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プロローグ 魔族領近くの村の長は暇である


 魔族領に隣接するとある人間の村にて──


「暇だなぁ」


 一人の男がぼやいていた。

 彼はこの村のトップ──村長である。

 だが、現在は閑散期のため仕事がなく、のんびりとしていた。


「だからって、昼間から酒場に来るなよ。こっちは準備中なんだが?」


 酒場の強面なマスターが文句を言う。

 グラスを綺麗に拭いていた。


「良いじゃねえか。話し相手になってくれよ」

「暇なお前と違って、俺は忙しいんだよ」

「グラスを拭いているだけじゃねえか。話ぐらいはできるだろ」

「はぁ、わかったよ」


 絡まれるのが面倒なので、マスターは仕方なく受け入れた。

 小さい頃からの仲なので、村長がこういう人間だとは理解していた。


「なんか面白いことはないかな?」

「そんなことは知らん」


 質問をバッサリと切り捨てる。

 村長は大きくため息をつく。


「もう少し会話のキャッチボールをしようぜ」

「俺がこういう人間なのは知っているだろ?」

「まあ、たしかにそうだな」

「事実だけど、少しはフォローしろよ」


 すぐに受け入れられることになんとも言えない気持ちになるマスター。

 長い付き合いなのだから、多少はフォローしてもらいたかったようだ。


「魔族との戦争が終わって平和になったのは良いけど、刺激が足りないよな」

「まあ、否定はできないな。酒場の売り上げ的にも戦争時の方が良かったからな」

「戦争のために大量の兵士がいたから、酒場に来る客も多かったな」

「その分、問題も多かったがな。そういう意味では平和の方がいいか」


 戦争によって利益が増したが、問題も増えていた。

 良い面と悪い面があったが、戦争による被害を考えると平和な方が総合的に良かったわけだ。


「新たな魔王が現れたみたいだけど、戦争が起こらないよな」

「噂では戦うことが嫌いみたいだな。事実かどうかはわからんが・・・・・・」

「魔王の方が考えてなくても、こっちの王族が戦争しようとするんじゃないのか?」

「いや、そんな暇はないみたいだな」

「なんで?」


 マスターの言葉に村長は首を傾げる。

 おおっぴらに話せないのか、小さい声で話す。


「なんでも国王が危篤状態らしい」

「は? そんなの初めて聞いたぞ」

「あくまで噂話だが、信憑性がかなり高いようだ」

「なんでそんなことに? 年齢的には俺らと大差ないから、寿命とかじゃなさそうだし・・・・・・病気か?」


 30代半ばの同年代ということで、それっぽい理由を思いつく。

 考えられるとしたら、それしかないと思っていた。

 だが、マスターは首を横に振る。


「なんでも勇者様がやったらしい」

「はい? 先代魔王を討伐して、戦争を終結させた英雄様が? そんなことありえないだろう」


 村長が馬鹿にしたように反論する。

 人々のために魔王と戦って討伐した勇者がそんなことをするとは思えなかった。


「最近、勇者様の情報はまったくないだろ?」

「・・・・・・そういえば、そうだな」

「なんでも指名手配になっているらしい」

「じゃあ、そういう情報が出回らないとおかしいんじゃないのか?」


 矛盾に気づき、村長が反論する。

 指名手配されているのであれば、その情報は広げないと意味はないだろう、と。


「あくまで情報として出回っているのは貴族の間でだけらしい。平民に情報が流れたら、王族への批判に繋がると思ったんだろうな」

「どういうことだ?」

「なんでも国王が勇者の人気を妬んで害そうとしたらしい。その結果、返り討ちにあって危篤状態なわけだ」

「・・・・・・勇者様、悪くないじゃん」


 話を聞いて、感想を口にする。

 その考えにはマスターも同感みたいで首を縦に振る。


「まったくもってその通りだ。だが、王族にとっては違うだろう。国で一番偉い自分たちに反感した勇者が悪い、ってな」

「これだから王族は・・・・・・」

「だが、向こうも自分たちに非があるとわかっているから、おおっぴらに探せないわけだ」

「これって、勇者様を助けるために何かできないのか?」

「いや、難しいだろうな。あくまで国王が危篤なのはあくまで噂だから、何か言おうとしても門前払いだろよ」

「それもそうか」


 流石に辺境の村の村長ではどうにもできないようだ。

 仕方がないので、村長も諦めることにした。


「はぁ、暇だなぁ」

「またそれか」


 結局、初めの話に戻ってしまった。

 やることがなくなったので、その話になってしまうのだ。


(バンッ)

「大変だ~っ!」


 酒場のドアが勢いよく開かれ、村の青年が駆け込んできた。


「おい、静かに──」

「何があった?」


 注意しようとするマスターを押さえて、村長が前に出てきた。

 その表情は嬉しそうで、期待に胸を膨らませていたようだ。

 暇を紛らわせてくれる何かを知りたいのだろう。


「山の向こうに巨大な城が現れたんだよっ!」

「「はぁ?」」


 だが、予想以上にとんでもないことが起きていた。

 二人は思わず呆けた声を漏らしてしまった。







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