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君をずっと

レジーナさんは先程から何処かに電話をしている。

何処か分からないのは、話しているのが外国語だからだ。

イタリア語なのかな。

あれから大きな黒いバンに乗って、どこかへ向かっている。

運転手は仕切りがあって見えないけど、日本人とかじゃなさそう。


とりあえず遠出するとのことなので、最低限の荷物を取りに、一度寮に戻った。

その時に明日、華に渡すと約束したレポートのことを思いだし、メールを打つ。

淡々と、自分でも不思議なくらい落ち着いている。


『あんたさー、怖くないの?

これからどっか知らない土地に連れてかれるってのに』


「まぁ、そうだけどね」


怖いのはある。でも、死ににいくわけではないし。

選んだのは私だ。

真実に自分から近づこうと踏み出した。だから、逃げ出す気持ちはない。


『肝が座ってるっていうより、シンプルなんだよな』


馬鹿にしてるのか、リステムは呟いて座り込んだ。

簡単に荷物を詰め、バンに乗る。特に抵抗もない。

まだ空は暗く、明け方はもう少し先。

窓の外の景色も暗くてよく見えないので、横に座っているリステムとぼんやりするしかなかった。


『たぶん、このままだとこの国から出ることになる。

今はこの国に色々守られてたとこもあるけど、この先はさらに強固な鎖の国だぜ。

迂闊に動き回れなくなる』


む、と気がつく。

リステムの言葉通りなら、真実を知ることができるが、そのために行動することが出来ない。

『しなつたま』とやらがある場所を探さなければいけないのに。それは困る。


『……だから、簡単に引き渡してくれるわけないだろーけど』


「え?」


声を潜めて、後ろを見て含むような笑みを浮かべるリステム。

私もつられて後ろを見るが、暗闇で分からない。街灯がちょうどない下道。交差点を曲がって、少し都会に出ればネオンなどに照らされて見えるはず。


「さてと、それじゃカノンさん」


「あ、はい」


今時珍しい折り畳み携帯をパタンと閉じ、

前に座っているレジーナさんはこちらを向いて、私たちに話しかけてきた。

それなのにまだリステムは後ろを見ている。なんだか子供みたい。


「私たちはこれからバチカンに向かいます。

…バチカンは知ってる?」


ちょっとリステムが気になったが、注意しても聞かなそうなので放っておくことにした。


「まあ、教科書で習ったくらいですけど」


「それなら十分よ。

私はバチカンからの使い、有り体に言えばシスターでね。

お偉方の老人達から言われて『主の遺物』である、『救済の破壊女神』を確認し保護しに来たの。

簡単に言うと『奇跡証明』をしに来たのよ」


しゅのいぶつ?

新しい言葉だ。それは私たちの探す『しなつたま』のことだろうか?

神の奇跡かどうかを鑑定する…のがレジーナさんたちの仕事、依頼内容ってことかな。

どうしてバチカンという外国からも、この日本の兵器を知ってて狙ってくるんだろう。

正規の持ち主は、日本じゃないの?


「貴女はその力の事を何も知らないわけね?

忘れてるとかではなく、ただ持ってるだけってことかしら?」


「はい」


ふうん、と少し考え込むように口元に指をやるレジーナさん。

なんだか色っぽい。大人の女って感じ。…私も女だけど、格が違う。


「それじゃあ、私たちの知るお話をしてあげるわね」


『そいつらの話す事は、』


リステムが割って入ってくる。でも背中を向けたまま。


『ちょっと話が大きくなってるから、あまり鵜呑みにするなよ』


私が頷く前に、レジーナさんは続けた。淡々と、本当にただ事実だけを述べるように。


「聖書から、この世界を支える四大元素の内の一つ、風を司る天使が率いたとされる『風の兵団』っていうのがあると言われていて…。

ま、それが貴女の持つ力と何らかの関連があるのではないかと老人達は言ってるのよね」


夢物語みたいな、話を淡々と。

遠い話しすぎて、実感なんか持てないけど。

どうして矢田さんといい、話が大きいんだろう。


「ん、そういえば…矢田さんと話が違うな」


スケールこそ違うけど…国が違うからかな。

そもそも…この国の神様の話とかだと思ってたけど、

やっぱりバチカンもリステムのことを知ってる。

そういえばリステムって名前も片仮名だし。


……なんなの、なんでこんなにリステムの存在ってグローバルなの?

