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守護獣の誕生秘話  作者: 海名津たくや
守護獣誕生編
18/37

18.廃坑へ

 一晩が明け、僕らは村の入り口に集まっていた。

 時間は早朝。昇り始めた朝日に照らされながら、それぞれ迅脚鳥に跨っている。


「よし。廃坑までは距離もある。さっそく向かおう。

 準備はいい?」


「問題ない。

 この時間に出れば、昼頃には目的地に着くだろう」


「私の方も問題ないよ」


 二人の返事を確認し、僕は迅脚鳥に指示を出した。

 甲高い鳴き声とともに地を蹴り、三頭の迅脚鳥が一斉に走り出した。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今回は狩りではなく、魔防銀の回収作業だ。

 そのため鉱物の判別ができるルシウスと、人手の確保を兼ねてエルナに同行してもらっている。


 ルシウスは現地研究の経験が豊富で、エルナも迅脚鳥の世話の一環として村の外での活動に慣れている。

 二人とも野外行動に不安はなく、今回の任務に問題はなかった。


 なかでも、エルナの協力は想像以上に心強い。

 その理由は――


「セルフィ。百メートル先、北。魔物が一体いるよ」


「了解。進路を変えて避けて通ろう」


 このように、高性能な心視石によって、圧倒的な索敵能力を得られるからだ。

 魔物との接触を事前に把握できるため、危険を避けながら進むことができる。


 おかげで移動は普段よりも格段に安全だった。内心でエルナが同行してくれたことに深く感謝しつつ、僕らは先を急いだ。


 しばらく無言で進んでいると、ふとエルナが思い出したように声を上げた。


「そういえば、目指している廃坑は旧フィリナ領に近いんだろう?

 不死領域に呑まれている可能性や、そうでなくても不意に不死族と遭遇する可能性はないかな?」


 その言葉に、僕も思わず視線を後方へ向ける。

 エルナの問いかけに対して、ルシウスは落ち着いた様子で答えた。


「ああ、それなら心配いらん。

 旧フィリナ領に発生した不死領域の範囲については、すでに把握している。

 ギリギリだが、廃坑は呑まれていない」


「それと、不意に不死族と遭遇する可能性についてだが……。

 これも、現状では起こらないと考えていい」


 あまりにも断定的な言い方に、思わずルシウスの方を見る。


「そこまで言い切るんだね。

 不死領域がギリギリまで近いなら、むしろ危険が高そうだけど……」


「ふむ……」


 ルシウスは少しだけ間を置き、こちらを見た。


「そうだな。

 先も長いことだ。少し詳しく説明しようか」


 そう前置きしてから、ルシアンは話し始めた。



「二人は、この世界に存在する魔力が三種類あるということは知っているか?」


 その言葉に、エルナはわずかに目を見開いた。

 予想外の話題だったのか、少し驚いたような表情で首をかしげる。


「そうなのかい?

