4. 三人目の婚約者ジュリアン
ライラはエイブリーのパン屋を出ると、つぎはジュリアンを探すことにしました。まずは宿屋へ向かいましたが、そこには不在でした。
ジュリアンは仔竜のベラを連れています。ベラが見つかるような場所へはいけないはずです。ですが、エイブリーのパン屋にはいませんでした。するとまた、こっそり散歩にでかけたようです。
「危険だからやめるように言ったのに」
ライラはため池のある公園に馬を走らせました。ジュリアンが気に入っている場所があるのです。
馬から降りると、手綱をひいて木立を抜けます。そこは周囲からは死角になっている静かな空間でした。穏やかな木漏れ日に照らされて、気持ちいい風に下草がゆれています。
「ジュリアン。いるの?」
ライラが声をかけると、草むらがガサガサとゆれて仔犬くらいの生き物が突進してきました。
「ベラ!」
仔竜のベラです。つるっとした硬い皮膚とまだ短い手足のせいで、竜というよりカメのように見えます。短いツバサや骨格はニワトリに似ていますが、楽しそうに駆け回る姿はまるで仔犬です。
ライラの足にゴツゴツと頭をぶつけたり、ブーツを噛んだりして甘えています。それなのに、ライラが触ろうと手を伸ばすと、サッと距離をとって逃げるのです。ライラはバランスを崩して尻もちをつきました。
「あはは」
木立から小柄な男性が現れました。チュニックの腰にベルトを巻き、そのうえからフードつきの上着を羽織っています。下はレギンスにサンダル。普通の衣服とは違う民族的な衣装ですが、それより目立つのはキラキラと虹色に輝く瞳でした。妖精王の末裔とされる虹眼族の青年、ジュリアンでした。
「ジュリアン。昼間に外出して、誰かに見つかったらどうするの?」
「でも閉じ込めるのは可哀想だよ」
ベラは転んだライラの上によじ登って、その頬に頭をスリスリして甘えています。ライラが首を撫でてやると、ベラはうっとりと目を細めました。
「わたしだって、ベラには自由にさせてやりたいけど」
ライラは眉をしかめてジュリアンを睨みます。ジュリアンはその怒りをサラッと流してこう言いました。
「怒らないでライラ。なにかあったんでしょ? ロア? それともブレッド? 話してみて」
ライラは小さくため息をつくと、さっきあったことを話しました。
「ロアの部屋に謎のオンナ。ブレッドは秘密の怪我か。怪しい! 絶対に怪しいよ!」
「でしょう!」
興奮するライラの腕の中では、ベラがスヤスヤと寝息を立てています。喋りながら撫でていたら、いつの間にか寝てしまったようです。
「ふたりの隠し事はたしかにムカつく。でもさ、ひとまず信じてあげたら? ふたりとも良いヤツだよ。急に別人になったわけじゃない。ね?」
「それは…… そうだけど……」
ジュリアンが微笑みます。ライラはその通りかもしれないと思いました。それと同時にジュリアンらしくないと感じました。上手く説明できませんが、ジュリアンにしては妙に大人っぽい考え方だと思えたのです。
「なんだかジュリアンらしくない」
「そうかな?」
「いつものジュリアンは……」
もっとバカっぽい。そんな言葉が喉から出かかりましたが、違う言葉に変えました。
「もっとフワフワしてる」
「フワフワ?」
ジュリアンが微笑みます。柔らかな髪がフワフワと揺れていました。いつもと変わらないはずなのに、なぜだか大人っぽく見えます。
ベラの世話をするようになって、ジュリアンは変わりました。自己中心的なところが減って、前よりも頼もしくなったのです。
ジュリアンの成長は嬉しいことでしたが、ライラは淋しさも感じていました。
「ベラも寝ちゃったし、そろそろ帰ろうか?」
そう言われて、本来の目的を思い出しました。
「忘れてた。わたしは四人に集まってもらいたくて、あなたを呼びに来たの」
今は四人を集めるのが先決です。ロアとブレッドはそろそろ到着しているころです。カジには使者を迎えにいかせています。あとはジュリアンをつれて、ライラの館へと急がねばなりません。
ジュリアンはイリディセントリングの能力で変身して行くのが早いでしょう。ベラはライラが預かることにしました。寝ているベラを毛布にくるんで、カバンの中にしまいます。
そのとき「失礼」と声をかけられました。
「こちらで変な生き物を見ませんでしたか?」
振り返ると、そこには憲兵隊の制服を着た男が立っていました。鋭い眼光。制服の上からケープを羽織り、片足は義足です。ライラのよく知る人物でした。
「ライラ様? こんな所で何を?」
「ウォッチ!?」
なんと憲兵隊長のウォッチです。まさかこんな所で出会うなんて。あまりの驚きに心臓が飛び出るかと思いました。




