のぼる
◆ 一 ◆
今日は日よう日です。
ぎきちとのやくそくの日で、ぎいちは母親に会いに行きます。
ぎきちは近くの山にも畑をもっていて、その道中に母親のおはかがあります。
そこへ向かうのです。
ぎきちは朝早くにおきて、おべんとうを作っていますが、ぎいちはまだねむっています。
そのぎいちのはなが、ヒクヒクとうごきました。
とても良いかおりがします。
――おみそしるのにおい……。あさごはんだ!
ぎいちはとびおきました。
ニッコリとほほ笑んでいます。
ぎきちはかおりがとどくように、いつもふすまを少しだけ開けています。
そうすると、今日のように、ぎいちのはなにかおりがとどいて目をさますのです。
ぎいちの力では、ふとんをおし入れにかたづけられないので、かけ布団をきれいにたたむだけです。
それがおわると、台どころへ向かいます。
「じいちゃん、おはよう!」
「はい、おはよう。もうすぐ朝ごはんだからね」
「はーい! なにかてつだうよ?」
「それなら、つくえをふいてくれるかい?」
「はーい!」
ぎきちはふりかえって笑顔を見せます。
「ふきんはそこだよ」
つくえの上にある、ぬれたふきんを指でさしました。
「はーい!」
「そのまま向こうにおいておいてくれるかい?」
「はーい!」
ぎいちはそれを手にして、居間にあるつくえをふきに行きます。
ひざをついて、つくえをきれいにふきました。
ぎいちはぎきちが来るまで大人しくまちました。
ぎきちが朝食をはこんで来ます。
おみそしる、やさいいため、そしてごはんに、つけものもあります。
「ありがとう!」
「どういたしまして。それでは食べようか」
「いただきまーす!」
「いただきます」
二匹ははしをもち、食べはじめました。
「んまんま」
ぎいちはうれしそうに食べます。
まだあついおみそしるにフーフーと息をふきかけ、それからズズーッとすすります。
「んまんま」
「それはやめなさい」
ぎきちにちゅういをされました。
「えへへ」
二匹は朝食をすませると、いっしょに後かたづけをします。
台どころにあるつくえには、つくってあったおにぎりと、玉子やきと、あつぎりハムをやいたものがお皿にならべられています。
後かたづけがおわるころには、すっかりとさめていました。
ぎきちはそれを、おべんとうばこにつめます。
後はお手ふきをよういして、リュックサックにそれらを入れて、水とうのひもをかたにかけて、さて、いよいよ出発です。
おはかのある山は竹山と言い、山のふもとに竹林が広がっています。
ぎいちの家の西がわにあり、それはくろうの家のそばになります。
正しくは北西になります。
ちなみにカンカン山や学校はぎいちの家の南がわ、たきの家は北がわにあります。
二匹は北西へ向かって歩きはじめます。
ぎいちはリュックサックを背負ったぎきちと手をつないで歩きます。
ぎきちの大きくてあたたかい手をギュッとにぎりしめ、元気良く、笑顔で歩きます。
◆ 二 ◆
大きな道に出て、南北にのびている道を北へ向かいます。
「タケノコほる?」
「タケノコをほっても、もって帰るためのふくろをもっていないんだよ」
「それならほらない?」
「そうだね。ほらないね」
「ざんねーん。またこんどだね」
ぎきちはぎいちを見て、笑顔になりました。
「まだタケノコのじきはつづくから、明日にでもとって来るよ」
「わーい!」
ぎいちは思わず空いている手を上げて、よろこびます。
二匹の左がわには背の低い木と、背の高い木が生えていて、色とりどりの花がさいていました。
それをなんども見ているぎいちは、花のかおりをかぎます。
風にのって、とても良いかおりがして来るのです。
それだけで、ぎいちはうれしくなりました。
大きな道をまっすぐ歩き、左へ曲がる道があって、そこを曲がります。
さきほど通った道にくらべると少しばかり細い道になりました。
