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ウサギのぎいち  作者: すげのはち


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4/5

のぼる

◆ (いち) ◆


 今日(きょう)(にち)よう()です。

 ぎきちとのやくそくの()で、ぎいちは母親(ははおや)()いに()きます。

 ぎきちは(ちか)くの(やま)にも(はたけ)をもっていて、その道中(どうちゅう)に母親のおはかがあります。

 そこへ()かうのです。


 ぎきちは(あさ)(はや)くにおきて、おべんとうを(つく)っていますが、ぎいちはまだねむっています。

 そのぎいちのはなが、ヒクヒクとうごきました。

 とても()いかおりがします。

 ――おみそしるのにおい……。あさごはんだ!

 ぎいちはとびおきました。

 ニッコリとほほ()んでいます。

 ぎきちはかおりがとどくように、いつもふすまを(すこ)しだけ()けています。

 そうすると、今日のように、ぎいちのはなにかおりがとどいて()をさますのです。


 ぎいちの(ちから)では、ふとんをおし()れにかたづけられないので、かけ布団(ぶとん)をきれいにたたむだけです。

 それがおわると、(だい)どころへ向かいます。

「じいちゃん、おはよう!」

「はい、おはよう。もうすぐ朝ごはんだからね」

「はーい! なにかてつだうよ?」

「それなら、つくえをふいてくれるかい?」

「はーい!」

 ぎきちはふりかえって笑顔(えがお)()せます。

「ふきんはそこだよ」

 つくえの(うえ)にある、ぬれたふきんを(ゆび)でさしました。

「はーい!」

「そのまま向こうにおいておいてくれるかい?」

「はーい!」

 ぎいちはそれを()にして、居間(いま)にあるつくえをふきに行きます。

 ひざをついて、つくえをきれいにふきました。


 ぎいちはぎきちが()るまで大人(おとな)しくまちました。

 ぎきちが朝食(ちょうしょく)をはこんで()ます。

 おみそしる、やさいいため、そしてごはんに、つけものもあります。

「ありがとう!」

「どういたしまして。それでは()べようか」

「いただきまーす!」

「いただきます」

 二匹(にひき)ははしをもち、食べはじめました。

「んまんま」

 ぎいちはうれしそうに食べます。

 まだあついおみそしるにフーフーと(いき)をふきかけ、それからズズーッとすすります。

「んまんま」

「それはやめなさい」

 ぎきちにちゅういをされました。

「えへへ」

 二匹は朝食をすませると、いっしょに(あと)かたづけをします。

 台どころにあるつくえには、つくってあったおにぎりと、玉子(たまご)やきと、あつぎりハムをやいたものがお(さら)にならべられています。

 後かたづけがおわるころには、すっかりとさめていました。

 ぎきちはそれを、おべんとうばこにつめます。

 後はお手ふきをよういして、リュックサックにそれらを入れて、(すい)とうのひもをかたにかけて、さて、いよいよ出発(しゅっぱつ)です。


 おはかのある山は竹山(たけやま)と言い、山のふもとに竹林(ちくりん)(ひろ)がっています。

 ぎいちの家の西(にし)がわにあり、それはくろうの家のそばになります。

 (ただ)しくは北西(ほくせい)になります。

 ちなみにカンカン山や学校(がっこう)はぎいちの家の(みなみ)がわ、たきの家は(きた)がわにあります。


 二匹は北西へ向かって(ある)きはじめます。

 ぎいちはリュックサックを()()ったぎきちと手をつないで歩きます。

 ぎきちの(おお)きくてあたたかい手をギュッとにぎりしめ、元気(げんき)()く、笑顔で歩きます。



◆ () ◆


 大きな(みち)()て、南北(なんぼく)にのびている道を北へ向かいます。

「タケノコほる?」

「タケノコをほっても、もって(かえ)るためのふくろをもっていないんだよ」

「それならほらない?」

「そうだね。ほらないね」

「ざんねーん。またこんどだね」

 ぎきちはぎいちを見て、笑顔になりました。

「まだタケノコのじきはつづくから、明日(あした)にでもとって来るよ」

「わーい!」

 ぎいちは(おも)わず()いている()()げて、よろこびます。


 二匹の(ひだり)がわには()(ひく)()と、背の(たか)い木が()えていて、(いろ)とりどりの(はな)がさいていました。

 それをなんども見ているぎいちは、花のかおりをかぎます。

 (かぜ)にのって、とても良いかおりがして来るのです。

 それだけで、ぎいちはうれしくなりました。


 大きな道をまっすぐ歩き、左へ()がる道があって、そこを曲がります。

 さきほど(とお)った道にくらべると少しばかり(ほそ)い道になりました。

 木々(きぎ)がせまって()ていますが、今日はぎちきといっしょで、ぎいちはこわくりません。

 ぎきちと(たの)しく(はな)しながら、どんどんとすすんで行きます。

 (はる)は花のほかに、わかい()を出して、お日さまを(ひかり)をいっぱいあびて、キラキラとかがやかせます。


 (みぎ)がわに曲がる道があります。

 その(さき)にくろうの(いえ)がありますが、今日は行きません。

 まっすぐ道なりにすすみます。

 そうすると竹林が見えて来ました。

 それから道がくねくねとうねり()して、だんだんとさか道になって来ました。

 山道(やまみち)(はい)ったのです。


 二匹はゆっくりとのぼって行きます。

 竹林を通りすぎ、右がわに木が生えていないところがあって、(した)のけしきが見えます。

 ぎいちの(あし)()まり、ぎきちも止まります。

 木がいっぱい生えている向こうがわには、たきの(いえ)のやねが見えました。

「じいちゃん、たきくんち!」

「ああ、見えるね。たきは今日、どうしているんだろうね?」

「おやすみしてるー!」

「あはは。まだねているのかもしれないね」

 それからぎいちが指を()しました。

「あっ、あっちにボクのいえ!」

「そうだね。見えるね」

「くろうくんちは、きがじゃまでみえない」

「うん、たしかに見えないね。もう少し上に行けば見えるよ」

「おはかいって、そのあとはおべんとうだね!」

「そうだよ。それじゃあおはかへ行って、お(かあ)さんの(いし)をキレイにしようね」

「はーい!」

 二匹は反転(はんてん)をして、山はだにある、まっすぐ上へ向かっているかいだんを(のぼ)ります。


 かいだんを上って行くと、(つち)(たい)らにしている場所(ばしょ)へつきました。

 そこには少し大きな石があります。

「かあちゃん! ひさしぶりにきたよ」

 ぎいちが話しかけます。

 それから、二匹はおはかのある場所に生えているざっそうをぬきます。

 ぬいたざっそうは、しゃめんの(した)へなげました。

 その(うち)にかれて、土へもどって行きます。

 ぎきちはおくにある水場(みずば)のそばに、おけとひしゃくがおかれていて、それに水を入れ、石のそばへ行きました。

「さあ、これでキレイにしようね」

「うん!」

 ひしゃくをもったぎいちは、水を石にかけます。

「かあちゃん、キレキレイ」

「そう、キレキレイだね」

 ぎきちは笑顔でうなずきました。



◆ (さん) ◆


 二匹はいっしょになって手を()わせます。

「かあちゃん、じいちゃんもボクもげんきだから、しんぱいしないでね。とうちゃんはげんきかわからないけど」

「ゆうさんはそろそろ(かえ)って来るって手紙(てがみ)(とど)いていたよ」

 目を()じていたぎいちはパチクリと(ひら)き、ぎきちを見ます。

「えっ! ほんとう? とうちゃんがかえってくるの?」

「楽しみだね」

「うん! かあちゃん、とうちゃんがかえってくるって!」

 笑顔で石に話しました。

 きっと、お母さんもよろこんでいることでしょう。

 

