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だってこれは、ボクが

「そういえば」


うつむいていたカノンの目が、こちらを向く。

当然のように。


「まだ貴方の意見を聞いてなかったわ。

どうなの、リステム」


うっかり忘れてた、とでも言いそうな口調。

あまりにも自然の流れで、今まで一度も聞かれなかった質問を彼女はしてきた。


「貴方は、どうしたいの?」


「え?」


「だって力を使うのはリステムでしょ。

どうなの、貴方はどう思ってるの?」


「ボク、は……」







リステムとして生まれてから、愛ちゃんの実験にだけ協力していた。


他の奴等は、ボクを恐れていた。

分からなくもない。一度イギリスの研究施設を島ごと沈めてるんだから、もし何かしたらこの島国も同じ目に遭わされるのではと思っていたんだろう。


でも愛ちゃんだけは、ボクに普通に接してくれた。

なにより愛ちゃんは嘘をつかない、馬鹿正直な人。

あれじゃ生きにくいだろうに、と何度も呆れた。

そういう真面目な所はなっちゃんもそっくり。ただなっちゃんは愛想が基本的に悪いけど。


人間と同じ思考回路を持つようになっても、

ボクは『ササラ』のことを忘れたことはない。

『ササラ』と出会って、何度もさよならをして…。

当然のように、ボクは力を使ってきた。だってそのための存在なんだ。


でも、ボクは『ササラ』と約束をしたから。


だから『ササラ』と同じ気配の人間と何度も接して、何度となく力を使ってきた。

大義のため、地球のため、怨恨のため、神のため。

その度に揺れ動いていた気持ちは、次第に弛緩してしまった。

みんな同じ……どうせ人間なんて、同じ。

繰り返す意味を見失う度に、ボクは『ササラ』を思い出してきた。


でもカノンは、ボクが出会ってきた『ササラ』と全然似ていない。

こんなのははじめてだ、気配は同じなのに。



『どうしてボクの意見なんか、聞くの?』


カノンはますます不思議そうな顔をした。

そしてボクとなっちゃんの顔を交互に見ながら聞いてくる。


「え、だってリステムが力を使うんだから当然でしょ。

話し合いができるように同じ人の形を取らせたんじゃないの?」


カノンはシンプルな考え方をしていた。

難解な思想や文化などを飛び越えて、新しい目線で物事の根幹を急に掴んでくる。時代の機微など気にしない。


なっちゃんも一瞬言葉に詰まっていた。

その顔に、カノンの考え方に、笑いそうになる。


「なによ、何がおかしいのよ」


『別に…。それより、なに?』


「だからっ、…ていうか、聞いてなかったの?

貴方の力をどこの国で使うかって話!」


『ああ…別に、どこでもいんじゃない?』


真面目に考えてるカノンには悪いけど、ボクにとってはどうでもいいことだ。

どこで力を使って、破壊をしようと創造をしようと。

そんなの何千回も繰り返している、ただの作業のひとつにすぎない。もはや何の感情もない。

もちろん、『ササラ』の時の気持ちは一度も忘れないけど、言ってしまえばその時以降の物は作業。

『ササラ』を忘れないための、自分の作業…


「なにその投げやりな返答。

自分の事でもあるんだから、ちょっとは協力しなさいよね。

……んー、でも一理あるかな」


「どこに一理を感じたんだよ」


すかさずなっちゃんのツッコミが入る。

なっちゃん、相変わらず面倒見いいな。


「コイツの主人はお嬢さんなんだから、もっと気張って話せばいいんだよ。

リステムの力を手にいれた時点で、世界の選択肢はお嬢さんにあるんだ」


はぁ、と明らかに納得していない相づちを打つ。

そして、首をかしげながらカノンは続けた。


「主観で話すけど、私たちの世界はそこそこ平和じゃない。

世界レベルのおっきい大戦とかやってんのなら別だけど、リステムの物騒なこの力を使うほど何か危機が迫ってるとは感じないし」


「……」


なっちゃん、絶句。

そしてカメラ越しの全世界の首脳たちも全員絶句してるのが目に浮かぶ。

こんなこと、今までなかった。


「だから、その時まで、

リステムはリステムでいいんじゃないですか?」


『……ふっ』


笑った、笑ってしまった。

カノンはシンプルだ。

もしこの世界が大きな戦争の最中であったとしても、カノンは力を使うことを即断しなかっただろう。


彼女は『武器を取らない人』なのだ。


ボクが出会ってきた『ササラ』に似た人達は、正義感とか顕示欲とか忠誠心とか信仰心とか。

そういう言葉で自分の心を縛って武器を取っていた。

それを悪いとか弱いとか、思わない。


でもカノンは、武器を取らない。

戦わない方法こそが、戦いを減らす。

…果たしてそこまで確固たる信念があると思えないけど。


「そ、そんなの、全世界が許さないぞ…

今まで何度だって世界中の人たちがこの最終兵器で、何かを守り抜いてきたんだ」


「モノじゃないです」


震えるなっちゃんに、カノンはあっさりと言った。


「リステムは、兵器じゃないです」


カノンは会ったときから、そう言っていた。

彼女は間違っている。ボクは兵器だ。

人間を滅ぼしたり、星を作り替えたり。そんなこと、造作もなくやってこれた。

今さら、ボクの心を認められても。


「リステムがやりたければ、やればいいよ。

私だけが気持ちをどうこう問われるなんて不条理だわ」


そんなこと、今さら言われても困る。

……でも、嫌な気はしなかった。


『ねー、なっちゃん』


何も言えなくなっているなっちゃんに、ボクはお願いしてみる。


「ボクの声をみんなに聞けるようにしてよ。

周波数だとか色々手段があるんでしょ?

みんなが聞けるなら、ボクはみんなに文句を言えるからさ」


カノンの言う通り、ボクの気持ちも伝えられるように。

そうすれば、どっかの国の偉い人だとかと話せて交渉もできる。

力を使わずに、カノンを守ることだってできる。


「そんなことができるんですか、守部さん」


「理論上不可能ではないけどな…。

いや、それよりそんな発言、誰も許すわけが…」


なっちゃんの言葉はもう聞かない。

カノンがボクの気持ちを自由にしてくれた。

彼女が正しいかどうかは分からない。でも、ボクはもう『ササラとの約束』を守らなくていいことがわかった。




カノンと出会ったと同時に、気づくべきだった。


———『ササラ』がもういないんだってことに。

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