木々がせまって来ていますが、今日はぎちきといっしょで、ぎいちはこわくりません。
ぎきちと楽しく話しながら、どんどんとすすんで行きます。
春は花のほかに、わかい芽を出して、お日さまを光をいっぱいあびて、キラキラとかがやかせます。
右がわに曲がる道があります。
その先にくろうの家がありますが、今日は行きません。
まっすぐ道なりにすすみます。
そうすると竹林が見えて来ました。
それから道がくねくねとうねり出して、だんだんとさか道になって来ました。
山道に入ったのです。
二匹はゆっくりとのぼって行きます。
竹林を通りすぎ、右がわに木が生えていないところがあって、下のけしきが見えます。
ぎいちの足が止まり、ぎきちも止まります。
木がいっぱい生えている向こうがわには、たきの家のやねが見えました。
「じいちゃん、たきくんち!」
「ああ、見えるね。たきは今日、どうしているんだろうね?」
「おやすみしてるー!」
「あはは。まだねているのかもしれないね」
それからぎいちが指を差しました。
「あっ、あっちにボクのいえ!」
「そうだね。見えるね」
「くろうくんちは、きがじゃまでみえない」
「うん、たしかに見えないね。もう少し上に行けば見えるよ」
「おはかいって、そのあとはおべんとうだね!」
「そうだよ。それじゃあおはかへ行って、お母さんの石をキレイにしようね」
「はーい!」
二匹は反転をして、山はだにある、まっすぐ上へ向かっているかいだんを上ります。
かいだんを上って行くと、土を平らにしている場所へつきました。
そこには少し大きな石があります。
「かあちゃん! ひさしぶりにきたよ」
ぎいちが話しかけます。
それから、二匹はおはかのある場所に生えているざっそうをぬきます。
ぬいたざっそうは、しゃめんの下へなげました。
その内にかれて、土へもどって行きます。
ぎきちはおくにある水場のそばに、おけとひしゃくがおかれていて、それに水を入れ、石のそばへ行きました。
「さあ、これでキレイにしようね」
「うん!」
ひしゃくをもったぎいちは、水を石にかけます。
「かあちゃん、キレキレイ」
「そう、キレキレイだね」
ぎきちは笑顔でうなずきました。
◆ 三 ◆
二匹はいっしょになって手を合わせます。
「かあちゃん、じいちゃんもボクもげんきだから、しんぱいしないでね。とうちゃんはげんきかわからないけど」
「ゆうさんはそろそろ帰って来るって手紙が届いていたよ」
目を閉じていたぎいちはパチクリと開き、ぎきちを見ます。
「えっ! ほんとう? とうちゃんがかえってくるの?」
「楽しみだね」
「うん! かあちゃん、とうちゃんがかえってくるって!」
笑顔で石に話しました。
きっと、お母さんもよろこんでいることでしょう。
ぎきちはおけとひしゃくを元の場所へもどし、二匹とも手をあらいました。
手ぬぐいで手をふき、またけしきを見ます。
「そうこはここのけしきが好きだったからねぇ……」
そうこは、ぎきちのむすめ、ぎいちの母親の名前です。
「だからここにかあちゃんがいるんだよね。まえもきいた!」
明るい笑顔で言います。
「そうだね。前も話したね。どうも年をとると同じことを言いたくなるんだよ。あはは」
「じいちゃん、そろそろいこうよ。はたけ!」
山にあるぎきちの畑は、もう少し山をのぼった場所にあります。
「そうだね。それじゃあ行こうか」
二匹はかいだんを下りて、また山道を歩きはじめました。
なだらかなさか道を歩き、畑につきます。
そこにはトマトをうえていますが食べごろには遠く、まだ花がさいているだけです。
「トマト、げんき?」
「キレイな花をいーっぱいさかせているから、とーっても元気だね」
「よかった!」
ぎいちがニッコリとほほ笑んで言います。ぎきちもそれを見て笑顔になりました。
「とりたいさくは、どうするの? またするの?」
