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何世紀も前から

リステムの力がどう作用したか分からないが、

装甲車の窓にはびっしりと泥がかかっていた。

前が見えないのか、私が近づいても特に変化はない。

一番近い、ワゴンのような装甲車の扉を開けようとするが当然鍵がかかっている。仕方ないので、ごんと音を立ててノックしてみた。


「カノンさん」


レジーナさんの声に振り向くと、彼女の額からひとすじの血が流れていた。


「れ、レジーナさん、血が」


「おかげさまでね…正直ここまで無茶する組織だとは思ってなかったから。

これも、主の思し召しってやつなのかしら?」


まるで気にしていないように、くすり、と笑って掌で血を拭う。

その姿はとても美しく見えた。


「ちなみに、一応言うけど、こちらには来ないのね?」


レジーナさんは必要であれば、武力行使する人だ。

でもリステムの力を知って、『現在の武力で制圧できる相手』じゃないと理解した。

それは、彼女の求める『奇跡の証明』に事足りるだろうか?


「私は真実の前提で証明したいんです。

このリステムの力をどう扱うべきか」


「そう、色気のない問題ね」


コツ、と靴音を立てて身を翻す。

足元に倒れている部下たちを蹴り起こしながら、


「解けたら教えてちょうだい」


レジーナさんは闇の中に消えていった。

呆気ないサヨナラだったけれど、また会えそうな言い方。

でも、二度と会わなくてもそう言うかもしれない。


『あの女、意外とあっさり退いたね』


つまんね、とぼやくリステム。

もっとこじれたら大変な目にあってたってのに、能天気なんだから。…いや、好戦的なのか。

それも困る。


『さーて、カノン。

この車をどうしよっか、吹っ飛ばしてみる?』


「だめだよ。

でも、とりあえず鍵を開けてくれないかな」


再び音を立ててノック。

すると、中で鍵を下ろす音がした。

よし、と扉に手をかけて、一気に開ける。


「箱崎、カノン——で間違いないか?」


おびただしい数の銃口と金属の擦れる音。

装甲車の中から無数の視線と恐怖心の空気。

訓練された軍の人たちが、呼吸を殺して私に狙いを定めている。

でも、彼らはリステムの力を体で感じたはず。

だから向けている銃口で仕留められる相手ではないと、恐怖しているのだ。


「はい、そうです」


リステムは私の後ろに立っている。ただ立っているだけだが、彼の力で容易に全滅させることができるだろう。

どけ、と奥から無気力な男性の声。

スーツの上によれよれの白衣を着ている。軍隊とは違う。研究員か何かだろうか。

彼は気だるそうに、でも私をしっかり、見据えながら口を開く。


「俺は、守部。お前が連れてるリステムを知ってる」


——初めてだ。


『リステム』という名前を呼ばれたのも、その存在を私と別に扱うのも。

いままで、リステムの存在を誰も感知しなかった。

学校にいる時は気づかなかったけど。

レジーナさんも先輩も、最初に来た軍隊も、

…たぶん『リステム』が見えてなかったのだ。


「あんた、バチカン支局の奴らになびかなかったってことは、知りたいんだろう?

リステムのこと、教えてやる」


乗れ、とまた素っ気なく言い、守部さんは奥へ座った。

私も同じように手近な席に座る。リステムもにやにやしながら車に乗り込む。

まだ銃口はこちらを向いているけど、車は動き出した。


『なっちゃん、イギリスからこっち来たんだー』


なにか呟いているリステムの視線の先には、煙草をくわえる守部さん。


「もう少し…」






——これも、何度目の記憶。



「お前さんにはどうすりゃいいか分かってるってことなのかい」


『まぁね。僕の力を使えば、あんな船なんてなんにも怖くないよ』


「でも、それは…誰かの命を奪うってことなんだろ」


『この戦国の世で今更そんなことでためらうの?

あんたって本当に甘いね』


「そんなことない…!

戦で命を落とす中で、死んでも良いなんて考えてる殿方なんて、誰もいないさ!」




……それでも、僕は兵器になった。


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