閑話1 メイドと料理長の世間話
「ふんふ~ん」
「ご機嫌じゃないか。どうしたんだ?」
厨房に近い廊下で一人のメイドが鼻歌交じりに掃除していた。
気になった料理長が話しかけてくる。
「実は魔王様の世話役に任命されたんですよ」
「それは本当か?」
彼女の言葉に料理長が怪訝そうな表情を浮かべる。
明らかに疑っている様子である。
だが、そんなことを気にせず、彼女は話を続ける。
「もちろんですよ。私のことを信頼してくれているんですね」
「・・・・・・スクレ様はどうした? あの人がいろいろ世話をしていただろう?」
料理長は秘書とメイドを同時にこなしていた側近の女性を思い出す。
あの優秀な女性がいるのなら、メイドがこの仕事を任せられるとは思わなかった。
「これから秘書が忙しくなるだろうから、って代わりのメイドを任命したの。なんでも勇者と始める新たな事業のために色々と魔族領について整理しないといけないみたいで」
「そういえば、そんな話があったな」
説明を聞いて、料理長が数日前のことを思い出す。
魔王城全体に轟音が鳴り響いていた。
激しい戦闘が行われていた証拠である。
もっとも、その戦闘を行っていたのは勇者と【力】の四天王ではあるが・・・・・・
「しかし、お前を選ぶとわな」
「何よ、文句あるの?」
料理長の反応にメイドが不満げな表情になる。
まるで馬鹿にされたように思われたのだろう。
「魔王様に何か粗相しないか、心配になってな」
「そんなことしないわよっ!」
「勤め始めのころ、壊した食器をこっそり隠したりしたくせに?」
「・・・・・・過去のことじゃない」
否定しようとしたのに過去のことを掘り返され、メイドは思わず視線をそらしてしまった。
もちろん、料理長が覚えている彼女の失態はこれだけではない。
それを知っているからこそ、魔王付きのメイドなんて大役が務まるとは思わなかった。
「すぐに他の人に代わりなさい」
「なんでよっ! これでもタケル様と仲が良いんだから」
「勘違いじゃなくて?」
仲が良い発言を疑う料理長。
一介のメイドと魔王が仲が良いとは思えないが・・・・・・
「時々、タケル様の仕事を手伝っていたもん。色々と雑用をしたわ」
「それは他のメイドも同じじゃないのか?」
自信満々なメイドに料理長は反論する。
彼女だけの話ではないと思ったのだろう。
だが、メイドは首を横に振る。
「他のメイドはあまりタケル様に近づかないわ」
「やっぱり先代のことがあるからか?」
「そうだと思うわ」
「タケル様と先代は違うのにな」
料理長は少し呆れたような表情になる。
武闘派でパワハラ気質な先代魔王を恐れ、ほとんどのメイドは関わりを持とうとはしなかった。
そんな先代魔王と今の魔王を混同し、近づこうとしないのだ。
「というわけで、私が選ばれたのよ」
「消去法でな」
「やる気を削ぐようなことを言わないでよ。娘の出世を喜んでよ」
「娘だからこそ、不安なんだろうが。昔からそそっかしいのを知っているんだから」
文句を言うメイド(娘)の反応に料理長(父)は大きくため息をついた。
小さい頃から知っているからこそ、不安になってしまうのだ。
「まあ、選ばれたのなら仕方ないか。クビにされるようなミスはするなよ」
「しないわよっ!」
父親の言葉に娘は思わず怒鳴ってしまった。
だが、彼女は知らなかった。
父親が本心で彼女のことを心配していることを・・・・・・
いつの時代も父親は娘を心配するものですよね。
まあ、父親になったことはありませんが・・・・・・
ちなみに二人の種族は【獣人(狼)】にします。
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