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ウサギのぎいち  作者: すげのはち


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3/5

かよう

◆ (いち) ◆


 ガラッと玄関(げんかん)()()(おと)がかすかにします。

「ぎーいーっちゃーん」

 たきの(こえ)です。

 ぎいちは、あわててカバンをもちました。

「おはよう!」

 玄関へ()くと、たきが笑顔(えがお)()っています。

「じいちゃーん、いってきまーす」

 おくに()かって大声(おおごえ)()しました。

 (はし)足音(あしおと)がドタドタドタと(ちか)づいて()ます。

「たき、おはよう。二匹(にひき)とも()をつけて行くんだよ。いってらっしゃい」

「ぎきちのおじいちゃん、いってきます」

「きをつけていってくるー。じゃあねー!」

 ぎいちは戸を()めました。

 二匹は(かお)見合(みあ)わせ、()をつなぎます。

 どちらともなく(ある)き出しました。


 二匹は毎朝(まいあさ)こうしていっしょに学校(がっこう)(かよ)います。

「きょうのあさごはんは、タケノコごはんと、タマネギとタマゴのサラダだったー!」

「うちもタケノコごはんに、タケノコのおみそしるだった。ぎきちのおじいちゃんのおかげだね。ありがとう」

「それはじいちゃんにいってくれる? ボクはかんけいないからね」

「タケノコ、いっしょにとりに行ったんじゃないの?」

「いってないー。あのね、タマゴやさんのばしょをおぼえたから、ボクだけでおつかいにいってた」

「そうなんだね。それじゃあかえりに、ぎきちのおじいちゃんにおれいを()うよ」

「うん、そうして」

 二匹は顔を見合(みあ)わせると、笑顔になりました。


「おーい!」

 歩いていると、(うし)ろから声がします。

 二匹は後ろにふりかえると、キツネのくろうが(はし)って近づいていました。

「くろうくん! おはよう!」

「おはよう」

 ぎいちにつづき、たきもあいさつをします。

「おう、おはよう!」

 くろうがおいついて、二匹にならびました。

「にいちゃんたちは?」

「ろくろう(にい)ちゃんと、しちろう兄ちゃんはもう行った。はちろう兄ちゃんはまだ(いえ)だ」

 ()いてきたぎいちに、笑顔でこたええます。

 くろうは兄弟(きょうだい)(おお)く、(うえ)から九番目(くばんめ)がくろうになります。


「たきもようやく一年生(いちねんせい)だな。おめでとう」

「ありがとう」

 たきは本当(ほんとう)ならば去年(きょねん)入学(にゅうがく)するはずでしたが、(からだ)(よわ)くて学校(がっこう)(かよ)体力(たいりょく)がなかったのです。

