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覚えてないよね?

「やほやほ、カノンー!」


午後、華とまた教室の前で待ち合わせ。

この後バイトらしいので、この授業を一緒に受けたら華とはさよなら。

その前に聞いておきたいことがある。


「華、豊先輩って夕方はゼミ室にいるかな」


「んん、いるんじゃない?

マークされてるとはいえ、もうすぐ中間報告時期だし。

んー、もしやもしや?

豊先輩に会いに行くの?」


ぎくり。

そういえば、華は豊先輩を快く思ってないんだった。

華は目を細くして、口を尖らせた。


「だめだめ!

カノンは自己認識が低すぎ!状況把握も浅い!

それがいいとこでもあるけど、気を付けないとよく分かんない教団とかに入信して、女神様とやらになっちゃうかもだよ?

カノンは普通のいたいけな女の子なんだから!」


「いたいけって…」


華は勘が鋭い。無勉で赤点を採らないのは卓越したそのヤマカンによるものだろう。

私の置かれている状況など伝えてないのに。

当たらずとも遠からず。…気を付けよう。


「ではではー稼いできまーす」


ひらひらと手を振り、華を見送る。

そして仰ぎ見た先に、交わる視線…校舎の窓からじっと豊先輩が視ていた。笑顔のままで。


『うわー、気持ち悪ーい』


離れて立っていたリステムが歩みより、睨み付けるように豊先輩を見上げた。

また臨戦態勢になってる…私のことを心配して?


「行こう、リステム」


望まぬ場所かもしれないけど、このままじゃ答えがでない。

求めた公式が見えてくるなら、危険の線を踏みしめよう。

階段を登り、陰る廊下を歩く。


『ねー、このまま行くと怪しげな教団に捕まるよ?』


リステムは私の後ろについて行きながら、そっと呟く。無計画に近い私の思い付きを暗に注意してるのだろう。

それでも、たまには思い付かない組み合わせが思考の先を掴むことがある。


「リステムはあの教団のこと、知ってるの?」


『知らないよ、そんなのいちいち興味ないもの。

でもあの教団は、面倒くさい奴等に繋がってるから、ボクが嫌だ。

あれに比べれば出雲の連中の方が、表に出てこない分、陰険なだけで全然いい』


知ってるみたい。教団自体には興味はないけど、その先に繋がる何かを嫌ってるのかな。

説明が面倒くさいのか、やはりリステムは何も教えてくれない。


「分からないなら、行って確かめないと。

とにかくこのまま何も知らないでリステムの主とか言われて、狙われ続けるなんて嫌よ。

私は答えがほしいの」


がたん、と扉に手をかけた。

ゼミ室。先程の窓はゼミ室の窓。

豊先輩はここで私を待っている。

捕まるのが怖い訳じゃないけど、答えが得られればいい。なにより、豊先輩なら、話せば乱暴しないはず。


「ごきげんよう、箱崎くん」


両手を広げて嬉しそうに立つ豊先輩。

白板には公式の羅列。今日は他のゼミ生はいない。

華の予想通り、中間報告の口述対策でもしていたんだろう。


「出迎えが少なくてすまないね。

校内で他の信徒との接触を禁じられてしまって。

それでも我々の結束はますます高まるというのに!」


恍惚の表情で天を見上げる。

華の言っていた通り、マークされていた先生方からだろう。でも、懲りてないみたいだけど。

それで、と話を戻して、豊先輩は笑った。


「君に願いたいのだけれど、我々のミサに出てくれないかい?

いつもは金曜日なのだけれど、今日は特別な日でね。

わざわざ本国より使者を遣わせてくださったので、急遽今日の夜に集まることになったんだ。

突然だったから、いつもの規模ではないけど主な信徒には会えるはずさ」


まくしたてる。

たくさんのヒントがある情報を聞き漏らさないように咀嚼していく。……本国よりの使者?


『げ…まさか。ここまで来るつもり?』


扉の近くで壁にもたれて立っていたリステムは、嫌そうに呟いた。

ミサか…危険しか感じないけど、行ってみる価値はありそう。


「それはどちらでやるのでしょう?」


「ありがとう、とても有意義な時間になることを約束するよ。

駅前のサテライトセンターの五階。時間は夜九時。

なにかあれば連絡くれたまえ」


あそこなら校舎からは少し遠い。でも九時なら、学生はおろか人通りがないだろう。

他の人を巻き込む規模にもならなそうだ。


「箱崎くん」


一度家に戻ろうと、扉に手をかけた時。

珍しく、『普通』の調子で豊先輩は話しかけてきた。


「君は、自分を救世主だと思うかい?」


「…え?」


静かに、少し哀しそうな目で続ける。


「それとも、罪人だと思うのかい?」


なにを、聞いているのだろう。

今の問いは独り言だったかのように、なんでもないよ、とすぐに呟いて、背を向けられた。

行き場の無い、このモヤモヤ感。…とりあえず家に戻ろう。

校舎を出るともう夕焼けも終わりかけ。

ご飯なにしよう。リステムがいるから自炊しないと。


『カノン』


ずっと後ろで、静かに黙っていたリステムが話し出した。まだ家じゃないから、あまり話しかけてほしくはないけど、もう人通りもいないしいいか。


「なに、なにか食べたいのある?」


『………、鍋』


「あー、でも白菜ないからなー。

オムライスにしよっか、簡単だし」


前向きなのは私の取り柄。

深く考えないで、とりあえず踏み出してみるのも私の取り柄。

華からは色々心配されるけど、程よくこれでいい。

少し謎も解けてきそうだし。


さぁ、ご飯を作ろう。

今夜のリステムと自分のために。

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