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第5話 誰にも言えないドラゴンの弱点

20時から22時くらいで毎日更新中です

地球にはドラゴンがいないらしい。

存在しない生物が突然都会の真ん中に登場となると、シフィエトラナはアニメどころではなく住むところも追われるということか。

「信じてないな? その顔~」

「い、いや! 信じている! ただ情報量が多くて整理していたんだ」

シフィエトラナは俺の発言が終わるよりも早く、肘を机に付けてと指示を出す。

「じゃあ力比べしよ。これで一目瞭然だ」

彼女は肘を付いた先の手を握り、力比べの姿勢を取る。

両者同時に力を入れ、手の甲を机に付かされたら負け。

「いやいや! 勝てるわけないだろ!?」

「やれば分かるって。地球ならスタンリーでも勝ち目は十分なはずだ」

問答無用に手を握られる。

シフィエトラナの手のひらが柔らかい。そして温かい。

ちょっとドキドキしてしまうのは、何のせい?

「じゃあいくよ! 三、二、一、はじめ!」

俺はたぶん「ふんぎゃあ!?」と声を出したと思う。視界はぐるりと回転し、宙を舞う足先が見えたことを覚えている。直後にドタンと大きな音を立てて、畳に身体を打ちつけて勝負は終焉。どうにか受け身を取れたのが最後の幸運だった。

「あれ??」

「あれ? じゃない……!」

予想通りの瞬殺、惜しさの欠片も存在しない大敗北だ。

「スタンリーよわ~~!」

シフィエトラナがめちゃくちゃ笑っている。

さっきまでの張り詰めた空気はどこかへ消えたのだろう。

「本気でやった?」

「もちろんだ」

身体を起こして座り直す。

なるほど、だから船長は強いと言ったのか。

「でも命懸けで三千万円は稼いだ。私はこのお金で一生生きていくんだ!」

「お金ないってのはそういうことか。よく分かった。でもさっきも言ったが、金塊を持っていけば良かったんじゃないか? 換金するところは地球にもあるだろう?」

「もちろん真っ先にそれは考えた。でも購入証明や譲渡契約書が必要になる」

なんだか難しい言葉が出てきて、固まってしまう。

「それがないと犯罪を疑われちゃう。例えば遺失物横領罪に問われたり、犯罪収益移転防止法に引っかかったり」

「よく知ってるな……」

「適当言って誤魔化そうとしたら普通に警察呼ばれて逃げたから、あの経験からこういう知識は持っておくべきだと思って勉強したんだよ」

他国どころか他の惑星の法律を勉強とは、ほとほと人類の到達し得ない能力を持ったドラゴンだ。感嘆を禁じ得ない。

「投資も考えてるんだけど、勉強不足だからまだ手を出していない」

 また相槌を打つだけの難しい話になりそうなので、結論といこう。

「じゃあ、……仕方ないな。ひとまずこの世界で解決策を探すのは保留にしよう」

「そうして」

シフィエトラナは安心したように一息つく。

「それにしても、三千万円はどれくらいの価値があるんだ? そっちの通貨の価値がよく分からん」

「あぁ、ん~と、政治家の年収くらいかな」

「頑張ったんだなぁ」

驚きとともに感心する。思ったよりもかなりの高額だ。

ただ、しかしながら命をかけた重労働だということを考慮するなら、それくらい貰わないと納得いかないかもしれない。

「特に最近は物価高だからね。食費もバカにならない」

「どこも同じだな」

「だから私はこっちではあまり食事しないんだ。できるだけ倹約に励んで生きている。ライフラインと通信費! それと機材費、……家賃も! 固定費はこれだけに抑えたいところだな」

「生々しいハナシだな……」

シフィエトラナも苦労しているらしい。

確かにこの簡素な部屋を見渡しても、生活感がまるでない。

機材を退ければ空き部屋だと言われても信じてしまいそうだ。

「次の手を考えないとな……」

「お金以外のことならある程度協力するから」

ある程度と言いつつ、実際の彼女はかなり協力的だ。試したい資材があるといえば人類未到の密林地帯に行っても取ってきてくれるし、危険な場所でもイヤそうな顔をしながら試料を採取してきてくれる。

人類は道具だなんて冷徹な言葉を使ってはいるが、一方的に突っぱねるだけではない。

真剣に課題に向き合う姿勢で接してくれる。

だから

「ありがとう」

そして

「頑張ろうな」

この言葉を送るべきなのだ。

シフィエトラナはほんの一瞬、目を大きく見開く。

きっとその発言は期待していなかったのだろう。

「……! いやいや、頑張るのはそっち! 人類だから!」

その日の帰路、俺は考え方を変える決意をする。

シフィエトラナは誰にも言うなと念押しした上で、俺に弱点を語ってくれた。

おそらく、いやあれは確実に真実の告白だ。

つまるところ、俺を信用したのだ。

この秘密は誰にも言わないが、しかし彼女との契約履行においては活用の道筋を見出す新たなヒントであるという確信もある。

「どうするべきか……」

一人で悩むべきではないのは分かっているが、共有するわけにもいかない。

これは困った。かなり困った事態になってしまった。

これまでは色々な人に相談して協力を得てきたのだが、今回はそうはいかない。

だって、誰にも言ってはいけないのだから。

問題突破の新要素は誰にも展開せず、しかし得た情報は有効に使って解決に導かねばならない。

誰にも話せないことで悩んだ時、どうすればいいか――。

翌日早朝、俺の足は自然とある場所に向かっていた。

教会だ。

幼少期に辛い思いをしていた時、教会に通って、修道女さんにずっと話を聞いてもらっていたことがある。あの日から数十年が経過した。久しぶりの来訪だ。幼き日の俺を支え、生きる原動力をくれたこの場所で、また苦難を乗り越えるための教えをいただこう。

何かが変わるかもしれない。

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