「するよ。今年も手伝ってくれるかい?」
「やるー!」
とりに食べられないようにネットをはりますが、それは実をつけてからです。
畑を一周したぎきちは道のちかくにシートをしきました。
「それじゃあお昼にしよう」
「わーい!」
二匹はシートに上がり、ぎきちはリュックサックを下ろします。
その中からお手ふきの入った入れものからそれを出し、ぎいちにわたします。
「手をふいて」
「はーい」
次はおべんとうばこを出しました。
「はい、ぎいちの分」
「ありがとう!」
「どういたしまして」
手をふいた二匹はお手ふきをわきへおき、おべんとうばこのふたを開けます。
おにぎりと玉子やきとあつぎりハムが入っています。
ぎいちは手づかみでおにぎりをとりました。
「いただきまーす!」
「どうぞお上がりください」
おにぎりにかぶりついたぎいちは笑顔になります。
口いっぱいに広がるノリのふうみが、ほどよいしおあじと合わさって、口の中がしあわせでいっぱいになりました。
「んー!」
おいしそうに食べるぎいちを見て、ぎきちもしあわせになります。
「いただきます」
ぎきちはあまい玉子やきからです。
半分かじって、うなずきながらかみました。
「うん、おいしい」
「んふふ。おいしいね!」
ぎいちがとてもまん足そうで、ぎきちも玉子やきがよりおいしくかんじます。
二匹はそれからもくもくと食べました。
ぎいちはハムのしょっぱさが大すきで、さいごにとってありました。
それを口に入れ、やっぱり笑顔でおいしそうにかみしめます。
◆ 四 ◆
二匹は水とうに入っていたお茶をのんでのんびりとすごしました。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん!」
シートを二匹でたたんで、リュックサックにしまい、それを背負ったぎきちがぎいちを見ます。
トマトの花がさいた畑を見ていたぎいちは、ぎきちが差し出したと手をとりました。
「行こう」
「はーい!」
山の下に広がるけしきを見ながら、ぎいちは歩きます。
ぎきちはそれに合わせて、ゆっくりと歩きます。
向こうがわの遠い遠いところに地平線が見えていました。
ぎいちはそれを目を細めてみています。
さか道をゆっくり下りて行き、そうこのおはかの前を通る時、ぎいちはおはかに手をふりました。
「かあちゃん、またねー!」
「そうこ、また来るからね」
二匹は足を止めることもなく、さか道を下りて行きます。
さか道は楽に歩けそうですが、ゆっくり歩くとそうではありません。
しっかりを足をふみしめて歩きます。
左右に生えている木々のはっぱの青さに目を細めながら歩きます。
さいている花にも目を向けます。
来た道をもどりながら、見えなかった角度からけしきを見ると、またちがった楽しみを見つけることが出来ます。
竹林までもどって来ると、ぎいちがハッとしました。
なにかを見つけたようです。
「あっ、タケノコがはえてる!」
そう言ったぎいちが指を差すと、ぎきちも見ます。
「ああ、タケノコは生えるのがはやいからね。きっと朝生えていたものが育ったのだろうね」
「にょきにょき!」
「あはは。そうだね。にょきにょきだね」
「あれ、たべる?」
「あそこまで育っていると食べられないなぁ。かたいよ?」
「ざんねん」
なにやらもの音が聞こえて来ました。
竹林の中に、うごくものが見えます。
「なにかいる?」
「どうれ?」
ぎきちものびている竹のおくにいる誰かを見ました。
「ああ、常岡さんちのだれかだね」
「くろうくんち?」
「そうだね」
二匹に気づいたキツネの一匹が手を上げます。
「おーい!」
「こんにちはー!」
「こんにちは」
ぎいちにつづいて、ぎきちもあいさつをしました。
「ろくろうにいちゃん、ごろうにいちゃんといるのー?」
「しろう兄ちゃんだ!」
二匹は竹林に入って、キツネの兄弟のそばへ行きます。
