、地形が外へ張り出すように細くなっていく。先へ進むほど道幅は削られ、逃げ場は確実に減っていく形状だ。


 迅脚鳥を走らせたまま、進路を中央に取る。

 左右どちらかに寄れば、足を踏み外す危険が跳ね上がる。

 そのため、崖下の様子は視界に入らない。落ちればどうなるかを確かめる余裕もない。


 前方の先端までは、まだ少し遠い。

 だが背後では、岩を踏み砕く足音が重なり、受肉体との距離が確実に縮まっていた。


 先端付近で身を躱し、そのままの勢いで崖下へ落とす――想定していたよりも、かなり際どいタイミングになりそうだ。


≪エルナ!

 案内ありがとう。君は先にここを離れろ!≫


≪分かった!

 セルフィも、気を付けて!≫


 返事と同時に、前方を走っていたエルナが進路を変えて右へ逸れる。

 その姿が視界から外れたのを確認してから、僕は意識を前方へ戻した。


 前にある崖の先端までの距離。

 そして、背後から迫る受肉体との距離。


 残された猶予は、わずかだ。

 気を引き締め直した、その瞬間――


「なっ!!」

「グワァ!!」


 エルナと彼女の乗る迅脚鳥の悲鳴が、ほぼ同時に響いた。

 反射的に視線をそちらへ向ける。


 すると、彼女たちのすぐ目前に――別の骨刃人が立ちはだかっていた。


「っ!!」


 迷わず進路を切り替え、エルナたちの方へと迅脚鳥を走らせる。


 離脱しようとした進路の先に、偶然潜んでいたのだろう。

 大岩が視界を遮り、直前まで気づけなかったに違いない。


 骨刃人の体勢は、大きく崩れている。

 おそらく、飛びかかってきたところを、エルナが迅脚鳥を巧みに操って躱したのだろう。


 だが、問題が二つある。

 無理に躱した反動か、迅脚鳥が骨刃人の目前で完全に動きを止めてしまっていること。

 そして、骨刃人の方はすでに体勢を立て直し、今にも飛びかかろうとしていることだ。


 ――どうする?


 思考を高速で回転させながら、必死に打開策を探る。

 反射的に矢筒へ手を伸ばし、矢を引き抜いて弓を構えた――が、その動きが止まる。


 射線上に、エルナがいる。

 この位置関係では、骨刃人を直接狙うことはできない。


 ――どうする?


 エルナを掠めるようにして、骨刃人を狙うか。

 ――不可能ではない。位置だけを見れば、ギリギリで急所を狙える。


 だが、悪路を全速で走っている。

 揺れは大きく、僅かなブレでエルナを射抜く危険がある。


 ――どうする?


 そもそも、この個体は魔力体か?

 ――もし受肉体なら、たとえ運良く急所に当てても意味はない。


 判断材料が、足りない。

 そして、考える時間も――もう残されていない。


 このままでは、エルナが死ぬ。


 何を撃つ。

 何を撃てば、彼女を救える。


 感覚が研ぎ澄まされ、時間が圧縮される。

 動いているのは、思考だけだ。


「ハッ!」


 そんな極限の中で、僕が放った矢は――エルナの乗る迅脚鳥の右膝を正確に捉えていた。


「グワァッ!!」

「うわっ!!」


 迅脚鳥は下級の魔物だ。

 僕の矢で傷を負うことはない。


 だが、膝を強制的に曲げられたことで、バランスを完全に失った。

 迅脚鳥は崩れ落ちるように横転し、背に乗っていたエルナも投げ出された。


 ――その直後、骨刃人の爪が、先程までエルナのいた空間を切り裂いた。


 上手く躱すことができたが、その結果に満足する暇はない。

 僕はそのまま、全力で目の前の骨刃人へと突っ込んだ。


 こちらを認識した骨刃人が咆哮を上げる――


 ――その直前、ぶつかる寸前で手綱を操り、紙一重で回避する。


 すれ違いざまに身体を捻り、即座に弓を構え、矢を引き絞った。


「ガァ!」


 放たれた矢は、背後から迫っていた骨刃人の顔面に命中し、その衝撃を余すことなく叩き込んだ。

 次の瞬間――


「ガァア!!」

「ゴォア!!!」


 ドンッ、と腹の奥に響く重低音。

 二体の骨刃人は、勢いのまま正面衝突し、そのまま崖下へと転落していった。


「…ふぅ。

 なんとか上手くいった……」


 骨刃人を無事に排除できたことに、ほっと胸を撫で下ろす。

 そして、倒れたエルナに声をかけようとした――その瞬間だった。


 ――ガラッ。


「なっ?」


 踏みしめていた岩の一部が、音を立てて崩れる。

 反射的に体勢を立て直そうとするが、遅かった。


「グァア!!」


 迅脚鳥の脚が、完全に宙へと投げ出された。

 視界が揺れ、傾く。


 咄嗟に周囲を見渡すと、少し離れた場所で、エルナが倒れたまま目を見開き、こちらを見ていた。


「セルフィ!!!!」


 その絶叫と同時に、身体を掴んでいた感覚が失われる。

 内臓が持ち上げられるような浮遊感。


 そして――


 骨刃人たちの後を追うように、僕は崖下へと落ちていった。


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