「ボクとおなじがくねんだよ。ねーっ」

「うん、(おな)じがくねんだね」

 (なか)()い二匹を見たくろうは、自然(しぜん)と笑顔になりました。


 ぎいちが、ふとくろうを見ます。

「たきくん、くろうくんとてをつなげば?」

「ええ? オレはいいよ」

「てをつないであるくと、たのしいよ?」

「ぎいちは走る方がいいんじゃないのか」

 そう()われて(そら)()(かんが)えます。

「あーっ、はしるのはすき。だいすきだけど、てをつないであるくのもすきだよ」

 ニコッとほほ()み、くろうに顔を向けました。

「それじゃあくろうくん、こっちへきて、ボクとてをつなぐ?」

「ちがう、たきがイヤなんじゃないぞ。手をつなぐのがイヤなんだ」

 手をふってひていしているくろうを見て、ぎいちはふしぎに(おも)います。

「ふうん。そうなの」

「手つなぎは一年生でそつぎょうだ」

「そつぎょう?」

「一年生でおわりってことだよ」

「ふうん。じいちゃんはつないでくれるよ?」

「ぎいちが一年生だからだよ」

「にねんせいになっても、つないでもらうもーん!」

 ぎいちがムキになって言うと、たきが(わら)いました。

「あはは。ぼく、ほんとうなら二年生(にねんせい)(とし)だけど、手をつないでるよ?」

「年はそうでも一年生だからいいんだよ」

 くろうは(にが)笑いをしながら言います。

 ぎいちは良く()からなくなりました。



◆ () ◆


 学校につくと、くろうとは学年(がくねん)がちがっていて(わか)れました。

 ぎいちはたきと二匹で教室(きょうしつ)へ向かいます。

 ドアを()けると、教室にはだれもいません。

「いちばんのりー!」

 ぎいちがうれしそうに(せき)へ走ります。

「ぼくも一番(いちばん)のりー!」

「いっしょにいちばんのりだね!」

 二匹ははしゃいでいました。


 一匹、また一匹と教室へ(はい)って来て、五匹(ごひき)がそろいました。

 そして、ぎいちの苦手(にがて)なきぬも来ました。

「おはようございます」

「おはようございます!」

 あいさつをしたのは、ぎいちだけでした。

 きぬはそれでも笑顔です。

宇木(うぎ)くんは元気(げんき)だね。あいさつをしてくれて、先生(せんせい)はとってもうれしいよ。毎日(まいにち)つづけてね」

 ぎいちは、やはりやさしいきぬが(しん)じられません。

 けれども、(まえ)にいるきぬは笑顔です。

 ――きぬちゃんがやさしい……。あめがふる?

 思わず(くび)をかしげました。

 四匹(よんひき)は気まずいふんいきで、うつむいています。


「宇木くんいがいの()たちも、これからはきちんとあいさつをしてね」

「はーい!」

 ぎいちがへんじをすると、きぬがクスっと(わら)います。

 今回(こんかい)は声が(ちい)さくても、たきもへんじをしていました。

 たきは一歩(いっぽ)(ぜん)しんです。

「では出席(しゅっせき)をとります。名前(なまえ)をよばれたら、はいっとへんじをしてね」

「はーい!」

 今回はたきも(おお)きな声でへんじをしました。

 きぬがうれしそうに笑顔になります。

「宇木くん」

「はーい!」

木田(きだ)くん」

「はーい!」

小松(こまつ)くん」

「……はい」

多田(ただ)くん」

「はい」

縫本(ぬいもと)くん」

「はい」

「はーい、ぜんいんいましたね。それでは(あさ)(かい)をはじめまーす」

 そう言うとノートを手にして(ひら)きます。

今日(きょう)一時間(いちじかん)()は、学校の(なか)をあんないをするね。どこに、どの教室があるか、きちんとおぼえて行こうねー!」

「はーい!」

 ぎいちとたきが、いっしょにへんじをしました。

 三匹(さんびき)はやはり気まずいままです。

 とくにネコの小松くんは、みけんにシワをよせていました。


 一時間目は校内(こうない)を歩き(まわ)り、どこにどの教室があるかを見て行きました。

 ぎいちは(たの)しくてしかたがありません。

 くろうのいる教室の前も通ります。

 しかし、ぎいちはくろうに気づきませんでした。

 理科(りか)(しつ)音楽(おんがく)室、家庭(かてい)()室、図画(ずが)工作(こうさく)室、図書(としょ)室があり、図書室にはそのまま入って行き、たくさんある(ほん)を見て回りました。


 ぎいちは、分かるかん()もありますが、きほん(てき)にひらがなしか()めません。

 たきはやさしいかん字なら読めます。

 ぎいちはたきに本をわたし、小声(こごえ)で読んでもらいました。

「これいじょうはムリだよ。むずかしい字がいっぱいあるからね」

「そう。ありがとう。たのしかった」

 うれしそうに言い、たきから本をわたされると、(もと)のばしょへもどします。

 たのしい一時(ひととき)をすごし、一年生の教室へもどりました。



◆ (さん) ◆


 (やす)時間(じかん)になり、きぬが教室を()て行くと、ネコの小松くんとブタの多田くんがぎいちの(ほう)()かいます。

 たきがそれを見て、(くび)をかしげました。

 ――まどがわへ()ってるのかな?

