ついに婚約破棄…されない?
⭐⭐⭐⭐⭐
「くぅおぉぉぉらぁ!このクソガキがぁぁ!!」
ドッタンバッタンと高級感溢れるまるで高級ホテルのような作りの巨大で煌びやかな洋館に、似つかわしくない叫びや騒々しい物音が爽やかな朝に響き渡る。
その騒々しさに誰もが1度は手を止めるが、すぐにいつもの事かと通常に戻っていた。
「くぅおの!このクソガキが!!今日という今日は許さん!!」
まだ十分イケイケなお年頃とも取れる黒髪のダンディーな中年男性が、元々つり上がった目を更に吊り上げ怒鳴りちらす。
そんな男性の睨み付ける先には、男性に怒鳴られていることを全く気にしない素振りでこれまた腰まで長い黒髪の少女が退屈そうに足をブラブラさせてソファーであくびをかいていた。
「あー、もう。お父様、許さなくっていいですってば。全ゼーン全くもって問題ないから!」
もーまーんたーい!
怒り狂った父親に、あろうことか少女は楽しげにウィンクまでしてみせていた。
父親に似たのだろう。
つり目でキツそうなその瞳は周りにあたえてしまいがちな印象を受ける。しかし彼女はキツそうではあるもののそれがまた凛とした印象ももたせたなかなかの美人だ。
「お父様がそんなに怒っているってことは、ついに私の身の破滅が決まったって事でしょう?私が頑張った努力の結果が今ここに出たのね!さあ!お父様!言ってちょうだい!」
王太子と婚約破棄したと!お前は貴族界から追放されたのだと!!
念願の『破滅』の二言を!さあ!今すぐに!
満面な笑みを浮かべるローゼンマリアの言葉に父は更に顔を赤くして目をつり上がらせてしまった。
「きーーー!マリア!よくも、そんなことをお前はぬけぬけと!いいか、よく聞け!王太子殿下はお前を離さないと議会どころか国民の前で宣言までしてしまった!これでお前は完全に国母行きだ!私なんて国母の生家の父扱いだ!婚約破棄も追放も夢のまたゆめだ!」
なんてことだ!私ののんびり目立たない農民スローライフがぉぁぁ、と叫ぶ父にローゼンマリアは元々つり目がちの瞳をさらに吊り上げた。どうやらローゼンマリアがやらかして家の名誉に迷惑をしまっておこっているのではなく、父の夢である農民ウハウハ畑計画を邪魔してしまったことに父は切れていたようだ。
最近は大人しく貴族らしい生活をしていたので、昔から畑大好き、農作業マニアの父はとうに夢をあきらめたと思っていたのだが。どうやらそれはちがったらしい。やはりローゼンマリアの父も母も貴族にはめずらしく、王族に次ぐ最上位貴族であることに窮屈と鬱憤を抱えていたままだったようだ。
「えええ!それじゃあ、だめよ!困るわ!テンプレ守ろう!そこは守ろう!悪役は追放と相場がきまってるのよ!」
元々ローゼンマリアの家は家族揃って小心者で穏やかな性格で、皆揃いも揃って『No貴族、Yes平民』派だった。そのお陰で無茶な領政は行わず、常に領民と寄り添ってきた。そのため領民達とはわりと友好的な関係が構成されていた。
最もそのせいで、控えめな民家に住みたがる領主一家は、領主なんだからもっと威厳を!と領民に押しきられ領民考案のこんなケバケバとした光輝く豪邸に住まわされてもいるのだ。
一度この華美な生活に耐えきれず夜逃げのように領外れの一軒家に移り住んだときには、他の貴族に嘗められたらどうするのだと心配の余り怒りくるった領民に屋敷に強制的に戻されたことは今となっては苦い思い出となっている。
領民に愛されているのはありがたいが、貴族でいることは辛いのだ。
そのため平民生活を諦めきれず領民の目を掻い潜り質素な平民生活を目指す領主一家を、見かねた領民達は今では屋敷の人間とタッグを組み領主が屋敷で豪華な生活をしているかチェックしだす始末。
少しでも社交をサボれば勝手に招待状は出席に返信され、ドレスをケチれば新しい華美な貴族らしいドレスや装飾品が送られてきた。そして没落を望む一家の期待とは裏腹にそれらは全てがなぜか領地の繁栄に繋がっていた。お陰で領は潤い、それが王の目に止まり貴族としての地位を確固たるものにまでされてしまったのだ。
しかし、このままでは父様だけでなく、私の貴族界追放からのスローライフ計画が!!
やっともう少しで夢の小さい民家の質素な平民暮しに手が届くはずだったのに。
どこいった、ゲームの補正力!やる気出せ運命!
思わず頭を抱えたローゼンマリアに怒り狂った父親はビシィッと指差さす。指差されたローゼンマリアはもはや先程までの余裕は吹き飛び、つやすべの陶器のような肌は一瞬にして真っ青に染め上がっていた。
「ふん!お前が撒いた種だろが!天丼プレートは確かに美味いが、お前の言うテンプレートとやらはかなわん!意味がわからん事を言っとらんで、いい加減諦めろ!お前は未来の国母だ!お前も私の道づれで永遠に生涯貴族だ!」
青ざめたローゼンマリアをみて父親はフフフンとふんぞり返りつつ、ニヤリと悪どい笑いをしたためた。
「とにかく!天丼プレート以外はもううけつけん!ロリアンヌ男爵令嬢とやらはお前のせいで学園追放、男爵位剥奪、平民落ちのうらやましい運命となり全てをてにいれてしまった!とにかくこれ以上無駄な悪あがきはよして神妙に国母につけ!お前のせいで我が家はこれから勢力を増してしまうんだからな!この責任はきっちりお前にもとってもらう!お前のせいで領民達からさらに厳しい華美な貴族生活を追求されてしまうんだからな!」
ガハハハハと今度はけたたましくやけくそで壊れたように泣き笑いながら、父は青ざめたローゼンマリアを残し部屋から立ち去っていってしまった。
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次話は明日の更新になります。