もしや世界規模の話なわけ?

私はただの平凡な大学生なんですが。


軽く混乱する私のことなど気にせず、レジーナさんは

髪をいじりながらため息をつく。


「こうして見る限りでは、あんまりありがたみを感じないけどね。

わざわざ日本まで来て、奇跡証明できなかったらどーすんのかなー。

まぁ私の管轄じゃないからいーけど…」


「!!」


怒号。運転席から、やっぱり日本人じゃない。


大きく車体が揺れる。鼻をつくゴムの焼けた臭い。

急ブレーキ、なのか大きく回転したのか。


『お出ましだな』


リステムはなんだか嬉しそう。片手で私の肩を支えながら、口元は笑顔。

笑ってる場合じゃないって。


「てて…な、急に何なの?」


『後ろを見ろよ。どうやって集めたんだか知らねーけど、団体様のお出ましだぜ』


言われた通り後ろを向くと、街灯の下に何台もの巨大なジープが。

黒っぽい塗装なので分かりづらいけど、普通の乗用車とかじゃない。

なんだろう、迷彩柄にも見えるから…


何かイタリア語で呟いて、舌打ちするレジーナさん。

状況がよく分からないけど、日本の部隊が動いててレジーナさんの部隊と対立してるってことかな。


『で、どーすんの?』


リステムは外を眺めながら聞いてくる。

私は揺れる車体にしがみつくので精一杯なのに、彼はずいぶん余裕そう。


『このままバチカンにお世話になるか、まだ日本にいるか。

アンタが主なんだからボクに命令してよ』


「そんなこと言ったって…!」


がん、がん、と響く重い金属音。その度に車体が揺れる。攻撃、されてるの?

どうしてこんな急に、さっきまで日常にいたはずなのに。

激しく擦れるタイヤの音。投げ出されそうになる。


「こんな状態じゃ、どの前提が正当なのか判断つかないよ!」


『まじめー』


レジーナさんの言うことが正当でも、矢田さんが話したことが前提でも、とりあえず目の前の二つは対立していることは分かる。

レジーナさんが私たちの事を日本から連れ出そうとするのは、つまり神の奇跡の独占。

でも、矢田さんはリステムのことを迷惑がってた。

矢田さんとの繋がりが分からないから、どうして装甲車が追いかけてくるのか分からない。


「とりあえず、あの装甲車の人達の意見を聞かなきゃ。

バチカンまで動けないってのなら、なおさら知りたいし」


だから、この混乱を止めよう。

そう言う前に、リステムは私の腕を掴む。


『おーけー』


風が、また身体を持ってかれるような強風を感じた。

鉄がひしゃげるような異音。つぶっていた目を開けると、車がまるでサイコロを解体したような形になっていた。

よくある問題…この図形を立体にさせたとき…のような。

レジーナさんや運転席の人たちは遠くに吹き飛ばされている。


『大丈夫。

ちょっと遠くに飛ばしただけで殺してないよ。

カノン、殺すのは嫌なんでしょ?』


「そんなの、当たり前でしょ!」


私たちを追っていた装甲車も飛ばされていたが、ひっくり返ってはいない。

リステムは腕を掴んだままだったので、とりあえずそのまま装甲車の方へ向かう。


華の言葉がちらつく。


『気を付けないとよく分かんない教団とかに入信して、女神様とやらになっちゃうかもだよ』


そうなのかは、分からない。

でも、そのおかげで真実には少しずつ近づいてる気がする。


とにかく、あの装甲車へ。

次の真実へ。












…これは、何度目かの記憶。



「あたしには、貴方の力は大きすぎると思うの」


『だから、あいつらのとこに行けっての?』


「あの方々なら、貴方のことを一番に考えてくれる」


『どうしてそう思うの?』


「そんなに心配しないで、大丈夫。

全ての行いは、主が見ていてくださるから」


『僕は、そんな視線、感じたこともないよ』



…こうして、僕はまた兵器になった。

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