 ぎきちはおけとひしゃくを元の場所へもどし、二匹とも手をあらいました。

 手ぬぐいで手をふき、またけしきを見ます。

「そうこはここのけしきが()きだったからねぇ……」

 そうこは、ぎきちのむすめ、ぎいちの母親の名前(なまえ)です。

「だからここにかあちゃんがいるんだよね。まえもきいた!」

 (あか)るい笑顔で言います。

「そうだね。(まえ)も話したね。どうも(とし)をとると(おな)じことを言いたくなるんだよ。あはは」

「じいちゃん、そろそろいこうよ。はたけ!」

 山にあるぎきちの畑は、もう少し山をのぼった場所にあります。

「そうだね。それじゃあ行こうか」

 二匹はかいだんを()りて、また山道を歩きはじめました。


 なだらかなさか道を歩き、畑につきます。

 そこにはトマトをうえていますが食べごろには(とお)く、まだ花がさいているだけです。

「トマト、げんき?」

「キレイな花をいーっぱいさかせているから、とーっても元気だね」

「よかった!」

 ぎいちがニッコリとほほ笑んで言います。ぎきちもそれを見て笑顔になりました。

「とりたいさくは、どうするの? またするの?」

「するよ。今年(ことし)も手(つだ)ってくれるかい?」

「やるー!」

 とりに食べられないようにネットをはりますが、それは()をつけてからです。


 畑を一周(いっしゅう)したぎきちは道のちかくにシートをしきました。

「それじゃあお(ひる)にしよう」

「わーい!」

 二匹はシートに上がり、ぎきちはリュックサックを()ろします。

 その中からお手ふきの入った入れものからそれを出し、ぎいちにわたします。

「手をふいて」

「はーい」

 (つぎ)はおべんとうばこを出しました。

「はい、ぎいちの(ぶん)