 たきの考えは(はず)れていて、二匹はぎいちの前で()まり、それを見てとてもいやな気もちになりました。


 ぎいちはキョトンとした顔で二匹を交互(こうご)に見ます。

「なに? なにかようがあるの?」

「おい、おまえ」

 (さき)(くち)を開いたのは小松くんでした。

「ちょうしにのってんじゃねえぞ!」

「ちょうし? ちょうしってなに? それにどうやってのるの?」

 (はなし)(つう)じなさに、小松くんはおどろきます。

 イヌの縫本くんまで来て、ぎいちは三匹に(かこ)まれてしまいました。

「おまえんち、じいちゃんしかいないのか?」

 多田くんが質問(しつもん)をします。

「そうだよ。じいちゃんがいるよ」

 笑顔で答えるぎいちは多田くんを見ています。

「ハッ、だからそんなにマヌケなのか」

 小松くんが言いましたが、その言葉にぎいちがだまります。

 ――きぬちゃんがいわなくなったマヌケ……。いわれた……。

「じぶんだけ良い子になってるんじゃないぞ」

 縫本くんまでぎいちをせめはじめました。

 たきは両手(りょうて)で口をおおって、どうして良いのか分からずに見ています。

「おまえのかあちゃん、でべそだろ!」

 わる(ぐち)を言ったのは小松くんでした。

 ぎいちは小松くんを見ます。

「かあちゃん? ボクのかあちゃんはね、いしなんだよ。あのね、じいちゃんとあいにいくんだけど、いくといつもみずをかけて、キレイキレイにするんだよ」

 そう笑顔で(はな)すぎいちを見た三匹はギョッと驚きました。

 母親(ははおや)(いし)ということが、どういうことかが分かったからです。


 三匹はそれぞれの顔を見て、ぎいちに顔を向けました。

「ごめん。あの……がんばろう」

 縫本くんがまっ先に言い、席へもどります。

「ふ、ふん。ぼくには(かあ)ちゃんがいてわるかったな」

 しゃざいにならないしゃざいをして多田くんも席へもどります。

「かっ、かあちゃんがいないくらいでいい気になるなよっ」

 小松くんはそう言って席へもどりました。

 たきはそれを見て、いかりがこみ()げて来てしまい、つくえに手をついて立ち上がりました。

 ガタッといすが音を立てます。

「あやまれないなんて、サイテーだよ!」

 立ち止まった小松くんは、()をかみしめます。

「……わるかったよ!」

 ぎいちは自分(じぶん)に言われているとは思わず、もう聞いていませんでした。

 それを見たたきは(にが)笑いをします。

 ――ぎいっちゃんらしいと言えば、らしいんだけど……ね。


 三匹は(くら)い顔になってしまいましたが、ぎいちはまどの外を見てほほ笑んでいました。

 ぎいちはもう、三匹の言ったことを気にしていません。

 それよりも、(あお)(そら)がきれいで、それがとてもうれしかったのです。

 そこには(しろ)(くも)がいくつかうかんでいて、(すこ)しずつ、少しずつ、(かたち)をかえていました。

 ながれて行く雲が形をかえて、うすくなって、きえて行くそのようすを、ただただぼんやりとながめていました。



◆ () ◆


 一年生には、まだ給食(きゅうしょく)がありません。

 お(ひる)前におわり、(いえ)(かえ)ります。

「せんせい、さようなら」

 五匹が声をそろえて、きぬにあいさつをしました。

「気をつけて帰るんだよー? より道はしないようにねー!」

 きぬは笑顔で手をふって、五匹を見おくります。

 さいごまで手をふっていたのは、ぎいちでした。

「ぎいっちゃん、きちんとまえを見ないと、またころんじゃうよ?」

「はーい」

 笑顔でへんじをすると、たきと手をつなぎます。

「えへへ」

 二匹は笑顔で見合いました。


 色目(いろめ)があざやかな道を、楽しく話しながら歩いていますが、たきの(あし)どりがだんだんとおそくなって行きます。

 ぎいちもゆっくりと歩きました。

「たきくん、くたびれたの?」

「うん、少し……」

「それじゃあ、ボクがおぶうね」

「いいの?」

「うん! そのかわり、ボクのカバンももってくれる?」

「うん。いいよ。ごめんね?」

「きにしないでだいじょうぶ!」

 ぎいちはカバンをたきにわたし、それからたきを背負(せお)います。

「よーし! いくよぉー!」

「おねがいします」

 たきは(しん)ぱいそうにしていますが、ぎいちは笑顔で歩き出しました。


 ぐんぐんとすすんで行きます。

 ぎいちは、たきと歩いている(とき)、こうして背負うことがありました。

 それで、こうしたことにはなれているのです。

 たきは、それでも心ぱいです。

 いつも心ぱいしています。

 うれしい気もちと、わるいと思う気もちと、ごちゃまぜになっていました。


 まだお()さまが真上(まうえ)に来ていませんが、ジリジリとお日さまがてって、たきにねつをあたえます。

 まだ四月(しがつ)なのに、お天気(てんき)が良くて、あたたかいを(とお)りこして、あつくなりはじめました。

「あついけど、ぎいっちゃんはだいじょうぶ?」

