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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
守護獣誕生編
20/38

20.遭遇戦①

<エルナ視点>


 息を殺して身を潜める。

 目の前には、私たちの目的地である廃坑の入り口。


 そして、その前に――八体の下級不死族、骨刃人がいた。


 匂いで位置がバレないように風上から観察する。


 骨刃人は人型の不死族だ。

 細身の体躯は猫背で、だらりと伸びた腕の先が地面を擦っている。

 皮膚は煤を塗り込めたように黒く、その上から、骨でできた真っ白な甲殻が全身を覆っていた。


 背中には、脊髄のような形状の甲殻が走り、そこから延長する骨の尻尾が長く伸びている。その先端は凶悪な刃のように尖り、近づく者を拒むかのようだ。


 手足の指は爪と同化し、鋭く歪んだ刃と化している。

 あれで引き裂かれれば、肉など紙切れ同然だろう。


 退化した目を覆うように甲殻が張り付き、獣のように突き出した口の奥からは、白く光る牙が覗いていた。



 ……緊張に喉が鳴る。

 浅くなりかけた呼吸を意識的に整え、心臓の鼓動を押さえ込む。迅脚鳥の手綱を握り直し、タイミングを見極め――


 ――勢いよく飛び出した。


「さあ!

 こっちだ! ついて来い!」


 腹の底から声を張り上げる。

 音で、存在で、骨刃人たちの意識を無理やりこちらへ引き寄せた。


 一斉に振り向いた八体の視線が、こちらを射抜く。


「「「ガアアアアアアア!!!!」」」


 こちらを認識すると、骨刃人たちはあらん限りの咆哮を上げた。

 次の瞬間、地面を蹴り砕く音と共に、一斉にこちらへ飛びかかってくる。


 私は即座に手綱を引き、迅脚鳥に指示を出した。

 追いつかれないよう、しかし離れすぎないよう――距離を計りながら速度を調整し、一定の間合いを保つ。


 背後から、骨刃人たちの咆哮と、地面を叩く重い音が迫ってくる。

 奴らは走るとき、腕を使って四足歩行になる。


 勢いを増す気配が背中を撫で、思わずヒヤリとするが――その感覚を意志で押さえ込み、迅脚鳥の背の上で冷静さを保った。


 しばらくの間、事前に決めていたルートをなぞるように駆け続け――ようやく、目的の場所が視界に入った。


「よし!」


 私は迅脚鳥の横腹を素早く三度蹴る。

 合図を理解した迅脚鳥が唸るように加速し、地面を蹴る感触が一段と軽くなる。


 これまで一定に保っていた骨刃人たちとの距離が、みるみるうちに開いていく。

 背後の咆哮が遠のくのを感じながら、さらに加速する。


 すると、視界が一気に広がり、遮蔽物のない開けた空間に出た。

 そのまま速度を落とさずに駆け抜けていく。


 次の瞬間――


 鋭く張り詰めた弦の鳴る音が響き、一本の矢が、先頭を走っていた骨刃人の頭蓋を正確に射抜いた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


<セルフィ視点>


 僕の視線の先で、一体の骨刃人が崩れ落ち、霧のように散って消えた。

 どうやら最悪の予想は外れ、相手は魔力体だったらしい。


 その事実に胸を撫で下ろしながら、すぐに視線を前方へ戻す。


 残る骨刃人は七体。

 だが、数を減らしても勢いは衰えず、前方を走るエルナを殺さんと、全力で地面を蹴っていた。

 このままの状況が続けば、いずれ追いつかれる――だが、そうはならない。


 待機していたルシウスが動いた。


 迅脚鳥を巧みに操り、エルナと骨刃人の間を横切るように、一気に駆け抜ける。

 すると次の瞬間、骨刃人たちの動きがはっきりと変わった。


 それまで追っていたエルナから視線を外し、目の前に現れた新たな獲物――ルシウスへと、迷いなく標的を切り替えたのだ。

 そして、そのまま開けた空間を駆け抜け、今度はルシウスを追っていった。


「ふぅ……」


 囮が問題なく切り替わったのを確認し、胸の奥に溜めていた息を静かに吐く。

 すると、囮役を終えたエルナがこちらに合流してきた。


「お疲れ様、エルナ。

 上手くいったね。このまま作戦を続けよう」


「セルフィもお疲れ。

 ――急所に一撃、さすがだね」


 多少、緊張しているようだったが、普段と変わらないエルナの様子に胸をなでおろす。


 互いに労いの言葉を交わすと、すぐにポジションを入れ替える。

 エルナはそのままこの場所に残り、今度はルシウスが引き連れてくる骨刃人を弓で迎え撃つ。

 そして僕は、先ほどまでルシウスが潜んでいた遮蔽物の影へと移動した。


 僕の考えた作戦は、ローテーションだ。


 囮となって、骨刃人たちを遮蔽物のない開けた空間まで引き出す役。

 姿を現した骨刃人を、弓矢で削る役。

 そして囮と交代し、外周を回り込んで再びこの地点へ連れてくる役。


 役割を循環させることで、迅脚鳥への負担を最小限に抑える。

 走行ルートも事前に確認済みで、足場の悪くない経路を選んである。

 短時間であれば、骨刃人たちに追いつかれることはない。



 この作戦が成立している理由は、不死族の習性にある。


 不死族の特徴として、自我や感情が極めて薄いことが挙げられる。

 これは、等級に関わらず全ての不死族に共通していることだ。彼らは常に生者への攻撃を優先させる。


 痛覚が無いから怯まない。

 疲労を感じないから止まらない。


 すぐ隣で同族が倒れようと意にも介さず、自らの身体に矢が突き立っても振り返らない。

 ただひたすらに、視界に捉えた生者へ殺到する――それが、不死族だ。



 そこまで考えたところで、ルシウスが骨刃人たちを引き連れて戻って来た。

 思考を即座に切り替え、迅脚鳥の手綱を握り直す。


 エルナが放った矢が骨刃人の腕に刺さったのを確認してから、次の囮になるべく駆け出した。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 作戦は、順調に進んでいた。

 今は僕が囮となって骨刃人たちを引き連れているが、背後から追ってくる数は、すでに二体まで減っている。


「(あと数巡、繰り返せば終わるな)」


 想定以上に上手くいっていることを認識し、胸の内で小さく息を吐いた。

 だが同時に、気を引き締め直す。


 攻撃地点は、もうすぐそこだ。

 迅脚鳥の速度を維持したまま、視線だけを前へ固定する。


 次の瞬間、弦の鳴る乾いた音が響いた。

 ルシウスの放った矢が、一体の骨刃人の頭部を正確に捉え――


 ――ガンッと鈍い衝撃音が周囲に反響した。


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