 全然知らなかったな。てっきり、魔力なんて一種類だけだと思っていたが……」


「えーと、詳しくは知らないけど……“星の魔力”、“月の魔力”、“太陽の魔力”の三種類があるんだっけ?」


 記憶を辿りながら口にすると、ルシウスは小さく頷いた。


「うむ。セルフィの言う通りだ。

 まずは“星の魔力”について説明しよう」



「星の魔力とは、地脈に流れる魔力や、俺たちの身体の中を巡っている魔力のことだ。

 一般に“魔力”と聞いて思い浮かべるものは、ほぼすべてこれに該当する」


 なるほど、と内心で納得する。

 僕もエルナも、自然と軽く頷きながらルシウスの説明に耳を傾けていた。


「次に、“月の魔力”だが……これは文字通り、月光に含まれる魔力のことだ」


「基本的に、この魔力が直接、俺たちに関わることはほとんどない。

 だが、この月の魔力には、一つだけ厄介な性質がある」


「それが――“瘴気に変質する”という性質だ」

「「ッ!?」」


 僕とエルナが驚いているなか、ルシウスは淡々と話しを続ける。


「不死領域の発生には、いくつかの共通点が存在する。

 一つは、“戦場跡地や災害跡地でしか発生しない”こと。

 もう一つは、“不死領域が形成されるのは夜間のみ”という点だ」


「これらの共通点から考えられるのは――

 月の魔力で構成された始原体が、恐怖や憎しみといった負の感情の影響を強く受けた結果、肉体と精神を蝕む瘴気へと変質している、という説だ」


「そして、そこに月光が降り注ぐことで瘴気が大量に発生し、最終的に“不死領域”が形成されるのだろう」


 ルシウスの話を聞き、思わず頷いた。

 確かに始原体の性質を考えれば、納得できる話だ。


「さて、不死領域の近くでも、不死族に遭遇しない理由だったな。

 これは魔物にも同じことが言えるのだが――基本的に彼らは、瘴気や魔力が満ちた場所から外へ出る理由がない」


 言われてみれば、その通りだ。

 魔物にせよ不死族にせよ、わざわざ環境の悪い場所へ移動する必要はない。


「だが、これには例外が存在する。

 それが、魔境や不死領域が“飽和状態”に達し、溢れ出す場合だ」


「魔境は地脈から、不死領域は月光から、それぞれ常にエネルギーが供給され続けている。しかし、一度形成された魔境や不死領域は、その規模が拡大することはない」


「では、供給され続けるエネルギーはどこへ行くのか――答えは単純で、魔物や不死族の発生に使われるのだ」


「規模は変わらないのに、そこに住む存在だけが増え続ける。

 そうなれば、いずれ限界を迎えるのは当然だ。そうなった時、魔物や不死族が外に溢れ出すこととなる」


 ここまで話すと、ルシウスは言葉を切り、こちらを安心させるように続けた。


「旧フィリナ領に発生した不死領域が飽和状態に達するには、まだ三十年はかかるだろう」


「なるほど。

 だから今回は、不死族と遭遇する心配はないんだね」


「そういうことだ」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ルシウスの説明に納得した僕たちは、その後も順調に進んでいった。

 目的地までおよそ半分ほど進んだところで川に到達したため、ここで一度、休憩を取ることにした。

 迅脚鳥を川辺に寄せ、喉を潤わせている間、僕は頭に浮かんだ疑問をルシウスに聞いてみた。


「そういえば、さっきの魔境や不死領域が飽和状態になると溢れ出すってやつ。

 あれで少し気になったことがあって」


「ん?」


「魔境が飽和状態になって魔物が溢れ出した結果、大陸中に魔物が生息するようになったってことだよね?

 でも、不死族をほとんど見かけることがないのは何で?」


 僕の疑問に、エルナも頷きながら同意する。


「確かに…。

 魔境と同じように飽和状態になった不死領域から不死族が溢れるなら、魔物と同様に大陸中に存在してもおかしくないね」


「ああ、それか。

 いいところに目を付けたな。もちろん理由はある」


「端的に言えば、不死領域は竜が積極的に攻略するからだな」


「竜が?」


「うむ。

 地脈――つまり星の魔力から発生する魔物の中で、竜は間違いなく最強の種族だ。ある意味でこの星を代表する種族と呼んでも過言ではない」


「そして、そんな竜族にとって、この星のものではない魔力で構成され、さらには星に住む生命を蝕む瘴気と不死族は、極めて不快な存在だ」


「だからこそ、竜は不死領域を見つけ次第、一切合切を燃やし尽くす。

 その結果、ほとんどの不死領域は、飽和状態に達する前に消滅することとなる」


「だから、不死族が大陸中に蔓延ることはなかったのだ」


 そう締めくくるルシウスの言葉に、僕とエルナは納得したように頷いた。


「なるほど……。

 あれ? じゃあ、旧フィリナ領の不死領域も、いずれ竜が燃やすの?」


「いずれはな。

 だが、大森林の周囲に竜の縄張りは存在しない。いつになるかは不明だ」


 そこまで言ったルシウスは、眉をしかめ、嫌そうな表情を浮かべながら続けた。


「それに……竜はこちらの事情などお構いなしだからな。

 下手に手を出されて、森ごと燃やされるのはごめんだ」


「「……」」


 僕とエルナは顔を見合わせ、できるだけ竜がこの森の不死領域に気づかないことを願った。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 日が高く昇り、太陽が真上から照りつける頃。

 僕らは、目的地である廃坑の前へと辿り着いた。


 だが――迅脚鳥から降りることはなかった。


 誰も合図を出したわけではない。

 それでも三人同時に、手綱を握ったまま動きを止めていた。


「これは……」


 エルナが、息を潜めるように呟く。


「どういうことだ?

 ありえない、何故――」


 続くルシウスの声も、明らかに硬かった。


 僕たちの視線の先。

 廃坑の入口、その暗がりに――


 “そこにいるはずのない存在”が、確かに立っていた。


「――何故、不死族が不死領域の外にいる?」


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