 たきが心ぱいをして、ぎいちに声をかけます。

「ボク? だいじょうぶー! もうすこしはやくあるく?」

「ううん、これくらいでいい。ありがとう」

「わかったー」

 二人は話をしないで、しずかな時間がながれて行きます。


 たきは、おだやかな(かぜ)がふいているとかんじました。

 しかし、それはぎいちが歩いていてかんじるものでした。

 そして、背負われていて、体が上下(じょうげ)にゆれます。

 それに()わせて、見ている世界(せかい)もゆれました。

 たきはこのかんかくが大すきです。

 今日はぎいちが背負っていて、(なが)い長い(みみ)がその世界をさえぎっています。

 その長い長い耳が左右(さゆう)にゆれて、楽しそうにおどって見えます。

 たきはぎいちがやはり心ぱいでしたが、楽しさの(ほう)(つよ)くなって来ました。


 ゆらり、ゆらりとゆれる耳。

 ふわり、ふわりとゆれるけしき。

 ゆっさ、ゆっさとゆれる体。


 心地(ここち)良くなって来たたきは、いつの()にか、ねむっていました。

 ぎいちは歩くことに必死(ひっし)で、たきがねむっていることに気がつきません。

 ――なんか、きゅうにたきくんがおもくなった。なんで?

 (ちから)がぬけたたきは、とてもとても(おも)くかんじました。

 それでもぎいちは弱音(よわね)をはきません。

 いっしょけんめいに、たきを背負ったまま歩きます。



◆ () ◆


 ぎいちはたきを背負ったまま、家へもどりました。

「たきくん、いえ、ついたよ」

 ぎいちはつかれているようです。

 それはそうでしょう。

 一匹(いっぴき)でここまで帰ったのですから。

 たきはねむっていて、はんのうがありません。

 ぎいちはえんがわへ(まわ)り、たきをそこへおろします。

「たきくん、()んだ?」

 心配になって、はなの前へ手をもって行きます。

 にくきゅうに、たきの(いき)があたりました。

「いきてる」

 ホッと安心(あんしん)して、たきのうでからにもつをとり、よこへおきます。


 あわててぎきちをさがし、つれて来ました。

「おやおや、たきはねむってしまったのかい」

 ぎきちは(さき)布団(ふとん)をしいて、たきをそこへねませます。

 二匹はグッスリねむっているたきを見て、ニッコリとほほ笑み合いました。

「ぐっすりだよ?」

「体力がもたなかったんだねぇ。つかれているんだよ」

「たきくん、ガッコへかよえない?」

「そのうちに、少しずつ体力がついてくるよ」

「ほんとう?」

「ああ、本当(ほんとう)だとも」

 二匹はへやをうつって、たきをしずかにねむらせます。


 ぎいちは、今日あったことをぎきちに話しました。

 三匹に囲まれたことも話しました。

「それでね、おかあさんがいしってはなしたら、みんなおどろいてた」

「そうかい、そうかい。それじゃあお母さんに、その話をしに行こうか。(つぎ)(にち)よう()に行ってみるかい? どうだい?」

「いくー! ひさしぶりにあう」

「おにぎりを(つく)って、玉子(たまご)やきを作って、(すい)とうをもって、お出かけしようね」

「はーい!」

 元気の良いぎいちを見て、ぎきちはうれしそうに笑いました。


 ()きたたきと三匹(さんびき)でお昼ごはんを()べます。

 今日のお昼ごはんは、ぎきちの(はたけ)でとれたばかりのキャベツのいためもの、それからとてもしんせんなキュウリとトマトのサラダでした。

 シャクシャク、ポリポリ、三匹で楽しい音を立てながら食べます。

 それからお茶を飲むと、ぎいちはたきをおくって行きました。


 たきとしては、毎日学校へ通うには、不安(ふあん)なはじまりとなりました。

 きっとぎいちがそばにいれば、たきのつよいみかたになってくれて、(たす)けてくれるでしょう。

 そして、通っているうちに体力がついて来て、一匹で歩けるようになるでしょう。

 そうなる日まで、たきはぎいちにめいわくをかけるかも()れません。

 それでもぎいちは、きっとあの明るさで、たきを助けて行くにちがいありません。

 なんと言っても、ぎいちとたきは仲良しですから、おたがいに助け合うことが大切(たいせつ)なことだと、知っているのです。

 二匹が仲良しの(あいだ)は、きっとだいじょうぶでしょう。


 ぎいちは、たきにたよられて、とてもうれしく思っていました。

 家へ帰って来たとたん、居間(いま)でざぶとんをマクラにしてねむってしまいます。

 はっていた気がゆるんだのでしょう。

 ぎきちはそれを見てタオルケットをもって来くると、ぎいちにかけました。

 よほどつかれていたようで、すやすやとねいきを()てて良くねむっています。

 ぎきちはそのままねかせておいて、一匹でまた畑しごとをしに外へ出て行きました。

 ()がすかされていて、おだやかな(かぜ)が入ってきます。

 その風は、ぎいちの()をやさしくなでて行きました。

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