2-7 【領域調整】のデメリットについて
数日後、僕は城中を歩き回っていた。
もちろん、サボっているわけではない。
【領域調整】の訓練を兼ねているのだ。
「ここです、魔王様」
「なるほど。たしかに補修が必要だね」
ツインテールのメイドの女性が示した場所を確認する。
二階に上がる階段の途中の角が削れてしまっていた。
機能としては問題は無いが、万が一のことがある。
この場所を踏んでしまい、転んで怪我をする可能性もあるだろう。
彼女達のような城中を動き回る仕事をしているのなら、気にせずに踏んでしまうかもしれない。
「よし、これで直したよ」
「ありがとうございます」
【領域調整】を使って、あっさりと補修する。
手作業でやるより格段に楽である。
直ったのを確認し、メイドが感謝を告げてきた。
「便利な能力ですね」
「万能じゃないけどね」
褒めてもらえたのは嬉しいが、素直に受け取れなかった。
使っているからこそ、弱点に気づいてしまった。
「まず、こういう細かい部分は実際に現場を見ないと気づけない」
「ああ、そういえば気づいていない様子でしたね」
僕の説明に彼女は納得する。
画面を利用することで城中を確認することはできる。
だが、それはあくまで城を見取り図で見ているだけで、モノがどの辺りにあるかぐらいしかわからない。
先程のような階段の角が崩れた程度は把握できないのだ。
「次に、意外と繊細な魔力操作が必要になってくる。少し前の僕だったら、この直した階段が脆くて壊れやすくなったり、逆に魔力を込めすぎて硬くなる可能性があったよ」
「脆くて壊れやすいのは困りますね。頑丈なら問題はなさそうですけど」
たしかに壊れやすいより壊れない方が良いだろう。
だが、問題がないわけではない。
「壊れないレベルで魔力が込められていると周囲に魔力を垂れ流すことがあるらしいんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、玉座の間で訓練中に一度その現象が起こってね。僕やスクレさんは何の問題は無かったんだけど、たまたまメイドの一人が部屋に入ってきた瞬間に倒れてしまったよ」
「えっ⁉」
いきなり衝撃の事実を告げられ、驚愕するメイド。
まさかそんなことが起こったとは思っていなかったのだろう。
「イスティさん曰く、魔力が充満した事で魔力中毒を起こしたみたいだよ。いきなり許容量の魔力が体内に入ったことで起こったらしい」
「・・・・・・私、大丈夫ですか?」
メイドが不安げに聞いてくる。
まあ、この話を聞いたら、その反応も当然だろう。
「繰り返し訓練したから、もうそんなへまをすることはないよ。何も知らない人に迷惑を掛けたくないからね」
「良かったです」
僕の言葉にメイドは安堵の息を吐く。
本気で不安だったようだ。
ここまで怖がらせるつもりはなかったんだけどな。
「最後に範囲の問題がある」
「範囲の問題?」
「僕の【領域調整】の範囲は魔王城全体だ。これは広いと思うかな?」
「十分広いと思いますよ。この城は建物として結構大きいですし」
メイドは当たり前だと答える。
彼女の感覚は間違っていないだろう。
実際にこの魔王城はかなり大きな建造物だろう。
前世の○○ドーム○個分という表現だと、二桁は難しくとも複数個の広さはあるはずだ。
「じゃあ、その範囲が僕の動ける範囲だとしたら?」
「え? どういうことですか?」
「僕はこの魔王城から出ることができないんだよ」
「それは・・・・・・決して広くはないですね」
僕の説明を聞き、彼女はなんとも言えない表情を浮かべた。
便利だと思った能力に思わぬ落とし穴があったのだ。
何事も良いことばかりではないのだ。
万能な能力ってなかなかないですよね。
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