ぎいちは二匹のそばにあるふくろをのぞきこみました。
「わあ! タケノコがいっぱいあるね!」
「時間が時間だから、ちょっと大きくなっちゃってるけどな」
しろうが笑顔で言います。
「まぁこれくらいなら食べられるよ」
いっしょに見ていたぎきちが言うと、ろくろうが笑います。
「あはは。食べられないものをほるわけないよ」
「たしかに。あはは」
ぎきちもそう言って笑いました。
「木田さんちにもって行こうと思ってほってたんだけど、ぎいちもいるか?」
「たきくんちへいくの?」
「そうだよ。で、ぎいちはいるか? どうする?」
「んっとね、ふくろがないからいい。ありがとう」
「ああ、ふくろか。オレが今、家からとって来てやるよ。まってな」
しろうがそう言うとタケノコくわをろくろうにわたして、あっと言う間に走って消えました。
「はやっ!」
ぎいちがおどろいて、ぎきちとろくろうが笑います。
◆ 五 ◆
もどって来たしろうがもっているふくろに、タケノコを六個も入れてくれました。
「わあ! こんなにいいの?」
「しろうくん、そんなにも悪いから、四個にしてくれるかい?」
「これはまだ小さいから、六個にしとく。みそしるやたきこみごはんや、にものにして食べて。その代わり、ぎきちのじいちゃんのとこの竹林からもほっていい?」
「ああ、それはかまわないよ。ほれるだけほっておいてくれると助かるよ」
「ありがとう! それじゃあもう少し……」
「六個! 六個でいいから! ありがとう」
ぎきちがあわててしろうを止めました。
「本当にほれるだけほっておいてくれるかい?」
「うん、ありがたくもらっておくよ。ぎきちのじいちゃん、ありがとう」
しろうではなく、ろくろうが笑顔でこたえます。
ぎいちはふくろに入ったタケノコを見て、ニッコリとほほ笑みました。
「しろうにいちゃん、ろくろうにいちゃん、ありがとう!」
「おう、気をつけて帰れよ。ぎきちのじいちゃんもまた!」
ぎいちを見てからぎきちに目をうつしたしろうが笑顔で手をふります。
「さようなら」
「さようなら」
「またねー!」
ぎいちとぎきちは、しろうとろくろうの二匹と別れて、家へ向かって歩き出しました。
思いがけずタケノコが手に入り、ぎいちはほくほくです。
「今日はタケノコづくしだね」
「やったー! タケノコごはんでしょ、タケノコのおみそしるでしょ!」
「その前に、タケノコのアクをとらないといけないねぇ」
「うんうん」
タケノコが入ったふくろはぎきちがもっていました。
ぎいちはそれが気になって、なんども見ます。
タケノコの、あのシャクシャクとした歯ごたえを思い出して、ぎいちは笑顔になっていました。
山の上から見ていたけしきの中を歩き、家へ近づいて行きます。
来た道をもどっていますが、あるく方向がちがえば、けしきもちがいます。
そして近づく家が見えて来ると、ぎいちも帰って来たよろこびでむねがふくらみました。
「かえってきたー!」
「そうだね。まずは足をあらって、それから家へ上がって、手をあらおうね」
「はーい!」
ぎいちは元気良く返事をして、げんかん前まで先に走りました。
げんかんのすぐ近くに立水せんと言う水道があります。
立っている細い柱のわきに水道のじゃ口がついているもののことです。
げんかんドアを開けておけをもって来ると下において、その立水せんについているじゃ口をひねって水を出しました。
おけに水がたまるとじゃ口を閉じて、おけをもってげんかんへ入ります。
それで足をあらい、よこにおかれているタオルで足をふいて家へ上がりました。
ぎきちは水を入れかえて同じようにします。
二匹はぶじ家にたどりつきました。
これから、もらったタケノコをゆがいて、あくとりをします。
あくをとったら、どんなりょうりになるのでしょうか。
ぎいちは夕食が楽しみ楽しみでしかたがありません。




