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5. 憲兵隊長ウォッチ

 ライラは考えました。ウォッチは怪盗団にとっては最大の敵ともいえる人物です。ベラのことを知られるわけにはいきません。問題は「どこまで見られたのか?」でしょう。

 ところが、ライラが言葉に迷っているうちにウォッチがこう言いました。


「秘密にしたいのなら結構ですよ。無理には聞きません」


 ライラの「喋りたくない」という思いが顔に出ていたようです。この察しが良さがありがたくもありますが、手強い所でもあります。

 それにウォッチがここに現れた理由も、すぐにわかりました。ウォッチの背後から数人の子供たちが顔を出したのです。


「ヘイタイさん、モンスターいたあ?」

「この子たちが変な生き物を見たと言うのですが、心当たりはありませんか?」


 子供たちが「モンスターを見た」と騒いでいたので、ウォッチが付き添っているのです。


「わたしは自分の眼で見たものしか信用しません。確認もせず、子供の見間違いだと決めつけるのは流儀に反します。仔犬くらいの大きさで、鳥のようでもありますが、頭も目玉も丸いのだと」


 完全にベラのことでした。

 ウォッチからの質問に「ノー」と答えたら嘘をつくことになってしまいます。かといって「上手くごまかそう」と考えると、それだけで首輪はペナルティを与えてきます。

 ライラは喉に息苦しさを感じました。これだけのことが大きなピンチになってしまうのです。


「どうしました? ああ、首輪のペナルティですね。なにか隠したいことがあるのですか?」


 ウォッチの鋭い観察力が、さらにライラを追いつめます。

 嘘がつけない首輪の効果は複雑です。どういう条件でペナルティが発動するのか、ちゃんと把握しているのはライラ本人だけでした。上手く言葉を選べば、ペナルティを発動させずに本心をごまかすくらいのことはできていたのです。

 ところがウォッチは、もちまえの観察力で首輪のペナルティを見抜くようになっていました。特にここ数日は、かなり正確に当ててきます。首輪のペナルティに気がついて、ライラの考えを見透かしてしまうのです。

 絶対絶命の危機でしたが、そのとき「バサバサッ」と音がして、近くの茂みから鳥が舞い上がりました。鋭い爪で木の枝を掴むと、羽をたたんで止まります。


「珍しい。フクロウですね」


 ウォッチがそう言いました。


「フクロウだ!」

「はじめてみた!」

「へんなトリ!」


 子供たちが騒ぎ出します。

 あのフクロウはジュリアンが変身したものでしょう。虹眼族の変身できる動物の中で、モリフクロウが最も難しいとされています。安定した精神を保つ必要があり、メンタルの強い者しか変身できないのです。

 ジュリアンがモリフクロウに変身できるなんて。ライラは驚きました。

 フクロウが羽を広げて、木の枝から飛び立ちます。子供たちがその後を追いかけて走っていきました。

 モリフクロウは頭も目玉も丸い鳥で、仔犬くらいの大きさと言うこともできます。ベラの姿とは似ていませんが、いくつかの特徴は共通しています。ジュリアンの狙いは、ウォッチに「子供たちはモリフクロウをモンスターと見間違えたのだろう」と思わせることでした。そうすればベラのことを隠すことができます。

 しかしウォッチの眼はごまかせません。


「なるほど、あれは虹眼族の少年でしょう?」


 完全に見破られています。


「いつだったか、音楽室にコマドリが乱入したことがありましたね? あれも虹眼族の少年だったのでしょう?」


 これも正解でした。何もかもウォッチに見破られているようです。

 ライラはずっと言葉を発することができません。なにか言えば、すべてがバレてしまうような気がするのです。

 しかしウォッチは、そんなライラの態度も気にせず言葉を続けました。


「虹眼族の変身について調べさせてもらいました。なかなか難しいようですね。危険もある。自在に変身するには、かなりの練習が必要だと。わたしも身に覚えがあります。はじめてこの義足をつけたとき、夜遅くに動く練習をしていたら『モンスターが出た』と騒ぎになったことがありました。まあ、がんばってください」


 どうやらウォッチは、ジュリアンが変身の練習をしていたと解釈したようです。子供たちが色んな動物の特徴を見たのは、複数の動物に変身していたからだと。

 ウォッチは懐中時計を確認すると「そろそろ行きます」と言いました。ケープマントを翻して、「カッコッカッコッ」と義足の足音を響かせながら、来た道を引き返します。


「ありがとう!」


 ライラはウォッチの背中に向かってそう言いました。


「ありがとう?」

「ごめんなさい。首輪のせいで上手く喋れなくて」


 ウォッチは黙ってうなずくと、そのまま歩き去りました。

 ピンチを切り抜けることができましたが、勝ったという気はしません。人間の大きさでは、明らかに敗北しています。素直に敗北を認めて感謝を告げたのは、ライラのプライドでした。

 ライラは馬に跨ると、自分の館を目指して駈け出しました。


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