1-8 【領域調整】が与えられた理由とは?
「家から出られないとは?」
スクレさんが問いかけてくる。
言っている意味がわからなかったのだろう。
普通の感覚なら、当然の反応である。
「言葉通りの意味です。僕は家から出ようとすると体が竦んでしまうんです」
「・・・・・・防衛本能ってことかしら?」
「どういうこと?」
イスティさんはすぐに理解してくれた。
研究者なので、様々な知見があるのだろう。
スクレさんはまだ理解できていないようだ。
この世界には馴染みのないことなのかもしれない。
「タケル様にとって、家が一番安全な場所という認識なの。そこから一歩出ようとすれば、たちまち危険に犯される。だったら、ずっと家の中にいれば良いと心の中で思い込んでいるわけよ」
「自分を守るために家から出さないようにしているわけね。でも、そんなことが実際に起こるの?」
「気持ちが強いあなたには理解が難しいと思うわ。人間の心って意外と脆いから、ちょっとしたことでも精神が壊れるの」
「・・・・・・私が図太いってことかしら?」
スクレさんが少しイラッとしていた。
たしかに図太いと言われて、褒められているとは思わないだろう。
だが、僕からすれば羨ましい性格である。
同じような性格だったら、こんなことにはなってなかっただろうし・・・・・・
「正直なところ、僕は人と関わるのが怖いんです」
「関わるのが怖い?」
スクレさんが聞き返してくる。
しっかり理解しようとしてくれているのだろう。
だからこそ、一つずつわからないことを確認しようとしているようだ。
「昔から僕は真面目な人間でした。常に正しく生きようとしていました」
「まあ、当然ね」
「それを他の人にも強制しようとした。ですが、それが良くなかった」
「どういうことかしら?」
ここで理解できなかったのだろう、スクレさんが聞き返してくる。
たしかにこれだけではわからないだろう。
このまま説明を続ける。
「人にはそれぞれ事情があります。悪いことをしたとしても、その人にとってはしなければならないことの可能性もあります。ですが、僕はその人の事情も関係なしに相手を糾弾してきました」
「それが正しいことなら悪いとは思わないけど・・・・・・」
「僕は集団からつまはじきにされました。その結果、僕は人を信じられなくなり、部屋に閉じこもるようになりました」
「だから、家が一番安全な場所なのね」
スクレさんもようやく事情を理解してくれたようだ。
納得してもらえて良かった。
世の中にはこんな考えを軟弱だと思い、ただただ批判してくる者もいる。
「【領域調整】の能力を得たのも、これが理由かもね」
「というと?」
イスティさんの言葉に今度はこちらが聞くことになる。
得た能力に理由なんてあるのだろうか?
「【領域調整】は自分の領域を自由に変化させる能力──つまり、自分の領域を過ごしやすくするための力なの。家から出られないタケル様に必要な能力というわけよ」
「なるほど」
説明を聞いて、納得できた。
たしかに、僕にぴったりの能力である。
自分の領域だけで生活するようにできれば、外に出る必要はないわけだ。
だからこそ、この能力が備わったのか。
「まあ、現状使える範囲では難しいだろうから、成長する必要はあるけどね」
「やっぱりそうですよね」
何事もそううまくはいかない。
僕にとってぴったりの能力ではあるが、今のままでは思うように使えないわけだ。
最低限、魔王城全体は操作できるようにすべきだろう。
「使っているうちに成長していくから、とりあえず練習あるのみよ」
「頑張ります」
イスティさんの言葉に僕はやる気を出す。
少しでも居心地を良くするためにはやらないといけないのだ。
「私はなにをすべきかしら?」
期待したような目でこちらを見るスクレさん。
一緒に何かしたいのだろう。
イスティさんは少し考えた後、口を開いた。
「じゃあ、タケル様が頑張れるように美味しい料理でも用意しておいて」
「一緒に訓練できないのっ⁉」
同行できないと知り、驚愕するスクレさん。
料理を準備することは大事だし、メイドの彼女にはふさわしい仕事だと思う。
だが、仲間はずれにされたという気持ちもあるのだろう。
「だって、スクレさんに指導は無理でしょう?」
「そんなことないわ」
イスティさんの指摘に反論するスクレさん。
これはどっちが正しいのだろう。
「じゃあ、自分がどうやって魔法を使っているのか説明して」
「えっと、グッとして、ギュッとしたら、ボンとなって、ドンとなるわ」
「・・・・・・食事を楽しみにしてます」
「ええっ⁉」
イスティさんの方が正しかった。
どうやらスクレさんは優秀ではあるが、感覚派のため指導者には向いていないようだ。
なので、食事の準備などをしてもらう方がいいだろう。
悲しそうな表情を浮かべているが、これは仕方がないことだ。
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