「ありがとう!」

「どういたしまして」

 手をふいた二匹はお手ふきをわきへおき、おべんとうばこのふたを開けます。

 おにぎりと玉子やきとあつぎりハムが入っています。

 ぎいちは手づかみでおにぎりをとりました。

「いただきまーす!」

「どうぞお上がりください」

 おにぎりにかぶりついたぎいちは笑顔になります。

 (くち)いっぱいに(ひろ)がるノリのふうみが、ほどよいしおあじと合わさって、口の(なか)がしあわせでいっぱいになりました。

「んー!」

 おいしそうに食べるぎいちを見て、ぎきちもしあわせになります。

「いただきます」

 ぎきちはあまい玉子やきからです。

 半分(はんぶん)かじって、うなずきながらかみました。

「うん、おいしい」

「んふふ。おいしいね!」

 ぎいちがとてもまん(ぞく)そうで、ぎきちも玉子やきがよりおいしくかんじます。

 二匹はそれからもくもくと食べました。

 ぎいちはハムのしょっぱさが(だい)すきで、さいごにとってありました。

 それを口に入れ、やっぱり笑顔でおいしそうにかみしめます。



◆ () ◆


 二匹は水とうに入っていたお(ちゃ)をのんでのんびりとすごしました。

「それじゃあ、そろそろ(かえ)ろうか」

「うん!」

 シートを二匹でたたんで、リュックサックにしまい、それを背負ったぎきちがぎいちを見ます。

 トマトの花がさいた畑を見ていたぎいちは、ぎきちが差し出したと手をとりました。

「行こう」

「はーい!」

 山の下に広がるけしきを見ながら、ぎいちは歩きます。

 ぎきちはそれに合わせて、ゆっくりと歩きます。

 向こうがわの遠い遠いところに地平線(ちへいせん)が見えていました。

 ぎいちはそれを()(ほそ)めてみています。


 さか道をゆっくり下りて行き、そうこのおはかの前を通る(とき)、ぎいちはおはかに手をふりました。

「かあちゃん、またねー!」

「そうこ、また来るからね」

 二匹は足を止めることもなく、さか道を下りて行きます。

 さか道は(らく)に歩けそうですが、ゆっくり歩くとそうではありません。

 しっかりを足をふみしめて歩きます。

 左右(さゆう)に生えている木々(きぎ)のはっぱの(あお)さに目を細めながら歩きます。

 さいている花にも目を向けます。


 来た道をもどりながら、見えなかった角度(かくど)からけしきを見ると、またちがった楽しみを見つけることが出来(でき)ます。

 竹林までもどって来ると、ぎいちがハッとしました。

 なにかを見つけたようです。

「あっ、タケノコがはえてる!」

 そう言ったぎいちが指を差すと、ぎきちも見ます。

「ああ、タケノコは生えるのがはやいからね。きっと朝生えていたものが(そだ)ったのだろうね」

「にょきにょき!」

「あはは。そうだね。にょきにょきだね」

「あれ、たべる?」

「あそこまで育っていると食べられないなぁ。かたいよ?」

「ざんねん」

 なにやらもの音が()こえて来ました。


 竹林の中に、うごくものが見えます。

「なにかいる?」

「どうれ?」

 ぎきちものびている竹のおくにいる誰かを見ました。

「ああ、常岡(つねおか)さんちのだれかだね」

「くろうくんち?」

「そうだね」

 二匹に気づいたキツネの一匹が手を上げます。

「おーい!」

「こんにちはー!」

「こんにちは」

 ぎいちにつづいて、ぎきちもあいさつをしました。

「ろくろうにいちゃん、ごろうにいちゃんといるのー?」

「しろう(にい)ちゃんだ!」

 二匹は竹林に入って、キツネの兄弟(きょうだい)のそばへ行きます。


 ぎいちは二匹のそばにあるふくろをのぞきこみました。

「わあ! タケノコがいっぱいあるね!」

時間(じかん)が時間だから、ちょっと大きくなっちゃってるけどな」

 しろうが笑顔で言います。

「まぁこれくらいなら食べられるよ」

 いっしょに見ていたぎきちが言うと、ろくろうが(わら)います。

