2-1 新米魔王は一般魔族と交流する
第二章開始しました。
僕が召喚されて1ヶ月が経った。
新たな魔王の就任──しかも、明らかに人間である僕が魔王となったので、最初は周囲も困惑していた。
だが、四天王と側近が全員認めていたので、拒否されることはなかった。
むしろ、想像以上に早く受け入れられた。
「食材の箱はここで良い?」
「そこで大丈夫です、魔王様」
僕の確認に男性は頷いた。
なので、浮かせていた箱を床に下ろした。
僕の肩幅より大きな箱の中には大量の野菜が詰め込まれており、それだけでかなりの重量であることがわかる。
「お手を煩わせて申し訳ないです」
「別に構わないよ。料理長の腰が悪いんだったら、迷わず頼ってね」
「ありがとうございます」
男性──魔王城の料理長は感謝の言葉を告げる。
彼は魔王城で20年以上働いているベテランらしく、年齢はすでに40歳を超えていた。
重労働で身体に少しガタが来ていたらしく、つい先日にこれと同じような箱を持ち上げた際にぎっくり腰になってしまった。
その報告を受けた僕は【領域調整】による運搬をするようになったのだ。
魔王のする仕事ではないだろうが、困っている人は見捨てられない。
そもそも僕にできるのはこういうことぐらいだ。
「本日も魔王様に満足してもらえるような料理を作りますよ」
「楽しみにしてるよ。料理長のメニューはどれも美味しいからね」
本心からの言葉を告げた。
料理を作ってもらっているので、当然の感謝である。
「うぅ」
「ど、どうしたの?」
突然、料理長が泣き始めた。
慌てて声を掛けると、彼は涙を拭って語り始める。
「先代魔王様にも料理を出し続けましたが、一度も感謝の言葉を──いえ、「美味しい」という言葉すらいただけませんでした」
「そうなの?」
「はい。先代魔王様にとって、料理人が料理をするのは仕事なのだから当然。感謝する必要はないだろうとのことで・・・・・・」
「それはきついね」
思わず料理長に同情してしまった。
そういう考えの人もいるだろうが、作ってもらっているのなら感謝をするのが当然だと僕は思う。
よく料理長は辞めなかったな。
「料理人としては魔王城で働くことはもっとも栄誉な事ですからね。当時は実力主義でしたから、戦闘のできない私には辞める選択肢はありませんでした」
「ああ、そういうことか。じゃあ、今は辞める選択肢はあるってこと?」
昔──というか、1年前とは状況が異なる。
僕が魔王になったことで、戦闘の実力以外でも認められるような世の中にするつもりだった。
その結果、彼が世の中で認められることになるはずだ。
なので、魔王城以外でも働き口が出てくる可能性もある。
「安心してください。魔王様がいる間は辞めるつもりは毛頭ありませんよ」
「それは良かったよ」
笑いながら料理長は否定する。
その言葉を聞いて、僕は安心した。
彼の料理はまだ食べられるということだ。
「なので、早死にはしないでくださいね」
「そのつもりはないけど、魔王に言うことですかね?」
心配してくれているのだろうが、上の者に言う内容じゃないだろう。
冗談かと思ったが、料理長は真剣な様子だった。
「先代魔王様も突然の勇者の襲撃で命を落としました。性格はともかく戦闘能力だけなら魔族随一と言われていたので、まさに晴天の霹靂でした」
「先代より弱い僕はもっと簡単に命を落とす可能性があるわけか」
たしかに彼の心配はもっともなのかもしれない。
【領域調整】で戦闘は可能だが、決して専門ではない。
襲撃されれば、命を落としてしまうだろう。
「まあ、襲撃から1年も経っていないので、勇者は再び来なさそうですけどね」
「たしかにそうだね。今もまだ魔王討伐のお祝いとかしてるのかな」
「そうだといいですな」
僕と料理長は笑いながら会話をする。
予想通りだったら、この平和な時間は少し続くだろう。
僕らにとってはありがたい話である。
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