仕事の優先順位を決めるのはなかなか難しい
魔王城の玉座の間で僕は画面とにらめっこしていた。
【領域操作】の範囲が広くなったことで、アブル領全域を画面越しに確認することができるようになった。
それ自体は便利なのだが……
「ふぅ……範囲が広くなった分、扱うのも面倒になってきたな」
思わずそんな愚痴をこぼしてしまう。
支配領域が広くなっただけでなく、できる操作も増えている。
そのせいでできることが膨大になっているのだ。
「さて、何からしていこうか……」
顎に手を当て、少し考えてみる。
だが、すぐには思いつかない。
できることが多すぎると、こんな弊害があるのか。
「おう、暇か?」
玉座の間に似つかわしくない発言をしながら誰かが入ってきた。
勇者のヒョウゴである。
魔王の前に来るのだから、普通は緊張するだろう。
だが、勇者の彼は緊張しない。
まるで自分の部屋であるかのように振る舞っているのだ。
「暇じゃないよ。いろいろと考えることがあるからね」
「まだやることが決まらないのか? とっとと決めればいいのに」
僕の言葉に彼は反応する。
直感的に行動するタイプだからこその言葉なのだろう。
「そんな簡単な話じゃないんだよ」
「そうなのか?」
ヒョウゴは首を傾げる。
理解できていないようだが、これは仕方がないことだろう。
「たしかにできることは増えたけど、一度にできることは限られているんだ」
「そりゃ、そうだろうな。いくら魔力量が多くとも、有限なことには変わりない」
「だからこそ、順番に進めないといけない。でも、その順番が問題なんだよ」
「どういうことだ?」
やはりまだ理解できないようだ。
彼は個人の能力は高いが、人を率いる能力はそこまでではない。
「例えば、A~Dの四つの村があると仮定する」
「ふむ」
「それぞれの村には問題があり、僕の【領域操作】で解決して欲しいと思っている」
「自分たちでは解決できないわけだな」
「だけど、僕は一つずつしか問題を解決できない。というわけで、まずはAの村の問題から解決しようとした。すると、どうなると思う?」
「別にどうもならないんじゃないのか? 一つずつしか解決できないんだし」
ヒョウゴは何の気なしに発言する。
僕の情報だけで判断しているのだろう。
実際はそう簡単な話ではない。
「他の三つの村から不満を訴えられる」
「なんで?」
予想外の答えに彼は驚きを隠せない様子だった。
素直な彼だからこそ、信じられない答えだったのだろう。
「他の村からすれば、後回しにされたと思うわけだ。自分たちも苦しんでいるのにほったらかしにされた、ってね」
「そんなもん、仕方がねぇだろ。タケルの魔力は有限なんだから」
「そうなんだけど、僕の魔力量なんて向こうからしたら関係ないんだよ。上の立場なんだから、下々の者を救えってね」
「面倒だなぁ」
説明を聞き、ヒョウゴは呆れたような表情を浮かべる。
僕も同感である。
だが、上に立つ者として避けては通れないのだ。
「まあ、結局は順番を決めないといけないんだけどね」
「そりゃそうだろうな。で、どういう順番にするんだ?」
「それを決めかねているんだよ。状況に応じて優先順位を決めようと思ってるんだけど、何を持って決めればいいのかわからなくてね」
「命の危機がありそうな緊急性とかじゃないのか?」
「そうなんだけど、内容を確認した感じではそういうのはほとんどないんだよね。僕にデキることだから、仕方がないんだけど」
「たしかに領域を変化させる魔法だしな」
ヒョウゴは納得してくれる。
僕ができるのは基本的に領域内を変化させることだけである。
形を変化させたり、壊れたモノを直したり、新しいモノを生み出したり──クラフトがメインとなってくる。
困っていると言っても、住人に命の危険がないので緊急性は低いと言える。
村を襲う魔獣が現れたとかなど緊急性が高かったら、四天王たちの出番である
「とりあえず、報告があった順番にやっていこうかな」
「それでいいんじゃないか? 一番無難だと思うし」
「じゃあ、そうすることにするよ」
方向性が決まったので、一安心する。
こういうときに相談できる人がいるのは助かる。
少し優柔不断なところがあるので、こうした方が良いと勧めてもらえるのはありがたい。
しかも、同年代かつ同性だから、相談しやすいのも良い。
スクレさんみたいな年上の女性の方が頼れるが、相談しやすさで言ったらヒョウゴの方である。
「そういえば、何か用なの?」
ふとヒョウゴが来た理由が気になった。
別に急ぎの仕事もなかったはずなので、彼が来る予定もなかったと思う。
そんな僕の質問に彼はニヤリと笑う。
「一緒に飲もうぜ」
「ん?」
予想していなかった返答に僕は呆けた声を漏らした。
一体、何を言っているのだろうか?
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