「あはは。食べられないものをほるわけないよ」

「たしかに。あはは」

 ぎきちもそう言って笑いました。

木田(きだ)さんちにもって行こうと思ってほってたんだけど、ぎいちもいるか?」

「たきくんちへいくの?」

「そうだよ。で、ぎいちはいるか? どうする?」

「んっとね、ふくろがないからいい。ありがとう」

「ああ、ふくろか。オレが(いま)(いえ)からとって来てやるよ。まってな」

 しろうがそう言うとタケノコくわをろくろうにわたして、あっと言う()(はし)って()えました。

「はやっ!」

 ぎいちがおどろいて、ぎきちとろくろうが笑います。



◆ () ◆


 もどって来たしろうがもっているふくろに、タケノコを六個(ろっこ)も入れてくれました。

「わあ! こんなにいいの?」

「しろうくん、そんなにも(わる)いから、四個(よんこ)にしてくれるかい?」

「これはまだ(ちい)さいから、六個にしとく。みそしるやたきこみごはんや、にものにして食べて。その()わり、ぎきちのじいちゃんのとこの竹林からもほっていい?」

「ああ、それはかまわないよ。ほれるだけほっておいてくれると(たす)かるよ」

「ありがとう! それじゃあもう少し……」

「六個! 六個でいいから! ありがとう」

 ぎきちがあわててしろうを()めました。

「本当にほれるだけほっておいてくれるかい?」

「うん、ありがたくもらっておくよ。ぎきちのじいちゃん、ありがとう」

 しろうではなく、ろくろうが笑顔でこたえます。

 ぎいちはふくろに入ったタケノコを見て、ニッコリとほほ笑みました。

「しろうにいちゃん、ろくろうにいちゃん、ありがとう!」

「おう、気をつけて帰れよ。ぎきちのじいちゃんもまた!」

 ぎいちを見てからぎきちに目をうつしたしろうが笑顔で手をふります。

「さようなら」

「さようなら」

「またねー!」

 ぎいちとぎきちは、しろうとろくろうの二匹と(わか)れて、家へ向かって歩き出しました。


 思いがけずタケノコが手に入り、ぎいちはほくほくです。

「今日はタケノコづくしだね」

「やったー! タケノコごはんでしょ、タケノコのおみそしるでしょ!」

「その前に、タケノコのアクをとらないといけないねぇ」

「うんうん」

 タケノコが入ったふくろはぎきちがもっていました。

 ぎいちはそれが気になって、なんども見ます。

 タケノコの、あのシャクシャクとした()ごたえを思い出して、ぎいちは笑顔になっていました。


 山の上から見ていたけしきの中を歩き、家へ近づいて行きます。

 来た道をもどっていますが、あるく方向(ほうこう)がちがえば、けしきもちがいます。

 そして近づく家が見えて来ると、ぎいちも帰って来たよろこびでむねがふくらみました。

「かえってきたー!」

「そうだね。まずは足をあらって、それから家へ上がって、手をあらおうね」

「はーい!」

 ぎいちは元気良く返事をして、げんかん前まで先に走りました。


 げんかんのすぐ近くに立水(りっすい)せんと言う水道(すいどう)があります。

 立っている(ほそ)(はしら)のわきに水道のじゃ(ぐち)がついているもののことです。

 げんかんドアを開けておけをもって来ると下において、その立水せんについているじゃ口をひねって水を出しました。

 おけに水がたまるとじゃ口を()じて、おけをもってげんかんへ入ります。

 それで足をあらい、よこにおかれているタオルで足をふいて家へ上がりました。

 ぎきちは水を入れかえて(おな)じようにします。


 二匹はぶじ家にたどりつきました。

 これから、もらったタケノコをゆがいて、あくとりをします。

 あくをとったら、どんなりょうりになるのでしょうか。

 ぎいちは夕食(ゆうしょく)が楽しみ楽しみでしかたがありません。

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